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CO2を下げたいなら「換気」を動かせ―人工呼吸器設定の基本原則

第107回医師国家試験 B問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第9問

人工呼吸器の設定で動脈血の二酸化炭素分圧を下げるのはどれか。

  1. a.換気回数を増やす。
  2. b.一回換気量を減らす。
  3. c.吸入酸素濃度を上げる。
  4. d.最高気道内圧を下げる。
  5. e.持続的気道陽圧法〈CPAP〉を適用する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は人工呼吸器の設定がPaCO2にどう影響するかを問う問題だ。ポイントは、設定項目を「換気(CO2を出す)」に関わるものと「酸素化(O2を取り込む)」に関わるものに分けて考えること。この2つを混同しなければ、すっきり解けるよ。
医学生医学生
呼吸が苦しそうなら酸素を上げる、というイメージが強くて、酸素を増やせばCO2も下がりそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが一番多い誤解だね。生理学の講義で習った肺胞換気式を思い出そう。CO2は体内の代謝でつくられ、吸う空気にはほとんど含まれない。だからPaCO2は、産生量を肺胞換気量で割った値に比例する。代謝が一定なら、PaCO2は肺胞換気量に反比例するんだ。
医学生医学生
肺胞換気量は、一回換気量から死腔量を引いて、呼吸回数をかけたもの、でしたね。
ドクタードクター
その通り。つまりPaCO2を下げたければ、一回換気量か換気回数を増やして肺胞換気量を増やせばいい。今回の選択肢でそれに当たるのは、換気回数を増やす操作だけ。一回換気量を保ったまま回数を増やせば、分時換気量も肺胞換気量も増えて、CO2がたくさん運び出される。
医学生医学生
逆に一回換気量を減らすのは、換気量が減るからPaCO2は上がるわけですね。
ドクタードクター
そう。しかも一回換気量を減らすと、毎回の換気のうち死腔に費やされる割合が相対的に大きくなるから、肺胞換気量は分時換気量以上に大きく減ってしまう。成人の解剖学的死腔は約150 mLだから、浅い呼吸ほど効率が悪いんだ。
医学生医学生
救急外来の実習で見た浅く速い呼吸の患者さんが、回数は多いのにCO2が溜まっていたのは、そういう理由だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。同じ分時換気量でも、浅く速い呼吸は肺胞換気量が少ない。では吸入酸素濃度を上げるのはどうかな。
医学生医学生
さっきのお話からすると、酸素化は良くなるけれどCO2の排出量は変わらない、ですか。
ドクタードクター
正解。FiO2を上げるとPaO2は上がるけれど、PaCO2は肺胞換気量で決まるから下がらない。むしろCOPDなどでCO2が溜まっている自発呼吸の患者に高濃度酸素を投与すると、換気血流比の悪化やホールデン効果、低酸素による呼吸刺激の減弱などが重なってPaCO2が上がり、CO2ナルコーシスを起こすことがある。
医学生医学生
CBTの勉強でCO2ナルコーシスは何度も出てきました。酸素を上げるとCO2が下がるどころか上がることもあるんですね。最高気道内圧を下げるのは?
ドクタードクター
従圧式換気で吸気圧を下げたり、圧の上限を低くしたりすると、肺に送り込まれるガスの量、つまり一回換気量が減る。だからPaCO2は上がる方向だ。気胸などの圧外傷を防ぐ目的で圧を下げることはあるけれど、CO2を下げる操作ではない。
医学生医学生
CPAPはどうでしょう。陽圧をかけるので換気を助けてくれそうな気もします。
ドクタードクター
そこも整理が必要だね。CPAPは自発呼吸の間ずっと一定の陽圧をかけ続けて、呼気時の肺胞虚脱を防ぎ、機能的残気量を増やして酸素化を改善する方法だ。閉塞性睡眠時無呼吸で上気道の閉塞を防ぐのにも使われる。換気そのものは患者の自発呼吸任せで、呼吸器が換気量を補助するわけではないから、PaCO2を下げる設定ではない。強制換気からCPAPに切り替えれば、自発呼吸が不十分な場合はむしろPaCO2が上がりうる。
医学生医学生
まとめると、PaCO2は一回換気量と回数、PaO2はFiO2とPEEP、と分けて考えればいいんですね。
ドクタードクター
その2本立てが基本だ。臨床での注意点も加えておこう。ARDSでは、肺を傷めないよう一回換気量を予測体重あたり6 mL/kg程度に抑え、プラトー圧を30 cmH2O以下に保つ肺保護換気が推奨される。だからCO2を下げたいときは、まず換気回数で調整することが多い。それでもPaCO2がある程度上がるのは許容する、という考え方もある。
医学生医学生
permissive hypercapniaですね。回数はどこまでも増やしていいんですか。
ドクタードクター
そこが落とし穴。回数を増やしすぎると呼気時間が短くなって息を吐き切れず、肺内に空気が溜まるエアトラッピング、いわゆるauto-PEEPが起こる。特に喘息やCOPDなどの閉塞性肺疾患では要注意だ。設定を変えたら血液ガスとグラフィックを必ず確認する習慣をつけておこう。

まとめ

PaCO2はCO2産生量と肺胞換気量のバランスで決まり、代謝が一定なら肺胞換気量に反比例します。肺胞換気量は(一回換気量−死腔量)×呼吸回数で表されるため、PaCO2を下げるには換気回数か一回換気量を増やす必要があり、一回換気量の減少や吸気圧の低下は逆にPaCO2を上昇させます。FiO2、PEEP、CPAPは主に酸素化を改善する設定で、CO2排出を直接増やすものではなく、COPD患者への高濃度酸素はCO2ナルコーシスの危険もあります。ARDSの肺保護換気では一回換気量を制限して回数で調整し、ある程度の高CO2を許容しますが、回数の増やしすぎはauto-PEEPを招きます。「換気はCO2、酸素化はO2」と設定項目を役割で分けて理解することは、集中治療や救急の現場で人工呼吸器を安全に扱うための土台になります。

解答・解説

正解はaです

問われていること

人工呼吸器のどの設定が「換気(二酸化炭素の排出)」に関わり、どの設定が「酸素化(酸素の取り込み)」に関わるかを区別できるかが問われている。

PaCO2を決めるもの

二酸化炭素(CO2)は体内の代謝で産生され、吸入気にはほとんど含まれない。したがって動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)は、産生量と、肺胞から体外へ運び出される量(肺胞換気量)とのバランスで決まる。  PaCO2 ∝ CO2産生量 ÷ 肺胞換気量  肺胞換気量 =(一回換気量 − 死腔量)× 呼吸回数 代謝が一定であれば、PaCO2は肺胞換気量に反比例する。すなわち、一回換気量を増やすか、換気回数(呼吸回数)を増やして分時換気量・肺胞換気量を増やせばPaCO2は下がり、逆に減らせば上がる。

PaO2を決めるもの

一方、動脈血酸素分圧(PaO2)は主に吸入酸素濃度(FiO2)と、肺胞を開いた状態に保つ圧(呼気終末陽圧〈PEEP〉や平均気道内圧)で調整される。これらは酸素化を改善するための設定であり、CO2排出を直接増やすものではない。

解き方

選択肢の中から「肺胞換気量を増やす設定」を選べばよい。換気回数の増加だけがこれに当たる。一回換気量の減少や最高気道内圧の低下は逆に換気量を減らし、FiO2やCPAPは酸素化に関わる設定である。

選択肢考察

  1. ○a.  換気回数を増やす。

    一回換気量を変えずに換気回数を増やすと、分時換気量(一回換気量×回数)が増え、それに伴って肺胞換気量も増加する。肺胞から体外へ運び出されるCO2の量が増えるため、PaCO2は低下する。臨床では、肺を傷める過大な一回換気量を避けたい場面(急性呼吸窮迫症候群〈ARDS〉などでの肺保護換気)で、PaCO2を下げる手段としてまず換気回数の調整が行われることが多い。ただし、回数を増やしすぎると呼気時間が短くなって息を吐き切れず、肺内に空気が溜まる(エアトラッピング、auto-PEEP)ことがあり、特に閉塞性肺疾患では注意が必要である。

  2. ×b.  一回換気量を減らす。

    一回換気量を減らすと分時換気量が減るだけでなく、毎回の換気のうち死腔(ガス交換に関与しない気道部分)に費やされる割合が相対的に大きくなるため、肺胞換気量はさらに大きく減少する。その結果CO2の排出が減り、PaCO2は上昇する。肺保護換気で一回換気量を制限した結果、ある程度のPaCO2上昇を許容する考え方(高二酸化炭素許容人工換気、permissive hypercapnia)もあるが、PaCO2を下げる操作ではない。

  3. ×c.  吸入酸素濃度を上げる。

    吸入酸素濃度(FiO2)を上げると肺胞内の酸素分圧が上がり、PaO2は上昇する。しかしCO2の排出量は肺胞換気量で決まるため、FiO2を変えてもPaCO2は下がらない。むしろ、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などでCO2が貯留している自発呼吸の患者に高濃度酸素を投与すると、低酸素性肺血管収縮の解除による換気血流比の悪化、ホールデン効果(酸素化されたヘモグロビンがCO2を放しやすくなる現象)、低酸素による呼吸刺激の減弱などによってPaCO2が上昇し、CO2ナルコーシスをきたすことがある。

  4. ×d.  最高気道内圧を下げる。

    最高気道内圧は吸気時に気道にかかる圧の最大値である。圧を指定して換気する方式(従圧式換気)で吸気圧を下げたり、圧の上限を低く設定したりすると、肺へ送り込まれるガスの量、すなわち一回換気量が減少する。そのため肺胞換気量が減ってPaCO2は上昇する。最高気道内圧を下げることは、圧外傷(気胸など)を防ぐ目的で行われることはあるが、CO2を下げる方向の操作ではない。

  5. ×e.  持続的気道陽圧法〈CPAP〉を適用する。

    持続的気道陽圧法(continuous positive airway pressure;CPAP)は、自発呼吸の吸気・呼気を通じて気道に一定の陽圧をかけ続ける方法である。主な目的は、呼気時の肺胞虚脱を防いで機能的残気量を増やし、酸素化を改善することにある(閉塞性睡眠時無呼吸では上気道の閉塞を防ぐ目的でも用いられる)。換気そのものは患者の自発呼吸に委ねられ、呼吸器が換気量を補助するわけではないため、CO2排出を増やしてPaCO2を下げる設定ではない。強制換気を行っていた患者をCPAPに切り替えれば、呼吸器による換気補助がなくなる分、自発呼吸が不十分な場合にはPaCO2はむしろ上昇しうる。

人工呼吸器の主な設定項目と役割

換気(PaCO2の調整)に関わる設定 ・一回換気量(従量式換気)または吸気圧(従圧式換気):増やせばPaCO2↓ ・換気回数:増やせばPaCO2↓ 酸素化(PaO2の調整)に関わる設定 ・吸入酸素濃度(FiO2):上げればPaO2↑ ・呼気終末陽圧(PEEP):肺胞虚脱を防いでガス交換面積を保ち、PaO2↑ ・吸気時間の延長など平均気道内圧を上げる操作:PaO2↑

肺胞換気式

PaCO2 = 0.863 × CO2産生量(mL/分)÷ 肺胞換気量(L/分) 肺胞換気量 =(一回換気量 − 死腔量)× 呼吸回数 成人の解剖学的死腔は約150 mLである。同じ分時換気量でも、「浅く速い呼吸」は死腔換気の割合が大きく、肺胞換気量は少なくなる。

臨床での考え方

・PaCO2が高い(呼吸性アシドーシス):換気回数または一回換気量を増やす ・PaO2が低い:FiO2を上げる、PEEPを上げる ・ARDSなどでは、一回換気量を予測体重あたり6 mL/kg程度に抑え、プラトー圧を30 cmH2O以下に保つ肺保護換気が推奨され、PaCO2の上昇はある程度許容される ・CPAPとPEEPは、どちらも呼気時にも陽圧を保つ点で共通する(自発呼吸下で行うものをCPAP、強制換気に加えるものをPEEPと呼ぶ)

POINT

・PaCO2は肺胞換気量に反比例する。肺胞換気量=(一回換気量−死腔量)×呼吸回数 ・PaCO2を下げるには換気回数または一回換気量を増やす ・FiO2、PEEP、CPAPは主に酸素化(PaO2)を改善する設定で、PaCO2を下げるものではない ・一回換気量の減少や吸気圧(最高気道内圧)の低下は換気量を減らしPaCO2を上げる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。