StudyMed医師国家試験

その書類、誰が出す?―法律と主体で解きほぐす母子保健制度

第107回医師国家試験 B問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第8問

母子保健について正しいのはどれか。

  1. a.母子健康手帳は都道府県が交付する。
  2. b.妊婦健康診査は保険診療の対象である。
  3. c.産後休業は母子保健法で規定されている。
  4. d.母性健康管理指導事項連絡カードは医師が発行する。
  5. e.低体重児の届出の対象となるのは出生体重2,000 g未満である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は母子保健の制度問題だ。妊娠・出産・育児に関わる制度は、母子保健法・労働基準法・男女雇用機会均等法の3つにまたがっている。着眼点は「どの法律に書かれているか」「誰が実施・交付するか」「費用は誰が持つか」「基準の数字はいくつか」の4つ。これを軸に選択肢を整理していこう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で母子保健法は習いましたが、正直、どれも母子保健法に書いてありそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
そう感じる人は多いよ。まず大枠をつかもう。母子保健法は母と乳幼児の健康を守るための法律で、妊娠の届出、母子健康手帳、妊婦や乳幼児の健診、低体重児の届出などを定めている。実施の中心は住民に一番身近な市町村だ。一方、働く女性の休業や就業制限は労働条件の話だから労働基準法、事業主に健康管理の措置を義務づけるのは男女雇用機会均等法、という分担になっている。
医学生医学生
では母子健康手帳ですが、県から配られるイメージがありました。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。妊娠したら市町村長に妊娠の届出をし、届出を受けた市町村が母子健康手帳を交付する。都道府県ではない。手帳には妊娠経過、出産の状況、子どもの発育、予防接種歴などが記録されて、妊娠期から乳幼児期までをつなぐ健康記録になるんだ。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、妊婦健診のたびに手帳に記入しているのを見ました。あの妊婦健診は保険が使えるんですよね?
ドクタードクター
実はそこも誤り。正常な妊娠は病気ではないから、妊婦健診は医療保険の給付対象外で本来は自費なんだ。ただ負担が大きいので、市町村が標準的な14回程度の健診を公費で助成していて、手帳と一緒に受診券が渡されることが多い。妊娠高血圧症候群や切迫早産など異常があって診療を受ける場合は保険診療になる、という区別も覚えておこう。
医学生医学生
「病気じゃないから保険がきかない」というのは、正常分娩の費用と同じ考え方ですね。
ドクタードクター
その通り。だから出産育児一時金のような別の仕組みで支えている。次は産後休業。これはどの法律だと思う?
医学生医学生
母と子の健康のための休みなので、母子保健法でしょうか。
ドクタードクター
名前に引っ張られやすいところだね。産前産後休業は「働かせてはいけない期間」という労働条件の話なので、労働基準法に規定されている。産前は予定日の6週間前から、多胎なら14週間前から本人が請求すれば休める。産後は8週間で、原則として就業させてはならず、6週を過ぎて本人が請求し医師が支障なしと認めた業務なら就業できる。
医学生医学生
産前は請求制、産後は強制、という違いがあるんですね。では、母性健康管理指導事項連絡カードは?
ドクタードクター
これが正解の選択肢。通称「母健連絡カード」と呼ばれ、働く妊産婦が主治医などから受けた指導事項、たとえばつわりや妊娠高血圧症候群に対する通勤緩和、休憩、作業制限、休業などを、事業主に正確に伝えるための書面だ。妊産婦を診察した主治医等が記入して発行する。事業主は男女雇用機会均等法に基づいて、記載内容を守れるよう勤務時間の変更や作業軽減などの措置をとらなければならない。
医学生医学生
医師が書いて、本人が会社に出して、会社が対応する、という流れですね。診断書のようなものだと思えばいいですか。
ドクタードクター
イメージとしては近いね。ただ、指導事項を具体的に伝えて職場の措置につなげることに特化した書式だと理解しておくといい。最後に低体重児の届出だ。
医学生医学生
未熟児って2,000 gという数字をどこかで見た気がして、迷いました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。低体重児の届出は出生体重2,500 g未満で、保護者が市町村に届け出る。WHOの低出生体重児の定義と同じ数字だ。2,000 g以下は、入院養育が必要な未熟児の医療費を公費で給付する未熟児養育医療の対象基準の一つとして出てくる数字なので、混同しやすい。
医学生医学生
届出は2,500 g未満、養育医療で2,000 g以下が出てくる、と分けて覚えます。整理すると、市町村・労働基準法・2,500 gで3つの選択肢が誤りになるんですね。
ドクタードクター
完璧。臨床での注意点も話しておこう。妊婦健診の外来では、働いている妊婦さんに体調や仕事内容を聞いて、必要なら母健連絡カードを書くのは医師の大切な役割だ。妊婦さん自身が職場に言い出しにくいことも多いから、医師から制度を紹介すると助かる人は多い。
医学生医学生
医学的な指示を出すだけでなく、それを生活や職場の中で守れるように支えるのも医師の仕事なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。あわせて、生後1年未満の子を育てる女性の育児時間(1日2回各30分以上)は労働基準法、育児休業は育児・介護休業法、と法律ごとに整理しておけば、公衆衛生の制度問題はかなり安定して解けるようになるよ。

まとめ

母子保健に関わる制度は、母子保健法(妊娠の届出、母子健康手帳、健診、低体重児の届出など)、労働基準法(産前産後休業、育児時間など)、男女雇用機会均等法(妊産婦の健康管理措置)に分かれて規定されています。母子健康手帳は妊娠の届出を受けた市町村が交付し、妊婦健康診査は保険適用外ですが市町村の公費助成があり、低体重児の届出は出生体重2,500 g未満が対象です。母性健康管理指導事項連絡カードは主治医等が記入して発行し、妊産婦を通じて事業主に指導事項を伝え、事業主は男女雇用機会均等法に基づき必要な措置を講じます。「どの法律か」「誰が実施するか」「費用は誰が持つか」「基準値はいくつか」を軸に整理すると、制度問題を確実に解けるだけでなく、働く妊婦を臨床の場で支える実践にも直結します。

解答・解説

正解はdです

問われていること

妊娠・出産・育児をめぐる制度について、「どの法律に規定されているか」「どの機関が実施するか」「費用はどう賄われるか」「誰が書類を作成するか」を正確に区別できるかが問われている。

整理の軸

母子の健康に関わる制度は、主に次の3つの法律に分かれて規定されている。 ・母子保健法:母性と乳幼児の健康の保持・増進が目的。妊娠の届出、母子健康手帳の交付、妊婦・乳幼児の健康診査、保健指導、低体重児の届出、未熟児養育医療などを定める。実施主体は住民に最も身近な市町村が中心である。 ・労働基準法:働く女性の労働条件に関わる事項。産前産後休業、妊産婦の危険有害業務の制限、育児時間などを定める。 ・男女雇用機会均等法:事業主に対し、妊娠中・出産後の女性労働者の健康管理に関する措置(保健指導や健康診査を受ける時間の確保、医師等の指導事項を守るための勤務軽減など)を義務づける。母性健康管理指導事項連絡カードはこの仕組みで用いられる。

解き方

各選択肢の「主体(都道府県か市町村か)」「法律(母子保健法か労働基準法か)」「費用(保険か公費・自費か)」「数値(2,500 gか2,000 gか)」を上の整理に照らして確認すると、医師が作成する書類について述べた選択肢だけが正しいとわかる。

選択肢考察

  1. ×a.  母子健康手帳は都道府県が交付する。

    母子保健法では、妊娠した者は速やかに市町村長に妊娠の届出をすることとされ(第15条)、市町村はこの届出をした者に母子健康手帳を交付する(第16条)。交付主体は都道府県ではなく市町村である。母子健康手帳には妊娠経過、出産の状況、乳幼児の発育、予防接種歴などが記録され、妊娠期から乳幼児期までの一貫した健康記録として使われる。

  2. ×b.  妊婦健康診査は保険診療の対象である。

    正常な妊娠は疾病ではないため、妊婦健康診査は医療保険(健康保険)の給付対象にならず、本来は自費診療である。ただし経済的負担を軽くするため、市町村が標準的な健診回数(14回程度)について公費で助成しており、多くの妊婦は母子健康手帳と一緒に交付される受診券などを使って受診している。なお、妊娠高血圧症候群や切迫早産などの異常があって診療を受ける場合は、保険診療となる。

  3. ×c.  産後休業は母子保健法で規定されている。

    産前産後休業は労働条件に関する事項であり、労働基準法第65条に規定されている。産前休業は出産予定日の6週間前(多胎妊娠では14週間前)から本人が請求した場合に取得でき、産後休業は出産翌日から8週間で、この期間は原則として就業させてはならない(産後6週間を過ぎた後は、本人が請求し医師が支障ないと認めた業務に限って就業できる)。母子保健法の規定ではない。

  4. ○d.  母性健康管理指導事項連絡カードは医師が発行する。

    母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)は、働く妊産婦が主治医等から受けた指導事項(例:つわりや妊娠高血圧症候群に対する通勤緩和、休憩、作業制限、休業など)を、事業主に正確に伝えるための書面であり、妊産婦を診察した主治医等が記入して発行する。事業主は男女雇用機会均等法に基づき、カードに記載された指導事項を守ることができるよう、勤務時間の変更や作業の軽減などの措置を講じなければならない。

  5. ×e.  低体重児の届出の対象となるのは出生体重2,000 g未満である。

    母子保健法第18条では、体重が2,500 g未満の乳児が出生したとき、保護者は速やかにその旨を乳児の現在地の市町村に届け出なければならないとされている。基準は2,000 g未満ではなく2,500 g未満であり、これはWHOが定める低出生体重児の定義(2,500 g未満)と一致する。届出を受けた市町村は、必要に応じて保健師などによる訪問指導を行う。なお、「2,000 g以下」は入院養育が必要な未熟児に医療費を給付する未熟児養育医療(第20条)の対象基準の一つとして用いられる数値であり、混同しないよう注意する。

母子保健法の主な規定

・妊娠の届出(第15条):妊婦は市町村長へ届け出る ・母子健康手帳の交付(第16条):市町村が交付 ・健康診査(第12条・第13条):1歳6か月児健診・3歳児健診は市町村に実施義務。妊婦健診も市町村が実施・助成 ・低体重児の届出(第18条):出生体重2,500 g未満を市町村へ届出 ・未熟児の訪問指導(第19条) ・未熟児養育医療(第20条):入院養育が必要な未熟児の医療費を公費で給付(実施主体は市町村)

働く妊産婦を守る制度

・労働基準法:産前休業6週(多胎14週、本人の請求による)、産後休業8週(6週までは強制休業)、妊産婦の危険有害業務の就業制限、時間外労働・深夜業の制限(請求時)、育児時間(生後1年未満の子を育てる女性は1日2回各30分以上) ・男女雇用機会均等法:妊娠中・出産後の保健指導・健康診査の時間確保、指導事項を守るための措置(通勤緩和、休憩、勤務時間短縮など)、妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止 ・育児・介護休業法:育児休業、子の看護等休暇など

母性健康管理指導事項連絡カードの流れ

主治医等が診察し指導事項をカードに記入 → 妊産婦が事業主に提出 → 事業主は記載内容に従い必要な措置を講じる。

POINT

・母子健康手帳は妊娠の届出を受けた市町村が交付する(都道府県ではない) ・妊婦健康診査は保険適用外(自費)だが、市町村の公費助成がある ・産前産後休業は労働基準法(第65条)、母性健康管理措置は男女雇用機会均等法 ・母性健康管理指導事項連絡カードは主治医等が記入し、妊産婦を通じて事業主へ伝える ・低体重児の届出は出生体重2,500 g未満、届出先は市町村

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。