ADHはどこで作られる?―視床下部・下垂体疾患の「組合せ」を病態から解きほぐす
第103回医師国家試験 I問題 第35問
国試問題にチャレンジ
組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.中枢性尿崩症 ―― 低張性脱水
- b.リンパ球性下垂体前葉炎 ―― 妊娠出産期
- c.視床下部腫瘍 ―― 尿崩症
- d.Cushing病 ―― 蛋白同化作用亢進
- e.先端巨大症 ―― 同名半盲
対話形式の解説
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ドクターまとめ
視床下部・下垂体疾患の組合せ問題は、ホルモンの産生部位と作用、腫瘍の圧迫部位という病態の基本から判断できます。ADHは視床下部の視索上核・室傍核で作られ下垂体後葉から分泌されるため、視床下部腫瘍(ジャーミノーマ、頭蓋咽頭腫など)は中枢性尿崩症の原因となり、その脱水は自由水喪失による高張性脱水です。リンパ球性下垂体前葉炎は妊娠後期〜産後の女性に好発し、ACTH低下をきたしやすく、MRIで下垂体の対称性腫大と均一な造影を示します。グルココルチコイドは蛋白異化作用をもつためCushing病では筋萎縮や皮膚菲薄化が生じ、下垂体腺腫による視野障害は同名半盲ではなく両耳側半盲です。こうした解剖・生理に基づく理解は、暗記に頼らず未知の組合せにも対応できる力になります。
解答・解説
正解はb, cです
本問は、視床下部・下垂体の代表的な疾患について、病態の基本となる知識を組合せの形で確かめる問題である。各組合せを次の視点から検討すればよい。 ・尿崩症で水とナトリウムのどちらが多く失われるか(脱水の型)。 ・リンパ球性下垂体前葉炎の好発時期。 ・抗利尿ホルモンがどこで作られるか(視床下部の神経核)。 ・グルココルチコイド(糖質コルチコイド)が蛋白質代謝に及ぼす作用。 ・下垂体腺腫が視交叉を圧迫したときに生じる視野障害の型。 要点を整理すると次のとおりである。抗利尿ホルモン(ADH、別名バソプレシン)は視床下部の視索上核・室傍核で作られ、下垂体後葉から分泌される。これが欠乏すると自由水が尿として失われ、高張性脱水になる。したがって視床下部の腫瘍は尿崩症の原因となる。グルココルチコイドは蛋白質を分解する(異化)方向に働く。下垂体腺腫は視交叉を下方の中央から圧迫するため、両耳側半盲をきたす。リンパ球性下垂体前葉炎は妊娠後期から産後早期の女性に好発する。 以上から、正しい組合せは「リンパ球性下垂体前葉炎 ― 妊娠出産期」と「視床下部腫瘍 ― 尿崩症」である。
選択肢考察
- ×a. 中枢性尿崩症 ―― 低張性脱水
中枢性尿崩症ではADHの分泌が不足し、腎の集合管で水を再吸収できなくなる。その結果、薄い尿(低張尿、尿浸透圧は300mOsm/kg未満のことが多い)が大量に出て(多尿、目安として1日3L以上)、主に自由水が失われる。水の喪失がナトリウムの喪失を上回るため、血清Na濃度と血漿浸透圧は上昇し、高張性脱水となる。口渇中枢が正常で自由に水を飲める場合は、多飲によって血清Naは正常上限付近に保たれることが多い。一方、意識障害や口渇感の障害があって水を飲めないと、著しい高Na血症をきたす。低張性脱水(Naの喪失が水の喪失を上回る状態)は、Addison病(原発性副腎皮質機能低下症)や塩類喪失性腎症、利尿薬の使用などでみられるもので、尿崩症の特徴ではない。
- ○b. リンパ球性下垂体前葉炎 ―― 妊娠出産期
リンパ球性下垂体前葉炎は、自己免疫的な機序により下垂体前葉にリンパ球や形質細胞が入り込んで炎症を起こす疾患である。女性に多く、特に妊娠後期から産後早期に発症しやすい。下垂体が腫れることによる頭痛や視野障害と、下垂体前葉機能低下症をきたす。前葉機能低下の中でもACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が単独で、あるいは早い時期から低下しやすく、副腎不全を見逃さないことが重要である。MRIでは下垂体が左右対称に腫れ、造影剤で均一に強く染まる。この点が、片側に偏って腫れ、周囲の正常下垂体より造影効果の弱い下垂体腺腫との鑑別に役立つ。分娩時の大量出血後に下垂体が壊死するSheehan症候群も産後の下垂体機能低下症であり、両者を区別しておく必要がある。
- ○c. 視床下部腫瘍 ―― 尿崩症
ADHは視床下部の視索上核と室傍核の神経細胞で作られる。作られたADHは神経線維(下垂体茎)の中を運ばれ、下垂体後葉にたくわえられて血中へ分泌される。したがって、視床下部から下垂体茎にかけての腫瘍(胚細胞腫〔ジャーミノーマ〕、頭蓋咽頭腫、ランゲルハンス細胞組織球症、転移性腫瘍など)は、ADHの産生や輸送を障害して中枢性尿崩症を起こす。特にジャーミノーマは、尿崩症で発症することが多い。なお、下垂体前葉にとどまる通常の下垂体腺腫で尿崩症が起こることはまれである。
- ×d. Cushing病 ―― 蛋白同化作用亢進
Cushing病は、下垂体のACTH産生腺腫によって副腎からのコルチゾール分泌が過剰になる疾患である。グルココルチコイドは、筋肉などの蛋白質を分解してアミノ酸を糖新生の材料に回す、蛋白異化作用をもつ。このため、筋萎縮・近位筋の筋力低下、皮膚が薄くなること(菲薄化)、赤色皮膚線条、皮下出血しやすさ、骨粗鬆症などが生じる。したがって「同化作用亢進」は誤りで、正しくは異化作用亢進である。
- ×e. 先端巨大症 ―― 同名半盲
先端巨大症の大部分は、成長ホルモン(GH)を産生する下垂体腺腫によって起こる。腺腫が大きくなってトルコ鞍の上方へ伸びると、視交叉を下方の中央部から圧迫する。視交叉の中央部では、両眼の鼻側網膜から来る(耳側の視野を担う)神経線維が交差しているため、両耳側半盲をきたす。同名半盲は、視交叉より後方(視索・外側膝状体・視放線・後頭葉)の障害でみられる視野障害であり、脳梗塞などで起こる。
ADH(バソプレシン)の産生と分泌
視床下部の視索上核・室傍核で作られる → 下垂体茎を通って運ばれる → 下垂体後葉にたくわえられ、分泌される。視床下部・下垂体茎・後葉のどこが障害されても、中枢性尿崩症が起こりうる。
中枢性尿崩症の主な原因
特発性、胚細胞腫(ジャーミノーマ)、頭蓋咽頭腫、ランゲルハンス細胞組織球症、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎、頭部外傷、脳外科手術後など。 ※2022〜2023年に国際的な名称変更が提唱され、日本でも中枢性尿崩症は「アルギニンバソプレシン(AVP)分泌低下症」、腎性尿崩症は「AVP抵抗症」と呼ぶことになった。
脱水の型
・高張性脱水(主に水が失われる):尿崩症、水を飲めない高齢者、発汗過多など → 血清Na上昇、強い口渇。 ・低張性脱水(主にNaが失われる):Addison病、利尿薬、塩類喪失性腎症など → 血清Na低下。
視野障害の部位診断
・視神経:片眼の視力・視野障害。 ・視交叉の中央部(下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫など):両耳側半盲。 ・視索より後方:同名半盲(後頭葉の障害では黄斑回避を伴うことがある)。
グルココルチコイド過剰の代謝作用
糖新生が増えて高血糖になる。蛋白異化により筋萎縮・皮膚の菲薄化・骨粗鬆症が起こる。脂肪の再分布により中心性肥満・満月様顔貌・水牛様脂肪沈着が生じる。
POINT
・中枢性尿崩症では自由水が失われ、高張性脱水(高Na血症の傾向)になる。 ・ADHは視床下部の視索上核・室傍核で作られるので、視床下部腫瘍は尿崩症の原因となる。 ・リンパ球性下垂体前葉炎は妊娠後期〜産後の女性に多く、ACTH欠損をきたしやすい。MRIで下垂体が対称性に腫れ、均一に造影される。 ・グルココルチコイドは蛋白異化作用をもつ。Cushing病では筋萎縮と皮膚の菲薄化が起こる。 ・下垂体腺腫による視野障害は両耳側半盲である。同名半盲は視索より後方の障害で起こる。
