「休める」と「働けない」は大違い―妊娠30週の妊婦に伝える産前休業のタイミング
第107回医師国家試験 G問題 第42問
国試問題にチャレンジ
34歳の初妊婦。妊娠30週0日。妊婦健康診査のため来院した。母児に異常を認めない。本人は産前休業を希望している。 説明として正しいのはどれか。
- a.「2週後からは勤務ができません」
- b.「2週後からは産前休業できます」
- c.「4週後からは勤務ができません」
- d.「4週後からは産前休業できます」
- e.「明日からでも産前休業できます」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
労働基準法第65条により、産前休業は出産予定日前6週間(多胎妊娠では14週間)以内に本人が請求した場合に取得できる任意の休業で、単胎なら妊娠34週ごろから請求でき、本人が望めば働き続けることもできます。一方、産後休業は8週間で、うち産後6週間は本人の希望にかかわらず就業禁止、6週経過後は本人の請求と医師の許可があれば就業可能です。妊娠30週0日の単胎妊婦なら「4週後からは産前休業できます」が正しい説明で、「勤務ができません」と強制的に表現するのは産後休業との混同です。産前休業期間外でも、医師の指導があれば母性健康管理措置(母性健康管理指導事項連絡カード)により勤務軽減や休業が可能です。働く妊産婦を支える制度を正確に説明できることは、外来診療で妊婦さんの不安に応えるうえで欠かせない知識です。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
34歳の初妊婦で、妊娠30週0日。母児ともに異常はなく、単胎の正常妊娠と考えられる。本人は産前休業を取りたいと希望しており、いつから休業できるかを説明する場面である。医学的な診断ではなく、労働基準法の産前産後休業の規定を正しく知っているかが問われている。
産前産後休業の規定(労働基準法第65条)
・産前休業:6週間(多胎妊娠では14週間)以内に出産する予定の女性が請求した場合、使用者はその女性を就業させてはならない。つまり本人の請求によって取得する「任意」の休業であり、本人が働き続けたいなら就業してよい。 ・産後休業:産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。こちらは本人の希望にかかわらず就業禁止の「強制」休業である。ただし、産後6週間を経過した女性が請求し、医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えない。
本問への当てはめ
分娩予定日は妊娠40週0日である。その6週間前は妊娠34週にあたる。現在は妊娠30週0日なので、あと約4週間で産前休業を請求できる時期に入る。したがって「4週後からは産前休業できます」が正しい説明となる。また、産前休業は本人の請求によるものなので、「勤務ができません」と就業を禁じる表現は誤りである。
選択肢考察
- ×a. 「2週後からは勤務ができません」
2週後は妊娠32週であり、まだ産前休業を請求できる期間(単胎では予定日前6週間以内)に入っていない。さらに、産前休業は本人が請求して初めて付与される任意の休業であり、本人が希望すれば分娩直前まで働くことができる。時期も「勤務ができない」という内容も誤りである。
- ×b. 「2週後からは産前休業できます」
2週後は妊娠32週で、予定日(40週0日)まで8週間ある。単胎妊娠の産前休業は予定日前6週間(妊娠34週頃)からなので、時期が早すぎる。なお、多胎妊娠であれば予定日前14週間(妊娠26週頃)から請求できるため、双胎などでは既に請求可能な時期にあたる。
- ×c. 「4週後からは勤務ができません」
4週後(妊娠34週)という時期は産前休業の開始時期と合っている。しかし、産前休業は本人の請求があった場合に就業させてはならないという規定であり、就業が一律に禁止されるわけではない。一律の就業禁止は産後休業(産後6週間は例外なく就業不可)の性質であり、産前と混同している。
- ○d. 「4週後からは産前休業できます」
現在妊娠30週0日で、4週後は妊娠34週となる。これは分娩予定日(40週0日)の6週間前にあたり、単胎妊娠で産前休業を請求できる時期に一致する。また「休業できます」という表現は、本人が請求すれば休業できる(希望すれば働き続けてもよい)という産前休業の任意性とも合っており、正しい説明である。
- ×e. 「明日からでも産前休業できます」
妊娠30週では単胎の場合、予定日まで10週間あり、産前休業の請求期間には入っていない。多胎妊娠であれば予定日前14週間から請求できるので該当しうるが、本例は母児に異常がない単胎妊娠と考えられるため誤りである。なお、妊娠中の症状などで医師から休業の指導を受けた場合は、母性健康管理措置(男女雇用機会均等法)により勤務の軽減や休業が認められることがあるが、それは産前休業とは別の制度である。
働く妊産婦を守る主な制度
・産前休業(労働基準法第65条第1項):予定日前6週間(多胎は14週間)以内で、本人の請求により取得。出産当日は産前休業に含まれ、予定日より出産が遅れた場合はその期間も産前休業となる。 ・産後休業(同条第2項):出産翌日から8週間は就業禁止。産後6週間経過後は、本人の請求と医師の許可があれば就業可能。 ・軽易業務への転換(同条第3項):妊娠中の女性が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければならない。 ・妊産婦の労働時間等の制限(同法第66条):妊産婦が請求すれば、時間外労働・休日労働・深夜業をさせてはならない。 ・危険有害業務の就業制限(同法第64条の3):重量物を扱う業務など。 ・育児時間(同法第67条):生後1年に達しない子を育てる女性は、1日2回各少なくとも30分の育児時間を請求できる。 ・母性健康管理措置(男女雇用機会均等法第12条・13条):妊婦健診の受診時間の確保や、医師の指導に基づく勤務時間短縮・休業などの措置を事業主に義務づける。医師はその指導内容を「母性健康管理指導事項連絡カード」で事業主に伝えることができる。 ・育児休業(育児・介護休業法):原則として子が1歳(条件により最長2歳)になるまで。産後休業とは別の制度である。
経済的な支援
・休業中の賃金は法律上の支払い義務はなく、労働契約による。 ・出産手当金:健康保険(被用者保険)の被保険者が産前産後休業中に給与を受けられない場合、おおむね標準報酬日額の3分の2に相当する額が支給される(健康保険法第102条)。国民健康保険では原則として支給されない。 ・出産育児一時金:健康保険・国民健康保険の加入者(被扶養者を含む)が出産したときに支給され、2023年4月以降は原則50万円(産科医療補償制度に加入していない医療機関等での出産などでは減額)である。一時金の中には、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺を補償する産科医療補償制度の掛金相当分が含まれている。
POINT
・産前休業:予定日前6週間(多胎は14週間)以内、本人の請求による任意の休業。単胎なら妊娠34週頃から。 ・産後休業:8週間。うち産後6週間は強制的な就業禁止、6週経過後は本人の請求と医師の許可で就業可能。 ・「産前=請求すれば休める」「産後=働かせてはならない」の違いを押さえる。
