鉄片が飛び込んだ眼に「MRIは禁忌」―眼内異物はCTで探せ
第117回医師国家試験 A問題 第25問
国試問題にチャレンジ
48歳の男性。右眼の視力障害を主訴に来院した。保護眼鏡を装用せずに作業していたところ,右眼に鉄片異物が入り,その後右眼が見えなくなった。視力は右眼手動弁(矯正不能),左眼1.2(矯正不能)。 診断に有用な検査はどれか。
- a.蛍光眼底造影
- b.眼窩部単純CT
- c.網膜電図〈ERG〉
- d.眼部超音波検査
- e.眼窩部単純MRI
対話形式の解説
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ドクターまとめ
金属作業中に眼へ異物が飛入し、視力が高度に低下した場合は、角膜表層にとどまらない眼内異物(穿孔性眼外傷)を疑います。金属異物の検出と位置の確定には、眼球を圧迫せず眼底が見えなくても施行できる眼窩部単純CTが第一選択です。鉄などの磁性金属異物が否定されるまでMRIは禁忌であり、超音波検査も開放創がある眼では圧迫に注意が必要です。眼内に鉄片が残ると数か月以上かけて眼球鉄錆症を生じ、白内障・緑内障・網膜変性やERGの振幅低下をきたすため、早期の摘出が重要です。異物の材質と眼球の状態から検査の安全性を判断する考え方は、眼外傷に限らず画像検査の選択全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・48歳男性、保護眼鏡を着けずに作業中、右眼に鉄片が飛入した。 ・その直後から右眼の視力が急激に低下し、手動弁(眼前で手を振ると動きがわかる程度)で、矯正しても改善しない。 ・左眼は1.2で正常である。
診断へのプロセス
グラインダーやハンマー作業などで飛散した金属片は高速で眼に当たるため、角膜表面にとどまる角膜異物だけでなく、角膜や強膜を貫いて眼球内に入り込む眼内異物(穿孔性眼外傷)を起こし得る。角膜表層の異物であれば、異物感・流涙・充血が主体で、視力は軽度低下にとどまることが多い。本例のように手動弁まで視力が落ちている場合は、異物が眼内に達し、外傷性白内障、前房出血、硝子体出血、網膜損傷などを起こして中間透光体(角膜・前房・水晶体・硝子体)が濁っていると考えるのが自然である。したがって、まず疑うべきは右眼の眼内鉄片異物である。
設問の考え方
眼内異物が疑われたら、最優先すべきは「異物が眼内にあるのか」「どこにあるのか(前眼部・水晶体・硝子体・網膜・眼窩内か)」「大きさと個数」を確定することである。これにより摘出術(硝子体手術など)の適応やアプローチが決まる。金属片はX線吸収が強いため、CTで高吸収の点状陰影として明瞭に描出され、眼底が見えない状態でも、眼球に圧をかけずに位置を立体的に把握できる。よって眼窩部単純CTが最も有用である。一方、磁性体である鉄片が残っている可能性がある段階でMRIを行うことは禁忌であり、この点が本問のもう一つの重要な論点である。
選択肢考察
- ×a. 蛍光眼底造影
フルオレセインを静注して網膜・脈絡膜の血管や血流、血管からの漏出を評価する検査である。糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、加齢黄斑変性、ぶどう膜炎などの評価に用いる。眼底が観察できることが前提であり、硝子体出血などで透見できない本例では情報が得られにくい。また異物の存在や位置を確認する検査ではないため、受傷直後の診断には役立たない。
- ○b. 眼窩部単純CT
金属異物はCTで強い高吸収域として描出され、薄いスライスで撮影すれば数mm程度の小さな破片でも検出できる。眼球内か眼球外(眼窩内)か、眼球内ならどの部位にあるかを、眼球を圧迫せずに評価できる。中間透光体の混濁で眼底が見えなくても検査可能であり、骨折など合併損傷の評価も同時に行える。鉄片異物が疑われる眼外傷で第一に選ぶべき画像検査である。
- ×c. 網膜電図〈ERG〉
光刺激に対する網膜の電気的反応を記録し、網膜機能を評価する検査である。眼底が透見できない場合に網膜機能を推定する手段として、また眼内に残った鉄が錆びて網膜を障害する眼球鉄錆症(眼球鉄症)の進行評価として用いられる(鉄錆症ではb波の振幅低下がみられる)。しかし鉄錆症は数か月以上かけて進行するもので受傷直後には異常が出にくく、何より異物の有無や位置はERGではわからない。受傷直後の診断目的としての優先度は低い。
- ×d. 眼部超音波検査
Bモード超音波は眼底が透見できないときに、硝子体出血や網膜剝離、眼内異物を評価できる検査で、CTで描出しにくい非金属異物(木片、プラスチックなど)の検出に役立つこともある。しかし探触子を眼瞼上から当てるため眼球に圧がかかり、穿孔創がある眼球では眼内容の脱出を招くおそれがあり、開放性眼外傷が疑われる段階では慎重に扱う必要がある。また異物によるアーチファクトで位置や大きさの正確な評価は難しい。金属異物の検出・局在診断ではCTが優先される。
- ×e. 眼窩部単純MRI
鉄は強磁性体であり、MRIの強い静磁場によって眼内の鉄片が引き寄せられて動き、網膜・脈絡膜・視神経などをさらに損傷したり、出血を起こしたりする危険がある。磁性金属異物が否定されていない段階でMRIを行うことは禁忌である。異物が非磁性であることが確認された後なら、木片など非金属異物の評価に用いられることはある。
眼内異物の画像評価の使い分け
・単純CT:金属異物の検出・局在診断の第一選択。眼球を圧迫せず、眼底が見えなくても施行できる。 ・単純X線:金属異物の有無の簡便なスクリーニングには使えるが、位置の正確な評価は難しい。 ・超音波(Bモード):眼底透見不能時の網膜剝離・硝子体出血の評価、非金属異物の検出に役立つ。開放創がある場合は圧迫に注意する。 ・MRI:磁性金属異物が否定されるまで禁忌。
眼球鉄錆症(眼球鉄症)
眼内に鉄片が残ると、酸化によって鉄イオンが溶け出し、眼内組織に沈着して障害を起こす。数か月から数年の経過で、虹彩の色調変化(異色)、水晶体前嚢下の茶褐色の沈着と白内障、続発緑内障、網膜変性、視神経萎縮などを起こし、ERGでは振幅の低下(特にb波)がみられ、最終的には失明に至り得る。銅を含む異物では眼球銅症(カルコーシス)が起こる。
眼内異物の治療
眼内異物は感染性眼内炎の危険が高く、鉄錆症の予防のためにもできるだけ早く摘出する。後眼部の異物では硝子体手術による摘出が一般的である。創の閉鎖、抗菌薬の投与、破傷風予防も行う。
予防
研削・切削・ハンマー作業などでは保護眼鏡の着用が最も重要な予防策である。
POINT
・金属片が飛入して高度の視力低下 → 眼内異物(穿孔性眼外傷)を疑う。 ・金属性眼内異物の検出・局在診断にはCTが第一選択である。 ・鉄片など磁性金属異物の疑いがある段階でのMRIは禁忌である。 ・開放創が疑われる眼に超音波を行う場合は眼球を圧迫しないよう注意する。 ・眼内鉄片を放置すると眼球鉄錆症(白内障・緑内障・網膜変性、ERG振幅低下)を起こすため、早期に摘出する。
