「うどん+サッカー」で倒れた理由―2つの条件がそろうと起こるアナフィラキシー
第107回医師国家試験 A問題 第40問
国試問題にチャレンジ
17歳の男子。意識消失のため搬入された。昼食にうどんを食べた後,晴天の屋外で同級生とサッカーをした。運動開始30分後,前胸部のかゆみを訴えた。その後,意識を失い倒れたため,救急搬入された。1か月前,スパゲッティを食べた後サッカーをしていたところ,程度は軽いものの同様の症状があったという。夜食にうどんを食べても異常はなく,空腹時にサッカーをしても異常はなかったという。意識は清明。喘鳴が強い。前胸部に膨疹を認める。脈拍132/分,整。血圧82/40 mmHg。呼吸数24/分。SpO2 98%(マスク4 L/分酸素投与下)。 症状改善後の生活指導として適切なのはどれか。
- a.運動は屋内で行う。
- b.食直後の運動は避ける。
- c.準備運動を十分に行う。
- d.現時点での対応は必要ない。
- e.運動はサッカー以外の種目に変更する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
特定の食物を食べた後に運動したときだけアナフィラキシーが起こり、食物だけ・運動だけでは起こらない場合は、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)を考えます。原因食物は小麦が最多で、ω-5グリアジンが主要アレルゲンであり、次いで甲殻類が多く、IgEを介するⅠ型アレルギーです。再発予防の中心は原因食物摂取後(少なくとも2時間程度)の運動を避けることで、運動の場所・種目・準備運動の有無は発症に関係しません。重症例ではアドレナリン自己注射薬の携帯と使い方の指導、NSAIDsなど増悪因子の回避、学校との情報共有が重要です。発症条件を病歴から丁寧に切り分ける姿勢は、アレルギー診療全般で原因を特定し適切な指導につなげる基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・17歳男子。昼食にうどん(小麦)を食べた後、屋外でサッカーを始めて30分で前胸部のかゆみが出て、その後意識を失った。 ・搬入時、強い喘鳴(気道の狭窄)、前胸部の膨疹(じんま疹)、頻脈132/分、血圧82/40 mmHgの低下がみられる。皮膚症状に呼吸器症状と循環不全が加わっており、アナフィラキシー(ショック)の状態である。 ・1か月前にもスパゲッティ(小麦)を食べた後のサッカーで、軽いながら同様の症状があった。 ・一方で、夜にうどんを食べただけ(運動なし)では何も起こらず、空腹時のサッカー(食事なし)でも何も起こらない。
診断へのプロセス
原因の食物を食べただけでも、運動しただけでも症状は出ず、「特定の食物を食べた後に運動する」という2つの条件がそろったときだけアナフィラキシーが起こっている。これは食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA:food-dependent exercise-induced anaphylaxis)の典型的な経過である。2回とも小麦製品の摂取後に起こっていることから、原因食物は小麦と推定される。小麦はFDEIAの原因食物として最も多く、ω-5グリアジンという小麦蛋白が主なアレルゲンとして知られる。
設問の考え方
FDEIAは、原因食物を食べた後の数時間以内に運動することで発症する。運動の種類(サッカーかどうか)や場所(屋内か屋外か)、準備運動の有無は発症とは関係しない。したがって生活指導の中心は、原因食物を食べた後の運動を避けること(少なくとも食後2時間程度は運動をしない。運動する予定があるときは運動前に原因食物を食べない)である。今回は前回より重症化してショックに至っており、再発時に備えたアドレナリン自己注射薬の携帯なども必要となる。
選択肢考察
- ×a. 運動は屋内で行う。
FDEIAを起こす条件は「原因食物の摂取」と「その後の運動」の組み合わせであり、運動する場所は関係しない。屋内で運動しても、小麦を食べた直後であれば同じように発症しうる。晴天の屋外という状況は、本症の本質的な誘因ではない。
- ○b. 食直後の運動は避ける。
本例は小麦を食べた後に運動したときだけ症状が出ており、食事と運動のどちらか一方だけでは発症していない。原因食物を食べた後に運動しなければ発症は防げるので、食後(少なくとも2時間程度)は運動を避けるよう指導するのが最も基本的で有効な予防策である。運動の予定がある日は、運動前に小麦製品を食べないことも同じ意味をもつ。
- ×c. 準備運動を十分に行う。
準備運動は筋肉や関節のけがを防ぐためのものであり、FDEIAの予防にはならない。準備運動そのものも運動であるため、原因食物を食べた後であれば発症の引き金になりうる。
- ×d. 現時点での対応は必要ない。
今回は血圧低下と意識消失を伴うアナフィラキシーショックを起こしており、前回より明らかに重症化している。同じ条件がそろえば再発し、命にかかわるおそれがあるため、食後の運動を避ける指導、アドレナリン自己注射薬の処方と使い方の指導、学校との情報共有など、現時点での対応が必要である。
- ×e. 運動はサッカー以外の種目に変更する。
FDEIAは特定の競技に限らず、ランニング、球技、水泳など様々な運動で起こりうる。問題はサッカーという種目ではなく、原因食物を食べた後に運動することである。種目を変えても食後に運動すれば発症の危険は変わらない。
食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)とは
特定の食物を食べた後、数時間以内(多くは2時間以内)に運動したときにだけアナフィラキシーを起こす病気である。原因食物の摂取だけ、運動だけでは発症しない。中学生から若年成人に多く、原因食物は小麦が最も多く、次いでエビ・カニなどの甲殻類が多い。IgE抗体が関わるⅠ型(即時型)アレルギーである。
発症の仕組み
運動によって腸管の透過性が高まり、アレルゲンが未消化のまま血中に吸収されやすくなること、運動に伴いマスト細胞(肥満細胞)からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されやすくなることなどが考えられている。アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用、疲労、睡眠不足、入浴、飲酒、月経前などは発症を起こりやすくする増悪因子である。
診断
・病歴:原因食物の摂取と運動が重なったときだけ発症するという経過が最も重要。 ・血液検査:原因食物に対する特異的IgE抗体の測定。小麦ではω-5グリアジン特異的IgEが診断に有用である。皮膚プリックテストも用いられる。 ・誘発試験:原因食物の摂取後に運動を負荷して症状が出るかを確かめる。必要に応じてアスピリンを前もって服用させて誘発しやすくする。危険を伴うため、救急対応ができる体制で行う。
急性期の治療(アナフィラキシー)
第一選択はアドレナリンの筋肉内注射(大腿前外側部、0.01 mg/kg、最大量は成人0.5 mg・小児0.3 mg)である。仰臥位をとらせ(呼吸が苦しい場合は上半身を起こす)、酸素投与、大量の輸液を行う。抗ヒスタミン薬や副腎皮質ステロイドは補助的な治療である。
再発予防の生活指導
・原因食物を食べた後、少なくとも2時間程度は運動を避ける。運動の予定がある場合は運動前に原因食物を食べない。 ・運動前にNSAIDsを飲まない。 ・運動中にかゆみやじんま疹などの初期症状が出たら、すぐに運動を中止して安静にし、助けを求める。 ・アドレナリン自己注射薬(エピペン®)を携帯し、使い方を本人と周囲に指導する。 ・学校(体育、部活動)と情報を共有し、発症時の対応を確認しておく。 原因食物を食べても運動をしなければ通常は発症しないため、食物の完全な除去は必須ではないが、症状の重さや生活状況に応じて個別に判断する。
POINT
・原因食物の摂取後に運動したときだけアナフィラキシーが起こり、食物だけ・運動だけでは起こらない → 食物依存性運動誘発アナフィラキシー。 ・原因は小麦が最多(ω-5グリアジン)、次いで甲殻類。 ・予防は食後(少なくとも2時間程度)の運動を避けること。運動の種目・場所・準備運動は関係しない。 ・NSAIDsは増悪因子。 ・重症例ではアドレナリン自己注射薬を携帯させる。急性期治療はアドレナリン筋注が第一選択。
