血小板が消えた子どもの紫斑―ITPの引き金を引く「三日はしか」
第106回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉〈ITP〉の先行感染として最も多いのはどれか。
- a.伝染性紅斑
- b.突発性発疹
- c.風疹
- d.流行性耳下腺炎
- e.溶連菌感染症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板に対する自己抗体により主に脾臓で血小板が破壊される疾患で、小児ではウイルス感染や予防接種の数週間後に急性発症し多くが6か月以内に自然治癒します。先行感染としては上気道炎や発疹性ウイルス感染症が知られ、選択肢の中では血小板減少性紫斑病を合併症にもつ風疹が代表的です。溶連菌感染後の紫斑はIgA血管炎で血小板数は正常であり、伝染性紅斑・突発性発疹・流行性耳下腺炎はそれぞれ無形成発作、熱性けいれん、無菌性髄膜炎や難聴といった別の合併症が重要です。診断は血小板単独の減少と骨髄巨核球の正常〜増加を確認したうえでの除外診断で、成人ではH. pylori除菌やステロイドが治療の柱となります。各ウイルス感染症の代表的合併症と、小児型・成人型ITPの違いを結びつけて理解しておくことが、出題にも臨床にも役立ちます。
解答・解説
正解はcです
免疫性血小板減少性紫斑病(ITP: immune thrombocytopenic purpura)は、血小板に対する自己抗体(主に血小板膜糖蛋白GPⅡb/Ⅲaなどに対するIgG)が結合し、その血小板が脾臓などのマクロファージに捕らえられて破壊されることで血小板が減少する疾患である。さらに、自己抗体は骨髄の巨核球にも作用して血小板の産生を妨げる。血小板減少をきたす他の原因(薬剤、他の自己免疫疾患、白血病など)が見当たらないことで診断する除外診断的な疾患である。かつては原因不明の意味で「特発性」と呼ばれていたが、免疫機序が明らかになったことから「免疫性」へと名称が改められた。 ITPは経過から大きく2つのタイプに分けて考えるとわかりやすい。 ・小児に多いタイプ: 2〜5歳頃に多く、ウイルス感染や予防接種の1〜数週間後に急に点状出血・紫斑が出現する。多くは6か月以内に自然に治る(従来の「急性型」)。 ・成人に多いタイプ: 20〜40歳代の女性と高齢者に多く、先行感染ははっきりせず、いつの間にか発症して長く続く(従来の「慢性型」)。 本問が問う「先行感染」は主に小児のITPに関するものである。感冒などのウイルス感染をきっかけに免疫系が活性化され、ウイルス抗原に対する抗体が血小板と交差反応したり、ウイルスと抗体の免疫複合体が血小板に付着したりすることで、血小板が破壊されやすくなると考えられている。先行するウイルス感染としては、風疹、麻疹、水痘などの発疹性ウイルス感染症や上気道炎がよく知られており、選択肢の中で最も関連が深いのは風疹である。
選択肢考察
- ×a. 伝染性紅斑
伝染性紅斑はパルボウイルスB19による小児の発疹性疾患で、両頬の紅斑(リンゴ病)と四肢のレース状紅斑が特徴である。このウイルスは赤芽球系前駆細胞に感染して赤血球の産生を止めるため、遺伝性球状赤血球症などの溶血性貧血患者では無形成発作を、免疫不全者では慢性の赤芽球癆を、妊婦の感染では胎児水腫を起こす。血小板減少を伴う例もあるが、ITPの先行感染として最も多いものではない。
- ×b. 突発性発疹
突発性発疹はヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)または7型(HHV-7)の初感染により、主に生後6か月〜2歳頃の乳幼児に起こる。3日前後の高熱が続き、解熱と同時期に体幹を中心とした紅斑が出現するのが典型である。熱性けいれんを合併しやすく、まれに脳炎・脳症を起こす。ITPの先行感染となることはあるが頻度は高くなく、最も多いものではない。
- ○c. 風疹
風疹は風疹ウイルスによる発疹性疾患で、発熱、淡い紅色の小丘疹、耳介後部・後頸部のリンパ節腫脹を三主徴とし、発疹が3日程度で消えることから「三日はしか」とも呼ばれる。合併症として血小板減少性紫斑病(数千例に1例程度とされる)と急性脳炎が知られており、風疹ウイルス感染はITPの先行感染として代表的である。感染後に産生された抗体が血小板と交差反応する、あるいは免疫複合体が血小板に結合するなどの免疫学的機序で血小板が破壊されると考えられ、多くは数週〜数か月で自然に回復する。風疹を含む麻疹風疹(MR)ワクチンや麻疹・おたふくかぜ・風疹(MMR)ワクチンの接種後にも、まれにITPが報告されている。
- ×d. 流行性耳下腺炎
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)はムンプスウイルスによる感染症で、耳下腺の有痛性腫脹が特徴である。重要な合併症は無菌性髄膜炎、感音難聴(多くは一側性で高度)、精巣炎・卵巣炎、膵炎などである。まれに血小板減少をきたすことはあるが、ITPの先行感染として最も多いものではない。
- ×e. 溶連菌感染症
A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による咽頭炎・扁桃炎や猩紅熱の後には、リウマチ熱や溶連菌感染後急性糸球体腎炎、IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病)などの免疫学的合併症が続発することがある。IgA血管炎も紫斑をきたすが、血小板数は正常であり、血小板減少による紫斑とは区別される。溶連菌感染はITPの先行感染として典型的ではない。なお劇症型溶連菌感染症などで播種性血管内凝固(DIC)をきたせば血小板は減少するが、これはITPとは別の機序である。
ITPの病名と分類
従来は「特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura)」と呼ばれたが、自己抗体による免疫学的機序が明らかとなり「免疫性」に改められた。国際的には紫斑を伴わない例も多いことから「免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia)」とも呼ばれ、略称はいずれもITPである。 経過による分類として、従来は発症から6か月以内に治るものを急性型、6か月以上続くものを慢性型としていた。現在の国際基準では、診断から3か月未満を新規診断ITP、3〜12か月を持続性ITP、12か月以上を慢性ITPと分ける。
診断のポイント
・血小板数が10万/μL未満に減少し、赤血球・白血球には原則として異常がない。 ・骨髄では巨核球数が正常〜増加している(末梢での破壊が主体であるため)。 ・血小板関連IgG(PAIgG)は上昇することが多いが特異性は低い。 ・薬剤性、SLEなどの膠原病、肝硬変による脾機能亢進、白血病・骨髄異形成症候群、偽性血小板減少(EDTA依存性)などを除外する。
Helicobacter pyloriとの関係
成人のITPではH. pylori感染陽性例が多く、除菌療法によって約半数(報告により50〜60%程度)で血小板数が増加する。わが国では、H. pylori陽性の成人ITPに対し除菌療法がまず行われる。機序は明らかではないが、菌体成分に対する抗体と血小板との交差反応などが推定されている。
治療の概略
小児: 多くは自然に治るため、出血症状が軽ければ経過観察する。出血症状が強い場合や血小板が著しく少ない場合は、免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)や副腎皮質ステロイドを用いる。 成人: H. pylori陽性なら除菌。陰性や無効例では副腎皮質ステロイドが第一選択である。効果不十分な場合は、トロンボポエチン受容体作動薬(エルトロンボパグ、ロミプロスチム)、リツキシマブ、脾臓摘出、ホスタマチニブなどを検討する。緊急時(重篤な出血、手術前など)はIVIGや血小板輸血を行う。
POINT
・ITPは血小板に対する自己抗体により、主に脾臓で血小板が破壊される疾患。 ・小児型は発疹性ウイルス感染(風疹、麻疹、水痘など)や上気道炎、予防接種の後に急性発症し、多くは6か月以内に自然治癒する。 ・先行感染として代表的なのは風疹(風疹の合併症: 血小板減少性紫斑病、脳炎)。 ・成人型は女性・高齢者に多く慢性化しやすい。H. pylori陽性例では除菌で約半数が改善する。 ・骨髄では巨核球は正常〜増加、白血球・赤血球は正常。
