StudyMed医師国家試験

ノミが刺さった眼―飛び出した虹彩が告げる「一刻も早く閉じよ」

第106回医師国家試験 I問題 第75問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第75問

45歳の男性。大工。天井作業中に使用していたノミが落下して左眼を受傷したため搬入された。左前眼部の写真を別に示す。  対応として適切なのはどれか。

第106回 I問題 第75問の問題画像
  1. a.絶対安静での経過観察
  2. b.眼圧下降薬の点眼
  3. c.副腎皮質ステロイドの点眼
  4. d.強角膜縫合術
  5. e.眼球摘出術

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は眼外傷の問題だ。注目してほしいのは、受傷機転が「刃物による鋭的外傷」であることと、前眼部写真で眼球の壁がどうなっているか。そこから、眼が開いているのか閉じているのかを判断し、何を最優先すべきかを考えよう。
医学生医学生
写真では角膜の下のほうから白目にかけて傷があって、茶色いものがはみ出しているように見えます。
ドクタードクター
よく観察できているね。角膜から強膜にかけての裂傷、つまり強角膜裂傷があって、傷口から茶色の虹彩が外へ脱出している。周りの結膜下には出血もある。眼球の外壁が全層で破れ、中身が出てきている状態だ。
医学生医学生
ということは、穿孔性眼外傷、開放性眼外傷ですね。
ドクタードクター
その通り。眼外傷は大きく、眼球壁が保たれている閉鎖性と、全層が破れた開放性に分けられる。前房出血や眼窩吹き抜け骨折は閉鎖性、今回のような鋭利物による穿孔や、強い鈍的外力で壁が裂ける眼球破裂は開放性だ。では、壁が破れたままだと何が困るかな。
医学生医学生
中身がどんどん出てしまうのと、細菌が入って感染しそうです。
ドクタードクター
そう。眼内組織のさらなる脱出、眼内炎、そして眼球の形が保てずに視機能を失うこと。この3つを防ぐために、できるだけ早く手術で傷を縫い合わせ、眼球の形と内圧を取り戻す。答えは強角膜縫合術だ。
医学生医学生
でも臨床実習の眼科で、外傷の人にまず安静を指示していた記憶があります。絶対安静で様子を見るのはだめなんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。安静や眼を押さないことは手術までの間とても大切だ。ただ、開いた傷が自然に閉じることは期待できない。経過観察だけを選ぶのは誤りで、安静はあくまで手術までのつなぎなんだ。
医学生医学生
眼圧下降薬はどうでしょう。中身が出ないように圧を下げる、という発想もありそうですが。
ドクタードクター
実際には、房水が漏れ出しているので眼圧はほぼゼロ近くまで下がっている。下げる理由がないうえ、開放創のある眼に点眼すると薬剤や保存剤が眼内に入る危険がある。術前は点眼も眼軟膏も控えるのが原則だ。
医学生医学生
ステロイド点眼も、点眼という意味で同じく避けるべきですね。炎症を抑えたくなりますけど。
ドクタードクター
そう。ステロイド点眼は創を閉じた後に眼内の炎症を抑える目的で使うことはあるけれど、今の段階では根本治療にならず、感染を助長するおそれもある。眼球摘出術はどうかな。
医学生医学生
眼が修復できないほど壊れているなら考えますが、今回は縫えば残せそうに見えます。
ドクタードクター
その判断で正しい。摘出は、構造が修復不能なほど破壊された場合や、制御できない重症の眼内炎などに限る最後の手段だ。縫合すれば眼球を温存でき、視機能回復も期待できるから、初期対応で摘出は選ばない。
医学生医学生
手術までの間にやっておくことも、OSCEの救急ステーションみたいに順番で覚えておきたいです。
ドクタードクター
いい姿勢だ。まず眼球を圧迫しない硬い保護眼帯をあて、点眼はしない。抗菌薬の全身投与と破傷風の予防を行い、制吐薬や鎮痛薬でいきみや嘔吐による眼圧上昇を防ぐ。それから、ノミのような金属による外傷では眼内異物の確認が必須で、CTで評価する。磁性金属片の可能性があればMRIは禁忌だ。
医学生医学生
MRIだと金属が動いて眼の中をさらに傷つけるかもしれないからですね。開放性を疑うときに眼圧を測るのも避けたほうがいいですか。
ドクタードクター
その通り。眼球を押す操作は中身を押し出してしまうから避ける。診断の補助としては、フルオレセインで傷から房水が漏れる様子をみるSeidel試験や、傷の方向に引っ張られた涙滴状の瞳孔、浅くなった前房が手がかりになる。
医学生医学生
縫合のとき、出てしまった虹彩はどうするんですか。
ドクタードクター
汚染や壊死がなければ眼内に戻し、壊死や感染が疑われれば切除する。強膜まで傷が及んでいれば結膜を切開して創の全長を確認してから縫う。最後に大事な発展知識を一つ。片眼の穿孔性外傷の数週から数か月後に、無傷の反対眼にも肉芽腫性ぶどう膜炎が起こることがある。交感性眼炎だ。
医学生医学生
ぶどう膜のメラノサイトに対する自己免疫で、Vogt-小柳-原田病に似た病像になる、と講義で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。だから術後は反対眼の見え方の変化にも注意し、発症すればステロイドの全身投与などで治療する。かつては予防的に損傷眼を摘出することもあったけれど、今は視機能回復の見込みがある眼を予防目的で摘出することはまれだよ。

まとめ

鋭利な刃物による眼外傷で角膜から強膜にかけての裂傷と虹彩脱出があれば、眼球壁が全層で破れた穿孔性(開放性)眼外傷と判断します。眼内組織の脱出、眼内炎、眼球形態の喪失を防ぐため、最優先は緊急の強角膜縫合術による創閉鎖であり、経過観察や点眼治療、初期からの眼球摘出は適切ではありません。手術までは硬い保護眼帯で眼球を圧迫せず、点眼・眼軟膏を控え、抗菌薬全身投与と破傷風予防を行い、金属異物の評価にはMRIではなくCTを用います。術後は反対眼に生じうる交感性眼炎にも注意が必要です。開放性か閉鎖性かを見極め、「まず閉じる」を徹底することが、救急外来で視機能を守るための基本となります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・45歳の男性、大工。天井で作業していた際に、刃物であるノミが落ちてきて左眼に当たった。 ・左前眼部写真:角膜の下方から強膜にかけて裂けた傷(強角膜裂傷)があり、その傷口から茶色の虹彩組織が外にはみ出している(虹彩脱出)。周囲の結膜下には出血がみられる。

診断へのプロセス

鋭い刃物による外傷で、角膜と強膜という眼球の外壁を全層にわたって貫いた傷ができ、そこから眼内の組織(虹彩)が脱出している。したがって、眼球が開いた状態の穿孔性眼外傷(開放性眼外傷、強角膜穿孔創)と診断できる。写真から診断は明らかで、ほかの疾患との鑑別に迷う場面ではない。

設問の考え方

眼球の壁が破れたままだと、①眼内容(虹彩・水晶体・硝子体・網膜など)がさらに脱出する、②細菌が眼内に入り込んで眼内炎を起こす、③眼球の形が保てず視機能が失われる、という危険がある。そのため最優先は、できるだけ早く手術で傷を閉じ、眼球の形と内圧を回復させることである。すなわち強角膜縫合術を緊急で行う。 手術までの間は、眼球を圧迫しないよう硬い保護眼帯(アイシールド)をあて、いきみ・嘔吐・咳などで眼圧が上がらないようにする。抗菌薬の全身投与や破傷風の予防も行う。また、ノミのような金属片が眼内に残っている可能性を考え、CT で眼内異物の有無を確認する(磁性金属片の可能性がある場合、MRI は禁忌である)。

選択肢考察

  1. ×a.  絶対安静での経過観察

    手術までの間、安静にして眼を圧迫しないことは大切である。しかし開放創が自然に閉じることは期待できず、放置すれば眼内組織の脱出が進み、眼内炎の危険も高まる。穿孔創に対して経過観察を選ぶのは誤りであり、速やかな創閉鎖が必要である。

  2. ×b.  眼圧下降薬の点眼

    眼球壁が破れて房水などが漏れ出しているため、眼圧は著しく低下している(ほぼ 0 に近い)。眼圧を下げる理由はない。さらに、開放創のある眼に点眼薬を入れると、薬剤や保存剤が眼内に入る危険があり、術前は点眼・眼軟膏を控えるのが原則である。

  3. ×c.  副腎皮質ステロイドの点眼

    副腎皮質ステロイド点眼は、手術で創を閉じた後に、眼内の炎症を抑える目的で使われることがある。しかし創が開いたままの現時点では、根本的な処置にならないうえ、免疫を抑えて感染を助長するおそれもある。まず行うべきは創の閉鎖である。

  4. ○d.  強角膜縫合術

    穿孔性眼外傷に対する初期治療の中心は、一刻も早く傷を縫い合わせて眼球を閉じた状態に戻すことである。これにより眼内組織のさらなる脱出を防ぎ、眼内への細菌の侵入を減らし、眼球の形を保って視機能の回復につなげる。傷が強膜まで及んでいるときは結膜を切開して創の全長を確認してから縫合する。脱出した虹彩は、汚染や壊死がなければ眼内に戻し(整復)、壊死や感染が疑われるときは切除する。

  5. ×e.  眼球摘出術

    眼球摘出術は、眼球の構造が修復できないほど破壊された場合や、重症の眼内炎で制御できない場合などに限って考慮される最後の手段である。本例は創を縫合すれば眼球を温存でき、視機能の回復も期待できるため、初期対応として摘出を行う適応はない。

眼外傷の分類

・閉鎖性眼外傷:眼球壁が破れていないもの。鈍的外傷による前房出血、外傷性虹彩炎、網膜振盪、眼窩吹き抜け骨折(眼窩底骨折)などがある。 ・開放性眼外傷:眼球壁が全層にわたって破れたもの。鋭利な物による穿孔(裂傷)と、強い鈍的外力で眼圧が急上昇して壁が裂ける眼球破裂とがある。

開放性眼外傷を疑う所見

虹彩や硝子体などの眼内組織の脱出、瞳孔の変形(傷の方向に引き寄せられた涙滴状の瞳孔)、前房が浅くなる・消失する、著しい低眼圧、強い結膜下出血・浮腫など。フルオレセイン染色で傷から房水が漏れ出す様子(Seidel 試験陽性)も診断に役立つ。開放性が疑われるときは、眼球を押す操作(眼圧測定や強い開瞼)は避ける。

初期対応のまとめ

1. 眼球を圧迫しない硬い保護眼帯をあてる。 2. 点眼・眼軟膏を入れない。 3. 抗菌薬の全身投与、破傷風トキソイド(必要に応じ抗破傷風ヒト免疫グロブリン)の投与。 4. 制吐薬・鎮痛薬などで眼圧上昇を防ぐ。 5. CT で眼内異物や眼窩骨折を評価する(金属異物の可能性があれば MRI は避ける)。 6. できるだけ早く創閉鎖術(角膜縫合・強膜縫合)を行う。眼内異物があれば摘出し、水晶体・網膜の損傷には二期的に手術を行う。

交感性眼炎

片眼の穿孔性外傷や眼内手術の後、数週〜数か月たってから、傷ついていない反対側の眼にも両眼性の肉芽腫性ぶどう膜炎が起こることがある。これを交感性眼炎といい、ぶどう膜のメラノサイトに対する自己免疫反応と考えられている。Vogt-小柳-原田病に似た病像を示す。術後は反対側の眼の症状にも注意を払い、発症したら副腎皮質ステロイドの全身投与などで治療する。かつては予防のために損傷眼を早期に摘出することがあったが、現在は治療の進歩により、視機能回復の見込みのある眼を予防目的で摘出することはまれである。

POINT

・鋭利物による眼外傷で、角膜・強膜の裂傷と虹彩脱出がある → 穿孔性(開放性)眼外傷。 ・最優先は緊急の創閉鎖術(強角膜縫合術)。 ・術前は眼球を圧迫せず、点眼・眼軟膏を控え、保護眼帯・抗菌薬全身投与・破傷風予防を行う。 ・金属片による眼内異物の確認には CT を用い、MRI は避ける。 ・術後は反対眼の交感性眼炎に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。