泣くほど青くなる赤ちゃん―無酸素発作で「やってはいけない一手」を見抜く
第105回医師国家試験 D問題 第12問
国試問題にチャレンジ
Fallot四徴症の乳児に多呼吸,不機嫌およびチアノーゼの増強を認めたときの対応として誤っているのはどれか。
- a.酸素投与
- b.胸膝位保持
- c.β刺激薬投与
- d.モルヒネ投与
- e.アシドーシス補正
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Fallot四徴症の乳児に多呼吸・不機嫌・チアノーゼ増強がみられたら、右室流出路(漏斗部)の攣縮で肺血流が急減し右→左短絡が増える無酸素発作を考えます。対応の基本は悪循環を断つことで、胸膝位や酸素投与、モルヒネによる鎮静、β遮断薬、アシドーシス補正、輸液、α刺激薬を組み合わせます。β刺激薬やジギタリスなど心収縮力を強める薬は漏斗部狭窄を悪化させるため禁忌です。発作中は収縮期雑音が減弱・消失することがあり、これは重症化のサインとして重要です。「流出路の抵抗と体血管抵抗のバランス」という血行動態の視点で各処置の意味を理解しておけば、暗記に頼らず正しい対応を選べるようになります。
解答・解説
正解はcです
Fallot四徴症の乳児に、多呼吸・不機嫌(啼泣)・チアノーゼの増強が急に出現した状況であり、無酸素発作(低酸素発作、チアノーゼ発作、spell とも呼ぶ)を考える。問題文に発作という言葉はないが、この3つの組み合わせは無酸素発作の典型像である。
Fallot四徴症の血行動態
Fallot四徴症は、①心室中隔欠損、②肺動脈狭窄(主に右室流出路の漏斗部狭窄)、③大動脈騎乗、④右室肥大の4つを特徴とする代表的なチアノーゼ性先天性心疾患である。心室中隔欠損が大きいため左右の心室圧はほぼ等しく、右室から出た血液が「肺動脈へ行くか(肺血流)」「欠損孔を通って大動脈へ行くか(右→左短絡)」は、右室流出路の抵抗と体血管抵抗のバランスで決まる。
無酸素発作の機序
啼泣、哺乳、排便、起床直後などをきっかけに、交感神経が緊張して漏斗部の筋肉が強く収縮(攣縮)すると、右室流出路の抵抗が急に高まる。すると肺へ流れる血液が減り、酸素化されていない静脈血が大動脈へ流れ込む割合が増えてチアノーゼが増強する。低酸素血症と代謝性アシドーシスは呼吸中枢を刺激して多呼吸を招き、さらに啼泣・興奮・カテコラミン分泌を強めて漏斗部攣縮を悪化させる、という悪循環に陥る。重症では意識障害やけいれんを起こし、死亡することもある。
対応の考え方
治療の目標はこの悪循環を断ち切り、肺血流を回復させることである。具体的には、 ・右室流出路の攣縮を解く(鎮静、β遮断薬) ・体血管抵抗を上げて右→左短絡を減らす(胸膝位、α刺激薬) ・低酸素とアシドーシスを改善して呼吸中枢への刺激を減らす(酸素投与、アシドーシス補正) を組み合わせる。心筋の収縮力を強めて漏斗部の攣縮を増悪させる処置は、逆効果であり禁忌である。
選択肢考察
- ×a. 酸素投与
無酸素発作に対する基本的な処置である。右→左短絡が主因のチアノーゼなので、酸素を投与しても動脈血酸素飽和度の改善は限られるが、肺を通過するわずかな血液をより十分に酸素化できる。さらに酸素には肺血管を拡張させて肺血管抵抗を下げ、体血管抵抗を上げる作用があり、いずれも肺血流を増やす方向に働く。適切な対応であり、誤りではない。
- ×b. 胸膝位保持
乳児を抱きかかえ、膝を胸に引きつけた姿勢をとらせる方法で、発作時にまず行う標準的な対処である。下肢の大腿動脈が屈曲・圧迫されて体血管抵抗が上がると、大動脈側(左室側)の圧が高まり、心室中隔欠損を介した右→左短絡が減少して、右室からの血液が肺動脈へ向かいやすくなる。同時に下肢からの静脈還流が増えて右室の充満が保たれ、狭い流出路を通る肺血流も増える。年長児が自然に行う蹲踞(しゃがみ込み)と同じ原理である。適切な対応であり、誤りではない。
- ○c. β刺激薬投与
β刺激薬(イソプロテレノールなど)は心筋のβ1受容体を刺激して心収縮力と心拍数を増加させる。無酸素発作の本態は右室流出路(漏斗部)の攣縮であり、心収縮力が増すと漏斗部はさらに強く収縮して狭くなり、肺血流が一層減少する。また頻拍により右室の充満時間が短くなることも不利に働く。さらにβ2作用による末梢血管拡張は体血管抵抗を下げ、右→左短絡を増やす。このため無酸素発作ではβ刺激薬は禁忌であり、誤った対応である。発作時に用いるのは逆にβ遮断薬(プロプラノロールなど)で、漏斗部の攣縮を緩め、心拍数を下げて右室の充満を改善する。発作予防にも内服で用いられる。
- ×d. モルヒネ投与
モルヒネ(皮下注・筋注・静注)は古くから無酸素発作に用いられてきた薬剤である。鎮静作用で啼泣と興奮を抑え、交感神経の緊張とカテコラミン分泌を減らして漏斗部の攣縮を和らげる。また呼吸中枢を抑制して過呼吸を鎮め、悪循環を断つ効果もある。酸素消費量の減少にも寄与する。呼吸抑制に注意しつつ用いる適切な対応であり、誤りではない。
- ×e. アシドーシス補正
低酸素状態が続くと嫌気性代謝により乳酸が蓄積し、代謝性アシドーシスとなる。アシドーシスは呼吸中枢を刺激して多呼吸を悪化させ、肺血管抵抗も上昇させるため、発作の悪循環を強める。発作中は呼吸による代償も十分に働かないので、炭酸水素ナトリウム(メイロン)の静注でアシドーシスを補正することは有効である。適切な対応であり、誤りではない。
無酸素発作(低酸素発作)の特徴
・好発年齢は生後数か月〜2歳ごろの乳幼児で、特に生後2〜6か月ごろから起こりやすい。 ・誘因:啼泣、哺乳、排便、発熱、脱水、起床直後など。 ・症状:多呼吸(過呼吸)、不機嫌・啼泣、チアノーゼの急激な増強。重症では意識消失、けいれん。 ・聴診所見:肺動脈狭窄による収縮期駆出性雑音が、発作中は小さくなる、あるいは消失する。肺動脈を通る血流が減るためであり、雑音の減弱は重症化のサインとして重要である。
発作時の対応のまとめ
1. 胸膝位をとらせ、抱いて落ち着かせる 2. 酸素投与 3. 鎮静:モルヒネ(またはケタミンなど) 4. β遮断薬(プロプラノロール)の静注 5. 代謝性アシドーシスの補正(炭酸水素ナトリウム) 6. 輸液による循環血液量の確保 7. 改善しない場合はα刺激薬(フェニレフリン)で体血管抵抗を上げる 8. それでも改善しない場合は全身麻酔下管理、緊急の体肺動脈短絡術(Blalock-Taussig短絡術)や心内修復術を考慮する
禁忌・避けるべきもの
・β刺激薬、ジギタリスなど心収縮力を強める薬(漏斗部狭窄を増悪させる) ・過度の血管拡張薬(体血管抵抗を下げて右→左短絡を増やす)
予防
β遮断薬(プロプラノロール)の内服、脱水や貧血(相対的な鉄欠乏性貧血)の是正が行われる。発作を繰り返すことは早期手術の適応となる。
POINT
・Fallot四徴症の乳児に多呼吸、不機嫌、チアノーゼ増強がみられたら無酸素発作を考える。 ・本態は右室流出路(漏斗部)の攣縮による肺血流減少と右→左短絡の増加である。 ・対応:胸膝位、酸素投与、鎮静(モルヒネ)、β遮断薬、アシドーシス補正、輸液、α刺激薬。 ・β刺激薬やジギタリスなど陽性変力作用をもつ薬は漏斗部狭窄を悪化させるため禁忌である。 ・発作中は肺動脈狭窄の収縮期雑音が減弱・消失する。
