更年期の症状には「順番」がある―最初に現れるのは月経の乱れとホットフラッシュ
第104回医師国家試験 I問題 第34問
国試問題にチャレンジ
更年期のエストロゲン欠乏によって起こる症状・疾患の中で,最も早期に出現するのはどれか。2つ選べ。
- a.月経異常
- b.骨粗鬆症
- c.萎縮性腟炎
- d.のぼせや発汗
- e.不安や抑うつ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
更年期は閉経(平均約50歳)の前後約10年間で、卵胞の枯渇によりエストロゲンが低下し、FSHが上昇します。エストロゲン欠乏による症状は時間経過に沿って現れ、早期には月経異常とのぼせ・発汗などの血管運動神経症状、続いて不安・抑うつなどの精神神経症状、中期には萎縮性腟炎などの泌尿生殖器症状、後期には骨粗鬆症や脂質異常症・動脈硬化が問題となります。治療の中心はHRTで、子宮を有する女性では黄体ホルモンを併用し、乳癌や静脈血栓塞栓症の既往では原則として避けます。症状の出現時期を時間軸で整理しておくことは、更年期女性の現在の訴えへの対応と、将来の骨折や心血管疾患の予防を見据えた診療の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はa, dです
閉経とは卵巣機能の低下によって月経が永久に停止した状態をいい、12か月以上月経がないことを確認して、最後の月経の時点を閉経とさかのぼって判定する。本邦女性の閉経年齢の平均は約50歳である。閉経の前後5年間、合わせて約10年間を更年期と呼ぶ。 更年期には卵巣の卵胞が枯渇していき、エストロゲン(主にエストラジオール)の分泌が減少する。エストロゲンは子宮・腟・尿路だけでなく、体温調節中枢、脳、骨、血管・脂質代謝など全身に作用しているため、その欠乏による症状・疾患は多岐にわたる。重要なのは、これらが同時に起こるのではなく、閉経からの時間経過に沿って段階的に現れることである。
エストロゲン欠乏による症状・疾患の出現時期
・早期(閉経前後の更年期): 月経異常(周期の乱れなど)、血管運動神経症状(のぼせ・ほてり(ホットフラッシュ)、発汗、動悸)。これらに続いて、あるいは並行して、不安・抑うつ・不眠・イライラなどの精神神経症状が現れる。 ・中期(閉経後数年): 萎縮性腟炎、性交痛、頻尿・尿失禁などの泌尿生殖器の萎縮症状、皮膚の萎縮。 ・後期(閉経後10年以降): 骨粗鬆症(およびそれによる骨折)、脂質異常症、動脈硬化症、心血管疾患。 この時間経過を押さえれば、選択肢のうち最も早期に出現するのは月経異常とのぼせ・発汗であると判断できる。卵巣機能の低下はまず排卵の障害と月経の乱れとして現れ、エストロゲンの減少・変動に鋭敏に反応する血管運動神経症状がほぼ同時期に出現する。
選択肢考察
- ○a. 月経異常
卵巣機能が低下し始めると、卵胞の発育が不十分になって排卵が起こりにくくなる。その結果、閉経に先立って月経周期が短くなる(頻発月経)、長くなる(希発月経)、月経量が少なくなる(過少月経)、出血が長引く(過長月経)といった月経異常が出現する。無排卵周期ではプロゲステロンが分泌されないため、不正出血がみられることもある。これは閉経に向かう移行期に最初にみられる変化であり、最も早期に出現する症状の一つである。よって正しい。なお、この時期の不正出血では子宮体癌などの器質的疾患を除外することが重要である。
- ×b. 骨粗鬆症
エストロゲンには破骨細胞による骨吸収を抑える作用がある。エストロゲンが欠乏すると骨吸収が骨形成を上回り、閉経後は骨量が急速に減少する。しかし骨量の低下は徐々に進むため、骨粗鬆症として診断されたり、脊椎椎体骨折・大腿骨近位部骨折などの症状が問題となったりするのは、閉経後数年から10年以上経過してからである。エストロゲン欠乏が主因ではあるが、晩期に現れる疾患であり、最も早期に出現するものではない。よって誤りである。
- ×c. 萎縮性腟炎
エストロゲンは腟上皮を厚く保ち、上皮細胞に蓄えられたグリコーゲンがDöderlein桿菌(乳酸桿菌)によって乳酸に分解されることで腟内は酸性に保たれ、感染が防がれている(腟の自浄作用)。エストロゲンが欠乏すると腟上皮が薄くなり、自浄作用が低下するため、腟の乾燥感、性交痛、帯下の増加、出血、細菌感染を起こしやすくなる。これが萎縮性腟炎(老人性腟炎)である。エストロゲン低下が原因ではあるが、症状が目立ってくるのは閉経後数年を経てからであり、最も早期の症状ではない。出現時期や程度には個人差が大きく、脂肪組織でアンドロゲンからエストロゲンが産生される肥満女性では起こりにくい傾向がある。よって誤りである。
- ○d. のぼせや発汗
のぼせ・ほてり(ホットフラッシュ)や発汗は血管運動神経症状と呼ばれ、更年期症状の中で最も代表的かつ早期に現れる症状である。エストロゲンの減少や急激な変動によって視床下部の体温調節中枢の働きが不安定になり、わずかな体温の変化でも皮膚血管の拡張や発汗が起こって熱を放散しようとするため生じると考えられている。多くは閉経前後の更年期に始まり、月経異常とほぼ同じ時期に出現する。よって正しい。治療としてはホルモン補充療法(HRT)が最も有効である。
- ×e. 不安や抑うつ
不安、抑うつ、イライラ、不眠、意欲低下などの精神神経症状も更年期にしばしばみられる。エストロゲンの減少に伴う脳内神経伝達物質の変化に加え、家庭や職場などの環境の変化、心理的要因が複雑に関与している。更年期に起こりうる症状ではあるが、エストロゲン欠乏の直接の初発症状としては、月経異常や血管運動神経症状ほど早期・典型的に現れるものではない。したがって、最も早期に出現するものとしては選ばない。なお、症状が強い場合はうつ病などの精神疾患との鑑別が必要である。
閉経と更年期の定義
・閉経: 卵巣機能の低下により月経が永久に停止すること。12か月以上の無月経を確認して判定する。本邦の平均閉経年齢は約50歳。 ・更年期: 閉経の前後5年間、合わせて約10年間。 ・更年期症状: 更年期に現れる多彩な症状のうち、器質的な病気によらないもの。 ・更年期障害: 更年期症状のうち、日常生活に支障をきたす状態。
閉経前後のホルモン変化
卵胞の減少によりエストロゲンやインヒビンの分泌が低下し、ネガティブフィードバックが外れるため、下垂体からのFSH(卵胞刺激ホルモン)が上昇する。FSHはLH(黄体形成ホルモン)より早期から著明に上昇する。閉経後は高ゴナドトロピン性の低エストロゲン状態となる。
更年期症状の分類
・血管運動神経症状: のぼせ、ほてり(ホットフラッシュ)、発汗、動悸、冷え ・精神神経症状: 不安、抑うつ、イライラ、不眠、頭痛、めまい、耳鳴り、集中力低下 ・その他の身体症状: 肩こり、腰痛、関節痛、疲労感、しびれ、口の渇きなど 症状の評価には、本邦では簡略更年期指数(simplified menopausal index: SMI)がよく用いられる。
閉経後の中長期的な変化
・泌尿生殖器の萎縮: 萎縮性腟炎、性交痛、頻尿・尿失禁、反復する尿路感染症。近年はまとめて閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause: GSM)と呼ばれる。 ・骨: 骨吸収亢進により骨量が減少し、骨粗鬆症・骨折の危険が高まる。 ・脂質・血管: LDLコレステロールの上昇などにより脂質異常症、動脈硬化、心血管疾患が増加する。
治療
・ホルモン補充療法(HRT): 欠乏したエストロゲンを補う治療で、血管運動神経症状に最も有効であり、萎縮性腟炎や骨量減少の予防・改善にも効果がある。子宮を有する女性では、エストロゲン単独投与による子宮内膜増殖症・子宮体癌のリスクを避けるため、黄体ホルモンを併用する。子宮摘出後の女性ではエストロゲン単独療法(ERT)でよい。投与経路には経口剤と経皮剤(貼付剤・ゲル剤)などがあり、経皮剤は肝臓での初回通過効果を受けないため、血液凝固系への影響が少なく静脈血栓塞栓症のリスクが低いとされる。 ・禁忌・慎重投与: 乳癌・子宮体癌の既往や疑い、静脈血栓塞栓症の既往、原因不明の不正性器出血、重度の肝障害などでは原則として用いない。 ・その他: 漢方薬(当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸など)、精神症状に対する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの向精神薬、萎縮性腟炎に対する腟錠のエストロゲン製剤など。
POINT
・更年期は閉経(平均約50歳)の前後5年ずつ、計約10年間である。 ・エストロゲン欠乏による症状は時間経過に沿って出現する: 早期は月経異常と血管運動神経症状(のぼせ・発汗)、続いて精神神経症状、中期は萎縮性腟炎などの泌尿生殖器症状、後期は骨粗鬆症・脂質異常症・動脈硬化である。 ・閉経期にはFSHが著明に上昇し、エストロゲンが低下する。 ・HRTは血管運動神経症状に最も有効で、子宮のある女性には黄体ホルモンを併用する。
