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出口から攻める胃静脈瘤治療―BRTOのバルーンはなぜ左腎静脈に入るのか

第105回医師国家試験 B問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第105回 B問題 第26問

胃静脈瘤に対するバルーン閉塞下経静脈的静脈瘤閉塞〈BRTO〉でバルーンカテーテルを挿入する血管はどれか。

  1. a.奇静脈
  2. b.脾静脈
  3. c.左胃静脈
  4. d.左腎静脈
  5. e.下腸間膜静脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胃静脈瘤に対するBRTOという画像下治療の問題だ。手技名をただ覚えるのではなく、胃静脈瘤の血液がどこから来てどこへ出ていくのかという血管解剖を考えれば、自然に答えが出る。まず、BRTOの正式名称から考えてみよう。
医学生医学生
バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術、でしたっけ。名前は聞いたことがありますが、中身はあいまいです。
ドクタードクター
名前に大きなヒントが詰まっているよ。「経静脈的」は体循環側の静脈からカテーテルを入れること、「逆行性」は血流に逆らって静脈瘤の出口側から到達すること、という意味なんだ。では、門脈圧が上がると門脈の血液はどうなるかな。
医学生医学生
肝臓を通れなくなって、側副血行路を通って体循環に逃げていくんですよね。消化器の講義で、食道静脈瘤やメドゥーサの頭を習いました。
ドクタードクター
その通り。胃静脈瘤、特に胃穹窿部の孤立性静脈瘤では、流入路は主に後胃静脈や短胃静脈で、どちらも脾静脈系だ。そして流出路の大部分を占めるのが胃腎シャントで、左下横隔静脈や左副腎静脈を介して左腎静脈に注ぎ、そこから下大静脈へ戻っていく。
医学生医学生
ということは、大腿静脈から下大静脈、左腎静脈と上がっていけば、静脈瘤の出口にたどり着けるわけですね。
ドクタードクター
そう、それがBRTOの経路だ。左腎静脈から胃腎シャントへカテーテルを進め、出口をバルーンで閉塞して血流を止めたうえで、硬化剤を静脈瘤内に逆行性に注入して停滞させ、血栓化させる。だからバルーンカテーテルを挿入するのは左腎静脈、そこから連続する胃腎シャントが正解になる。
医学生医学生
わざわざバルーンで止めるのはなぜですか。硬化剤を入れるだけでは駄目なんでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だ。流れを止めないと硬化剤がすぐ体循環へ流れ出て、肺塞栓や腎障害を起こしかねないし、静脈瘤内で十分な濃度を保てない。バルーンは安全性と効果の両方のために必要なんだ。では他の血管も確認しよう。脾静脈はどうかな。
医学生医学生
脾静脈は門脈系で、静脈瘤に血液を送り込む側ですよね。体循環側からは入れない気がします。
ドクタードクター
正解。脾静脈は供血路の起始部にあたる流入側で、経静脈的・逆行性には到達しない。左胃静脈も門脈系で、食道静脈瘤や噴門部の胃静脈瘤の主な供血路だから、やはり流入側だ。下腸間膜静脈も門脈系で、直腸静脈瘤の形成に関わる血管だね。
医学生医学生
奇静脈は体循環系なので、ちょっと迷いました。
ドクタードクター
迷うのはもっともだ。奇静脈は食道静脈瘤の血液が上大静脈へ抜ける排血路になりうるけれど、胃穹窿部静脈瘤の主な排血路ではない。「食道静脈瘤は左胃静脈から奇静脈へ」「胃穹窿部静脈瘤は後胃・短胃静脈から胃腎シャント、左腎静脈へ」と対比して覚えると整理しやすいよ。
医学生医学生
門脈系の供血路を直接塞ぎたい場合はどうするんですか。
ドクタードクター
その場合は経皮経肝的に門脈側から到達するPTOという方法がある。胃腎シャントがない、あるいはカテーテルが到達できない症例で選ばれるんだ。
医学生医学生
出口側から入るのがBRTO、入口側から入るのがPTO、という対比ですね。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。発展知識も押さえておこう。胃穹窿部静脈瘤は血流が多く壁も厚いので、食道静脈瘤で使うEVLやEISでは効果が得にくい。出血時の緊急止血にはシアノアクリレート系の組織接着剤の内視鏡的注入が使われ、待機的・予防的治療としてBRTOが行われる。硬化剤のエタノールアミンオレイトは溶血を起こして腎障害の原因になりうるので、ハプトグロビンを投与して予防するんだ。
医学生医学生
シャントを塞ぐと、門脈圧はかえって上がってしまいませんか。
ドクタードクター
鋭いね。実際、術後に食道静脈瘤の悪化や腹水の増加をきたすことがあるから、経過観察が欠かせない。一方で、シャントに逃げていた門脈血が肝臓へ向かうようになるので、胃腎シャントが原因の肝性脳症が改善することもある。メリットとデメリットの両面を意識して治療を選ぶのが大切だよ。

まとめ

BRTO(バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術)は、主に胃穹窿部静脈瘤に対して行われる画像下治療です。胃穹窿部静脈瘤は後胃静脈・短胃静脈から血液が流入し、多くは胃腎シャントを経て左腎静脈から下大静脈へ流出するため、大腿静脈などから左腎静脈経由で胃腎シャントにバルーンカテーテルを挿入し、流出路を閉塞して硬化剤を逆行性に注入します。脾静脈・左胃静脈・下腸間膜静脈は門脈系の流入側であり経静脈的には到達できず、門脈側からの治療にはPTOが用いられます。術後は門脈圧上昇による食道静脈瘤の悪化や腹水に注意する一方、肝性脳症の改善が期待できる点も押さえておきましょう。側副血行路の流入路と流出路を区別して理解することは、門脈圧亢進症の病態と治療法を選ぶ根拠を理解するための基盤になります。

解答・解説

正解はdです

BRTOとはどのような治療か

BRTO(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術)は、門脈圧亢進症に伴う胃静脈瘤、とくに胃穹窿部(噴門から離れた胃底部)の孤立性静脈瘤に対して行われるインターベンショナルラジオロジー(IVR:画像下治療)である。

解剖学的な前提:胃静脈瘤の血液はどこから来てどこへ出ていくか

門脈圧が上昇すると、門脈系の血液は抵抗の低い体循環系へ逃げ道(門脈-大循環短絡路)を求める。胃穹窿部静脈瘤では、流入路(供血路)は主に後胃静脈や短胃静脈(いずれも脾静脈系)であり、流出路(排血路)は約8〜9割の症例で胃腎シャント(gastrorenal shunt)である。胃腎シャントは左下横隔静脈や左副腎静脈を介して左腎静脈に注ぎ、そこから下大静脈へ戻る。

手技の流れと正解の導き方

BRTOでは、大腿静脈(または右内頸静脈)から穿刺し、下大静脈→左腎静脈→胃腎シャントへとカテーテルを進める。つまり、体循環側(静脈瘤の出口側)から逆行性に到達する。胃腎シャントの流出部をバルーンで閉塞して血流を止め、その状態で硬化剤(5%エタノールアミンオレイト〈EO〉と造影剤の混合液など)を静脈瘤内へ逆行性に注入し、停滞させて静脈瘤を血栓化・閉塞させる。バルーンで流れを止めるのは、硬化剤が体循環へ流出して肺塞栓や腎障害などを起こすのを防ぎ、静脈瘤内に十分な濃度で留めるためである。 したがって、バルーンカテーテルを挿入する血管は、胃腎シャントの出口にあたる左腎静脈(およびそこから連続するシャント)であり、正解はdである。

解くための考え方

選択肢のうち、脾静脈・左胃静脈・下腸間膜静脈は門脈系の血管であり、経静脈的(体循環側から)にはそのままでは到達できない。奇静脈は体循環系ではあるが、胃穹窿部静脈瘤の主要な排血路ではない。「経静脈的に」「逆行性に」という名称から、体循環側の排血路(左腎静脈)を選ぶことができる。

選択肢考察

  1. ×a.  奇静脈

    奇静脈は上大静脈へ注ぐ体循環系の静脈で、食道静脈瘤の血液が食道傍静脈などを経て流出する経路にはなりうる。しかし胃穹窿部静脈瘤の主な排血路は胃腎シャントであり、奇静脈が排血路となることはまれである。BRTOでバルーンを留置する部位ではない。

  2. ×b.  脾静脈

    脾静脈は門脈系の血管で、胃穹窿部静脈瘤の供血路である後胃静脈・短胃静脈の起始部にあたる(流入側)。体循環側の静脈から経静脈的・逆行性にカテーテルを進めるBRTOでは到達しない。門脈側から供血路を塞栓するには経皮経肝的なアプローチ(PTO:経皮経肝的静脈瘤塞栓術)が必要になる。

  3. ×c.  左胃静脈

    左胃静脈(胃冠状静脈)は門脈系の血管で、食道静脈瘤や噴門部の胃静脈瘤の主な供血路となる(流入側)。胃穹窿部静脈瘤の供血路としては後胃静脈・短胃静脈の関与が主である。いずれにせよ門脈系であり、体循環側から逆行性に到達するBRTOでバルーンを挿入する血管ではない。

  4. ○d.  左腎静脈

    胃穹窿部静脈瘤の多くは胃腎シャントを排血路とし、その血液は左腎静脈から下大静脈へ流出する。BRTOでは大腿静脈などから下大静脈・左腎静脈を経て胃腎シャントへカテーテルを進め、バルーンで流出路を閉塞して硬化剤を逆行性に注入する。したがってバルーンカテーテルを挿入するのは左腎静脈(から連続する胃腎シャント)である。

  5. ×e.  下腸間膜静脈

    下腸間膜静脈は脾静脈または上腸間膜静脈に注ぐ門脈系の血管である。直腸静脈叢を介して痔静脈瘤(直腸静脈瘤)の形成には関わるが、胃穹窿部静脈瘤の排血路ではなく、経静脈的に逆行性に到達してバルーンを留置する血管ではない。

門脈圧亢進症の主な側副血行路

・食道静脈瘤:左胃静脈(胃冠状静脈)→食道静脈叢→奇静脈・半奇静脈→上大静脈 ・胃穹窿部静脈瘤:後胃静脈・短胃静脈→胃腎シャント(左下横隔静脈・左副腎静脈経由)→左腎静脈→下大静脈 ・腹壁静脈怒張(メドゥーサの頭):臍傍静脈→腹壁静脈 ・直腸静脈瘤:下腸間膜静脈→上直腸静脈→中・下直腸静脈→内腸骨静脈 ・脾腎シャント:脾静脈→左腎静脈

胃静脈瘤の治療

・食道静脈瘤は内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)や内視鏡的硬化療法(EIS)で治療されることが多い。 ・胃穹窿部静脈瘤は血流量が多く壁も厚いため、EVLやEISでは十分な効果が得にくい。出血時の緊急止血にはシアノアクリレート系組織接着剤(α-シアノアクリレート〈CA〉)の内視鏡的注入が用いられる。 ・待機的・予防的治療として、胃腎シャントを有する症例ではBRTOが広く行われる。 ・胃腎シャントがない、あるいはカテーテルが到達できない場合は、経皮経肝的に門脈側から供血路を塞栓するPTO(percutaneous transhepatic obliteration)などが選択される。

BRTOの注意点

・硬化剤のEOは溶血を起こし、遊離ヘモグロビンによる腎障害をきたしうるため、予防にハプトグロビンが投与される。 ・短絡路を閉塞するため門脈圧が上昇し、術後に食道静脈瘤の悪化や腹水の増加をきたすことがある。 ・逆に門脈血流が肝へ向かうため、肝性脳症の改善が期待できる(胃腎シャントは門脈体循環性脳症の原因にもなる)。

POINT

・BRTO=バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術。胃穹窿部静脈瘤の治療。 ・胃穹窿部静脈瘤の排血路は多くが胃腎シャント→左腎静脈→下大静脈。 ・大腿静脈などから左腎静脈経由で胃腎シャントにバルーンカテーテルを入れ、流出路を閉塞して硬化剤を逆行性に注入する。 ・脾静脈・左胃静脈・下腸間膜静脈は門脈系(供血側)であり、経静脈的には到達しない(門脈側からの治療はPTO)。 ・術後は門脈圧上昇による食道静脈瘤悪化・腹水に注意する一方、肝性脳症は改善しうる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。