28週で生まれた赤ちゃんの「うなり声」―呼吸窮迫症候群が示すサインを病態から読み解く
第106回医師国家試験 B問題 第48問
国試問題にチャレンジ
生後16時間の新生児。在胎28週0日,体重1,220 gで出生した。Apgarスコア7点(1分),8点(5分)。多呼吸とチアノーゼとをきたしている。 他に認められる可能性が高いのはどれか。3つ選べ。
- a.呻吟
- b.喘鳴
- c.陥没呼吸
- d.鼻翼呼吸
- e.吸気時間の延長
対話形式の解説
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ドクターまとめ
在胎34週未満の早産児が出生後早期に多呼吸やチアノーゼを示した場合、まず肺サーファクタント不足による新生児呼吸窮迫症候群(RDS)を考えます。肺胞がつぶれやすく肺が硬くなるため、声門を狭めて呼気時に圧を保つ呻吟、強い吸気陰圧で柔らかい胸壁が引き込まれる陥没呼吸、呼吸努力の増加を示す鼻翼呼吸がみられます。一方、喘鳴や吸気時間の延長は気道狭窄の所見であり、肺胞虚脱が本態のRDSでは典型的ではありません。治療は人工肺サーファクタントの気管内投与と呼吸管理、予防は分娩前の母体ステロイド投与です。所見を丸暗記するのではなく「肺胞の虚脱か、気道の狭窄か」という病態から考えることで、新生児の呼吸障害全般を見分ける力が身につきます。
解答・解説
正解はa, c, dです
所見の整理
・在胎28週0日で出生した早産児。出生体重1,220 gで、1,500 g未満の極低出生体重児にあたる。 ・Apgarスコアは1分7点、5分8点。7点以上は正常範囲なので、出生時に明らかな新生児仮死はない。 ・生後16時間の時点で、多呼吸とチアノーゼがある。
診断の考え方
出生直後から数時間以内に呼吸障害が始まった早産児では、まず新生児呼吸窮迫症候群(RDS:respiratory distress syndrome)を考える。肺サーファクタントは、肺胞を覆う液体の表面張力を下げて、息を吐いたときに肺胞がつぶれないようにする物質である。II型肺胞上皮細胞がつくるが、十分な量が出るのは在胎34週ごろである。在胎28週の児ではサーファクタントが足りないため、肺胞がつぶれやすく(無気肺)、肺は硬くなる(コンプライアンスの低下)。その結果、ガス交換が悪くなる。 鑑別としては次のものが挙がる。 ・新生児一過性多呼吸:主に正期産児や帝王切開で生まれた児に多く、症状は軽い。 ・胎便吸引症候群:過期産児や胎児機能不全のあとに起こりやすい。 ・B群溶血性レンサ球菌(GBS)などによる肺炎・敗血症 ・気胸 在胎週数と出生体重からみると、RDSの可能性が最も高い。
設問の考え方
RDSのように肺が硬くつぶれやすい状態(拘束性の障害)では、新生児は次のような呼吸窮迫の徴候を示す。 ・多呼吸:浅く速い呼吸で換気量を補う。 ・呻吟:声門を狭めて息を吐き、肺胞がつぶれるのを防ぐ。 ・陥没呼吸:肺が硬いため、吸気時に強い陰圧がかかり、柔らかい胸壁が内側に引き込まれる。 ・鼻翼呼吸:呼吸の努力が増えているサインである。 ・チアノーゼ 一方、喘鳴や吸気時間の延長は、気道が狭くなったとき(気道狭窄)に出る所見である。肺胞がつぶれることが主な病態であるRDSでは、典型的な所見ではない。
選択肢考察
- ○a. 呻吟
呻吟(しんぎん、grunting)は、息を吐くときに聞こえる「ウーン」といううなり声である。声門を半分閉じて息を吐くことで、気道内に圧を保ち(いわば自分で呼気終末陽圧(PEEP)をかけている状態)、肺胞がつぶれるのを防いでいる。サーファクタントが足りず、息を吐くときに肺胞がつぶれやすいRDSで特徴的な徴候である。
- ×b. 喘鳴
喘鳴は、気道が狭くなった部分を空気が通るときに出る音である。吸気時に目立つ喘鳴(stridor)は、喉頭軟化症や声門下狭窄など上気道の狭窄でみられる。呼気時に目立つ喘鳴(wheeze)は、気管支喘息や細気管支炎など下気道の狭窄でみられる。RDSの主な病態は肺胞がつぶれることで、気道の狭窄ではないため、喘鳴は典型的ではない。
- ○c. 陥没呼吸
陥没呼吸は、息を吸うときに肋骨の間・胸骨の上や下・肋骨の下縁などが内側に引き込まれる所見である。RDSでは肺が硬く膨らみにくいため、吸気時に胸の中に強い陰圧をかける必要がある。新生児、特に早産児は胸壁が柔らかいので、この陰圧で胸壁が引き込まれやすい。呼吸窮迫の重症度をみるSilvermanスコアでも評価する項目である。
- ○d. 鼻翼呼吸
鼻翼呼吸は、息を吸うときに鼻の両脇(鼻翼)が広がる動きである。鼻の空気の通り道の抵抗を減らし、少しでも多く空気を取り込もうとする代償的な動きで、呼吸の努力が増えていることを示す。新生児は主に鼻で呼吸しているため、呼吸窮迫のときにこの所見が目立ちやすい。RDSでよくみられる。
- ×e. 吸気時間の延長
吸気時間の延長は、喉頭や気管など胸郭外の上気道が狭くなったときに起こる。狭いところを空気がゆっくりとしか通れないためである。RDSは肺が硬くなる拘束性の障害であり、浅く速い呼吸(多呼吸)になるので、吸気時間はむしろ短くなる。ちなみに、呼気時間が延びるのは、気管支喘息など下気道の閉塞でみられる所見である。
新生児呼吸窮迫症候群(RDS)
・病態:肺サーファクタントが足りないことで、肺胞の表面張力が高くなり、肺胞がつぶれる(無気肺)。肺も硬くなる(コンプライアンス低下)。その結果、低酸素血症と高二酸化炭素血症が起こる。 ・危険因子:早産(在胎週数が短いほど多い)、母体の糖尿病(高インスリン血症の胎児ではサーファクタントの成熟が遅れる)、男児、新生児仮死、陣痛がないまま行った帝王切開など。 ・症状:出生直後から数時間以内に、多呼吸(60回/分以上)、呻吟、陥没呼吸、鼻翼呼吸、チアノーゼが現れる。治療しなければ、生後1〜2日にかけて悪化していく。 ・診断: 胸部X線写真では、肺の容積が小さく、細かい網状・顆粒状の影、気管支が黒く浮き出る像(気管支透亮像、air bronchogram)がみられる。重症になると肺全体が白くなり、心臓の縁がわからなくなる(Bomsel分類で重症度をみる)。 出生直後の胃液(飲み込んだ羊水)をかき混ぜて小さな泡の数を数えるマイクロバブルテストや、羊水のレシチン/スフィンゴミエリン比(L/S比。2以上なら肺は成熟していると判断する)で、サーファクタントが足りているかを推定できる。 ・治療:人工肺サーファクタントを気管内に投与するのが中心である。呼吸管理には、持続気道陽圧(CPAP)や人工呼吸器を使う。 ・予防:34週未満で早産しそうな妊婦に、分娩前に副腎皮質ステロイド(ベタメタゾン)を投与する。胎児の肺の成熟が進み、RDSを減らせる。
新生児の呼吸窮迫の評価(Silvermanスコア)
次の5項目をそれぞれ0〜2点で評価する。点数が高いほど重症である。 ・胸部と腹部の動きがずれる(シーソー呼吸) ・肋間の陥没 ・剣状突起下の陥没 ・鼻翼呼吸 ・呼気性呻吟
気道狭窄の部位と呼吸の所見
・胸郭外の上気道(喉頭・頸部の気管)の狭窄:吸気性喘鳴(stridor)、吸気時間の延長 ・胸郭内の下気道(気管支・細気管支)の狭窄:呼気性喘鳴(wheeze)、呼気時間の延長
POINT
・在胎34週未満の早産児が出生直後から呼吸障害を起こしたら、まずRDS(サーファクタント不足)を考える。 ・RDSの徴候は、多呼吸・呻吟・陥没呼吸・鼻翼呼吸・チアノーゼである。 ・呻吟は、声門を狭めて呼気終末に圧をかけ、肺胞がつぶれるのを防ぐための動きである。 ・喘鳴や吸気時間の延長は気道狭窄の所見で、RDSの典型的な所見ではない。 ・RDSの治療は人工肺サーファクタントの気管内投与、予防は母体への分娩前ステロイド投与である。
