StudyMed医師国家試験

患者の声を受け止める地域の窓口―医療安全支援センターと「似た名前の仕組み」を整理する

第105回医師国家試験 E問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第105回 E問題 第11問

医療安全支援センターの業務として正しいのはどれか。

  1. a.医療事故について医師と患者間の利害の調整を行う。
  2. b.患者またはその家族に対して医療安全についての研修を行う。
  3. c.患者またはその家族からの医療に関する苦情・相談に応じる。
  4. d.医師または医療関係者からの患者に関する苦情・相談に応じる。
  5. e.医療機関のインシデント・アクシデントレポートを収集・解析する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、医療安全支援センターの業務を問う問題だ。医療安全に関わる組織や制度は名前が似ていて混同しやすい。「誰が設置して、誰の声を受け止める窓口なのか」に注目して整理していこう。
医学生医学生
名前からすると、医療事故が起きたときに対応する機関のように思えます。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。医療安全支援センターは医療法に基づいて、都道府県、保健所を設置する市、特別区が設置する機関で、保健所などに置かれることが多い。中心となる業務は、患者さんや家族、住民からの医療に関する苦情や相談に応じることなんだ。
医学生医学生
ということは、患者さんやその家族からの苦情・相談に応じる、というのが正解ですね。
ドクタードクター
その通り。看護師などの相談員が中立的な立場で話を聞き、必要に応じて患者・家族や医療機関の管理者に助言したり、適切な関係機関を案内したりする。患者さんと医療機関の対話を促し、信頼関係づくりを支援するのが役割だ。
医学生医学生
中立的ということは、医療事故で医師と患者の利害を調整するのも業務に入りそうな気がしたんですが。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけだね。センターは過失の有無を判断したり、賠償をめぐる紛争を仲裁したりする機関ではない。医療紛争の解決は、当事者の話し合いのほか、裁判や、弁護士会などが運営するADR、つまり裁判外紛争解決手続が担う。センターはそうした窓口を紹介するにとどまるんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、相談窓口と紛争解決機関は別だと聞いた気がします。研修も業務にあると習いましたが、患者さん向けの研修ではないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。医療法で定められた研修の対象は、病院や診療所の管理者と従業者、つまり医療を提供する側なんだ。患者さんや住民にはパンフレットや講演で普及・啓発や情報提供をすることはあるけれど、「患者・家族への研修」は業務として定められていない。
医学生医学生
では、医師や医療関係者から患者さんについての苦情を受けることはどうでしょう。苦情・相談という言葉は同じなので迷いました。
ドクタードクター
言葉は同じでも向きが逆だね。この窓口は患者・住民の立場から医療についての声を受け止めるために設けられたもので、医療者が患者について苦情を申し立てる場として定められた業務ではない。医療機関に対しては、管理者への助言、情報提供、研修という形で支援する。
医学生医学生
インシデント・アクシデントレポートの収集・解析は?臨床実習の最初のオリエンテーションで、ヒヤリ・ハットは必ず報告するように言われました。
ドクタードクター
その報告はまず各医療機関の医療安全管理部門が集めて分析する。全国規模で事故やヒヤリ・ハット事例を集めて分析・公表しているのは、日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業で、特定機能病院などには報告義務がある。医療安全支援センターも相談事例を分析するけれど、それはあくまで寄せられた相談についてだ。
医学生医学生
整理すると、医療安全支援センターは患者・住民の苦情・相談窓口で、紛争の仲裁も事故報告の集約もしない、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。もう一つ紛らわしいのが、2015年に始まった医療事故調査制度の「医療事故調査・支援センター」。予期しない死亡・死産が起きたとき、医療機関が院内調査を行い、第三者機関である日本医療安全調査機構に報告する仕組みだ。
医学生医学生
「支援センター」が両方に付いているので、国試の選択肢で並んだら確実に迷いそうです。
ドクタードクター
だからこそ、設置主体と目的で区別するといい。医療法に基づき都道府県などが設置する患者の相談窓口が医療安全支援センター、予期しない死亡の調査を担う第三者機関が医療事故調査・支援センター、全国の事故情報を集めるのが日本医療機能評価機構の事業、紛争解決はADRや裁判、という具合だ。
医学生医学生
臨床に出たら、院内の医療安全体制にも関わることになりますね。
ドクタードクター
そう。病院には医療安全管理のための指針、委員会、職員研修、事故報告による改善策の実施が義務づけられている。インシデント報告は個人の責任追及のためではなく、システムを改善するためのもの。研修医になったら、ためらわず報告する姿勢を大切にしてほしい。

まとめ

医療安全支援センターは、医療法に基づいて都道府県・保健所設置市・特別区が設置する機関で、患者・家族・住民からの医療に関する苦情・相談に中立的な立場で応じ、助言や関係機関の案内を行うことが中心業務です。医療事故の過失判断や紛争の仲裁は行わず、紛争解決は裁判やADRが担います。研修の対象は医療機関の管理者・従業者であり、全国規模の事故・ヒヤリハット事例の収集・分析は日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業、予期しない死亡の調査は医療事故調査制度の医療事故調査・支援センターが担当します。名称の似た仕組みを「設置主体」と「誰のための窓口か」で区別して理解しておくことは、試験対策だけでなく、患者から相談を受けた際に適切な窓口を案内する臨床現場でも役立ちます。

解答・解説

正解はcです

医療安全支援センターの役割を問う問題である。 医療安全支援センターは、医療法(第6条の13)に基づいて、都道府県、保健所を設置する市、特別区が設置する機関である。2003年ごろから整備が始まり、2006年の医療法改正(第5次医療法改正、2007年施行)で法律上の位置づけを得た。業務の中心は、患者・家族・住民からの医療に関する苦情や相談に応じることである。そのほか、必要に応じて医療機関の管理者へ助言し、医療の安全に関する情報を提供し、医療機関の管理者・従業者に研修を行う。 重要なのは、医療安全支援センターが中立的な立場で相談を受け、助言や情報提供を行う窓口だという点である。医療事故の過失を判定したり、賠償などをめぐる当事者間の紛争を仲裁したりする機関ではない。また、医療機関からの事故報告を全国規模で集めて分析する事業や、医療事故調査制度(2015年開始)の「医療事故調査・支援センター」とは別の仕組みである。名称が似ていて混同しやすいので、区別して覚える必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  医療事故について医師と患者間の利害の調整を行う。

    誤り。医療安全支援センターは中立の立場で相談に応じ、助言を行う機関である。医療事故の責任の有無を判断したり、損害賠償などの利害を調整したりすることは業務に含まれない。医療紛争の解決は、当事者どうしの話し合いのほか、裁判(民事訴訟・民事調停)や、弁護士会などが運営するADR(裁判外紛争解決手続)が担う。センターは相談を受けた際に、そうした手続きの窓口を紹介するにとどまる。

  2. ×b.  患者またはその家族に対して医療安全についての研修を行う。

    誤り。医療法が医療安全支援センターの業務として定める「研修」は、病院・診療所などの管理者と従業者、つまり医療を提供する側を対象とするものである。患者・住民に対しては、パンフレットや講演などで医療安全の普及・啓発や情報提供を行うことはあるが、患者や家族に医療安全の研修を行うことは業務に定められていない。

  3. ○c.  患者またはその家族からの医療に関する苦情・相談に応じる。

    正しい。医療法は医療安全支援センターの第一の業務として、患者やその家族から、その地域の医療機関での医療に関する苦情に対応し、相談に応じることを定めている。必要に応じて、患者・家族や医療機関の管理者へ助言も行う。相談窓口には看護師などの相談員がいて、医療機関との対話を促し、適切な関係機関を案内するなど、患者と医療機関の信頼関係づくりを支援する。

  4. ×d.  医師または医療関係者からの患者に関する苦情・相談に応じる。

    誤り。苦情・相談の窓口は、患者・家族・住民の立場から医療に関する声を受け止めるために設けられたものである。医療者が患者について苦情を申し立てる窓口として法律に定められた業務ではない。医療機関に対しては、管理者への助言、情報提供、研修といった形で支援を行う。

  5. ×e.  医療機関のインシデント・アクシデントレポートを収集・解析する。

    誤り。医療事故やヒヤリ・ハット(インシデント)の事例を医療機関から集めて分析し、再発防止の情報を公表しているのは、公益財団法人日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集等事業」である。特定機能病院などには、この事業への報告義務がある。また、個々のインシデント・アクシデントレポートの収集と分析は、まず各医療機関の医療安全管理部門(医療安全管理委員会)が行う。医療安全支援センターも相談事例を集めて分析するが、それは寄せられた相談についてであり、医療機関のインシデントレポートではない。

医療安全支援センターの主な業務

・患者・住民からの苦情・相談への対応(相談窓口の設置)と、患者・家族・医療機関管理者への助言 ・医療安全推進協議会の開催(センターの運営方針や地域の医療安全対策を検討する) ・相談に適切に対応するための、関係機関・団体との連絡調整 ・医療機関の管理者・従業者への、医療安全に関する研修の実施 ・医療安全の確保に必要な情報の収集・提供、相談事例の収集・分析 ・患者・住民への医療安全の普及・啓発 設置主体は都道府県・保健所設置市・特別区である。地域に密着した相談窓口として、保健所などに置かれることが多い。国は、センターの運営を支援する総合支援事業を行っている。

名称の似た仕組みの整理

・医療安全支援センター:医療法に基づき都道府県などが設置する。患者・住民の苦情・相談窓口。 ・医療事故情報収集等事業:日本医療機能評価機構が行う。医療事故・ヒヤリハット事例を収集・分析し、公表する。 ・医療事故調査制度:2015年に始まった。医療機関で予期しない死亡・死産が起きた場合、院内で調査を行い、第三者機関である「医療事故調査・支援センター」(日本医療安全調査機構)に報告する。センターは報告を整理・分析し、遺族や医療機関から依頼があれば調査を行う。 ・医療ADR:裁判によらずに医療紛争の解決を目指す手続きで、弁護士会などが運営する。

医療機関内の医療安全体制

医療法により、病院などには医療安全管理のための指針の整備、委員会の開催、職員研修、事故報告などによる改善策の実施が義務づけられている。インシデント報告は個人の責任を追及するためではなく、システムを改善するために活用するものである。

POINT

・医療安全支援センター:医療法に基づき、都道府県・保健所設置市・特別区が設置する。 ・中心業務は、患者・家族からの医療に関する苦情・相談への対応と助言である。 ・紛争の仲裁や過失の判断は行わない(紛争解決は裁判やADRが担う)。 ・研修の対象は医療機関の管理者・従業者であり、患者ではない。 ・事故・ヒヤリハット事例の全国規模の収集・分析は、日本医療機能評価機構の事業である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。