ウイルスが糸球体に残す指紋―C型肝炎と膜性増殖性糸球体腎炎を結ぶクリオグロブリン
第105回医師国家試験 D問題 第13問
国試問題にチャレンジ
感染症と腎疾患の組合せで正しいのはどれか。
- a.梅毒 ―― IgA腎症
- b.B型肝炎 ―― アミロイド腎症
- c.C型肝炎 ―― 膜性増殖性糸球体腎炎
- d.HIV感染症 ―― 膜性腎症
- e.細菌性心内膜炎 ―― 巣状糸球体硬化症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
感染症に伴う糸球体疾患は、免疫複合体の沈着部位と病原体による直接障害という視点で整理できます。C型肝炎はB細胞の単クローン性増殖から混合型クリオグロブリンを生じ、内皮下・メサンギウムへの沈着と補体活性化によって膜性増殖性糸球体腎炎を起こし、C4を中心とした低補体血症を伴います。梅毒とB型肝炎は上皮下沈着による膜性腎症、HIV感染症はポドサイトの直接障害による虚脱型巣状分節性糸球体硬化症、細菌性心内膜炎は感染関連糸球体腎炎、慢性感染症はAAアミロイドーシスが代表的な組合せです。腎生検の組織型から背景の感染症を逆引きし、原因治療につなげる考え方は、二次性腎疾患の診療で欠かせない視点です。
解答・解説
正解はcです
感染症に続いて起こる二次性糸球体疾患の組合せを問う問題である。 感染症による腎障害の多くは、病原体の抗原とそれに対する抗体が作る免疫複合体が糸球体に沈着すること(あるいは糸球体で形成されること)で生じる。免疫複合体が糸球体のどこに沈着するかによって組織型が変わり、 ・糸球体基底膜の上皮側(外側)に沈着 → 膜性腎症 ・内皮下とメサンギウムに沈着し、補体が活性化される → 膜性増殖性糸球体腎炎、管内増殖性糸球体腎炎 といった違いが生じる。一方、HIV感染症ではウイルスが腎の上皮細胞(ポドサイトなど)を直接障害することで、巣状分節性糸球体硬化症が起こる。 国家試験で押さえておくべき代表的な対応は次のとおりである。 ・B型肝炎 → 膜性腎症(特に小児)、膜性増殖性糸球体腎炎 ・C型肝炎 → クリオグロブリン血症を伴う膜性増殖性糸球体腎炎 ・梅毒 → 膜性腎症 ・HIV感染症 → 巣状分節性糸球体硬化症(HIV関連腎症) ・A群β溶血性レンサ球菌 → 溶連菌感染後急性糸球体腎炎 ・感染性心内膜炎 → 感染関連糸球体腎炎(巣状・びまん性増殖性、膜性増殖性の像) ・結核や骨髄炎などの慢性感染症 → AAアミロイドーシス この対応に照らすと、正しい組合せは「C型肝炎 ―― 膜性増殖性糸球体腎炎」である。
選択肢考察
- ×a. 梅毒 ―― IgA腎症
梅毒(第2期梅毒や先天梅毒)に合併する代表的な腎病変は膜性腎症であり、トレポネーマ抗原を含む免疫複合体が糸球体基底膜の上皮下に沈着してネフローゼ症候群を呈する。駆梅療法で改善しうる。IgA腎症はメサンギウム領域にIgAが優位に沈着する原発性糸球体腎炎で、上気道炎などの粘膜感染を契機に肉眼的血尿が出ることはあるが、梅毒が原因となる疾患ではない。誤りである。
- ×b. B型肝炎 ―― アミロイド腎症
B型肝炎ウイルス(HBV)感染に伴う腎病変として最も有名なのは膜性腎症であり、HBe抗原などを含む免疫複合体が上皮下に沈着する。特に小児のHBVキャリアで多い。このほか膜性増殖性糸球体腎炎や、結節性多発動脈炎の合併も知られる。アミロイド腎症のうちAAアミロイドーシスは、関節リウマチなどの慢性炎症性疾患や、結核・骨髄炎・気管支拡張症などの慢性化膿性感染症で血清アミロイドA蛋白が持続的に上昇して起こるもので、B型肝炎に特徴的な腎病変ではない。誤りである。
- ○c. C型肝炎 ―― 膜性増殖性糸球体腎炎
C型肝炎ウイルス(HCV)はリンパ球(B細胞)にも感染し、B細胞の単クローン性増殖を促して、リウマトイド因子活性をもつ単クローン性IgMを産生させる。これが多クローン性IgGと結合して混合型(II型)クリオグロブリン(低温で沈殿する免疫グロブリン)となり、HCV抗原とともに糸球体の内皮下やメサンギウムに沈着して補体を活性化する。その結果、メサンギウム細胞の増殖と基底膜の二重化を特徴とする膜性増殖性糸球体腎炎が生じる。血清補体(特にC4)の低下、リウマトイド因子陽性、紫斑や関節痛・末梢神経障害を伴うことが多い。C型肝炎と膜性増殖性糸球体腎炎の組合せは正しい。
- ×d. HIV感染症 ―― 膜性腎症
HIV感染症に特徴的な腎病変はHIV関連腎症(HIV-associated nephropathy:HIVAN)であり、組織学的には糸球体係蹄が虚脱する虚脱型(collapsing variant)の巣状分節性糸球体硬化症を示す。ウイルスがポドサイトや尿細管上皮細胞に直接感染して障害することが主な機序で、高度の蛋白尿(ネフローゼ症候群)と急速な腎機能低下をきたし、アフリカ系の人種に多い。HIV感染者に免疫複合体型の腎炎や膜性腎症がみられることもあるが、HIV感染症の代表的な腎病変としての組合せではない。誤りである。
- ×e. 細菌性心内膜炎 ―― 巣状糸球体硬化症
細菌性(感染性)心内膜炎では、持続する菌血症により免疫複合体が形成され、感染関連糸球体腎炎を起こす。組織像は巣状またはびまん性の増殖性糸球体腎炎が多く、膜性増殖性糸球体腎炎の像をとることもあり、低補体血症を伴いやすい。古くから知られる巣状の増殖性・壊死性病変(巣状塞栓性糸球体腎炎、Löhlein腎)もこれに含まれる。このほか敗血症性塞栓による腎梗塞や腎膿瘍も生じる。巣状分節性糸球体硬化症(ポドサイト障害を本態とし、ネフローゼ症候群を呈する病変)は細菌性心内膜炎の代表的な腎病変ではない。誤りである。
二次性糸球体疾患の主な原因(感染症以外も含めた整理)
・膜性腎症:梅毒、B型肝炎、悪性腫瘍(固形癌)、SLE(ループス腎炎V型)、薬剤(金製剤、D-ペニシラミン、ブシラミン、NSAIDs)。原発性では抗PLA2R(ホスホリパーゼA2受容体)抗体が関与する。 ・膜性増殖性糸球体腎炎:C型肝炎(クリオグロブリン血症)、B型肝炎、感染性心内膜炎やシャント腎炎などの慢性感染症、SLE、単クローン性γグロブリン血症。 ・巣状分節性糸球体硬化症:HIV感染症、ヘロイン使用、高度肥満、ネフロン数の減少(片腎、低出生体重など)、遺伝子異常。 ・急性糸球体腎炎:A群β溶血性レンサ球菌感染後(感染から1〜3週後に発症)、ブドウ球菌感染(特に黄色ブドウ球菌によるIgA優位の感染関連糸球体腎炎は高齢者・糖尿病患者に多い)。 ・AAアミロイドーシス:関節リウマチなどの慢性炎症性疾患、結核、骨髄炎、気管支拡張症などの慢性感染症、家族性地中海熱。
膜性増殖性糸球体腎炎の要点
光学顕微鏡でメサンギウム細胞の増殖とメサンギウム間入による糸球体基底膜の二重化(PAM染色での double contour、tram-track 像)がみられる。持続性の低補体血症が特徴である。近年は、免疫グロブリンの沈着を伴う免疫複合体型と、補体C3のみが沈着するC3腎症(C3糸球体症)に分けて考えるのが一般的である。
HCV関連腎症の治療
まず原因であるHCVを直接作用型抗ウイルス薬(DAA)で排除することが基本となる。クリオグロブリン血症性血管炎が重症の場合は、リツキシマブ、ステロイド、血漿交換などを併用する。
POINT
・C型肝炎 → クリオグロブリン血症 → 膜性増殖性糸球体腎炎(低補体血症、特にC4低下) ・B型肝炎・梅毒 → 膜性腎症(B型肝炎は膜性増殖性糸球体腎炎も起こす) ・HIV感染症 → 虚脱型巣状分節性糸球体硬化症(HIV関連腎症) ・細菌性心内膜炎 → 感染関連糸球体腎炎(増殖性・膜性増殖性の像、低補体血症) ・慢性感染症・慢性炎症 → AAアミロイドーシス
