熱が出ない尿路感染症はどれ?―「粘膜」と「実質」で分ける発熱の有無
第106回医師国家試験 C問題 第4問
国試問題にチャレンジ
発熱を伴わないのはどれか。
- a.腎膿瘍
- b.急性腎盂腎炎
- c.急性膀胱炎
- d.急性前立腺炎
- e.急性精巣上体炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
尿路・男性生殖器の急性細菌感染症のうち、急性膀胱炎は膀胱粘膜表層の炎症にとどまるため、原則として発熱を伴わず、頻尿・排尿時痛・残尿感・尿混濁が主症状です。一方、急性腎盂腎炎、腎膿瘍、急性前立腺炎、急性精巣上体炎はいずれも血流豊富な実質臓器の感染で、悪寒戦慄を伴う発熱をきたし、菌血症や敗血症に進展することがあります。膀胱炎症状に発熱が加わった場合は上部尿路や前立腺への波及を疑い、男性の膀胱炎様症状では複雑性尿路感染症を考えます。また、急性前立腺炎では強い前立腺マッサージを避けること、急性精巣上体炎では精巣捻転症との鑑別が重要です。「粘膜か実質か」という視点は、発熱の有無から感染の深さを推定する臨床判断の基本になります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
尿路・男性生殖器の急性細菌感染症のうち、通常は発熱をきたさないものを選ぶ問題である。
考え方
感染症で発熱が起こるかどうかは、「炎症がどの組織で起きているか」と「病原体や炎症性物質が血流に入りやすいか」で大きく左右される。 ・膀胱は尿をためる袋状の管腔臓器で、急性膀胱炎の炎症は主に膀胱粘膜の表層にとどまる。粘膜表層の炎症は全身に波及しにくく、原則として発熱しない。 ・一方、腎実質(腎盂腎炎・腎膿瘍)や前立腺・精巣上体といった「実質臓器」に細菌が侵入すると、組織内で強い炎症が起こり、血流が豊富なため細菌やエンドトキシン、炎症性サイトカインが全身に及びやすい。このため38℃以上の発熱、悪寒戦慄を伴うことが多く、菌血症・敗血症に進展することもある。 したがって、発熱を伴わないのは急性膀胱炎である。臨床の場では、膀胱炎の症状(頻尿・排尿時痛)に発熱が加わった場合、単純な膀胱炎ではなく上部尿路(腎)や前立腺への炎症の波及を疑う、という判断につながる。
選択肢考察
- ×a. 腎膿瘍
腎実質内に膿がたまった状態であり、発熱を伴う。原因は、腎盂腎炎が進行して実質内に膿瘍を形成する上行性感染と、皮膚などの遠隔感染巣から黄色ブドウ球菌などが血行性に腎へ至る経路がある。膿瘍が尿路と交通していない場合は膿が排出されないため、高熱が持続しやすい(稽留熱をとりやすい)一方、尿所見が乏しいことがあり、診断にはCTや超音波検査が有用である。腰背部痛や肋骨脊柱角(CVA)叩打痛を伴うことも多い。
- ×b. 急性腎盂腎炎
腎盂と腎実質の細菌感染症で、多くは膀胱から尿管をさかのぼる上行性感染による(起炎菌は大腸菌が最多)。悪寒戦慄を伴う38℃以上の高熱をきたすのが典型で、患側の腰背部痛、肋骨脊柱角(CVA:第12肋骨と脊柱がなす角)の叩打痛を認める。先行する膀胱炎症状(頻尿・排尿時痛)を伴うこともある。尿路閉塞(結石など)を伴う例では敗血症性ショックに進展しうるため注意を要する。
- ○c. 急性膀胱炎
膀胱粘膜の表在性の細菌感染症であり、原則として発熱を伴わない。主な症状は頻尿、排尿時痛(特に排尿終末時痛)、残尿感、尿混濁で、血尿を伴うこともある。若年〜中年女性に多く、尿道が短く肛門に近いという解剖学的特徴が関係する。炎症が膀胱粘膜にとどまるため全身症状は乏しく、もし発熱を伴っていれば、腎盂腎炎への進展や前立腺炎の合併など、より深部の感染を考えるべきである。
- ×d. 急性前立腺炎
前立腺の急性細菌感染症で、発熱をきたす。悪寒戦慄を伴う高熱に加え、頻尿・排尿時痛・排尿困難、会陰部痛などがみられ、腫大した前立腺による尿閉をきたすこともある。直腸診では前立腺に著明な圧痛と熱感を認めるが、強いマッサージは菌血症を誘発するおそれがあるため避ける。前立腺は血流が豊富な実質臓器であり、菌血症・敗血症を合併しやすい。
- ×e. 急性精巣上体炎
精巣上体の急性感染症で、発熱を伴う。尿道から精管を逆行する感染によるものが多く、若年者ではクラミジアや淋菌などの性感染症、高齢者では大腸菌などの一般細菌が主な原因となる。陰嚢内容の有痛性腫脹と発熱が主症状である。陰嚢の痛みを訴える疾患としては精巣捻転症との鑑別が重要で、陰嚢を挙上すると痛みが軽くなる(Prehn徴候陽性)ことや、ドプラ超音波で血流が増加していることが精巣上体炎を示唆する。
尿路感染症の分類と発熱
・下部尿路感染症(膀胱炎、尿道炎):粘膜表層の炎症が主体で、発熱は通常みられない。 ・上部尿路感染症(腎盂腎炎、腎膿瘍):腎実質に炎症が及び、発熱・腰背部痛・CVA叩打痛を伴う。 ・男性生殖器感染症(前立腺炎、精巣上体炎):実質臓器の感染であり、急性期には発熱を伴う。精巣炎(ムンプスによるものなど)も発熱を伴う。
単純性と複雑性
尿路に基礎疾患(結石、腫瘍、前立腺肥大症、神経因性膀胱、カテーテル留置など)がないものを単純性、あるものを複雑性とよぶ。単純性膀胱炎は閉経前の女性に多く、大腸菌が起炎菌の大半を占める。複雑性では起炎菌が多彩で、耐性菌も多く、再発しやすい。
男性の膀胱炎症状
男性は尿道が長いため単純性膀胱炎はまれであり、男性に膀胱炎様症状がみられた場合は、前立腺炎や基礎疾患を伴う複雑性尿路感染症を念頭におく。
POINT
・急性膀胱炎は粘膜表層の炎症で、原則として発熱しない(頻尿・排尿時痛・残尿感・尿混濁が主症状)。 ・腎盂腎炎、腎膿瘍、急性前立腺炎、急性精巣上体炎はいずれも実質臓器の感染で、発熱を伴う。 ・膀胱炎症状に発熱が加わったら、腎盂腎炎や前立腺炎など深部への炎症の波及を疑う。 ・急性前立腺炎では前立腺マッサージは禁忌、急性精巣上体炎では精巣捻転症との鑑別が重要。
