血便の1週間後に来る三主徴―小児HUSの犯人は腸管出血性大腸菌
第105回医師国家試験 D問題 第5問
国試問題にチャレンジ
小児の溶血性尿毒症症候群〈HUS〉の原因疾患として最も頻度が高いのはどれか。
- a.赤痢
- b.サルモネラ感染症
- c.腸管出血性大腸菌感染症
- d.Kasabach-Merritt症候群
- e.血栓性血小板減少性紫斑病〈TTP〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
溶血性尿毒症症候群(HUS)は、破砕赤血球を伴う溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害を三主徴とする血栓性微小血管症で、小児例の約9割は腸管出血性大腸菌(O157:H7など)の志賀毒素による下痢関連型です。毒素が腎糸球体内皮のGb3受容体に結合して内皮を傷害し、微小血栓の形成によって三主徴が生じ、血便の出現からおよそ1週間前後で発症します。志賀毒素を産生する赤痢菌もHUSを起こしうるものの国内ではまれで、サルモネラは原因となることはほぼなく、Kasabach-Merritt症候群は消費性凝固障害、TTPはADAMTS13活性低下による別のTMAとして鑑別対象になります。治療は輸液・輸血・透析などの支持療法が中心で、止痢薬は避けます。血便を伴う腸炎の小児では、HUSへの進展を見越した経過観察と家族への説明が重要です。
解答・解説
正解はcです
溶血性尿毒症症候群〈hemolytic uremic syndrome:HUS〉は、①微小血管症性溶血性貧血(破砕赤血球を伴う溶血性貧血)、②血小板減少、③急性腎障害の3つを主徴とする血栓性微小血管症〈thrombotic microangiopathy:TMA〉の一病型である。 小児のHUSの大部分(約90%)は、下痢を前駆症状とする「典型的HUS(STEC-HUS)」である。その原因は志賀毒素(Shiga toxin、わが国ではベロ毒素〈Vero toxin〉とも呼ぶ)を産生する大腸菌、すなわち腸管出血性大腸菌〈enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC〉の感染であり、血清型ではO157:H7が代表的である(ほかにO26、O111なども原因となる)。 発症の流れは次のとおりである。汚染された食品(加熱不十分な牛肉、生野菜など)を摂取して3〜5日ほどで腹痛・水様下痢が出現し、続いて鮮血便(出血性大腸炎)となる。腸管から吸収された志賀毒素は、腎糸球体の血管内皮細胞などに多く発現する受容体(グロボトリアオシルセラミド〈Gb3〉)に結合して内皮細胞を傷害する。その結果、微小血管内に血小板血栓が形成され、そこを通過する赤血球が機械的に壊されて破砕赤血球が出現し、血小板は消費されて減少し、腎血流が障害されて急性腎障害に至る。下痢の出現からおよそ1週間前後(5〜13日程度)でHUSを発症し、EHEC感染者の数〜十数%(特に小児・高齢者)がHUSに進展するとされる。 したがって「小児のHUSの原因として最も多いもの」は腸管出血性大腸菌感染症である。
選択肢考察
- ×a. 赤痢
細菌性赤痢の原因菌である赤痢菌(Shigella)は大腸粘膜上皮に侵入・増殖して潰瘍を形成し、発熱、膿粘血便、しぶり腹(テネスムス:便意が頻回にあるのに少量しか出ない状態)を起こす。赤痢菌のうちShigella dysenteriae 1型は志賀毒素そのものを産生するため、HUSを合併しうる。しかし、わが国の細菌性赤痢は患者数が少なく、その多くが海外で感染した輸入例であり、原因菌もS. sonneiが主体でHUSの合併はまれである。小児HUSの原因として最多とはいえない。
- ×b. サルモネラ感染症
サルモネラ(非チフス性サルモネラ)は鶏卵や鶏肉などを介して感染し、発熱、腹痛、下痢(ときに血便)を起こす代表的な細菌性腸炎の原因菌である。小児では菌血症を来すこともある。しかし志賀毒素を産生しないため、HUSの原因となることは基本的にない(症例報告レベルにとどまる)。
- ○c. 腸管出血性大腸菌感染症
腸管出血性大腸菌〈EHEC〉、特にO157:H7は志賀毒素(ベロ毒素)を産生し、血管内皮細胞、とりわけ腎糸球体の内皮細胞を傷害して血栓性微小血管症を引き起こす。小児HUSの約90%はこの下痢関連型であり、最も頻度の高い原因である。出血性大腸炎の発症から約1週間後に、蒼白(貧血)、乏尿、浮腫、点状出血などで発症することが多い。
- ×d. Kasabach-Merritt症候群
Kasabach-Merritt症候群は、乳児期にみられる巨大な血管性腫瘍(主にカポジ肉腫様血管内皮腫や房状血管腫)の内部で血小板や凝固因子が大量に消費される病態である。著明な血小板減少、低フィブリノゲン血症、出血傾向(紫斑)を呈し、播種性血管内凝固〈DIC〉に進展することもある。消費性凝固障害が本態であり、HUSの原因疾患ではない。
- ×e. 血栓性血小板減少性紫斑病〈TTP〉
TTPはHUSと同じく血栓性微小血管症に属する疾患で、HUSの「原因」ではなく、鑑別すべき別の疾患である。TTPはADAMTS13(von Willebrand因子を切断する酵素)の活性が著しく低下(10%未満)することで、超高分子量のvon Willebrand因子多量体が残存し、全身の微小血管に血小板血栓が形成される。古典的五徴は溶血性貧血、血小板減少、腎障害、発熱、精神神経症状であり、HUSに比べて精神神経症状が目立ち、腎障害は比較的軽いことが多い。成人に多い後天性(ADAMTS13に対する自己抗体による)と、先天性のUpshaw-Schulman症候群がある。
血栓性微小血管症〈TMA〉の分類
・STEC-HUS(典型的HUS):志賀毒素産生性大腸菌(EHECなど)による。小児HUSの大部分を占める。 ・TTP:ADAMTS13活性の著減による。後天性(自己抗体)と先天性(Upshaw-Schulman症候群)がある。 ・非典型HUS〈aHUS〉:補体第二経路の制御異常(H因子、I因子、MCP〈CD46〉などの遺伝子異常や抗H因子抗体)による。治療に抗C5モノクローナル抗体(エクリズマブなど)が用いられる。 ・二次性TMA:肺炎球菌感染症(ノイラミニダーゼによるT抗原露出)、薬剤(シクロスポリン、タクロリムス、マイトマイシンC、経口避妊薬など)、造血幹細胞移植後、腎移植後、全身性エリテマトーデス〈SLE〉などの膠原病、妊娠関連、悪性高血圧、HIV感染症など。
HUSの検査所見
・Hb低下、末梢血塗抹での破砕赤血球 ・LDH上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下(血管内溶血の指標) ・直接Coombs試験陰性(免疫性溶血ではない) ・血小板減少 ・BUN・クレアチニン上昇、血尿・蛋白尿 ・PT・APTTは通常ほぼ正常である(DICとの鑑別点)
STEC-HUSの治療と注意点
・治療は支持療法が中心である(輸液・電解質管理、必要に応じて輸血、腎代替療法としての透析)。 ・止痢薬(腸管運動抑制薬)は毒素の排出を遅らせるため使用を避ける。 ・抗菌薬がHUS発症リスクに与える影響は議論があり、一律には推奨されていない。 ・急性脳症などの中枢神経合併症は死亡の主な原因となる。
下痢原性大腸菌の分類
1)腸管毒素原性大腸菌〈ETEC〉:易熱性・耐熱性エンテロトキシンによる水様下痢。旅行者下痢症の主因。 2)腸管組織侵入性大腸菌〈EIEC〉:赤痢菌に似た粘膜侵入性の腸炎。 3)腸管病原性大腸菌〈EPEC〉:乳幼児の下痢症。 4)腸管出血性大腸菌〈EHEC〉:志賀毒素(ベロ毒素)を産生し、出血性大腸炎とHUSを起こす。志賀毒素産生性大腸菌〈STEC〉あるいはベロ毒素産生性大腸菌〈VTEC〉とも呼ばれる。 5)腸管凝集付着性大腸菌〈EAggEC〉:持続性下痢。2011年にドイツで大流行したO104:H4は、この型が志賀毒素産生能を獲得した株であった。 EHEC感染症は感染症法の3類感染症であり、診断した医師は直ちに届け出る。
POINT
・HUSの三主徴:微小血管症性溶血性貧血(破砕赤血球)、血小板減少、急性腎障害 ・小児HUSの約90%は腸管出血性大腸菌(O157:H7など)の志賀毒素(ベロ毒素)による下痢関連型である ・下痢・血便の出現から約1週間後に発症する ・TTPはHUSの原因ではなく、ADAMTS13活性低下による別のTMAである(精神神経症状・発熱が目立つ) ・補体制御異常による非典型HUS〈aHUS〉や薬剤性・二次性TMAも鑑別に挙がる
