StudyMed医師国家試験

高齢化と糖尿病が変えた透析医療―死因で増え続ける「感染症」

第107回医師国家試験 B問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第7問

我が国の慢性透析患者の近年の傾向で正しいのはどれか。

  1. a.腎移植数は減少に転じた。
  2. b.5年生存率は低下している。
  3. c.死亡原因として感染症の比率が増加している。
  4. d.糖尿病性腎症による透析導入数は減少している。
  5. e.糖尿病患者と非糖尿病患者との間で5年生存率に差がない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は日本の慢性透析患者の動向を問う統計問題だ。数字を丸暗記するより、「高齢化」と「糖尿病の増加」という2つの大きな流れを軸に考えると、各選択肢の正誤が自然に見えてくる。まず、日本の透析患者数の推移はどうなっていると思う?
医学生医学生
腎臓内科の講義で、30万人を超えていると聞きました。ずっと増え続けているんですよね。
ドクタードクター
そう、長年増加を続けて現在は約34〜35万人、ここ数年は頭打ちになっている。人口あたりの有病率は世界的にも高い水準だ。そして導入患者の平均年齢は上昇を続け、今はおよそ70歳前後。導入原疾患の第1位は1998年以降ずっと糖尿病性腎症で、約4割を占めている。
医学生医学生
糖尿病性腎症が1位というのは覚えています。とすると、糖尿病性腎症による透析導入数が減っているという選択肢は誤りですね。
ドクタードクター
そうだね。糖尿病患者の増加とともに導入数は長く増え続けてきたし、出題当時の傾向も増加だった。最近は年間1万6千人前後で頭打ちになり、わずかに減る年もあるけれど、依然として最多の原疾患であることに変わりはない。では、死因の変化はどうだろう。
医学生医学生
透析患者さんは心血管系で亡くなることが多いと思っていました。心不全が一番でしょうか。
ドクタードクター
心不全は上位の死因だね。ただ、ここで注目してほしいのが感染症だ。感染症の占める割合は年々上昇していて、近年は心不全と並ぶ、あるいは年によっては上回る水準になっている。これが今回の正解だよ。
医学生医学生
高齢化と糖尿病の増加で、感染に弱い患者さんが増えているからですか。
ドクタードクター
その通り。加えて、尿毒症そのものが好中球機能や細胞性免疫を低下させるし、低栄養も免疫を弱める。さらにシャント穿刺や透析用カテーテルという、血流に直接つながる感染経路がある。肺炎、敗血症、バスキュラーアクセス感染などが代表的だ。
医学生医学生
透析室の実習で、看護師さんが穿刺部位の消毒にとても気を遣っていた理由がよく分かりました。
ドクタードクター
まさにそこが現場の感染対策の要なんだ。次は生存率について。5年生存率が低下している、という選択肢はどう考える?
医学生医学生
高齢の患者さんが増えているなら、生存率は下がっていそうにも思えますが……。
ドクタードクター
その推論は半分正しい。高齢化や合併症の多い糖尿病患者の増加は、確かに生存率を押し下げる方向に働く。でも一方で、透析膜や機器の改良、貧血や骨ミネラル代謝異常、心血管合併症の管理が進歩した。結果として5年生存率は約60%で、横ばいからわずかに改善という状況だから、「低下している」とはいえないんだ。
医学生医学生
では、糖尿病の有無で5年生存率に差がない、というのはどうでしょう。さっきの話からすると差がありそうです。
ドクタードクター
良い読みだね。糖尿病性腎症から導入された患者の5年生存率は約50%、慢性糸球体腎炎など非糖尿病では約70%と、はっきり差がある。糖尿病の患者さんは導入時点で冠動脈疾患や末梢動脈疾患、脳血管障害を抱えていることが多く、感染にもかかりやすいからだ。
医学生医学生
残るのは腎移植ですね。日本では移植が少ないと聞きますが、減少に転じたわけではないんですか。
ドクタードクター
件数は欧米に比べてきわめて少ないけれど、傾向としては増加している。年間およそ1,500〜2,000件で、大部分は生体腎移植だ。2010年施行の改正臓器移植法で、本人の意思が不明でも家族の承諾で脳死下提供が可能になったことも追い風になった。コロナ禍で一時的に落ち込んだ時期はあったが、「減少に転じた」という流れではない。
医学生医学生
高齢化と糖尿病の増加という2本の軸で考えれば、死因、生存率、原疾患がつながって理解できますね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での視点も押さえておこう。末期腎不全の腎代替療法には血液透析、腹膜透析、腎移植の3つがあり、日本では血液透析が大半を占める。腎移植は生命予後や生活の質の面で優れるので、導入前から患者さんにすべての選択肢を説明することが大切だ。そして透析患者さんの発熱は、シャントやカテーテル感染、肺炎を念頭に早めに評価すること。易感染性を前提にした診療が予後を左右するんだ。

まとめ

日本の慢性透析患者は約34〜35万人に達し、導入患者の高齢化(平均約70歳)と、導入原疾患第1位である糖尿病性腎症(約4割)の増加が大きな特徴です。この流れを背景に、死因では心不全と並んで感染症の比率が年々上昇しており、尿毒症による免疫低下、高齢・糖尿病による易感染性、シャント穿刺やカテーテルといった感染経路が要因となっています。5年生存率は全体で約60%と横ばいからやや改善傾向ですが、糖尿病性腎症(約50%)は非糖尿病(約70%)より明らかに不良であり、腎移植は件数こそ少ないものの増加傾向です。統計問題は数字の丸暗記ではなく「高齢化」と「糖尿病の増加」という背景から推論すると整理しやすく、透析患者の発熱を早期に評価するといった実臨床での感染対策の意識にも直結します。

解答・解説

正解はcです

問われていること

日本の慢性透析患者について、日本透析医学会(JSDT)が毎年行っている全国統計調査(「わが国の慢性透析療法の現況」)で示されている主な傾向を知っているかが問われている。

押さえるべき全体像

日本の慢性透析患者数は長年増え続け、2010年代以降は30万人を超え、現在は約34〜35万人に達している(ここ数年は頭打ちとなっている)。この間に次のような変化が起きてきた。 ・高齢化:新たに透析を始める患者(透析導入患者)の平均年齢は上昇を続け、現在はおよそ70歳前後である。 ・原疾患の変化:1998年に糖尿病性腎症が慢性糸球体腎炎を抜いて導入原因の第1位となり、以後、導入患者の約4割を占める。慢性糸球体腎炎は減少し、高血圧などによる腎硬化症が増えている。 ・死因の変化:透析患者の死因の上位は心不全と感染症であり、高齢化や糖尿病患者の増加に伴って感染症の占める割合が年々上昇している。 ・腎移植:件数は少ないながら増加傾向にある。

解き方

「高齢化」と「糖尿病の増加」という二つの大きな流れを思い浮かべれば、各選択肢を判断できる。高齢で糖尿病を合併した患者は免疫能が低く感染症にかかりやすいため、死因に占める感染症の割合は増える。一方、糖尿病患者は心血管合併症を抱えて透析に入ることが多く、非糖尿病患者より生存率が低い。

選択肢考察

  1. ×a.  腎移植数は減少に転じた。

    日本の腎移植数は増加傾向にあり、年間およそ1,500〜2,000件程度で推移している(大部分は生体腎移植で、献腎移植は少ない)。2010年に施行された改正臓器移植法により、本人の意思が不明でも家族の承諾で脳死下の臓器提供が可能になったことも、献腎移植の増加を後押しした。新型コロナウイルス感染症の流行期に一時的な落ち込みはあったものの、「減少に転じた」という傾向ではない。なお、欧米と比べると透析患者数に対する移植件数はきわめて少なく、日本の末期腎不全治療は透析が中心である。

  2. ×b.  5年生存率は低下している。

    透析導入患者の5年生存率は約60%である。透析機器・透析膜の改良や貧血・骨ミネラル代謝異常・心血管合併症の管理の進歩により、20年以上の長期透析例も珍しくなくなった。一方で、導入年齢の高齢化や、導入時点ですでに動脈硬化・心疾患が進んでいる糖尿病患者の増加が生存率を押し下げる方向に働くため、全体としてはほぼ横ばいか、わずかに改善している状況であり、「低下している」とはいえない。

  3. ○c.  死亡原因として感染症の比率が増加している。

    透析患者の主な死因は心不全と感染症であり、ほかに悪性腫瘍、脳血管障害、心筋梗塞などが続く。このうち感染症(肺炎、敗血症、バスキュラーアクセス感染など)の占める割合は年々上昇しており、近年は心不全と並ぶ、あるいは上回る水準となっている。背景には、透析導入年齢の高齢化、易感染性をもつ糖尿病患者の増加、尿毒症そのものによる免疫機能の低下、シャント穿刺やカテーテル留置による感染経路の存在などがある。

  4. ×d.  糖尿病性腎症による透析導入数は減少している。

    糖尿病性腎症は1998年以降、透析導入の原因疾患の第1位であり、糖尿病患者の増加とともに導入数は長く増加してきた。本試験の時点で示されていた傾向も増加であり、「減少している」は誤りである。なお、2010年代半ば以降は年間1万6千人前後で頭打ちとなり、最近はわずかに減少する年もみられるが、依然として導入原因の約4割を占める最多の疾患であることに変わりはない。

  5. ×e.  糖尿病患者と非糖尿病患者との間で5年生存率に差がない。

    糖尿病性腎症から透析に導入された患者の5年生存率は約50%であるのに対し、慢性糸球体腎炎など非糖尿病の患者では約70%と、明らかな差がある。糖尿病患者は導入時点ですでに冠動脈疾患・末梢動脈疾患・脳血管障害などの全身の血管合併症を抱えていることが多く、さらに感染症にもかかりやすいため、予後が不良となる。

日本の慢性透析療法の主な統計(日本透析医学会の調査による概数)

・慢性透析患者数:約34〜35万人(人口100万人あたり約2,700人で、世界的にも有病率が高い) ・透析導入の原疾患(上位):①糖尿病性腎症(約4割)②腎硬化症(増加傾向、第2位)③慢性糸球体腎炎(減少傾向) ・導入患者の平均年齢:約70歳前後で上昇傾向 ・死因の上位:心不全、感染症、悪性腫瘍、脳血管障害など ・5年生存率:全体で約60%、糖尿病性腎症で約50%、慢性糸球体腎炎で約70%

透析患者で感染症が多い理由

・尿毒症による細胞性免疫・好中球機能の低下 ・高齢、糖尿病合併による易感染性 ・シャント穿刺や透析用カテーテルといった血流感染の経路 ・低栄養(蛋白エネルギー消耗状態)

腎代替療法の選択肢

末期腎不全の治療(腎代替療法)には、血液透析、腹膜透析、腎移植の3つがある。日本では血液透析が大部分を占め、腹膜透析は数%にとどまる。腎移植は生命予後や生活の質の面で優れるが、提供臓器の不足から件数は限られており、生体腎移植が大半を占める。

POINT

・透析患者は増加・高齢化し、導入原疾患の第1位は糖尿病性腎症(約4割) ・死因は心不全と感染症が上位で、感染症の比率は増加している ・5年生存率は約60%で横ばい〜やや改善。糖尿病患者(約50%)は非糖尿病患者(約70%)より不良 ・腎移植は年間約1,500〜2,000件で増加傾向(大半が生体腎移植)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。