「休みたい」だけでは守れない?―働く妊婦を支える法律の線引き
第103回医師国家試験 B問題 第13問
国試問題にチャレンジ
仕事を持つ妊婦の保護のために法制度上認められているのはどれか。
- a.産後8週間の休業
- b.喫煙可能な職場からの異動
- c.タクシーを利用しての通勤
- d.1週間以内の有給休暇の追加
- e.自己申告による休憩時間の延長
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
働く妊婦を守る法制度の柱は、労働基準法と男女雇用機会均等法の2つです。労働基準法は産前休業(6週間、多胎14週間、本人請求)と産後休業(8週間、原則就業禁止で6週間経過後は本人請求と医師の許可で就業可)を定め、ほかに軽易業務への転換、時間外・深夜業の制限、育児時間、解雇制限などを規定しています。男女雇用機会均等法は健診時間の確保と、医師等の指導事項を守るための通勤緩和(時差通勤など)や休憩延長などの措置を事業主に義務づけていますが、これらは医師等の指導が前提で、自己申告や交通手段の指定は含まれません。医師は母性健康管理指導事項連絡カードを通じてこの制度を動かす立場にあり、「望ましい配慮」と「法的な権利」を区別して理解することが、妊婦への適切な支援につながります。
解答・解説
正解はaです
本問は、働く女性の妊娠・出産に関して、どのような保護が法律で定められているかを問うものである。 母性保護の中心となる法律は二つある。 ・労働基準法:産前産後休業(第65条第1項・第2項)、妊娠中の軽易な業務への転換(第65条第3項)、時間外労働・休日労働・深夜業の制限(第66条)、育児時間(第67条)、危険有害業務の就業制限(第64条の3)など、労働条件の最低基準として母性を保護する。 ・男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律):事業主に対し、妊産婦が保健指導・健康診査を受けるための時間の確保(第12条)と、医師などから受けた指導事項を守れるようにするための措置(時差通勤、勤務時間の短縮、休憩時間の延長・回数増加、作業の制限、休業など)を講じること(第13条)を義務づけている。 選択肢の中でこれらの規定にそのまま当てはまるのは、労働基準法第65条に定める「産後8週間の休業」である。他の選択肢は、似た内容の規定はあっても、そのままの形では法制度上の権利として定められていない。とくに、休憩時間の延長や通勤緩和は「医師等の指導に基づく措置」であって、自己申告だけで認められるものではない点、通勤緩和は時差出勤などを指し交通手段の指定ではない点に注意する。
選択肢考察
- ○a. 産後8週間の休業
労働基準法第65条第2項により、使用者は産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。産前休業(出産予定日の6週間前、多胎妊娠では14週間前から)が本人の請求によって与えられるのに対し、産後休業は本人が希望しなくても就業させてはならない強制的な休業である点が特徴である。ただし、産後6週間を過ぎた女性が請求し、医師が支障ないと認めた業務に就かせることは例外的に認められる。法制度上認められている保護そのものであり、正しい。
- ×b. 喫煙可能な職場からの異動
受動喫煙の防止については、健康増進法(2018年改正、2020年全面施行)により多数の者が利用する施設での屋内喫煙が原則禁止となり、労働安全衛生法でも事業者に職場の受動喫煙防止の努力義務が課されている。しかし、これらは職場全体の環境対策であり、妊婦が喫煙可能な職場から異動することを個別の権利として定めた規定はない。妊婦への配慮としては望ましいが、法制度上の保護措置としては誤りである。
- ×c. タクシーを利用しての通勤
男女雇用機会均等法第13条に基づく措置として、医師などから通勤緩和の指導を受けた妊婦に対し、事業主は時差通勤や勤務時間の短縮などを講じなければならない。これは混雑した時間帯を避けるための勤務時間の調整であり、タクシーなど特定の交通手段での通勤を認めたり、その費用を負担させたりする規定ではない。誤りである。
- ×d. 1週間以内の有給休暇の追加
妊娠を理由に有給休暇を上乗せする制度は法律に定められていない。年次有給休暇は労働基準法第39条に基づき勤続年数と出勤率に応じて付与されるもので、産前産後休業の期間は出勤率の計算上「出勤したもの」とみなされる、という配慮があるにとどまる。なお、産前産後休業そのものは賃金の支払いが義務づけられておらず、健康保険の被保険者には出産手当金が支給される。誤りである。
- ×e. 自己申告による休憩時間の延長
休憩時間の延長や休憩回数の増加は、男女雇用機会均等法第13条に基づく措置に含まれる。しかしこれは、医師または助産師から妊娠中・出産後の健康管理に関する指導を受けた場合に、その指導事項を守れるよう事業主が講じる措置である。本人の自己申告だけで休憩の延長が法的に認められるわけではないため、誤りである。医師等の指導内容を事業主に正確に伝える手段として「母性健康管理指導事項連絡カード」が用いられる。
労働基準法による母性保護の主な規定
・産前休業:出産予定日の6週間前(多胎妊娠は14週間前)から、本人の請求により休業できる(第65条第1項)。 ・産後休業:産後8週間は就業禁止。産後6週間経過後は、本人の請求と医師の許可があれば就業可(第65条第2項)。 ・軽易業務への転換:妊娠中の女性が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければならない(第65条第3項)。 ・労働時間の制限:妊産婦(妊娠中および産後1年を経過しない女性)が請求した場合、時間外労働・休日労働・深夜業をさせてはならず、変形労働時間制でも1日・1週の法定労働時間を超えて働かせてはならない(第66条)。 ・育児時間:生後1歳に満たない子を育てる女性は、休憩時間のほかに1日2回、各少なくとも30分の育児時間を請求できる(第67条)。 ・危険有害業務の就業制限:重量物を扱う業務や有害ガスを発散する場所での業務などに妊産婦を就かせてはならない(第64条の3)。 ・解雇制限:産前産後休業の期間とその後30日間は解雇できない(第19条)。
男女雇用機会均等法による母性健康管理
・第12条:妊産婦が母子保健法に基づく保健指導・健康診査を受けるために必要な時間を確保する。 ・第13条:医師等の指導事項を守れるよう、通勤緩和(時差通勤、勤務時間の短縮など)、休憩に関する措置(休憩時間の延長、回数の増加など)、症状に応じた作業の制限・勤務時間の短縮・休業などを講じる。 ・妊娠・出産・産前産後休業の取得などを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは禁止されている(第9条)。
関連する制度
・育児・介護休業法:原則として子が1歳(一定の場合は最長2歳)になるまでの育児休業。 ・健康保険法:出産手当金(産前産後休業中の所得保障)、出産育児一時金。
POINT
・産前休業は6週間(多胎14週間)で本人の請求による。産後休業は8週間で原則就業禁止(6週間経過後は本人請求+医師の許可で就業可)。 ・通勤緩和や休憩時間の延長は「医師等の指導」に基づいて事業主が講じる措置であり、自己申告だけでは法的に認められない。 ・母性保護の根拠法は労働基準法(休業・時間制限・育児時間など)と男女雇用機会均等法(健診時間の確保・指導事項を守るための措置)。
