打つなら太ももの筋肉に―アナフィラキシー救命のアドレナリン、その「経路」に意味がある
第120回医師国家試験 E問題 第1問
国試問題にチャレンジ
アナフィラキシーにおけるアドレナリンの注射部位はどれか。
- a.筋肉内
- b.心腔内
- c.動脈内
- d.皮下
- e.皮内
対話形式の解説
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ドクターまとめ
アナフィラキシーは急速に進行する全身性の過敏反応で、第一選択薬はアドレナリンであり、疑った時点でためらわず投与することが救命につながります。標準的な投与経路は大腿中央前外側(外側広筋)への筋肉内注射で、0.01 mg/kg(成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg)を投与し、効果不十分なら5〜15分ごとに反復します。皮下注は血流が乏しく自身の血管収縮作用で吸収が遅れるため現在は推奨されず、皮内注は検査用、動脈内・心腔内は重大な合併症を招くため用いません。静脈内投与は難治例にモニター監視下で慎重に行う方法であり、β遮断薬内服中で効果が乏しい場合はグルカゴンも考慮します。経路ごとの理由を理解しておくことは、救急外来や病棟での初期対応、そしてエピペン®の処方・指導にそのまま役立ちます。
解答・解説
正解はaです
アナフィラキシーは、アレルゲンなどへの曝露後に急速に出現する全身性の過敏反応で、気道閉塞・低血圧・ショックにより短時間で生命を脅かしうる。治療の第一選択薬はアドレナリンであり、診断したら(または強く疑ったら)ためらわずに直ちに投与することが救命の鍵となる。 本問はその投与経路を問うている。アドレナリンを確実かつ速やかに全身へ届けつつ、過量・不整脈などの副作用を避けるために推奨されているのは「筋肉内注射」で、部位は大腿中央の前外側(外側広筋)が第一選択である。筋肉は皮下組織より血流が豊富なので吸収が速く、さらに大腿外側広筋は上腕三角筋より血中濃度の立ち上がりが速いことが示されている。静脈ルートの確保を待たずに、衣服の上からでも打てる点も救急現場で有利である。 選択肢には静脈内投与はないが、静脈内投与は筋注で反応が乏しい難治例などに、モニター監視下で慣れた医師が希釈して慎重に(多くは持続投与で)行う方法であり、初期治療の標準ではない。
選択肢考察
- ○a. 筋肉内
アナフィラキシーに対するアドレナリンの標準的投与経路である。0.1%(1 mg/mL)製剤を0.01 mg/kg(成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg)、大腿中央の前外側に筋注し、効果が不十分なら5~15分ごとに反復する。筋肉は血流が多く吸収が速いため、皮下注より早く有効血中濃度に達する。自己注射用製剤(エピペン®、0.15 mgと0.3 mgの2規格)も大腿前外側へ筋注するよう設計されている。
- ×b. 心腔内
心臓を直接穿刺して薬剤を注入する方法は、心筋・冠動脈損傷、気胸、心タンポナーデなど重大な合併症の危険が高く、現在は心停止時の蘇生でも推奨されていない。アナフィラキシーの治療で用いることはない。
- ×c. 動脈内
動脈内投与はアナフィラキシーの治療経路ではない。動脈内にアドレナリンが入ると、その末梢に高濃度のα1作用が加わって強い血管攣縮を起こし、指趾などの虚血・壊死を招くおそれがある。なお、心停止で静脈路の確保が困難な場合の代替経路として挙げられるのは骨髄内投与であり、動脈内投与ではない。
- ×d. 皮下
かつてはアドレナリン皮下注が行われていたが、皮下組織は血流が乏しいうえ、アドレナリン自体の血管収縮作用で局所の血流がさらに減るため、吸収が遅く血中濃度の上昇が不確実である。筋注に比べて有効性で劣るため、現在は推奨されない。
- ×e. 皮内
皮内注射は注入量がごく少量に限られ、全身への吸収も極めて遅いため、全身作用を期待する救急薬の投与経路にはならない。局所の強い血管収縮による皮膚虚血の危険もある。皮内注射はツベルクリン反応や薬剤・アレルゲンの皮内テストなど、局所の反応をみる検査で用いられる。
アナフィラキシーの初期対応
・評価と同時に助けを呼び、原因物質(薬剤点滴など)があれば中止する。 ・アドレナリン筋注(0.01 mg/kg、成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg、大腿前外側)。必要に応じ5~15分ごとに反復。 ・体位: 仰臥位で下肢挙上(呼吸困難があれば上体を起こし、妊婦は左側臥位)。急に立たせたり座らせたりしない(循環血液量が心臓に戻らず急変しうる)。 ・高流量酸素投与、静脈路確保と大量輸液(細胞外液)。 ・補助薬: 抗ヒスタミン薬(皮膚症状)、β2刺激薬吸入(気管支攣縮)、副腎皮質ステロイド(二相性反応予防の効果は確立していない)。いずれもアドレナリンの代わりにはならない。
アドレナリンの作用
・α1作用: 末梢血管収縮で血圧上昇、粘膜浮腫の軽減。 ・β1作用: 心収縮力・心拍数増加。 ・β2作用: 気管支拡張、肥満細胞からのメディエーター放出抑制。
β遮断薬内服中の患者
アドレナリンが効きにくいことがあり、その場合はグルカゴン投与を考慮する。
投与経路と部位の整理
・アナフィラキシーのアドレナリン: 大腿前外側(外側広筋)への筋注。 ・心停止時のアドレナリン: 静脈内(困難なら骨髄内)。 ・多くの筋注ワクチン(成人): 上腕の三角筋。 ・皮内注射: ツベルクリン反応、皮内テスト。 なお、近年はアドレナリン点鼻製剤も開発・承認されており、注射以外の選択肢が広がりつつある。
POINT
・アナフィラキシーの第一選択薬はアドレナリン、投与経路は筋注、部位は大腿中央の前外側。 ・用量は0.01 mg/kg(成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg)、効果不十分なら5~15分ごとに反復。 ・皮下注は吸収が遅く現在は推奨されない。静脈内投与は難治例に監視下で行う。 ・エピペン®も大腿前外側に筋注する。
