立ち止まっても治らない脚の痛み―「座ると消える」が教える神経性間欠性跛行
第106回医師国家試験 A問題 第5問
国試問題にチャレンジ
歩行時に増強し,立ち止まることでは軽快せず,座ることで消退する両下肢痛を認める。 最も考えられるのはどれか。
- a.脊椎分離症
- b.Buerger病
- c.腰椎圧迫骨折
- d.腰部脊柱管狭窄症
- e.閉塞性動脈硬化症
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
歩行で下肢症状が出現し、休むと回復する間欠性跛行は、神経性と血管性に大別されます。閉塞性動脈硬化症やBuerger病などの血管性は筋の虚血が原因のため立ち止まるだけで軽快しますが、腰部脊柱管狭窄症による神経性は腰椎伸展で脊柱管が狭まるため、座る・しゃがむ・前かがみになるといった腰椎前屈で初めて軽快します。両下肢の症状は馬尾型を示唆し、買い物カートや自転車で楽に移動できることも神経性の特徴で、脊椎分離症や腰椎圧迫骨折は通常間欠性跛行の原因になりません。診断はMRIで、保存療法を基本とし、膀胱直腸障害や進行性の筋力低下があれば除圧術を検討します。高齢者では両者の合併もあるため、動脈拍動の触知やABI測定を併せて行う習慣が、正確な診断と見落とし防止につながります。
解答・解説
正解はdです
症状の整理
本問の症状は「歩くと両下肢痛が強くなり、立ち止まるだけでは治まらず、座ると消える」というものである。歩行によって下肢症状が出現・増悪し、休むと回復してまた歩けるようになる現象を間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼ぶ。間欠性跛行は原因により、神経性(腰部脊柱管狭窄症など)と血管性(閉塞性動脈硬化症、Buerger病など)の2つに大別される。
神経性か血管性かを見分ける鍵
両者を区別する最大の手がかりは「どうすれば症状が治まるか」である。 ・血管性:歩行で筋肉の酸素需要が増えるのに、狭窄・閉塞した動脈では血流が追いつかず、筋が虚血になって痛む。立ち止まって筋肉の運動をやめれば需要が下がるため、姿勢に関係なく立ったままでも短時間で軽快する。 ・神経性:腰椎を反らす(伸展する)と、黄色靱帯のたわみや椎間板の後方膨隆で脊柱管がさらに狭くなり、馬尾や神経根が圧迫される。立位・歩行は腰椎が伸展位になりやすいため症状が出る。立ち止まっても伸展位のままなので治まりにくく、座る・しゃがむ・前かがみになるなど腰椎を前屈させて脊柱管を広げると軽快する。 本問の「立ち止まっても軽快せず、座ると消退する」は、姿勢(腰椎の前屈)によって症状が消えることを示しており、神経性間欠性跛行の典型である。さらに症状が両下肢に及ぶ点も、馬尾全体が圧迫される馬尾型の脊柱管狭窄症に合致する。したがって最も考えられるのは腰部脊柱管狭窄症である。
選択肢考察
- ×a. 脊椎分離症
脊椎分離症は、主に成長期にスポーツで腰の反らしやひねりを繰り返すことで、椎弓の上関節突起と下関節突起の間(関節突起間部)に生じる疲労骨折である。第5腰椎に多い。主な症状は運動時・腰椎伸展時の腰痛であり、下肢症状を伴うことは少なく、間欠性跛行を来す疾患ではない。なお、分離部の上下が前方へずれる分離すべり症に進行すると神経根症状を生じることはあるが、「座ると消える両下肢痛」という典型像は脊柱管狭窄症のものである。
- ×b. Buerger病
Buerger病(閉塞性血栓血管炎、TAO:thromboangiitis obliterans)は、四肢末梢の中小動脈に炎症を伴う血栓性閉塞を来す疾患で、喫煙との関連が極めて強く、若年〜中年の男性に多い。下肢に好発し、虚血による血管性間欠性跛行(足底やふくらはぎの痛み)を呈する。血管性であるため、立ち止まって筋肉を休ませれば姿勢に関係なく軽快する。「立ち止まっても治らず座ると消える」という本問の経過には合わない。
- ×c. 腰椎圧迫骨折
腰椎圧迫骨折は、骨粗鬆症を背景に高齢者に多く、椎体が上下に押しつぶされる骨折である。主症状は体動時の急性腰背部痛で、寝返りや起き上がりで強く痛む。椎体後壁が壊れて骨片が脊柱管内に突出する破裂骨折などでは下肢の神経症状を生じ得るが、通常の圧迫骨折で間欠性跛行を呈することはない。本問のような歩行と姿勢に依存する両下肢痛の説明にはならない。
- ○d. 腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症は、加齢に伴う椎間板の膨隆、椎間関節の肥厚(骨棘形成)、黄色靱帯の肥厚などにより脊柱管や椎間孔が狭くなり、馬尾や神経根が圧迫される疾患である。中高年に多い。腰椎の伸展で狭窄が強まり、前屈で緩むため、立位・歩行で下肢のしびれや痛みが出現し、座る・しゃがむ・前かがみになると軽快する神経性間欠性跛行が特徴である。立ち止まるだけでは腰椎の伸展位が続くので改善しにくい。両下肢の症状は馬尾の圧迫(馬尾型)を示唆し、本問の症状と完全に一致する。前かがみで押す買い物カートや自転車では症状が出にくい、というのもよく知られた特徴である。
- ×e. 閉塞性動脈硬化症
閉塞性動脈硬化症(ASO:arteriosclerosis obliterans)は、動脈硬化によって腹部大動脈〜下肢の比較的太い動脈が狭窄・閉塞する疾患で、現在は末梢動脈疾患(PAD:peripheral arterial disease)とも呼ばれる。高齢者、喫煙者、糖尿病・高血圧・脂質異常症の患者に多く、冠動脈疾患や脳血管疾患を合併しやすい。症状は血管性間欠性跛行で、歩行により下腿(ふくらはぎ)などの筋が虚血になって痛むが、立ち止まって休めば姿勢を変えなくても数分で軽快する。この点で本問とは合わない。足背動脈などの拍動減弱や、足関節上腕血圧比(ABI)低下(0.90以下)が診断の手がかりとなる。
神経性間欠性跛行と血管性間欠性跛行の比較
・代表疾患:神経性は腰部脊柱管狭窄症。血管性は閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)、Buerger病。 ・発生機序:神経性は馬尾・神経根の圧迫と、それに伴う神経の血流障害。血管性は下肢筋の虚血。 ・症状の出方:神経性は立っているだけでも(長時間の立位や腰を反らす姿勢で)症状が出ることがある。血管性は筋を使う歩行・運動で出現し、静止した立位では出ない。 ・軽快させる動作:神経性は座る・しゃがむ・前かがみ(腰椎前屈)。血管性は立ち止まるだけで軽快し、姿勢は関係ない。 ・症状の性質・部位:神経性はしびれ、痛み、脱力感で、神経支配に沿った分布や両側性のこともある。血管性はふくらはぎなどの筋の締め付けられるような痛み(こむら返り様)が多い。 ・身体所見:神経性では下肢動脈の拍動は保たれ、腱反射低下や知覚障害を伴うことがある。血管性では足背動脈・後脛骨動脈などの拍動が減弱・消失し、ABIが低下する。 ・前かがみ姿勢での活動:神経性では自転車や買い物カートを押しての歩行は楽にできる。血管性では自転車でも下肢の筋を使うため症状が出る。
腰部脊柱管狭窄症の病型
・神経根型:片側の下肢痛(坐骨神経痛様)が主体。 ・馬尾型:両下肢のしびれ・脱力感、会陰部の異常感覚、膀胱直腸障害などを伴うことがある。 ・混合型:両者の合併。 診断はMRIで脊柱管の狭窄を確認する。治療はまず保存療法(薬物療法としてプロスタグランジンE1誘導体や鎮痛薬、ブロック注射、コルセット、運動療法など)を行い、改善しない場合や膀胱直腸障害・進行性の筋力低下がある場合は除圧術(椎弓切除術など)を検討する。
注意点
高齢者では脊柱管狭窄症と閉塞性動脈硬化症が合併していることも珍しくないため、間欠性跛行をみたら下肢動脈の拍動触知やABI測定を行い、血管性の要素を確認することが重要である。
POINT
・歩行で下肢症状が出て、休むと回復する症状を間欠性跛行という。 ・「立ち止まるだけで治る」なら血管性(閉塞性動脈硬化症、Buerger病)。 ・「座る・しゃがむ・前かがみで治る」なら神経性(腰部脊柱管狭窄症)。腰椎の伸展で狭窄が増強し、前屈で緩むためである。 ・自転車や買い物カートでの移動が楽なのは神経性の特徴である。 ・脊椎分離症・腰椎圧迫骨折は間欠性跛行の原因とはならない。
