大泉門は脳をのぞく窓―早産児の無呼吸とけいれんにまず当てるプローブ
第106回医師国家試験 I問題 第76問
国試問題にチャレンジ
生後0日の新生児。在胎32週3日,2,060 gで出生した。Apgarスコアは7点(1分),8点(5分)であった。出生後4時間で無呼吸が出現した。心拍数136/分。呼吸数20/分。SpO2 97%(room air)。体動は弱い。看護師によると,間欠的に手足を突っ張るような発作があるという。 まず行うべき検査はどれか。
- a.脳波検査
- b.頭部MRI
- c.頭部超音波検査
- d.頭部単純エックス線撮影
- e.胸部単純エックス線撮影
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
新生児、特に早産児では、無呼吸や四肢を突っ張る動きが新生児けいれん(微細発作・強直発作)の症状であることがあり、在胎34週未満では胚芽層の脆弱な血管から脳室内出血を生じやすく、多くは生後72時間以内に起こります。初期対応では呼吸・循環の安定化とともに血糖や電解質を調べて治療可能な代謝異常を補正し、頭蓋内病変の検索には開いた大泉門を利用した頭部超音波検査を第一に行います。超音波は保育器内で移動・鎮静・被曝なく繰り返し実施できる一方、MRIは状態安定後の精査、脳波は発作の確認と重症度評価、頭部・胸部X線は原因検索としての意義が乏しいという位置づけです。脳室内出血はPapile分類で重症度を評価し、重症例では水頭症や脳性麻痺につながるため、早産児では無症状でも超音波によるスクリーニングが重要です。新生児ならではの解剖と病態を踏まえて「まず何をするか」を選ぶ力は、NICUでの診療に直結します。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・在胎32週3日、出生体重2,060 gの早産・低出生体重児である。在胎32週は「早産児」(在胎37週未満)に該当し、34週未満の児は脳室上衣下の胚芽層(germinal matrix)がまだ残存しているため、頭蓋内出血(特に脳室内出血)を起こしやすい時期にあたる。 ・Apgarスコアは1分7点、5分8点で、出生時の仮死は軽度にとどまる。 ・生後4時間で無呼吸が出現し、呼吸数は20/分と新生児としては少ない(正常はおおむね40〜60/分)。心拍数やSpO2は保たれているが、体動は弱い。 ・間欠的に手足を突っ張る発作がみられ、これは強直性の発作と考えられる。
診断へのプロセス
新生児では脳が未熟なため、年長児のような全身性強直間代けいれんはまれで、無呼吸、眼球偏位、口をもぐもぐさせる動き、四肢のペダル漕ぎ様運動などの微細発作や、強直・間代・ミオクロニー発作として現れる。本児の無呼吸と四肢を突っ張る動作は新生児けいれん(新生児発作)を強く疑わせる。 新生児けいれんの原因として頻度が高いのは、低酸素性虚血性脳症、頭蓋内出血、低血糖、低カルシウム血症、低マグネシウム血症、髄膜炎・敗血症、脳奇形などである。本児は早産児で出生後早期に発症しており、仮死が軽度であることから、まず脳室内出血を中心とする頭蓋内出血を考える。
設問の考え方
実際の初期対応では、保育器収容・モニター装着・静脈路確保とともに、血糖・電解質(Ca、Mg、Na)・血液ガス・血算・CRPなどの血液検査を行い、低血糖などの治療可能な代謝異常を速やかに除外する。そのうえで頭蓋内病変を検索する画像検査の第一選択を選ぶのが本問である。新生児は大泉門が開いているため、ここを音響窓として超音波をあてれば、ベッドサイドで、移動も鎮静も放射線被曝もなく頭蓋内を観察できる。重症になりうる早産児を保育器から出さずに繰り返し評価できる点が大きな利点であり、「まず行う」画像検査として最も適している。
選択肢考察
- ×a. 脳波検査
脳波は発作がてんかん性の放電を伴うかの確認、非けいれん性発作の検出、背景活動による重症度・予後の評価に役立ち、新生児けいれんの管理でも重要な検査である(持続脳波モニタリングや振幅統合脳波aEEGが用いられる)。しかし発作の「原因」、つまり頭蓋内出血などの器質的病変は脳波ではわからない。また電極装着と記録・判読に時間がかかる。原因検索のために最初に行う検査としては優先度が低い。
- ×b. 頭部MRI
MRI(磁気共鳴画像)は低酸素性虚血性脳症、脳梗塞、脳奇形、白質障害などの評価に最も優れ、詳細な診断には欠かせない。ただし撮像室への移動、長い撮像時間、体動を抑えるための鎮静、MRI対応の呼吸・循環モニターの準備などが必要である。無呼吸を起こしている生後0日の早産児を急性期に搬送して撮像するのは負担もリスクも大きい。まず超音波で評価し、状態が安定してから精査として行う検査である。
- ○c. 頭部超音波検査
新生児は大泉門が開いているため、そこから経頭蓋的に超音波をあてて脳室・脳実質を観察できる。脳室内出血、脳室拡大(水頭症)、脳室周囲の白質病変、大きな脳奇形などをベッドサイドで評価できる。非侵襲的で被曝がなく、保育器内のまま短時間で繰り返し実施できる。早産児の脳室内出血は生後72時間以内、特に生後早期に起こりやすく、本児の病態をまず確認する検査として最も適切である。
- ×d. 頭部単純エックス線撮影
頭部単純X線で評価できるのは主に頭蓋骨(骨折、縫合、頭蓋内石灰化の一部など)であり、脳実質や頭蓋内出血はほとんど描出できない。本児は分娩外傷を示唆する所見もなく、頭蓋骨骨折を疑う理由もない。新生児けいれんの原因検索としての意義は乏しい。
- ×e. 胸部単純エックス線撮影
胸部X線は呼吸窮迫症候群(RDS)、一過性多呼吸、気胸、肺炎、心拡大などが疑われるときに行う。本児の無呼吸はけいれん(中枢性)によるものと考えられ、SpO2は97%と保たれ、多呼吸や陥没呼吸などの呼吸窮迫所見もない。けいれんの原因検索として最初に行う検査ではない。
新生児けいれん(新生児発作)の特徴
・新生児は大脳皮質の神経回路や髄鞘化が未熟なため、発作が全身に広がりにくい。典型的な全身性強直間代けいれんは少ない。 ・発作型は、微細発作(無呼吸、眼球偏位・凝視、瞬目、口唇のもぐもぐ運動・吸啜、上肢のボート漕ぎ様運動、下肢のペダル漕ぎ様運動)、間代発作(焦点性・多焦点性)、強直発作、ミオクロニー発作に分けられる。 ・臨床的な発作と脳波上の発作が一致しないことも多い(脳波上のみの発作、脳波変化を伴わない臨床発作)。 ・予後は発作の回数や長さよりも、原因となった疾患に大きく左右される。
主な原因
・低酸素性虚血性脳症(正期産児で最多。多くは生後24時間以内に発症) ・頭蓋内出血(早産児では脳室内出血、正期産児ではくも膜下出血・硬膜下出血など) ・代謝異常:低血糖、低カルシウム血症、低マグネシウム血症、低・高ナトリウム血症、先天代謝異常症、ビタミンB6依存性けいれん ・感染症:細菌性髄膜炎、ヘルペス脳炎などの脳炎、敗血症 ・脳梗塞、脳奇形、薬物離脱(母体の薬物使用)、良性家族性新生児てんかんなど
初期対応の流れ
1. 気道・呼吸・循環の安定化、モニター装着、静脈路確保 2. 血糖・電解質・血液ガス・血算・CRPなどの検査。低血糖があればブドウ糖静注、低カルシウム血症ならグルコン酸カルシウム静注など、治療可能な原因をまず補正する 3. 頭部超音波検査で頭蓋内病変を検索する。感染が疑われれば髄液検査も行う 4. 脳波で発作の確認と重症度評価を行い、必要に応じて抗けいれん薬(フェノバルビタールなど)を用いる 5. 状態安定後、頭部MRIで詳細に評価する
早産児の脳室内出血(IVH)
・脳室上衣下の胚芽層は血管が脆弱で、在胎週数が短い(特に32週未満や極低出生体重児)ほど出血しやすい。 ・大部分は生後72時間以内に起こる。無症状のことも多いため、早産児では症状がなくても頭部超音波でスクリーニングする。 ・Papile分類で重症度をI〜IV度に分ける(I:上衣下出血、II:脳室拡大を伴わない脳室内出血、III:脳室拡大を伴う脳室内出血、IV:脳実質内出血を伴う)。重症例では出血後水頭症や脳性麻痺につながることがある。 ・早産児ではほかに脳室周囲白質軟化症(PVL)も重要で、これも頭部超音波で経過を追う。
POINT
・新生児の無呼吸や四肢の突っ張りは、新生児けいれんの症状であることがある(微細発作・強直発作)。 ・新生児けいれんでは、まず血糖・電解質などを調べ、低血糖・低カルシウム血症など治療可能な原因を除外する。 ・頭蓋内病変の検索は、開いた大泉門を利用した頭部超音波検査が第一選択である。ベッドサイドで、被曝や鎮静なしに繰り返し行える。 ・早産児(特に在胎32週前後以下)は脳室内出血のリスクが高い。生後72時間以内に起こりやすい。 ・MRIは詳しい精査として、全身状態が安定してから行う。脳波は発作の確認と重症度評価に用いる。
