生後9日の死は何と数える?―周産期・新生児・乳児死亡の境界線と出産をめぐる制度
第104回医師国家試験 B問題 第44問
国試問題にチャレンジ
37歳の初産婦。妊娠26週時に交通事故で腹部を打撲し,常位胎盤早期剝離をきたした。緊急帝王切開を行い800 gの男児を娩出したが,児は生後9日に多臓器不全のため死亡した。 この事例について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.周産期死亡として扱われる。
- b.新生児死亡として扱われる。
- c.乳児死亡として扱われる。
- d.出産育児一時金は給付されない。
- e.産後の休業は認められない。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
早期新生児死亡は生後7日未満、新生児死亡は生後28日未満、乳児死亡は生後1年未満の死亡で、この3つは入れ子の関係にあります。周産期死亡は妊娠満22週以後の死産と早期新生児死亡を合わせたものなので、生後9日での死亡は周産期死亡には含まれず、新生児死亡かつ乳児死亡に該当します。妊娠4か月(85日)以上の分娩は法律上の出産にあたり、児の生死にかかわらず出産育児一時金の支給や産後8週間の休業(6週間経過後は本人の請求と医師の許可で就業可)の対象となります。乳児死亡率・新生児死亡率は出生千対、周産期死亡率は出産千対という分母の違いや、出産手当金との区別も合わせて押さえておきましょう。統計の定義と制度を正確に理解することは、母子保健の現状を読み解き、困難に直面した家族を支えるための基盤になります。
解答・解説
正解はb, cです
事例の整理
・37歳の初産婦(35歳以上で初めて出産する高年初産婦)が、妊娠26週に交通事故で腹部を打撲し、常位胎盤早期剝離(分娩前に胎盤が子宮壁から剝がれる状態)をきたした。 ・緊急帝王切開で出生した児は800 gの男児である。出生体重1,000 g未満なので超低出生体重児、在胎28週未満なので超早産児にあたる。 ・児は生後9日に多臓器不全で死亡した。
設問の考え方
本問は、母子保健統計で用いられる死亡の区分と、出産にかかわる社会保障制度の知識を問うている。ポイントは次の2点である。 1.児は「出生して生きていた(生産)」ので、死産ではなく出生後の死亡として扱われる。死亡したのは生後9日であり、この日齢がどの期間の定義に当てはまるかを判断する。 ・早期新生児期:生後1週(7日)未満 ・新生児期:生後4週(28日)未満 ・乳児期:生後1年未満 生後9日は、生後7日を過ぎているので早期新生児死亡には該当しないが、28日未満なので新生児死亡、1年未満なので乳児死亡に該当する。周産期死亡は「妊娠満22週以後の死産+早期新生児死亡」であるため、本例は含まれない。 2.母親は妊娠4か月(85日)以上で分娩しており、法律上の「出産」にあたる。児がその後死亡しても、出産育児一時金の支給や産後休業の権利は失われない。交通事故の損害賠償とも別に扱われる。
選択肢考察
- ×a. 周産期死亡として扱われる。
周産期死亡は「妊娠満22週以後の死産」と「生後1週(7日)未満の早期新生児死亡」を合わせたものである。本例は生きて生まれており死産ではなく、死亡は生後9日で1週を過ぎているので早期新生児死亡にも当たらない。したがって周産期死亡には含まれない。
- ○b. 新生児死亡として扱われる。
新生児死亡は生後4週(28日)未満の死亡をいう。本例は生後9日で死亡しており、新生児死亡に該当する。なお、生後7日未満の死亡は早期新生児死亡として区別されるが、本例は7日以上28日未満の死亡(後期新生児死亡に相当)である。
- ○c. 乳児死亡として扱われる。
乳児死亡は生後1年未満の死亡をいう。新生児死亡は乳児死亡の一部であり、生後9日での死亡は乳児死亡にも該当する。乳児死亡率は出生千対で表され、地域の衛生状態や生活水準を反映する指標として用いられる。
- ×d. 出産育児一時金は給付されない。
出産育児一時金は、健康保険・国民健康保険などの被保険者またはその被扶養者が妊娠4か月(85日)以上で出産した場合に、医療保険者から支給される。死産・流産・人工妊娠中絶も妊娠85日以上であれば対象となり、出生した児がその後死亡しても支給される。本例は妊娠26週の出産であるから給付される。支給額は制度改正で引き上げられており、2023年4月からは原則50万円(産科医療補償制度の対象外となる出産では48.8万円)である。
- ×e. 産後の休業は認められない。
労働基準法では、使用者は産後8週間を経過しない女性を就業させてはならないと定めている(産後休業)。ただし産後6週間を経過し、本人が請求して医師が支障ないと認めた業務に就くことは差し支えない。この「出産」には妊娠4か月以上の分娩が含まれ、死産や、出生後に児が死亡した場合も対象となる。母体保護のための規定であるから、児の生死にかかわらず産後の休業は認められる。
母子保健統計の主な定義
・死産:妊娠満12週以後の死児の出産(死産の届出に関する規程による)。自然死産と人工死産に分けられる。 ・周産期死亡:妊娠満22週以後の死産+早期新生児死亡。周産期死亡率は「出産(出生+妊娠満22週以後の死産)千対」で算出する。 ・早期新生児死亡:生後1週(7日)未満の死亡。 ・新生児死亡:生後4週(28日)未満の死亡。新生児死亡率は出生千対。 ・乳児死亡:生後1年未満の死亡。乳児死亡率は出生千対。 ・妊産婦死亡:妊娠中または妊娠終了後42日未満の女性の、妊娠に関連した原因による死亡。率は出産(出生+死産)10万対。 期間の包含関係は「早期新生児死亡 ⊂ 新生児死亡 ⊂ 乳児死亡」であり、周産期死亡は出生前(死産)と出生後早期(早期新生児死亡)にまたがる概念である点に注意する。
出生体重・在胎週数による分類
・低出生体重児:2,500 g未満、極低出生体重児:1,500 g未満、超低出生体重児:1,000 g未満。 ・早産児:在胎37週未満、超早産児:在胎28週未満。
出産にかかわる主な制度
・出産育児一時金(健康保険法など):妊娠85日以上の出産で支給。医療機関への直接支払制度がある。 ・出産手当金(健康保険法):被保険者本人が出産のため仕事を休み給与が支払われないとき、産前42日(多胎98日)から産後56日までの期間、標準報酬日額の3分の2相当が支給される。 ・産前休業(労働基準法):出産予定日以前6週間(多胎妊娠14週間)。本人が請求した場合に休業させなければならない(請求がなければ就業可能)。 ・産後休業(労働基準法):産後8週間は就業禁止。6週間経過後は本人の請求と医師の許可があれば就業可能。
外傷と常位胎盤早期剝離
交通事故などの腹部外傷は常位胎盤早期剝離の誘因となる。妊婦のシートベルトは、腰ベルトを腹部のふくらみを避けて骨盤の低い位置に、肩ベルトを両乳房の間を通して着用するよう指導される。
POINT
・早期新生児死亡=生後1週未満、新生児死亡=生後4週未満、乳児死亡=生後1年未満。 ・周産期死亡=妊娠満22週以後の死産+早期新生児死亡。生後7日以降の死亡は含まない。 ・生後9日の死亡は新生児死亡かつ乳児死亡であり、周産期死亡ではない。 ・妊娠4か月(85日)以上の分娩は「出産」であり、児の生死にかかわらず出産育児一時金の支給・産後休業(8週間、6週間以降は条件付きで就業可)の対象となる。
