StudyMed医師国家試験

打つなら太ももの筋肉に―アナフィラキシー救命のアドレナリン、その「経路」に意味がある

第120回医師国家試験 E問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第120回 E問題 第1問

アナフィラキシーにおけるアドレナリンの注射部位はどれか。

  1. a.筋肉内
  2. b.心腔内
  3. c.動脈内
  4. d.皮下
  5. e.皮内

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はアナフィラキシーの治療で、第一選択薬であるアドレナリンを「どこに打つか」を問う問題だ。薬の名前は知っていても、投与経路まで理由とセットで説明できるかがポイントになる。まずはアナフィラキシーがどんな病態か、ざっと確認しておこう。
医学生医学生
免疫学の講義では、IgEを介して肥満細胞からヒスタミンなどが一気に放出される即時型反応だと習いました。
ドクタードクター
そう、Ⅰ型アレルギーの代表だね。ただし臨床的にはIgEを介さない機序でも同じ病像になることがあるから、「原因物質への曝露後に急速に起こる全身性の過敏反応」と捉えておくといい。気道の浮腫、気管支攣縮、血管拡張による血圧低下が数分から数十分で進むので、診断したら、あるいは強く疑ったらためらわずにアドレナリンを投与する。これが救命の鍵だ。
医学生医学生
救急の現場だと、すぐ効かせたいので静脈注射のほうが速いように思ってしまいます。
ドクタードクター
その発想は自然だけど、選択肢に静脈内はないし、そもそも初期治療の標準は静注ではないんだ。アドレナリンを静注すると急激に血中濃度が上がって、重い不整脈や高血圧を起こす危険がある。静注は筋注で反応が乏しい難治例に、モニター監視下で慣れた医師が希釈して慎重に行う方法だ。初期対応の標準は筋肉内注射。部位は大腿中央の前外側、つまり外側広筋が第一選択になる。
医学生医学生
筋注なら確実に吸収されて、しかも静注ほど急激ではない、というバランスなんですね。
ドクタードクター
その通り。筋肉は皮下組織よりも血流が豊富なので吸収が速く、大腿の外側広筋は上腕の三角筋よりも血中濃度の立ち上がりが速いことが示されている。静脈ルートの確保を待たずに、衣服の上からでも打てるのも救急では大きな利点だ。用量は0.1%製剤で0.01 mg/kg、成人は最大0.5 mg、小児は最大0.3 mg。効果が不十分なら5〜15分ごとに繰り返す。
医学生医学生
でも昔の教科書だと皮下注と書いてあった気がします。皮下ではだめなんですか。
ドクタードクター
かつては皮下注が行われていたけれど、今は推奨されていない。皮下組織はもともと血流が少ないうえ、アドレナリン自身の血管収縮作用で注射した場所の血流がさらに落ちる。だから吸収が遅く、血中濃度の上昇が不確実になってしまうんだ。自分の作用で自分の吸収を邪魔してしまう、と考えるとわかりやすい。
医学生医学生
皮内はもっと量が入らないですよね。基礎医学の実習でツベルクリン反応を打ったとき、ほんの少しの量でした。
ドクタードクター
よく覚えているね。皮内注射は注入できる量がごく少なく、全身への吸収も極めて遅い。ツベルクリン反応や薬剤・アレルゲンの皮内テストのように、局所の反応を見るための手技だ。全身作用を期待する救急薬の経路にはならないし、局所の強い血管収縮で皮膚が虚血になる危険もある。
医学生医学生
動脈内はどうでしょう。心停止で静脈が取れないときの代替経路だったような……。
ドクタードクター
そこは混同しやすいところだ。静脈路が確保できないときの代替として挙げられるのは骨髄内投与で、動脈内ではない。動脈内にアドレナリンが入ると、その先の末梢に高濃度のα1作用がかかって強い血管攣縮を起こし、指先などの虚血や壊死を招くおそれがある。アナフィラキシーの治療経路では決してないよ。
医学生医学生
心腔内注射は、ドラマで胸に直接針を刺すシーンを見たことがあります。
ドクタードクター
映像の印象は強いけれど、心筋や冠動脈の損傷、気胸、心タンポナーデといった重大な合併症の危険が高く、今は心停止の蘇生でも推奨されていない。アナフィラキシーで使うことはないね。
医学生医学生
整理すると、アナフィラキシーは大腿前外側への筋注、心停止は静注か骨髄内、ワクチンの多くは三角筋への筋注、皮内はテスト用、ということですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。ここからは臨床での注意点。アドレナリンはα1作用で血管を締めて血圧を上げ粘膜浮腫を減らし、β1作用で心臓を動かし、β2作用で気管支を広げて肥満細胞からのメディエーター放出も抑える。だから一剤で病態のほぼ全体に効くんだ。抗ヒスタミン薬やステロイドはあくまで補助で、アドレナリンの代わりにはならない。
医学生医学生
β遮断薬を飲んでいる患者さんだと、β作用が出にくくなりそうです。
ドクタードクター
鋭いね。β遮断薬内服中はアドレナリンが効きにくいことがあり、その場合はグルカゴンを考慮する。それから体位も大事で、仰臥位で下肢を挙上し、急に立たせたり座らせたりしない。心臓に血液が戻らなくなって急変することがあるからだ。呼吸が苦しければ上体を起こし、妊婦なら左側臥位にする。
医学生医学生
エピペンも太ももに打つように作られていると、小児科の実習で保護者への指導を見学したときに聞きました。
ドクタードクター
そう、自己注射用製剤も大腿前外側への筋注を前提に設計されている。医師として処方や指導をする場面もあるから、「迷ったら打つ、打つなら太ももの外側の筋肉」と自信を持って伝えられるようにしておこう。

まとめ

アナフィラキシーは急速に進行する全身性の過敏反応で、第一選択薬はアドレナリンであり、疑った時点でためらわず投与することが救命につながります。標準的な投与経路は大腿中央前外側(外側広筋)への筋肉内注射で、0.01 mg/kg(成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg)を投与し、効果不十分なら5〜15分ごとに反復します。皮下注は血流が乏しく自身の血管収縮作用で吸収が遅れるため現在は推奨されず、皮内注は検査用、動脈内・心腔内は重大な合併症を招くため用いません。静脈内投与は難治例にモニター監視下で慎重に行う方法であり、β遮断薬内服中で効果が乏しい場合はグルカゴンも考慮します。経路ごとの理由を理解しておくことは、救急外来や病棟での初期対応、そしてエピペン®の処方・指導にそのまま役立ちます。

解答・解説

正解はaです

アナフィラキシーは、アレルゲンなどへの曝露後に急速に出現する全身性の過敏反応で、気道閉塞・低血圧・ショックにより短時間で生命を脅かしうる。治療の第一選択薬はアドレナリンであり、診断したら(または強く疑ったら)ためらわずに直ちに投与することが救命の鍵となる。 本問はその投与経路を問うている。アドレナリンを確実かつ速やかに全身へ届けつつ、過量・不整脈などの副作用を避けるために推奨されているのは「筋肉内注射」で、部位は大腿中央の前外側(外側広筋)が第一選択である。筋肉は皮下組織より血流が豊富なので吸収が速く、さらに大腿外側広筋は上腕三角筋より血中濃度の立ち上がりが速いことが示されている。静脈ルートの確保を待たずに、衣服の上からでも打てる点も救急現場で有利である。 選択肢には静脈内投与はないが、静脈内投与は筋注で反応が乏しい難治例などに、モニター監視下で慣れた医師が希釈して慎重に(多くは持続投与で)行う方法であり、初期治療の標準ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  筋肉内

    アナフィラキシーに対するアドレナリンの標準的投与経路である。0.1%(1 mg/mL)製剤を0.01 mg/kg(成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg)、大腿中央の前外側に筋注し、効果が不十分なら5~15分ごとに反復する。筋肉は血流が多く吸収が速いため、皮下注より早く有効血中濃度に達する。自己注射用製剤(エピペン®、0.15 mgと0.3 mgの2規格)も大腿前外側へ筋注するよう設計されている。

  2. ×b.  心腔内

    心臓を直接穿刺して薬剤を注入する方法は、心筋・冠動脈損傷、気胸、心タンポナーデなど重大な合併症の危険が高く、現在は心停止時の蘇生でも推奨されていない。アナフィラキシーの治療で用いることはない。

  3. ×c.  動脈内

    動脈内投与はアナフィラキシーの治療経路ではない。動脈内にアドレナリンが入ると、その末梢に高濃度のα1作用が加わって強い血管攣縮を起こし、指趾などの虚血・壊死を招くおそれがある。なお、心停止で静脈路の確保が困難な場合の代替経路として挙げられるのは骨髄内投与であり、動脈内投与ではない。

  4. ×d.  皮下

    かつてはアドレナリン皮下注が行われていたが、皮下組織は血流が乏しいうえ、アドレナリン自体の血管収縮作用で局所の血流がさらに減るため、吸収が遅く血中濃度の上昇が不確実である。筋注に比べて有効性で劣るため、現在は推奨されない。

  5. ×e.  皮内

    皮内注射は注入量がごく少量に限られ、全身への吸収も極めて遅いため、全身作用を期待する救急薬の投与経路にはならない。局所の強い血管収縮による皮膚虚血の危険もある。皮内注射はツベルクリン反応や薬剤・アレルゲンの皮内テストなど、局所の反応をみる検査で用いられる。

アナフィラキシーの初期対応

・評価と同時に助けを呼び、原因物質(薬剤点滴など)があれば中止する。 ・アドレナリン筋注(0.01 mg/kg、成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg、大腿前外側)。必要に応じ5~15分ごとに反復。 ・体位: 仰臥位で下肢挙上(呼吸困難があれば上体を起こし、妊婦は左側臥位)。急に立たせたり座らせたりしない(循環血液量が心臓に戻らず急変しうる)。 ・高流量酸素投与、静脈路確保と大量輸液(細胞外液)。 ・補助薬: 抗ヒスタミン薬(皮膚症状)、β2刺激薬吸入(気管支攣縮)、副腎皮質ステロイド(二相性反応予防の効果は確立していない)。いずれもアドレナリンの代わりにはならない。

アドレナリンの作用

・α1作用: 末梢血管収縮で血圧上昇、粘膜浮腫の軽減。 ・β1作用: 心収縮力・心拍数増加。 ・β2作用: 気管支拡張、肥満細胞からのメディエーター放出抑制。

β遮断薬内服中の患者

アドレナリンが効きにくいことがあり、その場合はグルカゴン投与を考慮する。

投与経路と部位の整理

・アナフィラキシーのアドレナリン: 大腿前外側(外側広筋)への筋注。 ・心停止時のアドレナリン: 静脈内(困難なら骨髄内)。 ・多くの筋注ワクチン(成人): 上腕の三角筋。 ・皮内注射: ツベルクリン反応、皮内テスト。 なお、近年はアドレナリン点鼻製剤も開発・承認されており、注射以外の選択肢が広がりつつある。

POINT

・アナフィラキシーの第一選択薬はアドレナリン、投与経路は筋注、部位は大腿中央の前外側。 ・用量は0.01 mg/kg(成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg)、効果不十分なら5~15分ごとに反復。 ・皮下注は吸収が遅く現在は推奨されない。静脈内投与は難治例に監視下で行う。 ・エピペン®も大腿前外側に筋注する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。