StudyMed医師国家試験

鎖骨の下、針先のすぐ奥に肺がある―鎖骨下静脈穿刺と気胸

第106回医師国家試験 C問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第106回 C問題 第3問

右鎖骨下静脈穿刺で起こりやすい合併症はどれか。

  1. a.肺炎
  2. b.気胸
  3. c.無気肺
  4. d.胸管損傷
  5. e.反回神経麻痺

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は中心静脈カテーテル留置の合併症の問題だ。穿刺部位ごとに周りにある構造が違うから、起こりやすい合併症も変わってくる。鎖骨下静脈のすぐそばに何があるかを、解剖からイメージしてみよう。
医学生医学生
中心静脈カテーテルは、高カロリー輸液や刺激の強い薬を入れるときに使うんですよね。
ドクタードクター
そう。ほかに中心静脈圧の測定にも使う。穿刺部位は主に内頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈の3つ。では、鎖骨下静脈はどこを走っているかな。
医学生医学生
解剖実習で見たときは、鎖骨と第1肋骨の間を通っていました。その奥に鎖骨下動脈があった気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。そしてもう一つ大事なのが、静脈の背側・下方に胸膜頂、つまり肺尖を包む壁側胸膜の一番上の部分が迫っていることだ。針の角度が深すぎたり、刺入が深すぎたりすると、静脈を突き抜けて胸膜と肺を刺してしまう。
医学生医学生
それで空気が胸腔に漏れて、気胸になるわけですね。
ドクタードクター
その通り。だから鎖骨下静脈穿刺で最も注意すべき、頻度の高い合併症は気胸なんだ。内頸静脈や大腿静脈からの穿刺と比べても、気胸の頻度が高いことが知られている。
医学生医学生
肺炎はどうでしょう。カテーテルから感染が起こることもあると習いましたが。
ドクタードクター
いい疑問だね。カテーテルに関連する感染で重要なのは、カテーテル関連血流感染症で、肺炎とは別の病態だ。穿刺の手技そのものが肺炎を起こすことは通常ない。むしろ鎖骨下静脈は、内頸や大腿に比べてカテーテル関連感染が少ない部位とされているよ。
医学生医学生
無気肺は、気胸で肺がしぼむのと同じように考えてはいけないんですか。
ドクタードクター
紛らわしいところだね。無気肺は痰や腫瘍による気管支の閉塞、術後の換気低下などで肺胞が虚脱する病態だ。気胸に伴って肺がしぼんでも、それは気胸として扱う。穿刺の合併症として無気肺を挙げるのは適切ではないんだ。
医学生医学生
胸管損傷も怖そうですが、右側だとどうなりますか。
ドクタードクター
ここは左右差が大事だ。胸管は全身のリンパの大部分を集めて、左の静脈角、つまり左内頸静脈と左鎖骨下静脈の合流部に注ぐ。だから胸管損傷やそれによる乳び胸は、左側から穿刺するときに注意すべき合併症なんだ。右側には細い右リンパ本幹があるだけだから、右鎖骨下静脈穿刺で胸管を傷つけることは解剖学的に考えにくい。右側が選ばれやすい理由の一つでもあるね。
医学生医学生
反回神経麻痺は、右反回神経が鎖骨下動脈をくぐるので、ありえそうな気もします。
ドクタードクター
理論上は、針を誤った方向へ深く進めれば損傷の可能性はある。でも極めてまれで、起こりやすい合併症とはいえない。問題文の「起こりやすい」という言葉に注目しよう。
医学生医学生
解剖で近くにある構造を思い浮かべて、頻度も考えて選ぶということですね。
ドクタードクター
そうだね。臨床で大切なのは、留置後に必ず胸部エックス線撮影をすること。カテーテル先端が上大静脈と右房の接合部付近にあるか、気胸や血胸がないかを確認する。穿刺直後は目立たなくても、時間がたってから気胸がはっきりすることもあるから、呼吸状態の観察も欠かせない。
医学生医学生
人工呼吸中の患者さんだと、さらに危ないですよね。
ドクタードクター
鋭いね。陽圧換気では漏れた空気がどんどん胸腔にたまり、緊張性気胸に進展する危険がある。ほかに、鎖骨下静脈は鎖骨が邪魔になるので、動脈を誤って刺したときに圧迫止血しにくいという弱点もある。一方で固定しやすく、患者さんの違和感が少ないという利点もあるんだ。
医学生医学生
内頸静脈は超音波で見やすくて圧迫止血しやすい、大腿静脈は気胸の心配がない代わりに感染や血栓が多い、という整理でいいでしょうか。
ドクタードクター
完璧な整理だよ。さらに、穿刺時は頭低位にして空気塞栓を防ぎ、静脈を怒張させて刺しやすくする。最近は超音波ガイド下穿刺で合併症を減らすことが推奨されている。OSCEの延長で、シミュレーターで練習する機会があれば積極的に参加してみてほしい。

まとめ

鎖骨下静脈は鎖骨と第1肋骨の間を走り、その背側・下方には胸膜頂と肺尖が近接しているため、穿刺で最も起こりやすく注意すべき合併症は気胸です。胸管は左静脈角に注ぐので、胸管損傷や乳び胸は左側穿刺で問題となり、右鎖骨下静脈穿刺では考えにくい合併症です。穿刺部位ごとに、鎖骨下静脈は気胸が多いが感染は少ない、内頸静脈は動脈誤穿刺に注意、大腿静脈は感染・血栓が多いという特徴があります。留置後は胸部エックス線で先端位置と気胸・血胸の有無を必ず確認し、陽圧換気中は緊張性気胸への進展に注意が必要です。解剖と合併症を結びつけて理解することが、安全な中心静脈カテーテル留置の基本となります。

解答・解説

正解はbです

問われているテーマ

中心静脈カテーテル〈CVC:central venous catheter〉の留置は、高カロリー輸液、血管刺激性の強い薬剤の投与、中心静脈圧の測定などを目的に行われる。穿刺部位には主に内頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈があり、それぞれの部位の解剖に応じて起こりやすい合併症が異なる。本問は、鎖骨下静脈穿刺に特徴的な合併症を問うている。

正解を導く考え方

鎖骨下静脈は鎖骨と第1肋骨の間を走行し、そのすぐ背側・下方には鎖骨下動脈と、胸膜頂(肺尖部を覆う壁側胸膜の最上部)が位置している。穿刺針は鎖骨の下から鎖骨下面に沿って進めるが、針の角度が深すぎたり刺入が深すぎたりすると、静脈を貫いて胸膜・肺を穿刺し、気胸を生じる。したがって鎖骨下静脈穿刺で最も注意すべき、かつ頻度の高い合併症は気胸である。鎖骨下静脈穿刺は、内頸静脈穿刺や大腿静脈穿刺と比べて気胸の頻度が高いことが知られている。

合併症の確認

中心静脈カテーテル留置後には胸部エックス線撮影を行い、カテーテル先端の位置(上大静脈内にあるか)と、気胸・血胸などの合併症の有無を確認する。穿刺直後には明らかでなくても、時間をおいて気胸が顕在化することもあるため、呼吸状態の観察が重要である。近年は超音波ガイド下穿刺により、合併症の頻度を減らすことが推奨されている。

選択肢考察

  1. ×a.  肺炎

    鎖骨下静脈穿刺の手技自体によって肺炎が起こることは通常ない。中心静脈カテーテルに関連する感染症として重要なのは、カテーテル関連血流感染症〈CRBSI:catheter-related bloodstream infection〉であり、肺炎とは別の病態である。なお、鎖骨下静脈は内頸静脈や大腿静脈に比べてカテーテル関連感染の頻度が低い部位とされる。

  2. ○b.  気胸

    鎖骨下静脈の背側・下方には胸膜頂と肺尖部が接近しており、穿刺針が深く入りすぎると胸膜と肺を貫いて気胸を生じる。鎖骨下静脈穿刺で最も頻度が高く、見落としてはならない合併症である。人工呼吸管理中の患者では陽圧換気により緊張性気胸へ進展する危険もあるため、留置後の胸部エックス線撮影で必ず確認する。

  3. ×c.  無気肺

    無気肺は気管支の閉塞(痰・腫瘍など)や肺の圧迫、術後の換気低下などによって肺胞が虚脱する病態であり、鎖骨下静脈穿刺の手技によって生じることは通常考えにくい。気胸によって肺が虚脱することはあるが、それは気胸として扱われる。

  4. ×d.  胸管損傷

    胸管は全身のリンパの大部分を集め、左の静脈角(左内頸静脈と左鎖骨下静脈の合流部)に注ぐ。そのため胸管損傷とそれによる乳び胸は、左側の鎖骨下静脈穿刺や左内頸静脈穿刺で注意すべき合併症である。右側には細い右リンパ本幹があるのみで、右鎖骨下静脈穿刺で胸管を損傷することは解剖学的に考えにくい。中心静脈穿刺で右側が選ばれやすい理由の一つでもある。

  5. ×e.  反回神経麻痺

    右反回神経は右鎖骨下動脈の下をくぐって上行するため、穿刺針を誤った方向へ深く進めた場合に損傷する可能性は理論上ある。しかし極めてまれな合併症であり、「起こりやすい」合併症とはいえない。

中心静脈カテーテル穿刺の主な合併症

・機械的合併症:気胸、動脈誤穿刺(鎖骨下動脈・総頸動脈・大腿動脈)、血腫、血胸、縦隔血腫、空気塞栓、カテーテル先端による心タンポナーデ、不整脈(ガイドワイヤーが心房・心室を刺激する)、胸管損傷(左側穿刺時)など ・感染性合併症:カテーテル関連血流感染症 ・血栓性合併症:カテーテル関連静脈血栓症

穿刺部位ごとの特徴

・鎖骨下静脈:気胸の頻度が高い。鎖骨が邪魔になり、動脈を誤穿刺した場合の圧迫止血が難しい。一方で感染や血栓の頻度が比較的低く、固定しやすく患者の違和感が少ない。 ・内頸静脈:超音波で観察しやすく、圧迫止血もしやすい。総頸動脈の誤穿刺に注意する。気胸の頻度は鎖骨下静脈より低い。 ・大腿静脈:気胸の危険はなく緊急時に確保しやすいが、感染や深部静脈血栓症の頻度が高い。

空気塞栓の予防

穿刺やカテーテル挿入時に静脈内が陰圧になると空気が吸い込まれることがあるため、頭低位(トレンデレンブルグ位)で穿刺し、カテーテルの開放端を開けたままにしないよう注意する。頭低位は静脈を怒張させて穿刺しやすくする効果もある。

留置後の確認

胸部エックス線撮影でカテーテル先端位置(上大静脈と右房の接合部付近)と、気胸・血胸の有無を確認する。

POINT

・鎖骨下静脈穿刺で最も重要な合併症は気胸(静脈の背側に胸膜頂・肺尖が近接)。 ・胸管は左静脈角に注ぐため、胸管損傷(乳び胸)は左側穿刺で問題となる。 ・中心静脈カテーテル留置後は胸部エックス線で先端位置と気胸の有無を必ず確認する。 ・穿刺部位ごとの特徴:鎖骨下=気胸多いが感染少ない、内頸=動脈誤穿刺に注意、大腿=感染・血栓が多い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。