「病気じゃない」と言う若者をどう守るか―医療保護入院の要件と、決して奪えない患者の権利
第106回医師国家試験 B問題 第47問
国試問題にチャレンジ
21歳の男性。引きこもりを心配した両親に伴われて来院した。1年前から大学の講義を休んで自室に引きこもり,独り言を言うようになった。患者は「外に出ると,誰もいないのに自分への悪口が聴こえる」と言う。応対は穏やかであるが,「自分は病気ではない」と治療を拒否した。両親は入院治療を希望している。 この患者に適用される入院形態で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.保護者の同意が必要である。
- b.入院期間には72時間以内という制限がある。
- c.精神保健指定医の診察に基づいて判断される。
- d.人権擁護に関する行政機関の職員との面会を制限できる。
- e.患者が手紙を出したり受け取ったりすることを制限できる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
病識がなく入院を拒否する統合失調症の患者で、自傷他害のおそれはないものの入院治療が必要な場合は医療保護入院が選ばれ、その要件は精神保健指定医1名の診察と家族等(出題当時は保護者)の同意です。自傷他害のおそれがあれば指定医2名以上の診察による措置入院、急ぐ場合は72時間以内の緊急措置入院、家族等の同意が得られず急ぐ場合は72時間以内の応急入院と、状況に応じて形態を使い分けます。入院形態にかかわらず、手紙のやりとりと、人権擁護に関する行政機関の職員や代理人弁護士との面会・電話は制限できません。保護者制度の廃止や2024年施行の入院期間の設定など法改正も続いており、患者の治療と権利保障を両立させる仕組みとして理解しておくことが、精神科医療に関わるうえでの土台になります。
解答・解説
正解はa, cです
所見の整理
・21歳男性。1年前から大学に行かず自室に引きこもり、独り言(独語)がある。 ・「外に出ると、誰もいないのに自分への悪口が聴こえる」と話す。これは、実際にはない声が聞こえる幻聴で、内容が自分を悪く言うもの(被害的な幻聴)である。 ・「自分は病気ではない」と言い、病識(自分が病気であるという自覚)がなく、治療を拒んでいる。 ・応対は穏やかで、自分や他人を傷つけるおそれ(自傷他害のおそれ)をうかがわせる情報はない。
診断
青年期に始まった社会的な引きこもりと意欲の低下(陰性症状)、被害的な幻聴と独語(陽性症状)が1年間続いていることから、統合失調症が最も考えられる。発達障害による引きこもりも考えられるが、症状が1年前から始まっていること、幻聴があることから考えにくい。
入院形態の選び方
精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)による入院形態は、次の順で考える。 ・本人が入院に同意する → 任意入院 ・本人が同意しない場合で、自傷他害のおそれがある → 措置入院(急ぐ場合は緊急措置入院) ・本人が同意せず、自傷他害のおそれはないが、医療と保護のために入院が必要 → 医療保護入院 ・本人が同意せず、家族等の同意もすぐに得られないが、急いで入院させる必要がある → 応急入院 本例は、入院治療が必要な統合失調症で、病識がないため本人は同意できない状態にある。自傷他害のおそれはなく、両親が入院を希望しているので、医療保護入院が適用される。医療保護入院には、精神保健指定医の診察で入院が必要と判断されること、および家族等(出題当時は「保護者」)の同意が必要である。 ※本問の出題当時(2012年)は、医療保護入院には「保護者」の同意が必要だった。2013年の法改正(2014年4月施行)で保護者制度はなくなり、現在は「家族等」のうちいずれかの者の同意が必要とされている。問題文の「保護者」は現在の「家族等」に読み替えれば、正解はa・cのままである。
選択肢考察
- ○a. 保護者の同意が必要である。
医療保護入院は、本人の同意がなくても入院させることができる非自発的入院の一つである。その代わりに、本人の利益を代わって考える立場の者の同意が必要とされる。出題当時はこれが「保護者」だった。現在は法改正により「家族等」とされている。家族等とは、配偶者・親権者・扶養義務者・後見人または保佐人である(DV(配偶者などからの暴力)や虐待の加害者などは除く)。本例では両親が入院を希望しており、両親の同意によって医療保護入院を行うことができる。家族等がいない場合や、家族等が同意するかどうかの意思を示さない場合は、市町村長が同意する。
- ×b. 入院期間には72時間以内という制限がある。
入院期間が72時間以内に限られるのは、緊急措置入院と応急入院である。緊急措置入院は、措置入院の手続き(指定医2名の診察)をすぐに行えない急ぎの場合に、指定医1名の診察で行う。応急入院は、急いで入院させる必要があるが家族等の同意を得られない場合に、応急入院指定病院で行う。どちらも、その間に正式な入院形態へ切り替えるか、退院させる必要がある。医療保護入院に72時間の制限はない。なお、2022年の法改正(2024年4月施行)で医療保護入院にも入院期間が定められた。入院から6か月までは3か月以内、それ以降は6か月以内ごとに期間を定め、要件を確認したうえで更新する仕組みである。
- ○c. 精神保健指定医の診察に基づいて判断される。
精神保健指定医は、一定の精神科の臨床経験と研修を修めた医師の中から厚生労働大臣が指定する医師である。医療保護入院は、指定医が診察して、①精神障害があり、②医療と保護のために入院が必要であり、③精神障害のために任意入院を行える状態にない、と判断したときに行う。本人の意思に反して自由を制限する入院なので、専門的な判断が求められる。なお、特定病院では、急ぐ場合に限って、指定医の代わりに特定医師が診察し、12時間まで入院させることが認められている。
- ×d. 人権擁護に関する行政機関の職員との面会を制限できる。
精神科病院では、治療上必要な範囲で行動制限(隔離・身体的拘束・面会や電話の制限など)を行うことがある。しかし、厚生労働大臣の基準により、どんな場合でも制限できないものが定められている。都道府県や地方法務局など人権擁護に関する行政機関の職員、および患者の代理人である弁護士との面会・電話はその一つである。これは、入院している患者が権利侵害を訴える手段を確保するためであり、入院形態にかかわらず制限できない。
- ×e. 患者が手紙を出したり受け取ったりすることを制限できる。
手紙(信書)を出すこと・受け取ることも、制限できない行動制限の一つである。患者宛ての郵便物に刃物や薬物などの異物が入っていると考えられる場合は、患者本人に開封させ、異物を取り出したうえで渡すことは認められている。それでも、手紙の内容を検閲したり、手紙のやりとりそのものを禁じたりすることはできない。
精神保健福祉法による主な入院形態
・任意入院:本人が同意して入院する。指定医の診察は不要である。本人が退院を求めても、指定医の診察で必要と判断されれば、72時間に限って退院を制限できる。 ・医療保護入院:本人は同意しないが、指定医1名の診察と家族等の同意によって行う。自傷他害のおそれは要件ではない。病院の管理者は、10日以内に都道府県知事へ届け出る。 ・措置入院:自傷他害のおそれがある場合に、指定医2名以上の診察で意見が一致したとき、都道府県知事(政令指定都市の市長)が命じて入院させる。国公立病院または指定病院に入院する。家族等の同意は必要ない。 ・緊急措置入院:措置入院が必要だが急ぐ場合に、指定医1名の診察で行う。72時間以内に限られる。 ・応急入院:急いで入院させる必要があるが家族等の同意を得られない場合に、指定医1名の診察で応急入院指定病院に入院させる。72時間以内に限られる。
どんな場合でも制限できない行動
・信書(手紙)の発信と受信(異物が入っている疑いがあるときは、本人に開封させて取り出すことはできる) ・人権擁護に関する行政機関の職員、患者の代理人である弁護士との電話・面会 ・都道府県や地方法務局など人権擁護に関する行政機関の電話番号を、見やすい場所に掲示すること
非自発的入院のときに患者に保障される権利
非自発的な入院を行うときは、入院形態・行動制限・退院請求や処遇改善請求ができることなどを、書面で患者に知らせる必要がある。退院請求や処遇改善請求は都道府県知事に対して行い、精神医療審査会が審査する。
保護者制度の廃止
2013年の法改正(2014年4月施行)で「保護者」の制度がなくなった。医療保護入院の同意は「家族等」のいずれかが行うことになった。2022年の法改正(2024年4月施行)では、家族等が同意するかどうかの意思を示さない場合にも市町村長が同意できるようになった。あわせて、医療保護入院の入院期間を定めて更新する仕組みも導入された。
POINT
・病識がなく入院を拒否し、自傷他害のおそれがない統合失調症の患者で、家族が入院を希望している → 医療保護入院 ・医療保護入院の要件は、精神保健指定医1名の診察と家族等(旧「保護者」)の同意である。 ・72時間の期間制限があるのは、緊急措置入院と応急入院(任意入院の退院制限も72時間)である。 ・措置入院は、自傷他害のおそれがあり、指定医2名以上の診察が一致したとき、都道府県知事が命じて行う。 ・信書のやりとりと、人権擁護の行政機関の職員・代理人弁護士との面会・電話は、どんな場合でも制限できない。
