労災保険は「事業主の責任を国が肩代わりする保険」―骨格がわかれば選択肢は自然に解ける
第104回医師国家試験 B問題 第23問
国試問題にチャレンジ
我が国の労働者災害補償保険について正しいのはどれか。
- a.強制加入である。
- b.遺族は給付の対象外である。
- c.医療費の自己負担は1割である。
- d.業務上疾病の認定は産業医が行う。
- e.保険料は事業主と労働者とが折半して負担する。
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
労災保険は、労働基準法が定める事業主の災害補償責任を、国(政府)が保険者となって保険化した制度です。労働者を1人でも使用する事業には原則として強制適用され、保険料は事業主が全額負担し、労働者の負担はありません。業務災害と通勤災害が対象で、療養補償給付には原則として自己負担がなく、遺族補償給付や葬祭料など死亡時の給付もあります。業務上か否かの認定は労働基準監督署長が行い、産業医には認定権限がありません。「事業主の責任を肩代わりする保険」という本質を理解しておくと、健康保険や雇用保険との違いも整理でき、診断書作成や職業歴の聴取など臨床での実務にも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
本問は、労働者災害補償保険(労災保険)の基本的な仕組みを問う一般問題である。
労災保険の位置づけ
労働基準法は、業務上の負傷・疾病・死亡について、使用者(事業主)に補償の責任があると定めている(災害補償責任)。しかし、事業主が個別に補償するのでは、事業主の資力不足などで被災者が確実に救済されないおそれがある。そこで、事業主から保険料を集め、国(政府)が保険者となって給付を行うのが、労働者災害補償保険法に基づく労災保険である。
押さえるべき骨格
・保険者:政府(実務は都道府県労働局・労働基準監督署) ・適用:労働者を1人でも使用する事業は原則として強制適用 ・保険料:事業主が全額負担(労働者負担なし) ・対象となる災害:業務災害と通勤災害(2020年からは複数の事業場で働く労働者の業務上の負荷を総合して評価する複数業務要因災害も対象) ・給付:医療(療養)、休業、障害、遺族、介護など多岐にわたり、療養の給付に自己負担はない ・業務上か否かの認定:労働基準監督署長が行う 「事業主の補償責任を肩代わりする保険」という本質を理解していれば、保険料を事業主が全額負担し、労働者の自己負担もないことは自然に導ける。この骨格に照らして各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ○a. 強制加入である。
労働者を1人でも使用する事業は、業種・規模を問わず原則として労災保険の適用事業となる。事業が始まった時点で保険関係が自動的に成立する(強制適用)。事業主が加入手続きを怠っていても、労働者は被災すれば給付を受けられる。この場合、国は事業主から保険料をさかのぼって徴収し、給付に要した費用の全部または一部も徴収することがある。例外として、個人経営の小規模な農林水産業の一部は任意適用(暫定任意適用事業)とされている。また、国家公務員・地方公務員には別の法律(国家公務員災害補償法、地方公務員災害補償法)による補償制度がある。これらは例外にとどまるため、「強制加入である」は正しい。
- ×b. 遺族は給付の対象外である。
労働者が業務災害や通勤災害で死亡した場合、遺族には遺族(補償)給付が支給される。遺族(補償)給付には、一定の要件を満たす遺族に支給される年金と、年金の受給資格者がいない場合の一時金がある。また、葬祭を行う者には葬祭料(葬祭給付)が支給される。したがって、遺族は給付の対象である。
- ×c. 医療費の自己負担は1割である。
業務災害・通勤災害による傷病の治療は、療養(補償)給付として、労災指定医療機関で原則無料で受けられる。医療保険(健康保険)のような1〜3割の一部負担金はない。ただし、通勤災害の療養給付では、初回に200円を上限とする一部負担金が徴収される場合がある。なお、業務上の傷病には健康保険は使えず、労災保険で扱うのが原則である。
- ×d. 業務上疾病の認定は産業医が行う。
労災保険の給付を受けるには、被災労働者(または遺族)が労働基準監督署長に請求書を提出する。労働基準監督署長が調査を行い、業務上(または通勤による)災害かどうかを認定して支給・不支給を決定する。産業医は事業場で労働者の健康管理(健康診断結果に基づく意見、職場巡視、面接指導など)を担う医師であり、労災認定の権限はもたない。認定の結果に不服があれば、労働者災害補償保険審査官への審査請求、労働保険審査会への再審査請求を行うことができる。
- ×e. 保険料は事業主と労働者とが折半して負担する。
労災保険の保険料は事業主が全額負担し、労働者の負担はない。これは、労災保険が本来は事業主が負うべき災害補償責任を保険化したものだからである。保険料は賃金総額に、業種ごとに定められた労災保険率を掛けて算出される。災害の多い業種ほど保険率が高い。また、一定規模以上の事業では、災害の発生状況に応じて保険料を増減させる仕組み(メリット制)がある。労使折半で負担するのは、健康保険・厚生年金保険などである。雇用保険は労使双方が負担するが、事業主の負担割合の方が大きい。
労災保険の主な給付
(業務災害では「〜補償給付」、通勤災害では「〜給付」と呼ぶ) ・療養(補償)給付:治療費。原則として現物給付で自己負担なし。 ・休業(補償)給付:療養のため働けず賃金を受けられない日の4日目から支給される(給付基礎日額の60%。さらに休業特別支給金20%が上乗せされる)。業務災害の場合、最初の3日間(待期期間)は労働基準法に基づき事業主が休業補償を行う。 ・傷病(補償)年金:療養開始後1年6か月を経過しても治らず、一定の傷病等級に該当する場合に支給される。 ・障害(補償)給付:治ゆ(症状固定)後に障害が残った場合に、等級に応じて年金または一時金が支給される。 ・遺族(補償)給付、葬祭料(葬祭給付):死亡の場合に支給される。 ・介護(補償)給付:重い障害で介護を受けている場合に支給される。 ・二次健康診断等給付:定期健康診断で脳・心臓疾患に関連する項目(血圧、血中脂質、血糖、腹囲またはBMI)のすべてに異常所見があった場合に、二次健康診断と特定保健指導が受けられる。
特別加入制度
本来は労働者ではない中小事業主、一人親方、海外派遣者なども、任意に特別加入することができる。
業務上疾病の認定
労働基準法施行規則別表第1の2に業務上疾病の範囲が列挙されている。脳・心臓疾患(過重労働)や精神障害(心理的負荷)については、厚生労働省の認定基準に沿って労働基準監督署が判断する。
社会保険の保険料負担のまとめ
・労災保険:事業主が全額負担 ・雇用保険:労使双方(事業主の負担が多い) ・健康保険・厚生年金保険:原則として労使折半
POINT
・労災保険は、労働者を1人でも使用する事業に原則として強制適用される。 ・保険者は政府であり、保険料は事業主が全額負担する(労働者負担なし)。 ・療養(補償)給付に自己負担はない(通勤災害では初回に少額の一部負担あり)。 ・遺族(補償)給付・葬祭料もあり、遺族も給付対象となる。 ・業務上疾病の認定は労働基準監督署長が行い、産業医ではない。 ・業務災害だけでなく通勤災害も対象となる。
