歩けて、話せて、歯も12本―1歳6か月健診で見逃せない「数字」の異常
第107回医師国家試験 G問題 第45問
国試問題にチャレンジ
1歳6か月の男児。健康診査のため来院した。離乳は完了し,ミルクを1日2回与えられている。親の言うことを理解し,発語は4,5語である。1歳2か月で独り歩きを始め,現在は小走りができる。意識は清明。身長80 cm,体重16.0 kg。頭囲47 cm,胸囲48 cm。咽頭に異常を認めない。歯は12本萌出している。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,右季肋下に肝を0.5 cm触知する。脾を触知しない。 この児で異常なのはどれか。
- a.運動発達
- b.Kaup指数
- c.肝触知
- d.言語発達
- e.萌出歯数
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
1歳6か月児健康診査では、身体発育・運動発達・言語発達・歯・腹部所見などを月齢の基準と照らし合わせて評価します。本児は身長80 cmに対し体重16.0 kgで、Kaup指数(体重kg÷身長mの2乗)は25となり、乳幼児の標準(おおむね15〜19)を大きく超える肥満であることが唯一の異常です。1歳2か月の始歩と現在の小走り、数語の有意語、12本の萌出歯、季肋下0.5 cmの肝触知はいずれも年齢相応の正常所見です。身長や発達が正常な小児の肥満はまず単純性肥満を考えて食生活を確認し、身長の伸びの鈍化などがあれば二次性肥満を精査します。健診では計算式と年齢ごとの基準を正しく使い分け、数字で客観的に評価する姿勢が見逃しを防ぎます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
1歳6か月児健康診査(1歳6か月健診)の場面である。1歳6か月健診は、母子保健法に基づいて市町村が実施する法定健診で、身体発育・運動発達・言語発達の評価、歯科健診、栄養(離乳の完了)の確認、予防接種の確認、育児相談などを行う。本問では提示された所見を一つずつ月齢の基準と照らし合わせ、異常なものを拾い出すことが求められている。 ・運動:1歳2か月で独り歩き(始歩)、現在は小走りが可能 ・言語:親の言うことを理解し、意味のある単語が4〜5語 ・身体計測:身長80 cm、体重16.0 kg、頭囲47 cm、胸囲48 cm ・歯:12本萌出 ・腹部:右季肋下に肝を0.5 cm触知、脾は触知しない
評価の考え方
1歳6か月児の標準的な体格はおおよそ身長80 cm前後、体重10〜11 kg前後である。本児は身長が平均的であるのに対し、体重16.0 kgは4歳児の平均に相当するほど重く、明らかに身長に対して体重が過大である。 乳幼児の体格評価にはKaup(カウプ)指数を用いる。 Kaup指数 = 体重[kg]÷(身長[m])² = 16.0 ÷(0.80 × 0.80)= 16.0 ÷ 0.64 = 25 (体重をg、身長をcmで計算する場合は、体重[g]÷(身長[cm])² × 10 = 16,000 ÷ 6,400 × 10 = 25 となり同じ値になる) 乳幼児のKaup指数はおおむね15〜19程度が標準範囲とされ、20前後を超えると肥満傾向、22以上では明らかな肥満と判定される。25という値は判定基準の違いにかかわらず肥満に該当し、本児の所見の中で唯一の異常である。 運動発達、言語発達、萌出歯数、肝の触知はいずれも1歳6か月児として正常範囲内にある。したがって、この児で異常なのは体格(Kaup指数)である。
選択肢考察
- ×a. 運動発達
独り歩きは一般に1歳0〜3か月ごろに可能となり、1歳3か月までにおよそ9割の児ができるようになる。本児は1歳2か月で始歩しており時期は標準的である。さらに1歳6か月の時点で小走りができているのは、歩行が安定してきたことを示す年齢相応の所見であり、粗大運動の発達は正常と判断できる。
- ○b. Kaup指数
Kaup指数 = 体重[kg]÷(身長[m])² = 16.0 ÷ 0.64 = 25 である。乳幼児ではおおむね15〜19程度が標準で、20前後を超えると肥満傾向、22以上は肥満とされるため、25は明らかな肥満に当たる。身長80 cmは1歳6か月の平均程度であるのに、体重16.0 kgは平均(約10〜11 kg)より5 kg以上重く、4歳児の平均体重に匹敵する。したがって本児の所見のうち異常なのは体格であり、Kaup指数の異常として評価される。
- ×c. 肝触知
乳幼児では肝臓が体格に比して大きく、腹壁も薄いため、右季肋下に肝下縁を触れるのはふつうである。新生児〜乳児期には季肋下に1〜2横指(おおむね2 cm程度まで)触れても正常範囲とされ、年齢とともに触知される範囲は小さくなる。1歳6か月で0.5 cm触知する程度は生理的なものであり、異常ではない。脾を触知しない点も正常である。
- ×d. 言語発達
有意語(意味のある単語)は1歳前後から出始め、1歳6か月ごろには数語程度話せるのが目安である。1歳6か月健診では、意味のある単語を話すか、簡単な言いつけを理解できるかを確認する。本児は親の言うことを理解し、4〜5語の発語があるため、言語理解・表出ともに月齢相応で正常である。
- ×e. 萌出歯数
乳歯は生後6〜8か月ごろに下顎乳中切歯から生え始め、1歳ごろに上下の切歯8本がそろう。その後1歳2〜4か月ごろに第一乳臼歯、1歳6か月前後に乳犬歯が萌出してくるため、1歳6か月ではおよそ12〜16本程度が目安となる。12本は正常範囲である。なお乳歯20本がすべてそろうのは2歳6か月〜3歳ごろである。
乳幼児の体格指数
・Kaup指数:体重[kg]÷(身長[m])²。乳幼児(おおむね3か月〜5歳)の栄養状態・体格の評価に用いる。成人のBMIと計算式は同じであるが、乳幼児では判定基準が異なる。おおむね15〜19が標準で、20前後以上は肥満傾向、22以上は肥満、15未満はやせと判定される(年齢や資料によって境界値は多少異なる)。 ・Rohrer(ローレル)指数:体重[kg]÷(身長[cm])³ × 10⁷。学童期に用いる。115〜145程度が標準、160以上が肥満とされる。 ・肥満度:(実測体重 − 標準体重)÷ 標準体重 × 100(%)。幼児では+15%以上、学童では+20%以上を肥満とする。現在の学校保健ではこの肥満度が主に使われている。
1歳6か月児の目安
・身長:約80 cm(出生時約50 cmの約1.6倍) ・体重:約10〜11 kg(出生時約3 kgの約3.5倍) ・頭囲:約46〜47 cm。1歳を過ぎると胸囲が頭囲を上回るのが通常で、本児の頭囲47 cm・胸囲48 cmは正常である。 ・大泉門:1歳6か月ごろまでに閉鎖する。 ・運動:独り歩き、小走り、手すりにつかまって階段を上る ・微細運動:積み木を2〜3個積む、なぐり書きをする ・言語:意味のある単語を数語話す。2語文は2歳ごろ。 ・歯:12〜16本程度
小児肥満の考え方
小児の肥満の大部分は、過食や運動不足による単純性(原発性)肥満である。一方、内分泌疾患(甲状腺機能低下症、Cushing症候群、成長ホルモン分泌不全など)や遺伝性症候群(Prader-Willi症候群など)による症候性(二次性)肥満では、低身長や身長の伸びの鈍化、発達の遅れ、特徴的な身体所見を伴うことが多い。本児のように身長が標準的で発達も正常な場合はまず単純性肥満を考え、食事内容(ミルクや間食、ジュースの量など)や生活習慣を詳しく聴取し指導する。ただし体重の増加が急激である、身長の伸びが鈍っているなどの所見があれば、二次性肥満の精査を行う。
POINT
・乳幼児の体格評価にはKaup指数=体重[kg]÷(身長[m])²を用いる。標準はおおむね15〜19、22以上で肥満。 ・本児はKaup指数25(身長80 cm、体重16 kg)で肥満であり、これが唯一の異常所見。 ・1歳6か月の目安:身長約80 cm、体重約10〜11 kg、独り歩き・小走り、有意語数語、歯12〜16本程度。 ・乳幼児では季肋下に肝を1〜2 cm程度触知しても正常。 ・身長が正常で発達も正常な小児の肥満は、まず単純性肥満を考える。
