息を忘れる早産児―無呼吸発作の「原因」と「結果」を見分ける
第105回医師国家試験 E問題 第41問
国試問題にチャレンジ
生後2日の新生児。在胎31週,1,650 gで出生した。Apgarスコア8点(1分),9点(5分)。20~25秒間の無呼吸発作が数回みられ,発作時の心拍数は92~100/分であり,チアノーゼを認める。非発作時に明らかな異常を認めない。脳波に異常を認めない。血糖52 mg/dL,血清電解質に異常を認めない。 発作の病態として考えられるのはどれか。
- a.低血糖
- b.けいれん
- c.気道狭窄
- d.低酸素症
- e.呼吸中枢の未熟性
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
新生児の無呼吸発作は、20秒以上の呼吸停止、または徐脈やチアノーゼを伴う呼吸停止と定義され、未熟性による一次性と、感染症・頭蓋内出血・けいれん・低血糖・電解質異常などによる二次性に分けられます。在胎34週未満の早産児で二次性の原因が除外され、非発作時に異常がなければ、延髄の呼吸中枢の未熟性による未熟児無呼吸発作と考えます。発作時のチアノーゼは呼吸停止の結果であり原因ではないこと、脳波正常や徐脈の存在がけいれんを否定する手がかりになることを押さえておきましょう。治療は皮膚刺激、クエン酸カフェインなどのメチルキサンチン製剤、nasal CPAPが中心で、多くは修正34〜37週ごろまでに消失します。原因と結果を区別して病態を考える姿勢は、新生児医療に限らずあらゆる臨床推論の基本になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・在胎31週、出生体重1,650 g → 早産児であり、低出生体重児(2,500 g 未満)である ・Apgarスコア8点(1分)、9点(5分)→ 出生時の仮死はなく、生直後の呼吸・循環の適応は良好であった ・生後2日に20〜25秒間の無呼吸発作が数回出現し、発作時に徐脈(92〜100/分)とチアノーゼを伴う ・発作のない時は明らかな異常なし ・脳波異常なし、血糖52 mg/dL、電解質異常なし
診断へのプロセス
新生児の無呼吸発作は、一般に「20秒以上の呼吸停止」、または「20秒未満でも徐脈(心拍数100/分未満)やチアノーゼ・酸素飽和度低下を伴う呼吸停止」と定義される。本例はこれに当てはまる。 無呼吸発作には、未熟性そのものによる一次性(特発性)のものと、他の病気が原因となる二次性(症候性)のものがある。二次性の原因としては、敗血症などの感染症、頭蓋内出血、けいれん、低血糖・電解質異常などの代謝異常、低体温・高体温、貧血、動脈管開存症、呼吸器疾患、胃食道逆流、母体に投与された薬剤の影響などが挙げられる。 本例では、脳波が正常であることからけいれんは否定的で、血糖と電解質も正常範囲にある。出生時の状態は良好で、発作のない時は異常がなく、呼吸器疾患や全身状態の悪化を示す所見もない。在胎31週という未熟性を考えると、延髄にある呼吸中枢の発達が未熟なために起こる無呼吸発作、すなわち未熟児無呼吸発作(apnea of prematurity)と考えるのが最も妥当である。
設問の考え方
問われているのは「発作の病態」、つまり発作を引き起こしている原因である。発作の結果として生じている現象(チアノーゼ=低酸素)と、発作を起こしている原因(呼吸中枢の未熟性)を区別することが大切である。
選択肢考察
- ×a. 低血糖
新生児の低血糖は無呼吸・けいれん・振戦・哺乳不良などの原因となるため、無呼吸発作では必ず血糖を確認する。しかし本例の血糖は52 mg/dLで、現在の一般的な治療・介入の目安(おおむね50 mg/dL未満)を上回っており、低血糖とはいえない。なお、かつては早産児の低血糖を20 mg/dL未満、正期産児を30 mg/dL未満などとする基準が用いられていたが、神経学的予後への影響を考慮し、現在はより高い値で介入するのが一般的である。いずれの基準でも本例は低血糖に該当しない。
- ×b. けいれん
新生児けいれんは、はっきりした手足のけいれんを示さず、無呼吸や眼球偏位、口をもぐもぐさせる動きなどの微細な症状(微細発作)として現れることがあり、無呼吸発作の鑑別として重要である。けいれん性の無呼吸であれば脳波で発作波が確認されることが多い。また、けいれんに伴う無呼吸では初期に心拍数が増加しやすく、徐脈を伴いにくいとされる。本例は脳波に異常がなく、発作時に徐脈を伴っていることから、けいれんは考えにくい。
- ×c. 気道狭窄
喉頭軟化症や声門下狭窄、小顎症などの先天的な気道狭窄があれば、出生直後から吸気性喘鳴や陥没呼吸、持続的な呼吸困難がみられるはずである。本例は Apgarスコアが良好で、発作のない時は異常を認めず、固定した気道の異常は考えにくい。なお、未熟児無呼吸発作の一部には、咽頭の筋緊張の低さによる一過性の上気道閉塞(閉塞性無呼吸)が混在することがあるが、その根本には中枢の未熟性があり、器質的な気道狭窄とは異なる。
- ×d. 低酸素症
本例の発作時にはチアノーゼがあり、低酸素状態にあることは確かである。しかしこれは呼吸が止まった結果として生じたものであり、発作を引き起こしている病態ではない。発作のない時には異常がなく、持続的な低酸素状態をきたす肺や心臓の病気を示唆する所見もない。原因と結果を取り違えないことが大切である。
- ○e. 呼吸中枢の未熟性
早産児では、延髄の呼吸中枢の神経ネットワークが未熟で、血中の二酸化炭素の上昇に対する換気の反応が弱く、低酸素に対してはむしろ呼吸が抑えられる反応を示すことがある。そのため呼吸のリズムが不安定になり、無呼吸発作を起こしやすい。この未熟児無呼吸発作は在胎週数が短いほど頻度が高く、在胎34週未満の早産児に多い。本例は在胎31週の早産児で、二次性無呼吸の原因となる低血糖・電解質異常・けいれんが否定され、非発作時は異常を認めないことから、呼吸中枢の未熟性による発作と考えられる。
未熟児無呼吸発作(apnea of prematurity)
・定義:20秒以上の呼吸停止、または20秒未満でも徐脈(100/分未満)やチアノーゼ・酸素飽和度低下を伴う呼吸停止。 ・頻度:在胎週数が短いほど多く、在胎28週未満ではほぼ全例に、在胎30週前後でも半数以上にみられる。 ・発症時期:生後2〜7日ごろに始まることが多い。生後24時間以内の無呼吸や、いったん落ち着いた後の急な増加は、敗血症や頭蓋内出血など二次性の原因を強く疑う。 ・経過:修正週数(在胎週数+生後週数)で34〜37週ごろまでに多くが消失する。
無呼吸の分類
・中枢性:呼吸努力(胸郭の動き)そのものが止まる。 ・閉塞性:呼吸努力はあるが、上気道の閉塞により空気が流れない。 ・混合性:両者が混在する。未熟児無呼吸発作では混合性が最も多い。
治療・対応
・まず二次性の原因(感染症、頭蓋内出血、低血糖、電解質異常、体温異常、貧血など)を除外する。 ・発作時は足底や背部への皮膚刺激で呼吸を促し、改善しなければバッグ・マスクによる換気を行う。 ・薬物療法:メチルキサンチン製剤(クエン酸カフェインなど)が第一選択で、呼吸中枢を刺激し横隔膜の収縮力を高める。 ・呼吸補助:経鼻的持続陽圧呼吸(nasal CPAP)などで上気道の閉塞を防ぐ。重症例では人工換気を行う。 ・監視:心拍・呼吸・経皮的酸素飽和度のモニタリングを継続する。
POINT
・無呼吸発作:20秒以上の呼吸停止、または徐脈・チアノーゼを伴う呼吸停止。 ・在胎34週未満の早産児で、他の原因がなければ呼吸中枢の未熟性による未熟児無呼吸発作を考える。 ・二次性の原因(感染症、頭蓋内出血、けいれん、低血糖、電解質異常など)の除外が先決。 ・チアノーゼ(低酸素)は発作の結果であり、原因ではない。 ・治療はカフェインなどのメチルキサンチン製剤、nasal CPAP。修正34〜37週ごろまでに消失することが多い。
