寝たきりでも床ずれができにくい―ALSの「陰性4徴候」が教える運動ニューロン病の素顔
第105回医師国家試験 G問題 第20問
国試問題にチャレンジ
寝たきりになっても褥瘡が生じにくいのはどれか。
- a.Parkinson病
- b.多系統萎縮症
- c.Alzheimer型認知症
- d.筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉
- e.アミロイドポリニューロパチー
対話形式の解説
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ドクターまとめ
褥瘡は持続的な圧迫による皮膚の虚血・壊死で、寝たきりに加えて感覚障害、自律神経障害(皮膚血流調節や発汗の異常、失禁)、低栄養、認知障害が重なると生じやすくなります。ALSは上位・下位運動ニューロンが選択的に障害され感覚系・自律神経系が保たれるため、感覚障害・眼球運動障害・膀胱直腸障害・褥瘡が起こりにくい「陰性4徴候」が知られています。一方、Parkinson病や多系統萎縮症、アミロイドポリニューロパチーは自律神経障害を伴い、進行期のAlzheimer型認知症は認知障害や低栄養、失禁が重なるため、いずれも褥瘡をきたしやすい疾患です。ただし長期人工呼吸管理例では陰性徴候が崩れることもあり、どの疾患でも体位変換や体圧分散などの予防ケアは欠かせません。障害される神経系と臨床症状を結びつけて考える姿勢は、神経疾患の理解と日々の患者ケアの両方に役立ちます。
解答・解説
正解はdです
問われていること
褥瘡(床ずれ)は、骨突出部などに持続的な圧迫が加わり、皮膚や皮下組織の血流が途絶えて壊死に陥る状態である。寝たきり(体動困難)はそれだけで大きな危険因子であり、さらに感覚障害(痛みや不快感に気づけない)、自律神経障害(皮膚血流調節や発汗の異常、失禁による皮膚の湿潤)、低栄養、意識・認知障害などが加わると一層生じやすくなる。
正解を導く考え方
選択肢の中で、寝たきりになっても褥瘡ができにくいことが古くから知られている疾患は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)である。ALSは上位・下位の運動ニューロンが選択的に変性する疾患で、感覚系や自律神経系は原則として保たれる。このため、ALSでは「陰性4徴候」として、感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡の4つが起こりにくいとされる。 これに対し、Parkinson病、多系統萎縮症、アミロイドポリニューロパチーはいずれも自律神経障害を伴い、進行期のAlzheimer型認知症では認知障害や低栄養、失禁などが重なるため、寝たきりになれば褥瘡をきたしやすい。
選択肢考察
- ×a. Parkinson病
Parkinson病は黒質のドパミン神経細胞の変性により、安静時振戦、筋強剛、無動、姿勢反射障害をきたす疾患である。運動症状に加えて、便秘、脂顔(脂漏性顔貌)、起立性低血圧、排尿障害などの自律神経症状を高頻度に伴う。進行して寝たきりになると、無動による体位変換の困難、自律神経障害、嚥下障害に伴う低栄養などが重なり、褥瘡はしばしば生じる。
- ×b. 多系統萎縮症
多系統萎縮症(MSA)は、小脳症状が主体の病型(かつてのオリーブ橋小脳萎縮症)、パーキンソニズムが主体の病型(かつての線条体黒質変性症)、自律神経症状が目立つ病型(かつてのShy-Drager症候群)を包括する疾患で、グリア細胞内のαシヌクレイン封入体を特徴とする。起立性低血圧や排尿障害などの自律神経障害はParkinson病よりも高度であることが多い。進行して臥床状態になれば褥瘡の危険は高い。
- ×c. Alzheimer型認知症
Alzheimer型認知症の末期には、高度の認知障害に加えて歩行障害や筋強剛などの運動障害が現れ、寝たきりとなる。自発的な体位変換が乏しく、痛みや不快を訴えることも難しいうえ、摂食困難による低栄養や失禁による皮膚の湿潤も重なるため、褥瘡が非常に生じやすい。褥瘡の原因疾患としては脳血管障害と並んで頻度が高い。
- ○d. 筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉
ALSは上位運動ニューロン(大脳運動野の錐体細胞)と下位運動ニューロン(脳幹運動神経核・脊髄前角細胞)が選択的に変性する疾患である。感覚神経や自律神経は原則として障害されないため、圧迫による痛みや不快を感じ取ることができ、皮膚の血流調節も保たれる。また、ALS患者の皮膚ではコラーゲン線維の変化など独特の性状がみられ、それも褥瘡のできにくさに関与すると考えられている。これらの理由から、寝たきりになっても褥瘡が生じにくく、陰性4徴候の一つに数えられている。
- ×e. アミロイドポリニューロパチー
家族性アミロイドポリニューロパチーは、主に変異トランスサイレチン(TTR)、まれにゲルソリンやアポリポ蛋白A-Iなどを前駆蛋白とするアミロイドが末梢神経、自律神経、心臓などに沈着する遺伝性の全身性アミロイドーシスである。下肢から始まる温痛覚優位の感覚障害(解離性感覚障害)と、起立性低血圧、下痢・便秘、排尿障害、発汗異常などの自律神経障害が目立つ。感覚障害と自律神経障害がそろっているため、褥瘡や難治性の皮膚潰瘍、無痛性の外傷を生じやすい。
ALSの陰性4徴候
ALSで原則として出現しにくい症状として、次の4つが知られている。 1. 感覚障害 2. 眼球運動障害(外眼筋を支配する動眼・滑車・外転神経核は保たれやすい) 3. 膀胱直腸障害(仙髄のOnuf核は保たれやすい) 4. 褥瘡 ただし、人工呼吸器を装着して長期に療養する例では、これらの徴候が出現してくることもある。また、眼球運動が保たれることは、進行期の意思伝達(視線入力装置や文字盤)に活用される。
ALSの概要
・症状:一側上肢の筋力低下・筋萎縮で始まることが多く、線維束性収縮、構音障害・嚥下障害などの球麻痺症状、上位運動ニューロン徴候(腱反射亢進、病的反射)がみられる。 ・予後:呼吸筋麻痺により、人工呼吸器を用いなければ発症から数年で死亡することが多い。 ・治療:リルゾール、エダラボンなどの薬物療法のほか、非侵襲的陽圧換気、気管切開下人工呼吸、胃瘻などの対症療法と多職種による療養支援が中心となる。
褥瘡の危険因子と予防
・危険因子:可動性・活動性の低下、知覚の低下、皮膚の湿潤(失禁、発汗)、摩擦とずれ、低栄養、病的骨突出、浮腫など。評価にはBradenスケールなどが用いられる。 ・好発部位:仰臥位では仙骨部、踵部、後頭部、肩甲骨部。側臥位では大転子部。 ・予防:定期的な体位変換、体圧分散マットレスの使用、スキンケア、栄養管理。
家族性アミロイドポリニューロパチーの治療
変異TTRは主に肝臓で産生されるため、かつては肝移植が中心的治療であった。現在はTTR四量体安定化薬(タファミジス)や、TTR産生を抑制する核酸医薬(パチシラン、ブトリシランなど)も用いられる。
POINT
・ALSは運動ニューロンが選択的に障害され、感覚系・自律神経系は保たれる。 ・ALSの陰性4徴候:感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡。 ・Parkinson病、多系統萎縮症、アミロイドポリニューロパチーは自律神経障害を伴い、褥瘡を生じやすい。 ・進行期の認知症は脳血管障害と並ぶ褥瘡の代表的な基礎疾患である。
