4万人に1人の病気、保因者は100人に1人―ハーディ・ワインベルグの法則で読み解く「見えない多数派」
第106回医師国家試験 E問題 第26問
国試問題にチャレンジ
40,000人に1人の割合で発症する常染色体劣性遺伝性疾患がある。 集団が均質であるとき,この疾患の保因者頻度はどれか。
- a.100人に1人
- b.400人に1人
- c.1,000人に1人
- d.10,000人に1人
- e.40,000人に1人
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
常染色体劣性遺伝病の保因者頻度は、ハーディ・ワインベルグの法則で求めます。「集団が均質」とは平衡を仮定してよいという意味で、正常アレル頻度p、変異アレル頻度qとすると患者頻度はq²、保因者頻度は2pqです。患者が4万人に1人ならq=1/200となり、pはほぼ1なので保因者頻度は2pq≒2q=1/100、約100人に1人となります。まれな疾患では「保因者頻度≒2×√患者頻度」と覚えると便利で、X連鎖劣性遺伝では男性患者頻度がqそのものになる点も併せて押さえておきましょう。まれな疾患でも無症状の保因者は患者よりはるかに多く存在するという理解は、血族婚のリスク説明や遺伝カウンセリングの基礎になります。
解答・解説
正解はaです
集団の中での遺伝子の割合(遺伝子頻度)から遺伝子型の割合を求める問題であり、ハーディ・ワインベルグの法則を使う。「集団が均質である」という条件は、十分大きな集団で無作為に婚姻が行われ、突然変異・選択・移住などの影響がない(ハーディ・ワインベルグ平衡が成り立つ)とみなしてよい、という意味である。
手順1:遺伝子頻度を置く
病気の原因となる変異アレル(対立遺伝子)をa、正常アレルをAとし、それぞれの頻度をq、p(p+q=1)とする。 ハーディ・ワインベルグ平衡のもとでは、遺伝子型の頻度は AA(正常のホモ接合):p² Aa(保因者=ヘテロ接合):2pq aa(患者=変異のホモ接合):q² となる。
手順2:患者の頻度から変異アレルの頻度を求める
常染色体劣性(潜性)遺伝では、aaのみが発症するので q²=1/40,000 q=1/200
手順3:保因者頻度を計算する
p=1-1/200=199/200 2pq=2×(199/200)×(1/200)=398/40,000≒1/100.5 pは1にきわめて近いので、2pq≒2q=2×1/200=1/100と近似できる。 したがって保因者は約100人に1人である。
別の考え方(検算)
保因者頻度を1/xとすると、両親がともに保因者である確率は(1/x)²で、その夫婦から患者(aa)が生まれる確率は1/4である。よって (1/x)²×1/4=1/40,000 (1/x)²=1/10,000 x=100 となり、同じ結果が得られる。 覚え方として、まれな常染色体劣性遺伝病では「保因者頻度≒2×√(患者頻度)」と整理しておくと、素早く計算できる。
選択肢考察
- ○a. 100人に1人
患者頻度q²=1/40,000から変異アレル頻度q=1/200が求まり、保因者頻度は2pq≒2q=2×1/200=1/100となる。したがって約100人に1人が保因者であり、これが正解である。発症者が4万人に1人とまれな疾患でも、症状のない保因者はその400倍も多く存在することになる。
- ×b. 400人に1人
変異アレル頻度q(1/200)に2を掛けるべきところを、1/(2×200)のように割ってしまうなど、計算の手順を取り違えると出てくる値である。正しくは保因者頻度2pq≒2×1/200=1/100であり、400人に1人ではない。
- ×c. 1,000人に1人
ハーディ・ワインベルグの法則に基づく計算からは導かれない値である。患者頻度1/40,000から求めた変異アレル頻度は1/200、保因者頻度は約1/100であり、1,000人に1人では保因者を1/10に過小評価していることになる。
- ×d. 10,000人に1人
10,000は、両親がともに保因者となる確率(1/x)²に相当する値(1/10,000)である。これはあくまで「保因者どうしの組み合わせ」の頻度であり、平方根をとって1/100としたものが保因者頻度である。途中の値をそのまま答えにしないよう注意する。
- ×e. 40,000人に1人
これは問題文に示された患者(変異アレルのホモ接合aa)の頻度そのものであり、保因者(ヘテロ接合Aa)の頻度ではない。常染色体劣性遺伝病では、保因者は無症状のまま集団中に患者よりはるかに多く存在する。
ハーディ・ワインベルグの法則
十分に大きな集団で、無作為に婚姻が行われ、突然変異・自然選択・移住・遺伝的浮動の影響が無視できるとき、アレル頻度と遺伝子型頻度は世代を経ても変化しない。2つのアレルの頻度をp、q(p+q=1)とすると、遺伝子型頻度は(p+q)²=p²+2pq+q²に従う。
遺伝形式ごとの応用
常染色体劣性遺伝:患者頻度=q²、保因者頻度=2pq≒2q(qが小さいとき)。 X連鎖劣性遺伝:男性はX染色体を1本しかもたないため、男性患者の頻度=q(アレル頻度そのもの)となる。女性患者の頻度はq²、女性保因者の頻度は2pq≒2qである。例えば男性の1/10,000が発症する疾患では、女性保因者はおよそ1/5,000、女性患者は1/10⁸となる。
血族婚(近親婚)と常染色体劣性遺伝病
血縁者は共通の祖先から同じ変異アレルを受け継いでいる可能性がある。そのため、まれな常染色体劣性遺伝病ほど、患者の両親が血族婚である割合が高くなる。
保因者頻度の例
日本人ではフェニルケトン尿症の発症はおよそ数万〜8万人に1人とされ、保因者は100〜140人に1人程度と見積もられる。このように、まれな疾患でも保因者はかなりの頻度で存在する。
POINT
・常染色体劣性遺伝病:患者頻度=q²、保因者頻度=2pq≒2q。 ・患者1/40,000→q=1/200→保因者≒1/100。 ・簡便法:保因者頻度≒2×√(患者頻度)。 ・X連鎖劣性遺伝病では男性患者頻度=q、女性保因者頻度≒2q。 ・「集団が均質」はハーディ・ワインベルグ平衡を仮定してよいという意味。
