StudyMed医師国家試験

円柱の中に閉じ込められた赤血球―健診の血尿が教えるIgA腎症

第105回医師国家試験 G問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第105回 G問題 第19問

健康診断で尿異常を指摘されて来院した患者の尿沈渣の顕微鏡写真を別に示す。尿所見:蛋白1+,潜血3+。  この患者の診断として可能性が高いのはどれか。

第105回 G問題 第19問の問題画像
  1. a.IgA腎症
  2. b.腎硬化症
  3. c.腎盂腎炎
  4. d.間質性腎炎
  5. e.尿酸腎症〈痛風腎〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は健診で見つかった尿異常から、病変の場所と疾患を推定する問題だ。注目したいのは2点。蛋白と潜血のどちらが目立つか、そして尿沈渣に何が写っているか。特に沈渣の所見は、病変が腎臓のどこにあるかを教えてくれる強力な手がかりなんだ。
医学生医学生
潜血3+に対して蛋白は1+なので、血尿が主体ですね。でも血尿だけだと、膀胱がんや結石の可能性も考えてしまいます。
ドクタードクター
いい視点だね。血尿はネフロンのどこからでも、下部尿路からでも出る。そこで沈渣の写真が効いてくる。写っているのは、円柱の中に赤血球がぎっしり詰まった像、つまり赤血球円柱だ。
医学生医学生
円柱って、そもそもどこでできるんでしたっけ。臨床検査の実習で硝子円柱は見ましたが、成り立ちは曖昧です。
ドクタードクター
円柱は尿細管の内腔で、Tamm-Horsfall蛋白、別名ウロモジュリンが固まってできる鋳型なんだ。だから円柱の中に取り込まれた成分は、尿細管より上流、つまりネフロン内から来たことを意味する。赤血球が円柱に入っているということは、糸球体の基底膜が傷ついて赤血球が尿細管へ漏れ出したということ。
医学生医学生
膀胱や尿管からの出血なら、尿細管を通らないので円柱には入らないわけですね。
ドクタードクター
その通り。だから赤血球円柱は、糸球体性血尿と非糸球体性血尿を分ける決め手になり、糸球体腎炎を強く示唆する。では、健診で偶然見つかり、血尿優位で、赤血球円柱がある。この組み合わせで最初に考える疾患は何だろう。
医学生医学生
日本で一番多い原発性糸球体腎炎、IgA腎症でしょうか。
ドクタードクター
正解。IgA腎症はメサンギウム領域にIgAが沈着する慢性糸球体腎炎で、多くは無症状のまま学校健診や職場健診の検尿で見つかる。持続的な顕微鏡的血尿が中心で、蛋白尿は軽度から中等度のことが多い。本症例の所見とよく合う。ほかの選択肢も確認しておこう。まず腎硬化症は?
医学生医学生
高血圧の患者さんの腎臓が悪くなるイメージです。血尿は出るんでしょうか。
ドクタードクター
腎硬化症は高血圧や加齢で腎内の細い動脈が硬くなり、虚血で糸球体硬化や尿細管萎縮が進む病態だ。尿所見は乏しく、あっても軽い蛋白尿程度で、血尿や赤血球円柱は目立たない。長い高血圧歴が背景にあるのが普通だね。
医学生医学生
腎盂腎炎は、内科の実習で発熱と背中の痛みで入院した患者さんを担当しました。叩打痛がはっきりしていました。
ドクタードクター
良い経験だね。腎盂腎炎は主に大腸菌の上行性感染で、発熱、腰背部痛、肋骨脊柱角の叩打痛を伴う。沈渣では膿尿と細菌尿、そして尿細管間質の炎症を反映して白血球円柱が特徴的だ。症状のない健診発見例で赤血球円柱、という今回とは違う。
医学生医学生
間質性腎炎も白血球円柱のグループですか。
ドクタードクター
そう。間質性腎炎は抗菌薬、NSAIDs、プロトンポンプ阻害薬などの薬剤や自己免疫疾患で尿細管間質に炎症が起こる。白血球尿や白血球円柱、好酸球尿、尿中β2ミクログロブリンやNAGの上昇といった尿細管障害のマーカーが中心で、赤血球円柱は通常みられない。
医学生医学生
痛風腎は尿酸結石で血尿が出そうですが、それは下部尿路の出血なので円柱にはならない、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。尿酸腎症は尿酸塩結晶が腎髄質の間質に沈着する慢性の尿細管間質障害で、軽い蛋白尿や尿濃縮力の低下が主体。結石による血尿は非糸球体性だから赤血球円柱はつくらない。円柱の種類で病変部位を整理しておくと便利だよ。赤血球円柱は糸球体、白血球円柱は尿細管間質の炎症、脂肪円柱や卵円形脂肪体はネフローゼ症候群、顆粒円柱や上皮円柱は尿細管上皮の障害、硝子円柱は健常者でも少数みられる。
医学生医学生
円柱がなくても、赤血球の形で糸球体性かどうか分かると聞いたことがあります。
ドクタードクター
変形赤血球のことだね。糸球体性血尿では赤血球が基底膜の隙間をくぐり抜け、尿細管で浸透圧の変化にさらされるため、大小不同やコブ状の突出を示す。一方、腫瘍や結石など下部尿路からの出血では形が均一だ。IgA腎症の臨床的な特徴としては、上気道炎の直後、1〜3日程度で肉眼的血尿が出ることがある。感染から1〜2週間おいて発症する溶連菌感染後の急性糸球体腎炎と対比して覚えよう。血清IgAは約半数で上昇するが、補体は正常だ。
医学生医学生
確定診断は腎生検で、メサンギウムへのIgA沈着を蛍光抗体法で確認するんですね。予後は良いんでしょうか。
ドクタードクター
以前は良性と考えられていたけれど、長期的には少なからぬ例が末期腎不全に進む。蛋白尿の量、腎機能低下、高血圧、組織所見が予後因子になる。治療はRA系阻害薬、副腎皮質ステロイド、口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用などが行われる。健診の血尿を「よくあること」と放置せず、蛋白尿の有無や沈渣を確認して適切に専門医へつなぐことが大切だよ。

まとめ

尿沈渣の赤血球円柱は、尿細管内で形成される円柱に赤血球が取り込まれたもので、糸球体からの出血、すなわち糸球体腎炎を強く示唆します。健診で偶然見つかり、蛋白尿より血尿が優位で赤血球円柱を伴う場合は、わが国で最も多い原発性糸球体腎炎であるIgA腎症をまず考えます。腎盂腎炎や間質性腎炎では白血球円柱が、腎硬化症では乏しい尿所見が特徴で、尿酸腎症の結石による血尿は円柱を伴いません。IgA腎症は上気道炎直後の肉眼的血尿、補体正常、腎生検でのメサンギウムへのIgA沈着が特徴で、長期的に末期腎不全へ進む例もあります。円柱の種類から病変部位を推定する考え方は、検尿異常を正しく評価し、見逃してはならない腎疾患を拾い上げるための基本となります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

健康診断で偶然見つかった尿異常であり、自覚症状の記載はない。尿定性では蛋白1+に対して潜血3+と、蛋白よりも血尿が目立つ。尿沈渣の写真では、円柱(尿細管の中でTamm-Horsfall蛋白〈ウロモジュリン〉が固まってできる鋳型)の内部に赤血球が多数詰まった像がみられ、これは赤血球円柱である。

赤血球円柱の意味

円柱は尿細管の内腔で形成されるため、円柱の中に取り込まれた成分は「尿細管より上流、つまりネフロン内に由来する」ことを示す。赤血球円柱は、糸球体基底膜の破綻によって糸球体から赤血球が尿細管へ漏れ出したことを意味し、糸球体腎炎を強く示唆する所見である。膀胱や尿管など下部尿路からの出血では円柱は形成されないので、赤血球円柱の有無は糸球体性血尿と非糸球体性血尿を分ける重要な手がかりとなる。

診断への考え方

無症候で健診時に見つかる、血尿優位(蛋白尿は軽度)、赤血球円柱あり、という3点から、慢性糸球体腎炎、とくに日本で最も頻度の高い原発性糸球体腎炎であるIgA腎症をまず考える。他の選択肢は、血管病変(腎硬化症)、尿細管間質の病変(腎盂腎炎、間質性腎炎、尿酸腎症)であり、いずれも糸球体性の血尿や赤血球円柱を主体とする病態ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  IgA腎症

    IgA腎症はメサンギウム領域にIgAが沈着する慢性糸球体腎炎で、わが国の原発性糸球体腎炎の中で最も多い。多くは無症状のまま健診の検尿で発見され、持続的な顕微鏡的血尿が特徴で、蛋白尿は軽度から中等度にとどまることが多い。糸球体障害による血尿であるため、尿沈渣で変形赤血球や赤血球円柱がみられる。健診発見・潜血優位・赤血球円柱という本症例の所見と合致する。

  2. ×b.  腎硬化症

    腎硬化症は高血圧や加齢による腎内小動脈・細動脈の硬化によって腎虚血が進み、糸球体硬化や尿細管萎縮をきたす病態である。尿所見は乏しく、あっても軽度の蛋白尿程度で、血尿や赤血球円柱は通常目立たない。また長期の高血圧歴を背景とするのが一般的であり、本症例とは合わない。

  3. ×c.  腎盂腎炎

    腎盂腎炎は主に大腸菌などの上行性感染による腎盂・腎実質(尿細管間質)の細菌感染症である。急性例では発熱、腰背部痛、肋骨脊柱角の叩打痛を伴い、尿沈渣では膿尿(白血球尿)、細菌尿がみられ、腎実質に炎症が及ぶため白血球円柱が特徴的である。血尿を伴うこともあるが、赤血球円柱は糸球体の障害を示す所見であり腎盂腎炎の特徴ではない。症状のない健診発見例という点でも合わない。

  4. ×d.  間質性腎炎

    間質性腎炎は薬剤(抗菌薬、NSAIDs〈非ステロイド性抗炎症薬〉、プロトンポンプ阻害薬など)や自己免疫疾患などにより尿細管間質に炎症が起こる病態である。尿所見は白血球尿、白血球円柱、好酸球尿、尿中β2ミクログロブリンやNAG(N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ)の上昇などの尿細管障害マーカーの増加が中心で、蛋白尿は軽度である。赤血球円柱は糸球体性の病変を示すため、本症では通常みられない。

  5. ×e.  尿酸腎症〈痛風腎〉

    尿酸腎症(痛風腎)は長期の高尿酸血症により尿酸塩結晶が腎髄質の間質に沈着し、慢性の尿細管間質障害をきたすものである。尿所見は軽度の蛋白尿や尿濃縮力低下が主体で、尿沈渣では尿酸結晶がみられることがある。尿路結石を合併すれば血尿を生じうるが、それは下部尿路由来の非糸球体性血尿であり、赤血球円柱は形成されない。

尿沈渣の円柱と病変部位

・赤血球円柱:糸球体からの出血を示す。糸球体腎炎(IgA腎症、急性糸球体腎炎、急速進行性糸球体腎炎、ループス腎炎など)。 ・白血球円柱:尿細管間質の炎症を示す。腎盂腎炎、間質性腎炎。 ・脂肪円柱、卵円形脂肪体:高度の蛋白尿。ネフローゼ症候群。 ・顆粒円柱、上皮円柱:尿細管上皮の障害。急性尿細管壊死などの腎実質障害。 ・硝子円柱:健常者でも少数みられ、脱水や運動後に増える。

糸球体性血尿と非糸球体性血尿

糸球体性血尿では、赤血球が糸球体基底膜の小さな隙間を通り抜け、さらに尿細管内の浸透圧変化にさらされるため、大小不同やコブ状突出(ドーナツ状など)を示す変形赤血球(dysmorphic RBC)となる。赤血球円柱や蛋白尿の合併も糸球体性を示唆する。これに対し、腎盂・尿管・膀胱の腫瘍、結石、感染などによる非糸球体性血尿では、赤血球は均一な形態で円柱を伴わない。

IgA腎症の概要

・病理:メサンギウム細胞の増殖と基質の増加、蛍光抗体法でメサンギウム領域へのIgA(およびC3)の顆粒状沈着。 ・臨床:健診の検尿異常で発見されることが多い。上気道炎の直後(1〜3日程度)に肉眼的血尿をきたすことがある(急性糸球体腎炎では感染から1〜2週間の潜伏期がある点と対比)。血清IgAは約半数で上昇するが、補体は正常である。 ・確定診断:腎生検による。 ・予後:以前は良性疾患と考えられていたが、長期的には少なからぬ例が末期腎不全に進行する。蛋白尿の量、腎機能低下、高血圧、組織所見が予後因子となる。 ・治療:RA系阻害薬、副腎皮質ステロイド、扁桃摘出術(口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用)などが行われる。

POINT

・赤血球円柱=糸球体からの出血=糸球体腎炎を示唆する。 ・白血球円柱は腎盂腎炎・間質性腎炎など尿細管間質の炎症を示唆する。 ・健診で発見される血尿優位の尿異常では、まずIgA腎症を考える。 ・腎硬化症は尿所見に乏しく、尿酸腎症の血尿は結石など下部尿路由来で円柱を伴わない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。