高熱なのに白血球3,000?―急性前立腺炎で「ありえない」検査値を見抜く
第103回医師国家試験 B問題 第55問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,53~55の問いに答えよ。 64歳の男性。発熱と排尿困難とを主訴に来院した。 現病歴:2年前から夜間頻尿と尿線狭小とを自覚していたが,生活に支障がないため放置していた。5日前から風邪をひいていた。2日前から頻尿,排尿痛および排尿困難を認めた。昨晩から悪寒がある。 既往歴:特記すべきことはない。 現症:意識は清明。身長160cm,体重62kg。体温38.9℃。脈拍104/分,整。血圧148/88mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。下肢に浮腫を認めない。腹部超音波写真を別に示す。
検査値として考えにくいのはどれか。

- a.白血球数 3,000
- b.尿素窒素 20mg/dL
- c.クレアチニン 1.2mg/dL
- d.CRP 12.7mg/dL
- e.尿中白血球多数/1視野
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
医学生
ドクターまとめ
急性細菌性前立腺炎は大腸菌などによる強い急性炎症であり、末梢血の白血球増加(好中球優位、左方移動)、CRP高値、膿尿・細菌尿が典型的な検査所見です。白血球3,000/μLのような減少は通常の細菌感染の病態と合わず、もし認めた場合は重症敗血症や血液疾患などほかの病態を疑うべきサインとなります。BUNやクレアチニンの軽度上昇は脱水や加齢で説明でき、高度の尿閉や両側水腎症がなければ腎機能はおおむね保たれます。急性期には前立腺マッサージを避け、PSAの評価は炎症が治まってから行う点も臨床上重要です。「考えにくい検査値」を選ぶ問題では、まず診断を確定し、病態から各検査値の動く向きと程度を予測する思考が役立ちます。
解答・解説
正解はaです
症例の整理と診断
64歳男性。2年前からの夜間頻尿と尿線狭小、超音波で約5cm大に腫大した前立腺を認めることから、前立腺肥大症が基礎にある。そこに2日前から頻尿・排尿痛・排尿困難が加わり、悪寒を伴う38.9℃の発熱と頻脈が出た。腰背部痛や陰嚢の症状はない。以上から、急性細菌性前立腺炎と診断する。
設問の考え方
「考えにくい」検査値を選ぶ問題である。急性細菌性前立腺炎の病態から、予想される検査所見を考えればよい。 ・全身の炎症反応: 細菌感染による急性炎症なので、末梢血の白血球数が増え(好中球優位で、幼若な好中球の増加=左方移動を伴う)、CRP(C反応性蛋白)も大きく上昇する。 ・尿所見: 前立腺は尿道を取り囲む臓器であり、炎症は膀胱や尿道にも広がる。そのため膿尿(尿中白血球の増加)や細菌尿がみられる。 ・腎機能: 前立腺肥大症があっても、長く続く高度の尿閉や両側の水腎症がなければ、腎機能はほぼ保たれる。発熱や経口摂取の低下による軽い脱水があれば、尿素窒素(BUN)がやや上がることはある。 これらを各選択肢に当てはめ、病態と合わない値を選ぶ。
選択肢考察
- ○a. 白血球数 3,000
末梢血白血球数の基準値はおよそ3,500〜9,000/μLである。3,000/μLは基準値を下回る白血球減少にあたる。急性細菌性前立腺炎は細菌による強い急性炎症であり、通常は好中球を中心に白血球が増加し、1万/μLを超えることも多い。本例は悪寒を伴う高熱と頻脈があり、典型的な炎症像を示しているので、白血球減少は病態と合わない。敗血症が重症化して骨髄が疲弊した場合などには白血球が減ることもあるが、本例の全身状態(意識清明、血圧保持)からは考えにくい。したがって、この値が最も考えにくい。
- ×b. 尿素窒素 20mg/dL
尿素窒素(BUN)の基準値はおよそ8〜20mg/dLであり、20mg/dLは基準値の上限程度にあたる。本例は長く続く完全尿閉や両側水腎症を示す所見がなく、腎機能はほぼ保たれていると考えられる。発熱による軽い脱水があれば、BUNが基準上限前後になるのも不自然ではない。したがって、あり得る値である。
- ×c. クレアチニン 1.2mg/dL
血清クレアチニンの基準値は、成人男性でおよそ0.6〜1.1mg/dL前後である。1.2mg/dLは基準上限をわずかに上回る程度で、軽い脱水や加齢に伴う腎機能の変化で十分説明できる。高度の腎機能障害を示す値ではなく、本例で観察されても矛盾しない。
- ×d. CRP 12.7mg/dL
CRPは、炎症性サイトカイン(主にIL-6)の刺激で肝臓が作る急性期蛋白である。基準値は0.3mg/dL未満程度で、細菌感染では大きく上昇する。発症して1〜2日たった急性細菌性前立腺炎で10mg/dLを超えるのは典型的な経過であり、この値は矛盾しない。
- ×e. 尿中白血球多数/1視野
急性細菌性前立腺炎は、主に大腸菌などのグラム陰性桿菌が尿道から上行して感染することで起こる。前立腺だけでなく、膀胱や尿道にも炎症が広がる。そのため尿沈渣で白血球が多数みられる膿尿となり、細菌尿も伴うのがふつうである。本例の頻尿・排尿痛とも一致し、当然予想される所見である。
急性細菌性前立腺炎の検査所見
・血液: 白血球増加(好中球優位、左方移動)、CRP上昇、赤沈亢進。重症例では血液培養で菌が検出される(菌血症)。 ・尿: 膿尿と細菌尿。尿培養で原因菌を特定し、薬剤感受性を調べる。大腸菌が最も多い。 ・PSA(前立腺特異抗原): 炎症で一時的に上がることがあるため、前立腺癌のスクリーニング目的の測定は、炎症が治まってから行う。 ・画像: 経腹または経直腸の超音波で、前立腺の腫大、内部エコーの不均一、膿瘍の有無、残尿量を評価する。
主な検査値の基準値の目安
・白血球数: 約3,500〜9,000/μL ・BUN: 約8〜20mg/dL ・クレアチニン: 男性で約0.6〜1.1mg/dL ・CRP: 0.3mg/dL未満
白血球が減少する主な病態(参考)
ウイルス感染症、重症敗血症(骨髄が疲弊した状態)、腸チフス、薬剤性の無顆粒球症、再生不良性貧血、白血病、脾機能亢進症など。通常の細菌感染症で全身状態が保たれている場合は、白血球は増加するのが原則である。
POINT
・急性細菌性前立腺炎の検査所見は、白血球増加、CRP高値、膿尿・細菌尿である。 ・細菌による急性炎症で白血球が減少することは原則としてない。白血球が減っていれば、重症敗血症やほかの病態を考える。 ・長く続く高度の尿閉や両側水腎症がなければ、腎機能は保たれる。軽い脱水によるBUN・クレアチニンのわずかな上昇はあり得る。 ・急性期には前立腺マッサージを避け、PSAの評価は炎症が治まってから行う。
