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皮膚に浮かぶ光の帯―ループスバンドが語るSLEの免疫複合体病

第105回医師国家試験 I問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第105回 I問題 第11問

表皮真皮境界部に免疫グロブリンが沈着するのはどれか。

  1. a.全身性エリテマトーデス〈SLE〉
  2. b.全身性強皮症〉
  3. c.結節性多発動脈炎
  4. d.関節リウマチ
  5. e.皮膚筋炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、皮膚の表皮と真皮の境目に免疫グロブリンが沈着する膠原病はどれか、という問題だ。考えるカギは「その病気の組織障害がどんな仕組みで起こるか」。免疫複合体が主役の病気を思い出せれば答えに近づけるよ。
医学生医学生
免疫グロブリンの沈着というと、Ⅲ型アレルギーでしょうか。
ドクタードクター
いい出発点だね。そもそも皮膚のどこに免疫グロブリンがあるかは、皮膚生検の組織を蛍光色素で標識した抗体で染める蛍光抗体直接法で調べる。IgGやIgM、補体のC3などが光って見えるんだ。
医学生医学生
皮膚科の実習で、天疱瘡と類天疱瘡の蛍光抗体の写真を見比べました。網目状と線状で違うんですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。天疱瘡は表皮細胞間、類天疱瘡は基底膜部に線状。沈着の場所と形で病気を区別するという発想は、今回の問題にもそのまま使える。では膠原病のなかで、免疫複合体の沈着と補体の活性化が組織障害の中心になる病気といえば?
医学生医学生
全身性エリテマトーデスです。腎臓の講義でループス腎炎の「full house」パターンを習いました。
ドクタードクター
正解。SLEでは抗核抗体をはじめ多数の自己抗体がつくられ、抗原と結合した免疫複合体が組織に沈着して補体を活性化し、炎症を起こす。皮膚では表皮真皮境界部に沿って免疫グロブリンと補体が帯状に沈着し、蛍光抗体直接法で明るい帯として見える。これをループスバンドと呼び、確かめる検査をループスバンドテストというんだ。
医学生医学生
活動期に補体が下がるのも、この免疫複合体で補体が消費されるからですね。
ドクタードクター
その通り、低補体血症も同じ仕組みで説明できる。さらに面白いのは、SLEでは皮疹のない一見正常な皮膚でも陽性になりうること。皮膚に限局した円板状エリテマトーデスでは皮疹部だけが陽性で、無疹部は通常陰性。だから無疹部の陽性は全身型を示唆する手がかりになる。では、ほかの病気も見ていこう。全身性強皮症は?
医学生医学生
抗Scl-70抗体や抗セントロメア抗体が出るので、自己抗体が皮膚に沈着していそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そう迷うのは自然だね。でも強皮症の皮膚病変の本態は、血管内皮障害と線維芽細胞の活性化によるコラーゲンの過剰沈着、つまり線維化なんだ。自己抗体は診断には役立つけれど、それが表皮真皮境界部に沈着して病変をつくるわけではない。
医学生医学生
結節性多発動脈炎は血管炎なので、皮膚症状は血管の問題から来るんでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。中型の筋性動脈に壊死性血管炎を起こす病気で、網状皮斑や皮下結節、潰瘍が出るけれど、それは真皮深層から皮下の動脈の炎症と血流障害によるもの。ANCAは通常陰性で、B型肝炎ウイルスとの関連が知られているよ。関節リウマチも同様で、リウマトイド結節や血管炎による潰瘍はあっても、境界部への帯状の沈着はみられない。
医学生医学生
皮膚筋炎は、病理実習で見た皮疹の組織が基底層の液状変性でSLEと似ていた気がします。
ドクタードクター
鋭いね。皮膚筋炎の皮疹は組織像がSLEと似る面がある。でも境界部への免疫グロブリン沈着は通常みられないか乏しいので、ループスバンドテストはむしろ両者を区別するのに役立つんだ。ヘリオトロープ疹やGottron徴候、近位筋の筋力低下といった臨床像も合わせて考えよう。
医学生医学生
線維化なら強皮症、血管炎なら結節性多発動脈炎、免疫複合体の沈着ならSLEと、病態で整理すると見分けられますね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点。ループスバンドテストは陽性率が部位や病期で幅があり、陰性でもSLEは否定できない。現在の分類基準でも必須項目ではなく、あくまで補助的な検査だ。診断の柱は抗核抗体、そして特異性の高い抗dsDNA抗体と抗Sm抗体、さらに蝶形紅斑や腎炎、血球減少などの臨床像だということを忘れないでほしい。
医学生医学生
水疱症との違いも、線状か顆粒状の帯か、どこに沈着するかで覚えておきます。
ドクタードクター
いいまとめだね。類天疱瘡はIgGとC3が線状、疱疹状皮膚炎は真皮乳頭にIgAが顆粒状。蛍光抗体の所見を病態と結びつけて覚えると、皮膚科と膠原病の両方で強い武器になるよ。

まとめ

全身性エリテマトーデスでは、自己抗体と抗原からなる免疫複合体が組織に沈着して補体を活性化するⅢ型アレルギーが組織障害の中心で、皮膚では表皮真皮境界部に免疫グロブリンと補体が帯状に沈着します。これを蛍光抗体直接法で確認するのがループスバンドテストで、無疹部でも陽性となれば皮膚限局型の円板状エリテマトーデスではなく全身型のSLEを示唆します。全身性強皮症は線維化、結節性多発動脈炎は中型動脈の壊死性血管炎、関節リウマチは滑膜炎が本態であり、皮膚筋炎は組織像がSLEと似ても境界部の免疫グロブリン沈着は乏しい点で区別されます。ただしこの検査は補助的なもので、陰性でもSLEは否定できず、診断は抗dsDNA抗体・抗Sm抗体などの自己抗体と臨床像を総合して行います。沈着の部位と形から病態を読み解く考え方は、膠原病と自己免疫性水疱症の理解に共通する基盤となります。

解答・解説

正解はaです

皮膚生検の組織を蛍光色素で標識した抗体で染めると、免疫グロブリン(IgG、IgM、IgAなど)や補体(C3など)が皮膚のどこに沈着しているかを直接観察できる。これを蛍光抗体直接法(DIF:direct immunofluorescence)という。 全身性エリテマトーデス(SLE)では、抗核抗体をはじめとする多数の自己抗体が産生され、抗原と結合した免疫複合体が組織に沈着して補体を活性化し、炎症を起こす(Ⅲ型アレルギー)。皮膚では表皮と真皮の境界部(基底膜部)に沿ってIgG、IgMなどの免疫グロブリンとC3などの補体が帯状(顆粒状の帯)に沈着し、蛍光抗体直接法で明るい帯として見える。これをループスバンドと呼び、生検で確認する検査をループスバンドテストという。SLEでは皮疹のある部位だけでなく、皮疹のない、見た目は正常な皮膚(特に日光に当たる部位)でも陽性となることがあり、これが全身性の疾患であるSLEと、皮膚に限局した円板状エリテマトーデス(DLE)とを区別する手がかりにもなる。 他の選択肢の膠原病・血管炎では、皮膚症状はあっても、その主な仕組みは線維化、血管の炎症・閉塞、筋・皮膚の炎症などであり、表皮真皮境界部への免疫グロブリン沈着は診断的所見とはならない。

選択肢考察

  1. ○a.  全身性エリテマトーデス〈SLE〉

    正しい。SLEでは免疫複合体の沈着と補体の活性化が組織障害の中心であり、皮膚では表皮真皮境界部に免疫グロブリン(IgG、IgM、IgA)と補体(C3、C1qなど)が帯状に沈着する(ループスバンド)。皮疹部だけでなく無疹部でも陽性となることがあり、無疹部で陽性であれば全身型のSLEを示唆する所見として診断の補助になる。なお皮膚に限局するDLEでは、皮疹部で陽性となり無疹部では通常陰性である。

  2. ×b.  全身性強皮症〉

    該当しない。全身性強皮症の皮膚病変は、血管内皮障害と線維芽細胞の活性化によってコラーゲンが過剰に沈着する線維化が本態である。手指から始まる皮膚硬化、Raynaud現象、指尖潰瘍・陥凹性瘢痕、爪上皮出血点などがみられる。抗Scl-70(トポイソメラーゼⅠ)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体などの自己抗体は診断に有用だが、これらが皮膚の表皮真皮境界部に沈着して病変をつくるわけではない。

  3. ×c.  結節性多発動脈炎

    該当しない。結節性多発動脈炎は主に中型の筋性動脈に壊死性血管炎を起こす疾患で、ANCA(抗好中球細胞質抗体)は通常陰性であり、B型肝炎ウイルス感染との関連が知られる。皮膚症状としては網状皮斑(リベド)、皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽などがあるが、これらは真皮深層〜皮下の動脈の炎症と血流障害によるもので、表皮真皮境界部への免疫グロブリン沈着を特徴とするものではない。

  4. ×d.  関節リウマチ

    該当しない。関節リウマチは滑膜の慢性炎症による多発関節炎が中心の疾患で、リウマトイド因子や抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)が陽性となる。皮膚症状としては肘などの圧迫部位にできるリウマトイド結節や、悪性関節リウマチ(リウマトイド血管炎)での皮膚潰瘍・指趾壊疽などがあるが、表皮真皮境界部に免疫グロブリンが帯状に沈着する所見はみられない。

  5. ×e.  皮膚筋炎

    該当しない。皮膚筋炎はヘリオトロープ疹(上眼瞼の紫紅色浮腫性紅斑)、Gottron丘疹・Gottron徴候(手指関節背面の角化性紅斑)、Vネック徴候・ショール徴候などの特徴的な皮疹と、近位筋優位の筋力低下を示す。皮疹の組織像は表皮基底層の液状変性などSLEと似た面があるが、表皮真皮境界部への免疫グロブリン沈着は通常みられないか乏しく、ループスバンドテストはSLEとの区別に役立つ。筋炎特異的自己抗体(抗ARS抗体、抗MDA5抗体、抗TIF1-γ抗体、抗Mi-2抗体など)は病型や合併症の予測に有用である。

蛍光抗体直接法で表皮真皮境界部(基底膜部)に沈着がみられる主な疾患

・SLE、DLE:IgG、IgM、IgA、C3などが顆粒状・帯状に沈着(ループスバンド)。 ・水疱性類天疱瘡:IgGとC3が基底膜部に線状に沈着。自己抗原はBP180(ⅩⅦ型コラーゲン)、BP230。 ・後天性表皮水疱症:IgGが基底膜部に線状に沈着(Ⅶ型コラーゲンに対する自己抗体)。 ・線状IgA水疱性皮膚症:IgAが基底膜部に線状に沈着。 ・疱疹状皮膚炎:真皮乳頭にIgAが顆粒状に沈着。 なお尋常性天疱瘡・落葉状天疱瘡では、沈着は表皮細胞間(デスモグレインに対する自己抗体)であり、基底膜部ではない。沈着の場所と形(線状か顆粒状か)で疾患を区別できる。

SLEの概要

・若年女性に多い全身性自己免疫疾患。抗核抗体がほぼ全例で陽性で、抗dsDNA抗体と抗Sm抗体が特異性の高い自己抗体である。 ・皮膚粘膜症状:蝶形紅斑、円板状皮疹、光線過敏症、口腔潰瘍、脱毛など。 ・その他:関節炎、漿膜炎(胸膜炎・心膜炎)、ループス腎炎(糸球体への免疫複合体沈着)、精神神経症状、血球減少(溶血性貧血、白血球減少、血小板減少)。 ・活動期には補体(C3、C4、CH50)が低下する。これも免疫複合体による補体消費を反映している。 ・ループス腎炎の腎生検でも免疫グロブリン・補体が多彩に沈着し、IgG、IgA、IgM、C3、C1qがすべて陽性となる「full house」パターンが特徴的である。

ループスバンドテストの位置づけ

皮疹部の陽性はSLEにもDLEにもみられる。無疹部(特に日光非露光部)で陽性であれば全身性のSLEを示唆し、疾患活動性やループス腎炎との関連も指摘されている。ただし陽性率は部位や病期により幅があり、陰性でもSLEは否定できない。現在の分類基準では必須項目ではなく、あくまで診断の補助的検査である。

POINT

・表皮真皮境界部への免疫グロブリン・補体の帯状沈着(ループスバンド)はSLEの特徴で、蛍光抗体直接法で確認する(ループスバンドテスト)。 ・SLEでは皮疹のない部位でも陽性となりうる。DLEでは皮疹部のみ陽性。 ・SLEの組織障害はⅢ型アレルギー(免疫複合体の沈着と補体活性化)が中心で、低補体血症も同じ機序による。 ・基底膜部に線状のIgG・C3沈着なら水疱性類天疱瘡、表皮細胞間の沈着なら天疱瘡と、沈着部位とパターンで疾患を区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。