StudyMed医師国家試験

喫煙指数1,800の肺はどこに入る?―4分割図で読み解く換気障害

第106回医師国家試験 G問題 第64問(連問)

国試問題にチャレンジ

第106回 G問題 第64問

連問の共通文

次の文を読み,62~64の問いに答えよ。 75歳の男性。熱感を主訴に来院した。 現病歴:5日前の田植え作業中に咳を自覚し,その後持続していた。痰は少しからむ程度であり,色は白色透明であった。3日前に,37.4℃の発熱があったため自宅にあった総合感冒薬を2日間内服したところ症状は軽快した。頭痛や筋肉痛はなく,田植え作業は継続していた。今朝の体温が36.8℃で,平熱よりも高いことが気になったため受診した。 既往歴:45歳時にオートバイで転倒し脾臓摘出術を受けた。60歳時に高血圧を指摘されたが,医療機関にはかからなかった。インフルエンザワクチンは年1回定期的に受けている。 生活歴:40年来の専業農家で,土に触れる機会が多い。妻との2人暮らし。喫煙は40本/日を45年間。飲酒は日本酒1合/日を30年間。 家族歴:父親が高血圧性脳出血のため65歳で死亡。 現症:意識は清明。身長163 cm,体重60 kg。体温36.8℃。脈拍72/分,整。血圧140/90 mmHg。呼吸数16/分。SpO2 96%(room air)。聴診上呼吸音は減弱している。

 喫煙歴を考慮し,呼吸機能検査を実施した。結果を表示するための図を示す。  この患者の検査結果が含まれる領域として予測されるのはどれか。

第106回 G問題 第64問の問題画像
  1. a.①又は②
  2. b.①又は③
  3. c.①又は④
  4. d.②又は③
  5. e.②又は④

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、呼吸機能検査の結果を4つの領域に分ける図を使って、重喫煙者の検査結果を予測する問題だ。まずは図の読み方を押さえ、そのうえで病歴から病態を推定していこう。横軸と縦軸が何を表しているか、わかるかな。
医学生医学生
横軸が%肺活量、縦軸が1秒率で、それぞれ80%と70%で区切られていると思います。
ドクタードクター
その通り。%肺活量は予測値に対する実際の肺活量の割合で、肺がどれだけ膨らめるかを表す。1秒率は努力肺活量のうち最初の1秒で吐き出せた割合で、空気の通り道の通りやすさを表すんだ。この2つで4領域に分けると、どうなる?
医学生医学生
%肺活量が低くて1秒率が保たれる左上の①が拘束性、両方保たれる右上の②が正常、両方低い左下の③が混合性、1秒率だけ低い右下の④が閉塞性です。
ドクタードクター
完璧だ。では、この患者さんの病歴で注目すべき点は?
医学生医学生
1日40本を45年なので、喫煙指数は1,800です。呼吸音も減弱しているので、COPDを疑います。
ドクタードクター
いいね。COPDはタバコ煙などの長期吸入で末梢気道に炎症が起き、肺胞壁が壊れて肺気腫になる病気だ。肺の弾性が失われるため、息を吐くときに気道がつぶれて空気を出し切れない。だから1秒率が下がる閉塞性換気障害になる。
医学生医学生
それなら答えは④だけでいい気がします。どうして②が一緒に入っているんですか。
ドクタードクター
そこがこの問題のポイントだ。呼吸音の減弱だけではCOPDとは確定できない。この方はSpO2も呼吸数も保たれていて、田植え作業も続けられている。重喫煙者でも、気流閉塞がまだ診断基準に達していない段階なら検査は正常範囲にとどまることがある。だから「正常か閉塞性か」と予測するのが妥当なんだ。
医学生医学生
喫煙者なら必ず異常が出る、というわけではないんですね。では①の拘束性はなぜ外れるんでしょう。
ドクタードクター
拘束性換気障害は、間質性肺炎や肺線維症、胸膜肥厚、側弯症などの胸郭変形、ALSのような神経筋疾患で肺が膨らみにくくなるパターンだ。この方には捻髪音やばち指、胸郭の異常といった手がかりがない。それにCOPDでは肺はむしろ過膨張するから、%肺活量は通常保たれる。
医学生医学生
③の混合性はどうですか。COPDが進行すると肺活量も下がると、呼吸器内科の実習で聞いた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。高度に進行したCOPDでは、空気が肺に閉じ込められるエアトラッピングのために肺活量が見かけ上低下し、混合性に入ることもある。COPDに間質性肺炎が合併した場合も同様だ。ただ、この方は安静時の呼吸状態がよく作業もできているから、そこまでの重症とは考えにくい。
医学生医学生
%肺活量が保たれると考えられるから、右側の②か④、ということですね。
ドクタードクター
その通り。ここからは発展知識だ。COPDの確定診断は、気管支拡張薬を吸入したあとの1秒率が70%未満で、喘息など他の気流閉塞をきたす疾患を除外して行う。病期は1秒率ではなく%1秒量で分類し、80%以上がⅠ期、50〜80%未満がⅡ期、30〜50%未満がⅢ期、30%未満がⅣ期だ。
医学生医学生
診断は1秒率、重症度は%1秒量、と使い分けるんですね。CBTの勉強のときに混同していました。
ドクタードクター
混同しやすいところだね。ほかにも、肺気腫優位型では肺拡散能が低下し、残気量や全肺気量は増える。胸部X線では肺野の透過性亢進や横隔膜の平低化、滴状心がみられる。身体所見では呼気延長、ビア樽状胸郭、口すぼめ呼吸なども大事な手がかりだ。
医学生医学生
この患者さんには、検査と並行して禁煙指導も必要ですね。
ドクタードクター
そうだね。禁煙はCOPDの進行を抑えるうえで最も重要な介入だし、肺癌のリスク低減にもつながる。検査結果が正常でも、それは禁煙しなくてよい理由にはならない。むしろ早い段階で禁煙を始めるチャンスと伝えたいね。

まとめ

呼吸機能検査の4分割図は、%肺活量80%と1秒率70%を境に、拘束性・正常・混合性・閉塞性の換気障害を分類するものです。喫煙指数1,800の重喫煙者で呼吸音が減弱している本例ではCOPDが疑われ、COPDは1秒率が低下し%肺活量は通常保たれる閉塞性換気障害を示します。一方、安静時の呼吸状態が良好で活動性も保たれているため、気流閉塞がまだ診断基準に達していない可能性もあり、予測される領域は正常か閉塞性となります。COPDの確定診断は気管支拡張薬吸入後の1秒率70%未満で行い、病期は%1秒量で分類する点も押さえておきましょう。図の意味を理解して病歴から検査結果を予測する力は、呼吸器疾患の評価と禁煙指導を含む日常診療の土台になります。

解答・解説

正解はeです

図の読み方

図は横軸に%肺活量(%VC:予測肺活量に対する実測肺活量の割合)、縦軸に1秒率(FEV1%:努力肺活量のうち最初の1秒間に吐き出せた量の割合、FEV1/FVC)をとり、それぞれ80%と70%で区切って換気障害を4つに分類するものである。 ・①:%肺活量<80%、1秒率≧70% → 拘束性換気障害 ・②:%肺活量≧80%、1秒率≧70% → 正常 ・③:%肺活量<80%、1秒率<70% → 混合性換気障害 ・④:%肺活量≧80%、1秒率<70% → 閉塞性換気障害

患者の評価

喫煙は40本/日を45年間で、喫煙指数(1日本数×喫煙年数)は1,800に達する重喫煙者である。聴診で呼吸音が減弱しており、これは肺の過膨張や気流の低下を反映する所見として、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を強く疑わせる。COPDはタバコ煙などの有害物質の長期吸入によって末梢気道の炎症と肺胞壁の破壊(肺気腫)が起こり、呼気時に気道が虚脱して息を吐き出しにくくなる疾患で、呼吸機能検査では1秒率が低下する閉塞性換気障害を示す。一方、肺全体の容積は保たれる(むしろ過膨張する)ため、%肺活量は通常低下しない。 ただし、呼吸音の減弱だけでCOPDと確定はできない。本例は SpO2 96%、呼吸数16/分と安静時の呼吸状態は保たれ、田植え作業も継続できている。重喫煙者でも気流閉塞がまだ診断基準に達していない場合があり、検査結果が正常範囲にとどまる可能性も残る。

結論

この患者の検査結果は、COPDであれば④(閉塞性換気障害)、気流閉塞がまだ明らかでなければ②(正常)に入ると予測される。%肺活量の低下を伴う①・③は、本例の病歴・所見からは予測されない。なお、COPDの確定診断は、気管支拡張薬吸入後の1秒率が70%未満であり、かつ他の気流閉塞をきたす疾患が除外されることによって行う。

選択肢考察

  1. ×a.  ①又は②

    ②(正常)は、気流閉塞がまだ診断基準に達していない場合としてありうる。しかし①は%肺活量が低下し1秒率が保たれる拘束性換気障害であり、間質性肺炎・肺線維症、胸膜肥厚、胸郭変形、神経筋疾患などでみられる。本例に拘束性障害を疑わせる所見(捻髪音、ばち指、胸郭の異常など)はなく、重喫煙歴から予測される病態とも合わない。

  2. ×b.  ①又は③

    ①(拘束性障害)、③(混合性障害)はいずれも%肺活量の低下を伴う。COPDでは肺容積は保たれ、%肺活量は通常低下しない。進行したCOPDでは空気とらえ込み(エアトラッピング)により肺活量が見かけ上低下して③に入ることもあるが、本例は SpO2 96%、作業も継続できる程度であり、そのような重症例とは考えにくい。

  3. ×c.  ①又は④

    ④(閉塞性障害)はCOPDが疑われる本例で予測される領域として妥当である。しかし①(拘束性障害)は間質性肺疾患などでみられるパターンで、本例の病歴・身体所見から予測される根拠がない。

  4. ×d.  ②又は③

    ②(正常)は、気流閉塞がまだ明らかでない場合としてありうる。しかし③(混合性障害)は閉塞性障害に%肺活量の低下が加わった状態で、COPDに間質性肺炎などが合併した場合や、エアトラッピングを伴う高度進行例でみられる。本例の軽い臨床像からは予測しにくい。

  5. ○e.  ②又は④

    喫煙指数1,800の重喫煙者で呼吸音の減弱があり、COPDが疑われる。COPDであれば1秒率<70%、%肺活量≧80%の④(閉塞性換気障害)に入る。一方で、安静時の SpO2・呼吸数が正常で活動性も保たれており、気流閉塞がまだ診断基準に達していない段階であれば②(正常)にとどまる可能性もある。いずれにしても%肺活量は保たれると考えられ、予測される領域は②又は④である。

換気障害の分類と代表的疾患

・閉塞性換気障害(1秒率<70%):COPD、気管支喘息(発作時や、リモデリングが進んだ例)、びまん性汎細気管支炎、閉塞性細気管支炎、気管支拡張症など ・拘束性換気障害(%肺活量<80%):間質性肺炎・肺線維症、じん肺、胸膜肥厚・胸水、胸郭変形(側弯症など)、神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症など)、肥満など ・混合性換気障害:両者の合併(COPDと間質性肺炎の合併、進行したCOPD、じん肺など)

COPDの診断と病期

・診断:気管支拡張薬吸入後の1秒率(FEV1/FVC)<70%で、ほかの気流閉塞をきたす疾患(喘息、気管支拡張症など)を除外する。 ・病期分類は%1秒量(予測1秒量に対する実測1秒量の割合、%FEV1)で行う:Ⅰ期(軽度)≧80%、Ⅱ期(中等度)50〜80%未満、Ⅲ期(高度)30〜50%未満、Ⅳ期(きわめて高度)<30%。 ・その他の検査所見:肺気腫優位型では肺拡散能(DLCO)が低下し、全肺気量・残気量は増加する(過膨張)。胸部X線では肺野の透過性亢進、横隔膜の平低化、滴状心がみられ、CTでは低吸収域(LAA)が描出される。 ・身体所見:呼吸音の減弱、呼気延長、ビア樽状胸郭、口すぼめ呼吸、呼吸補助筋の肥大など。

喫煙指数

1日の喫煙本数×喫煙年数で求める(本例は40×45=1,800)。喫煙指数が高いほどCOPDや肺癌のリスクが高くなり、COPDのスクリーニングや禁煙指導のうえで重要な指標となる。本例ではCOPDの評価とあわせて禁煙指導が必要である。

POINT

・図の4領域:①拘束性、②正常、③混合性、④閉塞性(区切りは1秒率70%、%肺活量80%)。 ・COPDは閉塞性換気障害(1秒率<70%)を示し、%肺活量は通常保たれる。 ・COPDの確定診断は気管支拡張薬吸入後の1秒率<70%。病期は%1秒量で分類する。 ・重喫煙者でも軽症・早期では検査が正常範囲のことがあるため、「正常または閉塞性」と予測する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。