StudyMed医師国家試験

喘息の土台は「炎症を消すこと」―どのステップでも外れない吸入ステロイド

第105回医師国家試験 I問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第105回 I問題 第10問

成人気管支喘息の長期管理で,重症度にかかわらず第一選択薬となるのはどれか。

  1. a.テオフィリン徐放製剤
  2. b.長時間作用性β2刺激薬
  3. c.副腎皮質ステロイド吸入薬
  4. d.ロイコトリエン受容体拮抗薬
  5. e.長時間作用性抗コリン吸入薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、成人気管支喘息の長期管理でまず選ぶ薬を問う問題だ。ポイントは「喘息とはそもそも何の病気か」を押さえること。そこがわかれば、重症度に関係なく土台になる薬は自然に決まるよ。
医学生医学生
喘息は気道が狭くなる病気なので、気管支を広げる薬が一番大事なのかなと思ってしまいます。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。でも気道が狭くなるのは結果であって、本態は好酸球やTh2リンパ球、肥満細胞が関わる気道の慢性炎症なんだ。この炎症があるから、わずかな刺激で気道が過敏に反応して狭くなる。さらに炎症が続くと気道壁が厚く硬くなるリモデリングが進んで、元に戻りにくい気流制限になってしまう。
医学生医学生
基礎の病理の講義で、喘息の気道の写真で好酸球浸潤と基底膜の肥厚を見ました。あれが慢性炎症とリモデリングなんですね。
ドクタードクター
その通り。だから発作のない時期にも毎日続ける長期管理の目的は、症状をその場で和らげることではなく、炎症そのものを抑え続けることになる。最も強力な抗炎症薬は副腎皮質ステロイドで、吸入で気道に直接届ければ少ない量で効き、全身への副作用も小さく抑えられる。だから吸入ステロイド薬、つまりICSが、国内ガイドラインでも国際指針でも、最も軽いステップから最も重いステップまで一貫して基本薬なんだ。
医学生医学生
では長時間作用性β2刺激薬はどうでしょう。気管支拡張作用が長く続くなら、毎日の管理に向いていそうですが。
ドクタードクター
そこが大事な落とし穴。LABAは12時間以上続く強い気管支拡張作用をもつけれど、炎症を抑える力はほとんどない。単独で使うと症状だけが隠れて炎症は進み、重篤な発作や喘息死のリスクが高まることが示されているんだ。だから喘息ではLABAは必ずICSと併用する。ICSとLABAを一つの吸入器に入れた配合剤が広く使われているのはそのためだよ。
医学生医学生
ロイコトリエン受容体拮抗薬は抗炎症作用もあると習いました。飲み薬で使いやすいのに、第一選択ではないんですか。
ドクタードクター
いいところを突いているね。LTRAは気道収縮や好酸球の遊走を起こすロイコトリエンを遮断するから、抗炎症作用は確かにある。アレルギー性鼻炎を合併している人や運動誘発喘息、アスピリン喘息では特に役立つ。ただ抗炎症効果はICSより弱いので、ICSへの追加薬か、ICSが使えない場合の代替薬という位置づけになるんだ。
医学生医学生
テオフィリンは、薬理学の講義で血中濃度測定が必要な薬の代表として出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。テオフィリンは気管支拡張作用と弱い抗炎症作用をもつけれど、有効域と中毒域が近く、悪心・嘔吐や不整脈、けいれんが起こりうる。マクロライドやニューキノロンとの併用、発熱、心不全、肝障害で血中濃度が上がりやすい。これも追加薬や代替薬の扱いだ。
医学生医学生
長時間作用性抗コリン吸入薬は、呼吸器内科の実習でCOPDの患者さんがよく使っていました。
ドクタードクター
まさにLAMAはCOPDの長期管理の中心だね。喘息でも承認されている薬はあるけれど、ICS、通常はICSとLABAの配合剤で十分コントロールできない中等症以上への追加薬という扱いだ。閉塞隅角緑内障や前立腺肥大症のある人では注意が必要なのも押さえておこう。
医学生医学生
つまり、ほかの4つはどれも「ICSに上乗せするか、ICSが使えないときの代わり」で、土台はICSだけということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。ここから臨床での注意点。ICSは効果が出るまで数日から数週間かかるから、症状がよくなっても自己判断でやめないよう指導することが大切だ。そして吸入手技が悪いと薬が気道に届かない。デバイスの使い方は外来のたびに確認したいね。
医学生医学生
副作用は口腔カンジダ症と嗄声で、吸入後のうがいで予防するんでしたよね。
ドクタードクター
そう。全身性ステロイドのような骨粗鬆症や糖尿病は起こりにくいのが吸入の利点だ。それから発作時に使う短時間作用性β2刺激薬は、長期管理薬ではなく発作治療薬だという区別も大事。最近の国際指針では、発作時の頓用にもICSとホルモテロールの配合剤を使う方法が推奨されていて、気管支拡張薬だけに頼らない方向に変わってきている。重症例ではICSを土台に抗IgE抗体や抗IL-5抗体などの生物学的製剤を考慮する時代だよ。
医学生医学生
喘息とCOPDでは基本薬が逆になる、というのも試験で問われそうですね。
ドクタードクター
その通り。喘息は炎症が主体だからICS、COPDは気流閉塞が主体だから長時間作用性気管支拡張薬が基本。病態から薬を選ぶ癖をつけておけば、迷うことはなくなるよ。

まとめ

気管支喘息の本態は好酸球などが関与する気道の慢性炎症であり、長期管理の目的は症状の一時的な緩和ではなく炎症を抑え続けることにあります。最も強力な抗炎症薬である副腎皮質ステロイドを吸入で用いるICSは、全身性副作用を抑えつつ効果を発揮し、重症度にかかわらずすべての治療ステップで基本薬となります。LABA、LAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤、生物学的製剤はICSへの追加薬またはICSが使えない場合の代替薬であり、特にLABAの単独使用は喘息死のリスクを高めるため避けます。ICSは効果発現に時間がかかるため継続と正しい吸入手技の指導が重要で、口腔カンジダ症や嗄声はうがいで予防します。喘息は炎症が主体でICS、COPDは気流閉塞が主体で長時間作用性気管支拡張薬という病態に基づく薬の選び分けは、呼吸器診療の基本となる考え方です。

解答・解説

正解はcです

気管支喘息の本態は、好酸球・Th2リンパ球・肥満細胞などが関与する気道の慢性炎症である。この炎症が気道過敏性(わずかな刺激で気道が狭くなる性質)と可逆性の気流制限を生み、さらに炎症が長く続くと気道壁が厚く硬くなるリモデリングが進んで、治りにくい気流制限へと移行する。 したがって長期管理(発作のない時期にも毎日続けて発作を予防する治療)の目的は、症状を一時的に和らげることではなく、気道炎症そのものを抑え続けることにある。現在使える薬のなかで最も強力な抗炎症作用をもつのは副腎皮質ステロイドであり、これを吸入で気道に直接届ければ、少ない量で高い効果が得られ、全身性の副作用も最小限に抑えられる。このため、わが国の喘息予防・管理ガイドライン(JGL)でも国際指針(GINA)でも、吸入ステロイド薬(ICS:inhaled corticosteroid)は最も軽い治療ステップから最も重いステップまで一貫して基本薬として位置づけられている。 ほかの選択肢の薬はいずれも喘息の長期管理で使われるが、ICSでは不十分なときに上乗せする追加薬、あるいはICSが使えない場合の代替薬という位置づけである。「重症度にかかわらず第一選択」という問いに当てはまるのはICSだけである。

選択肢考察

  1. ×a.  テオフィリン徐放製剤

    第一選択ではない。テオフィリンはホスホジエステラーゼ阻害などを介した気管支拡張作用と、弱い抗炎症作用をもつが、効果はICSに及ばない。さらに有効血中濃度(おおむね5〜15 µg/mL)と中毒域が近く、悪心・嘔吐、頻脈・不整脈、けいれんなどの副作用が出やすい。マクロライド系抗菌薬やニューキノロン系薬、シメチジンとの併用、発熱、心不全、肝障害などで血中濃度が上がりやすいため、血中濃度の確認が必要になる。ICSに併用する追加薬の一つ、またはICSが使用できない軽症例の代替薬として用いられる。

  2. ×b.  長時間作用性β2刺激薬

    第一選択ではない。長時間作用性β2刺激薬(LABA:long-acting β2 agonist、サルメテロール、ホルモテロールなど)は約12時間以上続く強い気管支拡張作用をもつが、気道炎症を抑える作用はほとんどない。そのためLABA単独で長期管理を行うと、症状が隠れたまま炎症が進み、重篤な発作や喘息死のリスクが高まることが示されている。喘息ではLABAは必ずICSと併用し、ICSで不十分な中等症以上の段階で追加する。ICSとLABAを一つの吸入器に入れた配合剤が広く使われている。

  3. ○c.  副腎皮質ステロイド吸入薬

    正しい。喘息の根本である気道の慢性炎症を最も強力に抑える薬であり、軽症から重症までのすべての治療ステップで基本薬となる(重症度が上がるにつれて用量を増やし、他剤を追加する)。ICSを継続することで症状、発作の頻度、救急受診・入院、喘息死が減り、呼吸機能の改善とリモデリングの抑制も期待できる。吸入のため全身への移行が少なく、長期に使っても全身性ステロイドのような副作用(骨粗鬆症、糖尿病、副腎抑制など)が起こりにくい。局所の副作用として口腔カンジダ症、嗄声があり、吸入後のうがいで予防する。

  4. ×d.  ロイコトリエン受容体拮抗薬

    第一選択ではない。ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA:モンテルカスト、プランルカストなど)は、気道収縮・血管透過性亢進・好酸球の遊走を起こすシステイニルロイコトリエンの作用を遮断し、抗炎症作用と穏やかな気管支拡張作用を示す。経口薬で使いやすく、アレルギー性鼻炎の合併例、運動誘発喘息、アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)などで有用である。ただし抗炎症効果はICSより弱く、ICSに併用する追加薬、あるいはICSが使えない場合の代替薬という位置づけである。

  5. ×e.  長時間作用性抗コリン吸入薬

    第一選択ではない。長時間作用性抗コリン薬(LAMA:long-acting muscarinic antagonist、チオトロピウムなど)は、気道平滑筋のムスカリン受容体を遮断して気管支を拡張させる。COPD(慢性閉塞性肺疾患)では長期管理の中心となる薬である。喘息でもチオトロピウムなどが承認されているが、ICS(通常はICS/LABA)で十分にコントロールできない中等症〜重症例への追加薬という扱いであり、喘息で最初に選ぶ薬ではない。閉塞隅角緑内障や前立腺肥大症による排尿障害がある患者では使用に注意が必要である。

喘息治療薬の2つの役割

・長期管理薬(コントローラー):毎日継続して炎症を抑え、発作を予防する薬。ICS、LABA、LAMA、LTRA、テオフィリン徐放製剤、生物学的製剤など。 ・発作治療薬(リリーバー):発作時に頓用して速やかに気道を広げる薬。短時間作用性β2刺激薬(SABA:サルブタモール、プロカテロールなど)の吸入が代表。中等度以上の発作では全身性ステロイド、酸素投与なども行う。

段階的治療(ステップ治療)の考え方

JGLでは症状や呼吸機能から治療ステップ1〜4を選び、コントロール状態を評価しながら治療を強めたり(ステップアップ)弱めたり(ステップダウン)する。 ・ステップ1:低用量ICS(使えなければLTRAやテオフィリンで代替) ・ステップ2:低〜中用量ICS、必要に応じてLABA、LAMA、LTRA、テオフィリンのいずれかを追加 ・ステップ3:中〜高用量ICSに、LABA、LAMA、LTRA、テオフィリンを併用。重症例では生物学的製剤を考慮 ・ステップ4:高用量ICSに複数の追加薬を併用し、抗IgE抗体(オマリズマブ)、抗IL-5抗体(メポリズマブ)、抗IL-5受容体α抗体(ベンラリズマブ)、抗IL-4受容体α抗体(デュピルマブ)、抗TSLP抗体(テゼペルマブ)などの生物学的製剤、経口ステロイド、気管支熱形成術を考慮 どのステップでもICSが土台になっている点が重要である。なお国際指針(GINA)では、発作時の頓用薬としてもICSとホルモテロールの配合剤を用いる方法が推奨されるなど、SABA単独に頼る治療を避ける方向に変わってきている。

ICS使用上の注意

・効果が現れるまで数日〜数週間かかるため、症状が消えても自己判断で中止しないよう指導する。 ・吸入手技が不適切だと効果が出ないので、デバイスの使い方を繰り返し確認する。 ・副作用は口腔カンジダ症、嗄声、咽頭刺激感など局所のものが主で、吸入後のうがいで予防する。

喘息とCOPDの長期管理の違い

・喘息:気道炎症が主体 → ICSが基本。LABA単剤は禁忌的扱い。 ・COPD:気流閉塞が主体 → 長時間作用性気管支拡張薬(LAMA、LABA)が基本。ICSは喘息合併例や好酸球増多例、増悪を繰り返す例に限って追加する。

POINT

・気管支喘息の本態は気道の慢性炎症であり、長期管理の基本は抗炎症治療である。 ・吸入ステロイド薬(ICS)は重症度(治療ステップ)にかかわらず第一選択の長期管理薬である。 ・LABA、LAMA、LTRA、テオフィリン、生物学的製剤はICSへの追加薬(またはICSが使えない場合の代替薬)である。 ・喘息でLABAを単独使用してはならない(ICSと併用する)。 ・COPDの長期管理の中心は長時間作用性気管支拡張薬(LAMA/LABA)であり、喘息とは基本薬が異なる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。