StudyMed医師国家試験

鼻血はどこから来る?―キーゼルバッハ部位に集まる血管の物語

第105回医師国家試験 E問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第105回 E問題 第12問

鼻出血の好発部位はどれか。

  1. a.鼻中隔後部
  2. b.鼻中隔上部
  3. c.鼻中隔前下部
  4. d.下鼻甲介前端部
  5. e.下鼻甲介後端部

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は鼻出血の好発部位を問う基本問題だ。答えを丸暗記するより、「なぜそこから出血しやすいのか」を血管の走行と解剖から理解しておくと、臨床でも応用が利く。まず、鼻の中にはどんな動脈が来ているか思い出せるかな。
医学生医学生
解剖学の講義で、内頸動脈系と外頸動脈系の両方から血流を受けると習った気がします。
ドクタードクター
その通り。内頸動脈系からは眼動脈の枝である前篩骨動脈・後篩骨動脈が鼻腔の上部へ、外頸動脈系からは顎動脈の枝の蝶口蓋動脈と大口蓋動脈、顔面動脈の枝の上唇動脈が来る。蝶口蓋動脈は鼻腔の主な供給源で、後方や外側壁、鼻中隔に分布しているんだ。
医学生医学生
そんなにたくさんの動脈が来ているなら、どこから出血してもおかしくない気がします。
ドクタードクター
いい疑問だね。ところが実際には、鼻出血の80〜90%は一か所に集中している。それが鼻中隔前下部、いわゆるキーゼルバッハ部位だ。さっき挙げた動脈の枝がここで吻合して、細い血管が網の目のように密集しているんだよ。
医学生医学生
血管が集まっているだけでなく、ほかにも出血しやすい理由があるんですか。
ドクタードクター
あと2つある。ひとつは粘膜が薄く、すぐ下に軟骨があるので血管を守るクッションが乏しいこと。もうひとつは外鼻孔から近く、乾燥した空気が直接当たり、指で鼻をほじるなどの機械的刺激も受けやすいことだ。
医学生医学生
小児科の実習で、鼻血を繰り返す子が多いと聞きましたが、それも鼻いじりが原因なんですね。
ドクタードクター
そう、小児や若年者の鼻出血の多くはここからだ。アレルギー性鼻炎で粘膜が荒れていたり、強く鼻をかんだりするのもきっかけになる。では他の部位も見ていこう。鼻中隔の後部はどうだろう。
医学生医学生
蝶口蓋動脈の枝が来ているなら、出血源にはなりそうです。
ドクタードクター
出血源にはなるけれど、頻度は前下部よりずっと低い。ただし後方からの出血は外鼻孔から出血点が見えにくく、血液が咽頭に流れ込むので、内視鏡で探す必要があることが多い。鼻中隔の上部は篩骨動脈の領域で、出血は比較的まれ。顔面外傷や頭蓋底骨折、手術操作による損傷に関連することが多いんだ。
医学生医学生
下鼻甲介はアレルギー性鼻炎で腫れているのをよく見るので、出血もしやすそうに思えたんですが。
ドクタードクター
下鼻甲介の前端は確かに見えやすく腫れも目立つけれど、出血しやすい血管網があるわけではない。注意したいのは後端のほうで、下鼻道の後方の外側壁にはWoodruff静脈叢があり、高齢者や高血圧のある人の後方出血の原因になる。重要な部位ではあるけれど、全体に占める割合は小さいから「好発部位」とはいえないね。
医学生医学生
前のほうは若い人で止めやすく、後ろのほうは高齢者で止めにくい、という対比で整理できそうです。
ドクタードクター
まさにその対比が大事だ。では応急処置はどうする?
医学生医学生
OSCEの練習で、上を向かせて首の後ろをたたくのは間違いだと教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。正しくは座らせてやや前かがみにし、血液を飲み込ませないようにして、鼻翼を両側から指で強くつまんで10〜15分圧迫する。キーゼルバッハ部位はちょうど鼻翼の内側にあるから、これで多くの前方出血は止まるんだ。止まらなければ血管収縮薬と表面麻酔薬を浸したガーゼで出血点を確認し、焼灼、さらにタンポンによる圧迫止血と進む。後方出血ではベロックタンポンやバルーン、それでもだめなら内視鏡下の蝶口蓋動脈焼灼や塞栓術を考える。
医学生医学生
繰り返す鼻出血の場合は、局所だけ見ていてはいけないですよね。
ドクタードクター
そこが臨床での注意点だ。高血圧・動脈硬化、ITPや白血病、血友病などの血液疾患、抗凝固薬や抗血小板薬の服用、肝疾患、そして鼻出血を繰り返すオスラー病などの全身要因を考える。思春期の男子なら若年性鼻咽腔血管線維腫、片側性で繰り返すなら上顎洞癌などの腫瘍も忘れずに。鼻血は身近な症状だからこそ、背景疾患を見落とさない姿勢が大切だよ。

まとめ

鼻出血の80〜90%は鼻中隔前下部のキーゼルバッハ部位から起こります。ここは前篩骨動脈(内頸動脈系)と蝶口蓋動脈・大口蓋動脈・上唇動脈(外頸動脈系)が吻合する血管網で、粘膜が薄く、外鼻孔に近いため乾燥や鼻いじりなどの刺激を受けやすいことが出血しやすさの理由です。一方、蝶口蓋動脈領域やWoodruff静脈叢からの後方出血は頻度は低いものの、高齢者や高血圧のある人に多く、止血が難しいため臨床的に重要です。応急処置は座位でやや前かがみにし、鼻翼をつまんで10〜15分圧迫するのが基本で、上を向かせるのは誤りです。繰り返す鼻出血では血液疾患や抗血栓薬、オスラー病、腫瘍などの背景を探ることが、日常診療で見落としを防ぐ鍵になります。

解答・解説

正解はcです

鼻出血がどこから起こりやすいかを問う基本問題である。 鼻出血の大部分(およそ80〜90%)は、鼻中隔の前下部にあるキーゼルバッハ(Kiesselbach)部位から起こる。この部位から出血しやすい理由は次の3つである。 (1) 外頸動脈系と内頸動脈系の複数の動脈の枝が集まって吻合し、細い血管が網のように密に分布している。 (2) 粘膜が薄く、その下に軟骨がじかにあるため、血管を守るクッションが乏しい。 (3) 外鼻孔から近いため、吸い込んだ乾燥した空気が当たりやすい。指で鼻をほじるなど、機械的な刺激も受けやすい。 前方からの出血は外鼻孔から見えるため、止血しやすい。一方、後方(下鼻道の後端付近や蝶口蓋動脈の領域)からの出血は、高齢者や高血圧・動脈硬化のある人に多い。出血量が多く、止血が難しいことがあり、臨床的に重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  鼻中隔後部

    好発部位ではない。鼻中隔の後部には蝶口蓋動脈の中隔枝(後鼻中隔動脈)が分布しており、ここから出血することはある。しかし頻度は前下部に比べて低い。後方からの出血は外鼻孔から出血点が見えにくく、血液が咽頭に流れ込むので、診断と止血に内視鏡が必要になることが多い。

  2. ×b.  鼻中隔上部

    好発部位ではない。鼻中隔の上部には、眼動脈(内頸動脈の枝)から分かれる前・後篩骨動脈の枝が分布する。ここからの出血は比較的まれで、顔面外傷や頭蓋底骨折、手術操作による篩骨動脈の損傷に関連して起こることが多い。

  3. ○c.  鼻中隔前下部

    正しい。鼻中隔前下部はキーゼルバッハ部位と呼ばれ、鼻出血全体の80〜90%がここから起こる。前篩骨動脈(眼動脈の枝で、内頸動脈系)、蝶口蓋動脈の中隔枝(顎動脈の枝で、外頸動脈系)、大口蓋動脈(顎動脈の枝)、上唇動脈の中隔枝(顔面動脈の枝)が吻合して血管網をつくる。この血管網は薄い粘膜のすぐ下にある。鼻をほじる、強く鼻をかむといった機械的な刺激、乾燥、アレルギー性鼻炎などによる粘膜の炎症をきっかけに、簡単に出血する。小児や若年者の鼻出血の多くはここからである。

  4. ×d.  下鼻甲介前端部

    好発部位ではない。下鼻甲介の前端は外鼻孔から見える位置にあり、アレルギー性鼻炎では腫れが目立つ部位である。しかし、ここに鼻出血を起こしやすい血管網があるわけではない。鼻腔の外側壁からの出血は、鼻中隔前下部からの出血に比べて少ない。

  5. ×e.  下鼻甲介後端部

    好発部位ではない。下鼻甲介の後端から下鼻道の後方にかけての外側壁には静脈叢(ウッドラフ(Woodruff)静脈叢)があり、高齢者や高血圧のある人の後方出血の原因となる。重要な出血部位の一つではある。しかし鼻出血全体に占める割合は小さく、「好発部位」とはいえない。

鼻腔の血管支配

・内頸動脈系:眼動脈から前篩骨動脈・後篩骨動脈が分かれ、鼻腔の上部に分布する。 ・外頸動脈系:顎動脈から蝶口蓋動脈(鼻腔への主な供給源で、鼻腔の後方・外側壁・鼻中隔に分布)と大口蓋動脈が分かれる。顔面動脈からは上唇動脈が分かれる。 これらの枝が鼻中隔の前下部で吻合し、キーゼルバッハ部位をつくる。

鼻出血の原因

・局所的な原因:鼻をほじるなどの機械的刺激、外傷、乾燥、急性・慢性鼻炎、鼻中隔弯曲症、腫瘍(上顎洞癌、若年性鼻咽腔血管線維腫(思春期の男子に多い)など) ・全身的な原因:高血圧・動脈硬化、血液疾患(特発性血小板減少性紫斑病、白血病、血友病など)、抗凝固薬・抗血小板薬の服用、肝疾患、遺伝性出血性毛細血管拡張症(オスラー病:鼻出血を繰り返す) くり返す鼻出血や止まりにくい鼻出血では、全身疾患や腫瘍が隠れていないか考える必要がある。

止血の手順

(1) 座らせて、やや前かがみにする(血液を飲み込ませない)。小鼻(鼻翼)を両側から指で強くつまみ、10〜15分ほど圧迫する。多くの前方出血はこれで止まる。上を向いたり首の後ろをたたいたりするのは誤りである。 (2) 血管収縮薬・表面麻酔薬を浸したガーゼを挿入し、出血点を確認する。 (3) 出血点を焼灼する(電気凝固、化学的焼灼)。 (4) 止まらない場合は、ガーゼやタンポン、バルーンを前鼻腔に挿入して圧迫止血(前鼻タンポン)を行う。後方出血では、後鼻孔にタンポンやバルーンを入れる(ベロックタンポンなど)。 (5) それでも止まらない場合は、内視鏡下での蝶口蓋動脈の焼灼・結紮や、血管内治療による塞栓術を行う。

POINT

・鼻出血の好発部位はキーゼルバッハ部位(鼻中隔前下部)で、全体の80〜90%を占める。 ・この部位は、内頸動脈系(前篩骨動脈)と外頸動脈系(蝶口蓋動脈・大口蓋動脈・上唇動脈)の吻合部である。 ・後方出血(蝶口蓋動脈の領域、ウッドラフ静脈叢)は高齢者・高血圧の人に多く、止血しにくい。 ・応急処置:座位でやや前かがみにし、鼻翼をつまんで10〜15分圧迫する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。