止まった循環に薬を届けるには―心停止でアドレナリンを「どこから」入れるか
第106回医師国家試験 C問題 第2問
国試問題にチャレンジ
心肺停止患者へのアドレナリン投与経路で最も適切なのはどれか。
- a.皮下
- b.筋肉内
- c.静脈内
- d.心腔内
- e.気管内
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
心停止中は胸骨圧迫で得られる血流がごくわずかで、皮膚・皮下組織・骨格筋の血流はほぼ途絶するため、アドレナリンを皮下や筋肉内に投与しても中心循環に届きません。そのため心停止時の薬剤投与経路の第一選択は静脈路であり、成人ではアドレナリン1 mgを3〜5分ごとに静注し、生理食塩液で後押しして上肢を挙上します。静脈路が困難なら骨髄路を用い、吸収が不確実な気管内投与はいずれも確保できない場合に限って考慮され、合併症の多い心腔内投与は現在行われません。アナフィラキシーでの筋注と心停止での静注を混同しないこと、そして薬剤投与よりも質の高い胸骨圧迫と早期除細動が優先されることを押さえておくことが、実際の蘇生現場で迷わず動くための基本となります。
解答・解説
正解はcです
問われているテーマ
心肺停止〈CPA:cardiopulmonary arrest〉に対する二次救命処置〈ALS:advanced life support〉で用いる代表的な薬剤がアドレナリンである。アドレナリンはα1受容体刺激作用により末梢血管を収縮させ、胸骨圧迫中の大動脈拡張期圧を上げて冠灌流圧・脳灌流圧を高める。これによって自己心拍再開〈ROSC:return of spontaneous circulation〉の可能性を高めることが投与の目的である。
正解を導く考え方
心停止中は、胸骨圧迫によって生み出される血流は通常の心拍出量のごく一部にすぎず、その血流は主に心臓・脳など中心部に向かう。皮膚・皮下組織・骨格筋の血流はほとんど途絶しているため、そこに投与した薬剤は吸収されず、中心循環に届かない。したがって、薬剤を確実かつ速やかに中心循環へ送り届けるには、血管内に直接投与する必要がある。 日本蘇生協議会〈JRC〉蘇生ガイドラインなどでは、薬剤投与経路の第一選択は静脈路(通常は末梢静脈路)であり、静脈路の確保が困難な場合には骨髄路を用いるとされている。成人ではアドレナリン1 mgを3〜5分ごとに静脈内(または骨髄内)投与する。投与後は20 mL程度の生理食塩液で後押しし、腕を挙上して中心循環への到達を促す。 なお、静脈路確保のために胸骨圧迫を中断してはならない。質の高い胸骨圧迫と早期の除細動が最優先であり、薬剤投与はそれを補う位置づけである。
選択肢考察
- ×a. 皮下
心停止やショックの状態では、まず皮膚や皮下脂肪組織の血流が著しく減少する。皮下に投与しても薬剤はほとんど吸収されず、中心循環に到達しないため効果は期待できない。さらにアドレナリン自体の血管収縮作用で局所の血流はさらに低下する。
- ×b. 筋肉内
筋肉内投与はアナフィラキシーに対するアドレナリン投与(成人0.3〜0.5 mgを大腿前外側に筋注)の標準的な経路であるが、これは自己循環が保たれている場合の話である。心停止中は骨格筋の血流もほぼ途絶しているため、筋注では吸収がきわめて乏しく、心肺蘇生には用いない。
- ○c. 静脈内
静脈内投与は薬剤を直接血流に入れるため、胸骨圧迫によるわずかな血流でも中心循環に届けることができ、確実性・即効性に優れる。ガイドラインでも心停止時の薬剤投与経路の第一選択とされる。通常は肘正中皮静脈など太い末梢静脈を用い、投与後に生理食塩液で後押しして上肢を挙上する。静脈路が確保できない場合の代替は骨髄路である。
- ×d. 心腔内
心腔内投与は、胸壁から針を刺して盲目的に心臓を穿刺する方法である。冠動脈損傷、心筋損傷、心タンポナーデ、気胸などの合併症の危険があり、また穿刺のために胸骨圧迫を中断する必要がある。静脈路・骨髄路より優れる根拠もないため、現在は行われない。
- ×e. 気管内
気管内投与は、かつて静脈路が確保できないときの代替経路として推奨されていた。しかし気管・肺胞からの吸収量は不確実で、必要量も静脈内投与の2〜2.5倍程度とされ、効果が安定しない。現在のガイドラインでは、静脈路が確保できない場合はまず骨髄路を選択し、気管内投与は静脈路・骨髄路のいずれも確保できない場合に限って考慮される経路である。最も適切な経路とはいえない。
心停止時の薬剤投与経路の優先順位
1. 静脈路(末梢静脈路が基本。中心静脈路は確保に時間がかかり胸骨圧迫の妨げになりうるため、すでに留置されている場合を除き優先しない) 2. 骨髄路(静脈路が困難な場合。脛骨近位部や上腕骨近位部に専用の骨髄針を刺入する。骨髄内の静脈叢は虚脱しにくく、静脈路とほぼ同等に薬剤が中心循環に届く。小児では特に有用) 3. 気管内(静脈路・骨髄路とも確保できない場合に考慮。吸収が不確実) 皮下・筋肉内・心腔内は心停止時には用いない。
心停止時のアドレナリン投与の実際(成人)
・用量:1 mgを3〜5分ごとに静注(骨髄内投与も同量)。 ・タイミング:心静止・無脈性電気活動〈PEA〉などの電気ショック非適応リズムでは可能な限り早期に投与する。心室細動〈VF〉・無脈性心室頻拍〈pulseless VT〉などの電気ショック適応リズムでは、除細動を試みても停止しない場合に投与する。 ・難治性VF/無脈性VTでは、抗不整脈薬としてアミオダロン(初回300 mg)などを考慮する。
アドレナリン投与経路の使い分け(他の病態との比較)
・アナフィラキシー:筋肉内投与(大腿前外側)が第一選択。 ・心停止:静脈内(または骨髄内)投与。 病態によって適切な経路が異なる点を区別して覚えておく。
POINT
・心停止時の薬剤投与経路の第一選択は静脈路、確保困難なら骨髄路。 ・心停止中は末梢(皮膚・筋肉)の血流がほぼ途絶しているため、皮下・筋注は無効。 ・心腔内投与は合併症が多く、現在は行わない。 ・気管内投与は吸収が不確実で、静脈路・骨髄路とも確保できない場合に限って考慮する。 ・成人心停止ではアドレナリン1 mgを3〜5分ごとに静注する。アナフィラキシー時の筋注と混同しない。
