「自分が自分である」感覚が揺らぐとき―させられ体験と離人で学ぶ自我意識の障害
第105回医師国家試験 B問題 第27問
国試問題にチャレンジ
自我意識の障害はどれか。2つ選べ。
- a.両価性
- b.離人(症)
- c.緊張病症候群
- d.させられ体験
- e.Gerstmann症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
自我意識とは「自分が自分である」という意識であり、ヤスパースは能動性・単一性・同一性・外界や他者との区別の4標識で整理しました。能動性が失われ外部から操られていると感じるさせられ体験(作為体験)と、自己や外界の実在感が失われる離人が自我意識の障害の代表です。一方、両価性は感情(意志)の障害、緊張病症候群は意欲・精神運動の障害、Gerstmann症候群は優位半球頭頂葉の病変による巣症状であり、自我意識の障害ではありません。させられ体験はシュナイダーの一級症状として統合失調症を強く示唆しますが、離人は健常者の疲労時やうつ病・不安症などでもみられ疾患特異性が低い点も押さえておきましょう。精神症状を正しい分類に位置づけて理解することは、精神科診察での症状評価と鑑別診断の基礎になります。
解答・解説
正解はb, dです
自我意識とは
自我意識とは「自分が自分である」「この考えや行動は自分がしている」という、自己についての意識である。ドイツの精神医学者ヤスパース(Jaspers)は、自我意識を次の4つの標識で整理した。 1.能動性の意識:自分の思考・感情・行動は自分が行っているという感覚 2.単一性の意識:ある瞬間の自分は一人であるという感覚 3.同一性の意識:過去から現在まで自分は同じ自分であるという感覚 4.外界・他者との区別の意識:自分と外界・他人とは別のものであるという感覚 これらのいずれかが損なわれた状態が自我意識の障害である。
本問の考え方
選択肢を精神症状の分類(意識・知覚・思考・感情・意欲/精神運動・自我意識など)のどこに属するかで振り分けると解きやすい。能動性の意識が失われ「外部の何者かにやらされている」と感じるさせられ体験(作為体験)と、自分や外界の実在感・生き生きとした感覚が失われる離人(症)が自我意識の障害にあたる。両価性は感情の障害、緊張病症候群は意欲・精神運動の障害、Gerstmann症候群は大脳の局所病変による神経心理学的症候(失認・失行などの巣症状)であり、自我意識の障害ではない。
選択肢考察
- ×a. 両価性
両価性(アンビバレンス)とは、同一の対象に対して愛と憎しみのような相反する感情や意志が同時に存在する状態をいう。ブロイラー(Bleuler)が統合失調症の基本症状(4つのA:連合弛緩、感情の障害、両価性、自閉)の一つとして挙げたもので、感情(および意志)の障害に分類される。自我意識の障害ではない。
- ○b. 離人(症)
離人とは、自分の考えや行動、身体が自分のものであるという実感が薄れ、自分を外から眺めている傍観者のように感じる体験(自己の離人)や、周囲の世界が色あせて現実味がなく、膜を隔てたように感じる体験(現実感消失)をいう。「自分が自分である」という自己の実在感・能動感が損なわれた状態であり、自我意識の障害の代表である。本人は現実検討が保たれており、「そう感じるだけ」と自覚している点が特徴である。
- ×c. 緊張病症候群
緊張病症候群(カタトニア)は、昏迷、カタレプシー(強硬症:受動的にとらされた姿勢を保ち続ける)、蝋屈症、拒絶症、常同症、衒奇症、反響言語・反響動作、緘黙、興奮などを呈する状態である。意欲・精神運動の障害に分類され、自我意識の障害ではない。統合失調症(緊張型)のほか、気分障害(とくにうつ病)や身体疾患・脳炎などでも生じる。
- ○d. させられ体験
させられ体験(作為体験)とは、自分の思考・感情・行動が自分の意志によるものではなく、外部の何者かに操られ、させられていると感じる体験である。自我意識のうち能動性の意識が失われ、自己と他者の境界も曖昧になった状態であり、自我意識の障害にあたる。統合失調症に特徴的で、シュナイダー(Schneider)の一級症状に含まれる。
- ×e. Gerstmann症候群
Gerstmann症候群は、失算、失書、手指失認、左右失認の4徴からなる。優位半球(通常は左)の頭頂葉、とくに角回付近の病変で生じる神経心理学的症候(巣症状)であり、身体図式に関わる認知の障害である。精神症状としての自我意識の障害ではない。
自我意識の障害の主な例
・させられ体験(作為体験):能動性の障害。思考・行動を外から操られていると感じる。 ・思考吹入:他人の考えが自分の頭に吹き込まれると感じる。 ・思考奪取:自分の考えが抜き取られると感じる。 ・思考伝播(考想伝播):自分の考えが他人に伝わってしまうと感じる。 ・離人症:自己・身体・外界の実在感の喪失。 ・二重自我(二重身):自分がもう一人存在すると感じる(単一性の障害)。 ・解離性同一症(多重人格):時期によって別の人格が現れる(同一性の障害)。
シュナイダーの一級症状
考想化声、対話性幻聴、自己の行為に口出しする形の幻聴、身体への被影響体験、思考奪取やその他の思考への干渉、考想伝播、妄想知覚、感情・衝動・意志の領域におけるさせられ体験。させられ体験を含む自我障害の多くがここに含まれ、統合失調症の診断上重視されてきた。
離人症が出現する状況
離人は健常者でも強い疲労や睡眠不足、ストレス下で一過性に経験しうる。病的な状態としては離人感・現実感消失症(解離症群の一つ)のほか、うつ病、不安症、統合失調症、てんかん、薬物使用など多くの病態でみられ、疾患特異性は低い。
精神症状の分類の整理
・感情の障害:抑うつ気分、躁状態、両価性、感情鈍麻など ・意欲・精神運動の障害:昏迷、精神運動興奮、緊張病症候群、制止など ・思考の障害:思考形式(連合弛緩、観念奔逸、思考制止)と思考内容(妄想) ・知覚の障害:錯覚、幻覚 ・自我意識の障害:させられ体験、離人など
POINT
・自我意識の障害の代表は「させられ体験(作為体験)」と「離人(症)」である。 ・ヤスパースの自我意識の4標識:能動性、単一性、同一性、外界・他者との区別。 ・両価性は感情(意志)の障害で、ブロイラーの4つのAの一つ。 ・緊張病症候群は意欲・精神運動の障害。 ・Gerstmann症候群(失算・失書・手指失認・左右失認)は優位半球頭頂葉(角回)の巣症状。 ・させられ体験はシュナイダーの一級症状に含まれ、統合失調症に特徴的。離人は疾患特異性が低い。
