副作用は「主作用の延長」で読み解く―ステロイドが起こすのは脱水ではなく浮腫
第104回医師国家試験 B問題 第24問
国試問題にチャレンジ
薬剤と副作用の組合せで誤っているのはどれか。
- a.アトロピン ―― 頻脈
- b.吸入麻酔薬 ―― 高熱
- c.甲状腺ホルモン ―― るいそう
- d.副腎皮質ステロイド ―― 脱水
- e.非ステロイド性抗炎症薬 ―― 浮腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
副作用の多くは薬の主作用の延長として理解できます。アトロピンは迷走神経のブレーキを外して頻脈を、甲状腺ホルモンの過量は代謝亢進による体重減少を、NSAIDsは腎のプロスタグランジン抑制によるNa・水貯留から浮腫を起こします。副腎皮質ステロイドはミネラルコルチコイド様作用でNaと水を貯留させるため、典型的な副作用は浮腫・高血圧・低カリウム血症であり、脱水ではありません。一方、吸入麻酔薬による高熱はリアノジン受容体異常を素因とする悪性高熱症で、ダントロレンで治療します。「薬が体に何をするか」から副作用を予測する姿勢は、暗記の負担を減らすだけでなく、薬剤性の浮腫や発熱を見逃さない臨床力にもつながります。
解答・解説
正解はdです
本問は、日常診療でよく使われる薬剤について、薬理作用から予想される副作用を問う一般問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、薬剤と副作用の組合せとして成り立たないものを1つ選ぶ。 副作用を暗記だけで覚えるのではなく、薬の主作用を延長すると副作用が理解できる、という視点で整理するとよい。 ・アトロピン:副交感神経(ムスカリン受容体)を遮断する → 心臓への迷走神経のブレーキが外れて頻脈になる。 ・甲状腺ホルモン:全身の代謝を亢進させる → 過量では甲状腺中毒症状となり、体重が減少する。 ・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):プロスタグランジン(PG)の合成を阻害する → 腎でのNa排泄が減り、体液が貯留して浮腫を生じる。 ・副腎皮質ステロイド:糖質コルチコイド作用に加え、ミネラルコルチコイド(鉱質コルチコイド)様作用をもつ → Naと水が貯留し、浮腫・高血圧を生じる。 このように、薬そのものの作用から考えると、副腎皮質ステロイドの副作用は体液の「貯留」(浮腫)であり、「脱水」ではない。吸入麻酔薬による高熱は、薬理作用の延長ではなく、遺伝的素因をもつ人に起こる特異的な合併症(悪性高熱症)として覚えておく。
選択肢考察
- ×a. アトロピン ―― 頻脈
組合せとして正しい。アトロピンはムスカリン受容体を競合的に遮断する抗コリン薬である。心臓の洞結節・房室結節では、迷走神経(副交感神経)が心拍数を抑える方向に働いている。アトロピンはこの抑制を外すため、頻脈を起こす。この作用は、徐脈性不整脈の治療や麻酔前投薬に利用される。そのほかの抗コリン作用として、口渇(唾液分泌抑制)、散瞳・調節麻痺、閉塞隅角緑内障の悪化、腸管運動抑制(便秘)、尿閉、発汗抑制による体温上昇などがある。
- ×b. 吸入麻酔薬 ―― 高熱
組合せとして正しい。ハロタン、イソフルラン、セボフルラン、デスフルランなどの揮発性吸入麻酔薬や、脱分極性筋弛緩薬のスキサメトニウムは、悪性高熱症の誘因となる。悪性高熱症は、主に骨格筋のリアノジン受容体(RYR1)遺伝子の異常を素因とする。誘因薬剤により筋小胞体からCa2+が制御なく放出され、筋の代謝が異常に亢進する。その結果、急激な体温上昇(15分間に0.5℃以上などの急上昇や40℃以上)、呼気終末二酸化炭素分圧の上昇、頻脈、筋強直、アシドーシス、高カリウム血症、ミオグロビン尿などを生じる。治療は誘因薬剤の即時中止、特効薬ダントロレンの静注、全身冷却である。常染色体顕性(優性)遺伝を示すため、家族歴の聴取が重要である。
- ×c. 甲状腺ホルモン ―― るいそう
組合せとして正しい。甲状腺ホルモン(レボチロキシンなど)は、基礎代謝を高め、熱産生やエネルギー消費を増やす。過量に投与されると医原性の甲状腺中毒症となり、食欲があっても体重が減少する(るいそう)。そのほか、動悸・頻脈、心房細動、発汗過多、手指振戦、不眠、下痢などもみられる。長期の過量投与では骨粗鬆症の原因にもなる。高齢者や虚血性心疾患のある患者では、狭心症の誘発を避けるため少量から開始する。
- ○d. 副腎皮質ステロイド ―― 脱水
組合せとして誤っている。したがって本問の正解である。副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン、ヒドロコルチゾンなど)は、糖質コルチコイド作用に加えて、程度の差はあるがミネラルコルチコイド様作用をもつ。この作用で腎遠位尿細管・集合管でのNa再吸収とK排泄が促進されるため、起こりやすいのはNa・水の貯留による浮腫、高血圧、低カリウム血症であり、脱水ではない。ミネラルコルチコイド作用はヒドロコルチゾンで強く、プレドニゾロンでは中等度、デキサメタゾンやベタメタゾンではほとんどない。ステロイドの主な副作用には、ほかに感染症の誘発・増悪、糖尿病(ステロイド糖尿病)、骨粗鬆症、消化性潰瘍、精神症状、中心性肥満・満月様顔貌・野牛肩、白内障・緑内障、筋力低下(ステロイドミオパチー)、副腎不全(急な中止による離脱症状)などがある。
- ×e. 非ステロイド性抗炎症薬 ―― 浮腫
組合せとして正しい。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)はシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し、プロスタグランジンの産生を抑える。腎では、PGE2がHenleループ上行脚や集合管でのNaCl・水の再吸収を抑え、Na排泄を促している。また、PGE2やPGI2は腎血流と糸球体濾過量の維持にも関わっている。NSAIDsでこれらが抑えられるとNaと水が貯留し、浮腫や血圧上昇を生じる。心不全の悪化や降圧薬・利尿薬の効果減弱の原因にもなる。そのほか重要な副作用として、消化性潰瘍、急性腎障害、高カリウム血症、アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)、出血傾向(特にアスピリン)、肝障害などがある。
主作用の延長として理解できる副作用の例
・抗コリン薬:頻脈、口渇、散瞳、便秘、尿閉、緑内障の悪化 ・β遮断薬:徐脈、気管支攣縮(喘息患者で禁忌となりうる)、低血糖症状のマスク ・甲状腺ホルモン:甲状腺中毒症状(頻脈、体重減少、発汗、振戦) ・副腎皮質ステロイド:浮腫、高血圧、高血糖、易感染性、骨粗鬆症、クッシング様症状 ・NSAIDs:消化性潰瘍、腎障害、浮腫、喘息発作 ・ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬:脱水、低カリウム血症(「脱水」を起こす代表的な薬剤は利尿薬である)
浮腫を起こしやすい薬剤
副腎皮質ステロイド、NSAIDs、Ca拮抗薬(特にジヒドロピリジン系。細動脈が拡張して毛細血管内圧が上昇するため)、チアゾリジン薬(ピオグリタゾン)、甘草(偽アルドステロン症)、エストロゲン製剤など。
悪性高熱症と鑑別すべき高熱
・悪性症候群:抗精神病薬の投与やパーキンソン病治療薬の急な中止で起こる。高熱、筋強直、CK上昇、意識障害などを示す。治療にはダントロレンも用いられる。 ・セロトニン症候群:セロトニン作動薬で起こる。発熱、ミオクローヌス、反射亢進、自律神経症状などを示す。
POINT
・副腎皮質ステロイドはミネラルコルチコイド様作用によりNa・水を貯留させ、浮腫・高血圧・低K血症を起こす(脱水ではない)。 ・NSAIDsは腎のプロスタグランジンを抑制してNa貯留・浮腫・腎障害を起こす。 ・アトロピン(抗コリン薬)は頻脈、口渇、散瞳、尿閉を起こす。 ・揮発性吸入麻酔薬とスキサメトニウムは悪性高熱症の誘因となり、治療はダントロレンである。 ・甲状腺ホルモンの過量は体重減少・頻脈・心房細動などの甲状腺中毒症状を起こす。
