StudyMed医師国家試験

「出せない膀胱」を自分で空にする―在宅自己導尿が救う神経因性膀胱

第103回医師国家試験 I問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第103回 I問題 第34問

在宅自己導尿法の適応はどれか。

  1. a.膀胱炎
  2. b.前立腺炎
  3. c.前立腺癌
  4. d.過活動膀胱
  5. e.神経因性膀胱

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は在宅自己導尿法、つまり患者さん自身が決まった時刻にカテーテルで膀胱を空にする方法の適応を問う問題だ。着眼点はひとつ、「尿をためられない病気」なのか「尿を出し切れない病気」なのかを見分けること。まず、自己導尿はどんな困りごとを解決する手段だと思う?
医学生医学生
尿が出ない人のためのもの、でしょうか。でも尿閉なら留置カテーテルでもいい気がします。
ドクタードクター
いい疑問だね。一時的な尿閉なら留置で対応することも多い。でも「膀胱に尿はたまるのに、自力では十分に出し切れない」状態が慢性的に続く場合、カテーテルを入れっぱなしにすると尿路感染症や膀胱結石、尿道の損傷が増えてしまう。そこで1日に数回だけ入れて、出したらすぐ抜く。これが清潔間欠自己導尿、CICと呼ばれる方法なんだ。
医学生医学生
残尿が多いまま放っておくと、何がまずいんですか。
ドクタードクター
膀胱が過度に引き伸ばされて収縮力がさらに落ちる、感染を繰り返す、膀胱内圧が高いまま続いて腎・尿管へ尿が逆流し水腎症や腎機能障害につながる、そしてあふれるように漏れる溢流性尿失禁が起こる。定期的に空にすることで、これらをまとめて防ぐわけだ。
医学生医学生
なるほど、腎臓を守るための手技でもあるんですね。そうすると答えは神経因性膀胱でしょうか。
ドクタードクター
正解。神経因性膀胱は、脳・脊髄・末梢神経の障害で蓄尿と排尿の調節が破綻した状態だ。特に二分脊椎、糖尿病性末梢神経障害、直腸癌や子宮癌などの骨盤内手術後のように仙髄より末梢が障害されると排尿筋の収縮が弱い低活動膀胱になり、脊髄損傷では排尿筋と括約筋が協調しない排尿筋括約筋協調不全が起こる。どちらも大量の残尿を生じるので、自己導尿が管理の第一選択になる。
医学生医学生
泌尿器科の臨床実習で、二分脊椎の患者さんが小学生のころから自分で導尿していると聞いて驚きました。
ドクタードクター
そう、手の動きと理解力があれば子どもでも習得できるし、難しければ家族が行うこともある。では、ほかの選択肢がなぜ違うか確認しよう。膀胱炎はどうかな。
医学生医学生
膀胱炎は頻尿や排尿時痛が中心で、出す力自体は保たれていますよね。抗菌薬で治す病気だと思います。
ドクタードクター
その通り。残尿が多くなる病態ではないし、むしろカテーテル操作は感染の原因にもなりうる。ただ、残尿の多い神経因性膀胱の人が膀胱炎を繰り返すなら、背景の排出障害に対して自己導尿を行うことはある。原因と結果を取り違えないことが大事だ。
医学生医学生
前立腺炎は、腫れて尿閉になることがありませんでしたか。
ドクタードクター
急性細菌性前立腺炎では一時的に尿閉を起こすことがあるね。そのときは一時的な導尿や膀胱瘻で対処するけれど、抗菌薬で炎症が治まれば排尿は戻る。長期の在宅自己導尿の対象ではないし、尿道からのカテーテル操作は炎症を悪化させることがあるので慎重に扱う。前立腺癌も、辺縁域から発生することが多く早期には排尿症状が乏しい。治療は病期に応じた手術・放射線・内分泌療法が基本で、自己導尿の代表的な適応とはいえない。
医学生医学生
過活動膀胱は、CBTの勉強で抗コリン薬とβ3作動薬を覚えた記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。過活動膀胱は尿意切迫感を必須とする症状症候群で、ためられない蓄尿障害が主体。残尿は少ないから導尿は不要で、行動療法や抗コリン薬、ミラベグロンやビベグロンなどのβ3作動薬で治療する。蓄尿障害と排出障害を整理すると、今回の問題はすっきり解けるよ。
医学生医学生
蓄尿障害なら薬や行動療法、排出障害で残尿が多ければ導尿、という分け方ですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展知識として、CICは清潔操作で行えばよく、無菌操作は必須ではない。1日4〜6回程度、1回の導尿量が成人でおおむね300〜500mLを超えないように回数を調整する。無症状の細菌尿はよくみられるけれど、原則として治療の対象にはしない。また、前立腺肥大症などの閉塞で手術ができない、あるいは術後も残尿が多い場合にも適応になりうる。
医学生医学生
導尿していると細菌尿は避けられないけれど、症状がなければ慌てて抗菌薬を出さない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。不要な抗菌薬は耐性菌を増やすだけだ。在宅の患者さんを診るときは、残尿量・腎機能・感染症状をセットで追いかけることを意識しておこう。

まとめ

在宅自己導尿法(清潔間欠自己導尿)は、膀胱に尿はたまるが自力で出し切れず残尿が多い排出障害に対し、1日数回カテーテルで膀胱を空にする管理法で、代表的な適応は神経因性膀胱です。脊髄損傷、二分脊椎、糖尿病性神経障害、骨盤内手術後などで生じる低活動膀胱や排尿筋括約筋協調不全では、放置すると尿路感染・水腎症・腎機能障害・溢流性尿失禁を招きます。膀胱炎や過活動膀胱のような蓄尿障害が中心の病態や、前立腺炎・前立腺癌のように原疾患の治療が優先される病態は原則として適応になりません。清潔操作でよく留置カテーテルより合併症が少ないこと、無症状の細菌尿は原則治療しないことも押さえておきましょう。「蓄尿障害か排出障害か」で排尿障害を整理する視点は、泌尿器疾患の診療全般に役立ちます。

解答・解説

正解はeです

在宅自己導尿法とは、患者本人(または家族)が1日に数回、決まった時刻にカテーテルを尿道から膀胱へ挿入して尿を出し、そのつど抜去する方法である。清潔間欠自己導尿(CIC:clean intermittent catheterization)とも呼ばれる。カテーテルを入れっぱなしにする留置カテーテルと比べて、尿路感染症や膀胱結石、尿道の損傷が起こりにくく、カテーテルを付けたままにしなくてよいので日常生活の自由度も保たれる。 この方法が必要になるのは、「膀胱に尿はたまるが、自力では十分に出し切れない」、つまり尿排出障害によって残尿が多い状態が続く場合である。残尿が多いまま放置すると、膀胱が過度に伸ばされて収縮力がさらに落ちる、尿路感染を繰り返す、膀胱内圧が高い状態が続いて上部尿路(腎・尿管)に尿が逆流し水腎症や腎機能障害を起こす、あふれるように尿が漏れる(溢流性尿失禁)、といった問題が生じる。定期的に導尿して膀胱を空にすることで、これらを防ぐ。 したがって、選択肢の中から「慢性的に尿を出し切れず、残尿が多くなる疾患」を選べばよい。代表は、脊髄損傷・二分脊椎・糖尿病性末梢神経障害・骨盤内手術後などにより排尿を調節する神経が障害された神経因性膀胱である。炎症や腫瘍、蓄尿障害(頻尿・尿意切迫)が中心の疾患は、原則として自己導尿の適応にならない。

選択肢考察

  1. ×a.  膀胱炎

    膀胱炎は膀胱粘膜の細菌感染による炎症で、頻尿・排尿時痛・尿混濁が主な症状である。尿を出す力は保たれており、残尿が多くなる病態ではない。治療の中心は抗菌薬であり、自己導尿の適応ではない。むしろカテーテル操作は感染の原因にもなりうる。ただし、残尿の多い神経因性膀胱の患者が膀胱炎を繰り返す場合は、背景の排出障害に対して自己導尿を行うことはある。

  2. ×b.  前立腺炎

    急性細菌性前立腺炎では、前立腺が腫れて尿道を圧迫し、一時的に排尿困難や尿閉を起こすことがある。その場合は一時的な導尿や膀胱瘻(下腹部から膀胱へ直接カテーテルを入れる方法)で対処するが、抗菌薬による治療で炎症が治まれば排尿は回復する。長期にわたる在宅自己導尿の適応ではない。なお急性前立腺炎では、尿道からのカテーテル操作は炎症を悪化させることがあるため、慎重に扱う。

  3. ×c.  前立腺癌

    前立腺癌は前立腺の辺縁域から発生することが多く、早期には排尿症状が乏しい。進行して尿道を圧迫すると排尿困難をきたすことがあるが、治療は病期に応じた手術・放射線療法・内分泌療法(アンドロゲン除去療法)などが基本であり、自己導尿は本症に対する標準的な対処ではない。高度な尿道閉塞による尿閉が起こった場合に導尿が行われることはあるものの、代表的な適応疾患とはいえない。

  4. ×d.  過活動膀胱

    過活動膀胱は、尿意切迫感を必須とし、通常は頻尿(昼間・夜間)を伴う症状症候群で、切迫性尿失禁を伴うこともある。たまった尿をこらえられない蓄尿障害が主体で、残尿は少ないため導尿は不要である。治療は行動療法(膀胱訓練など)や、抗コリン薬・β3アドレナリン受容体作動薬(ミラベグロン、ビベグロン)などの薬物療法が中心である。

  5. ○e.  神経因性膀胱

    神経因性膀胱は、脳・脊髄・末梢神経の障害によって膀胱の蓄尿・排尿の調節が破綻した状態である。特に、仙髄より末梢の障害(二分脊椎、糖尿病性末梢神経障害、直腸癌・子宮癌などの骨盤内手術後など)で排尿筋の収縮が弱くなる低活動膀胱(いわゆる弛緩性膀胱)や、脊髄損傷で排尿筋と尿道括約筋がうまく協調しない場合(排尿筋括約筋協調不全)には、大量の残尿が生じる。これを放置すると尿路感染、水腎症、腎機能障害を招くため、定期的に膀胱を空にする清潔間欠自己導尿が第一選択の管理法となる。在宅自己導尿法の代表的な適応である。

清潔間欠自己導尿(CIC)の要点

・目的:残尿を除き、膀胱の過伸展を防ぐこと、膀胱内圧を下げて上部尿路(腎)を守ること、尿路感染症を防ぐこと、尿失禁を減らして生活の質(QOL)を高めること。 ・方法:手洗いなどの清潔操作で行えばよく、無菌操作は必須ではない。1日4〜6回程度、1回の導尿量が膀胱の容量を超えないよう(成人でおおむね300〜500mL以下)に回数を調整する。 ・利点:留置カテーテルに比べ、尿路感染症・膀胱結石・尿道皮膚瘻・萎縮膀胱などの合併症が少ない。カテーテルを付けたままにしなくてよい。 ・細菌尿がみられることはよくあるが、症状がなければ原則として治療の対象とはしない。

主な適応

・神経因性膀胱(脊髄損傷、二分脊椎、糖尿病性神経障害、骨盤内手術後、多発性硬化症など)による排出障害。 ・前立腺肥大症などの下部尿路閉塞があり、手術ができない、あるいは手術を行っても残尿が多い場合。 ・自己導尿には、カテーテルを扱えるだけの手の動きと理解力が必要である。本人が難しい場合は、家族など介護者が行うこともある。

排尿障害の整理

・蓄尿障害(尿をためられない):過活動膀胱、膀胱炎など → 頻尿・尿意切迫・切迫性尿失禁。導尿は不要。 ・排出障害(尿を出し切れない):低活動膀胱、下部尿路閉塞など → 残尿、尿閉、溢流性尿失禁。導尿の適応となりうる。

POINT

・在宅自己導尿(清潔間欠自己導尿)の代表的な適応は、残尿が多い神経因性膀胱である。 ・目的は、残尿を除くこと、腎機能を守ること、尿路感染を防ぐこと、尿失禁を改善すること。 ・清潔操作でよく、無菌操作は必須ではない。留置カテーテルより合併症が少ない。 ・過活動膀胱や膀胱炎のように蓄尿症状が中心の病態は適応にならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。