叩いてもわからない臍のふくらみ―身体診察の5つの手技を使い分ける
第103回医師国家試験 B問題 第12問
国試問題にチャレンジ
組合せで診断に有用でないのはどれか。
- a.問診 ―― 被虐待
- b.視診 ―― チアノーゼ
- c.聴診 ―― 呼気性喘鳴
- d.打診 ―― 臍ヘルニア
- e.触診 ―― 頭血腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
身体診察の手技には、それぞれ得意とする評価対象があります。問診は虐待のように外から見えない背景を明らかにし、視診はチアノーゼなどの色調変化を、聴診は呼気性喘鳴などの副雑音を、触診は頭血腫の波動や縫合線との関係、臍ヘルニアのヘルニア門と還納性を評価します。打診は反響音から空気・液体・実質臓器の分布をみる手技で、肺野や肝・脾の境界、腹水、鼓腸の評価に用いられますが、臍ヘルニアの診断にはほとんど寄与しません。なお頭血腫は新生児の骨膜下血腫で縫合線を越えず、縫合線を越える産瘤や帽状腱膜下血腫との鑑別が重要です。各手技が何を知るための道具なのかを理解しておくことは、効率的で見逃しの少ない診察の基本となります。
解答・解説
正解はdです
本問は、基本的な身体診察の手技(問診・視診・聴診・打診・触診)と、それぞれで評価するのに適した症状・徴候の対応を問うものである。 各手技で何がわかるかを整理しておくと判断しやすい。 ・問診:患者本人や家族から、病歴・生活状況・受傷機転などの情報を聞き取る。外から見えない事情(家庭環境、暴力の有無など)を把握する唯一の手段であることも多い。 ・視診:皮膚や粘膜の色、発疹、変形、呼吸様式などを目で観察する。 ・聴診:聴診器で呼吸音・心音・腸蠕動音・血管雑音などを聞く。 ・打診:体表を叩き、反響音(清音・濁音・鼓音など)の違いから、内部が空気を含むか、液体や実質臓器で満たされているかを推定する。肺・肝・脾の境界や腹水、鼓腸の評価に用いる。 ・触診:手で触れて、腫瘤の大きさ・硬さ・波動・圧痛、ヘルニア門の有無などを確かめる。 この対応に照らすと、臍ヘルニアは臍輪の欠損(ヘルニア門)とそこから出入りする腸管を指で触れて確認する疾患であり、打診で得られる情報は診断にほとんど寄与しない。したがって「打診 ―― 臍ヘルニア」が診断に有用でない組合せである。
選択肢考察
- ×a. 問診 ―― 被虐待
虐待を見抜くには問診が欠かせない。受傷機転の説明が傷の性状や子どもの発達段階と合わない、説明が聞くたびに変わる、受診までに不自然な時間がかかっている、同様の外傷を繰り返している、といった点は、保護者や本人から丁寧に話を聞くことで初めて明らかになる。新旧の混在した外傷や説明のつかない体重増加不良(栄養障害)など身体所見での手がかりもあるが、それを虐待と結びつけるには問診による情報が必要である。したがって有用な組合せである。
- ×b. 視診 ―― チアノーゼ
チアノーゼは、毛細血管内の還元ヘモグロビン(酸素と結合していないヘモグロビン)がおおむね5 g/dL以上に増えたときに、皮膚や粘膜が青紫色に見える状態である。口唇・舌・口腔粘膜(中心性チアノーゼの評価)や、爪床・指先(末梢性チアノーゼの評価)を目で観察して判断するため、視診による評価が基本となる。有用な組合せである。
- ×c. 聴診 ―― 呼気性喘鳴
呼気性喘鳴は、気管支喘息や細気管支炎などで末梢の気道が狭くなり、息を吐くときに生じる連続性の副雑音である。高調な笛様音(wheeze、ヒューヒュー)や低調ないびき様音(rhonchi、ゼーゼー)として胸部の聴診で聴取され、呼気相の延長を伴うことも多い。重症では聴診器なしでも聞こえることがあるが、評価の基本は聴診である。有用な組合せである。
- ○d. 打診 ―― 臍ヘルニア
臍ヘルニアは、臍輪が閉じきらずに残った欠損部(ヘルニア門)から腹腔内の腸管や大網が皮下へ脱出する状態で、乳児に多い。診断は、安静時に臍部を指で押して円形のヘルニア門の大きさを確かめ、啼泣(泣くこと)やいきみで腹圧が上がったときに内容物が膨隆してくること、指で押すと腹腔内へ容易に戻ること(還納性)を触れて確認することで行う。膨隆そのものは視診でもわかる。一方、打診は内部の空気や液体の分布をみる手技であり、臍ヘルニアの有無や門の大きさを知る手段にはならない。したがって診断に有用でない組合せであり、本問の正解である。
- ×e. 触診 ―― 頭血腫
頭血腫は、分娩時の圧迫などにより新生児の頭蓋骨と骨膜の間(骨膜下)に血液がたまったものである。骨膜が縫合線で骨に強く付着しているため、腫脹は一つの骨の範囲にとどまり縫合線を越えない。生後数時間~数日で明らかになり、触ると弾性のある波動性の腫瘤として触れる。触診で腫脹の境界が縫合線で止まるかを確かめることが、縫合線を越えて広がる産瘤(頭皮下の浮腫)や帽状腱膜下血腫との鑑別に役立つ。有用な組合せである。
身体診察の手技と主な評価項目
・問診:主訴、現病歴、既往歴、家族歴、生活歴、社会的背景(虐待・ネグレクトの手がかりを含む) ・視診:皮膚色(チアノーゼ、黄疸、蒼白)、発疹、浮腫、変形、腫脹、呼吸様式(陥没呼吸など)、意識状態 ・聴診:呼吸音と副雑音(wheeze、rhonchi、crackles)、心音と心雑音、腸蠕動音、血管雑音 ・打診:肺野(清音・濁音・鼓音)、肝・脾の大きさ、腹水(体位変換による濁音界の移動)、鼓腸 ・触診:腫瘤(大きさ、硬さ、可動性、波動)、圧痛、リンパ節腫大、ヘルニア門、脈拍
新生児の頭部の腫脹の鑑別
・産瘤:先進部の頭皮下の浮腫。出生直後から存在し、縫合線を越える。数日で消える。 ・頭血腫:骨膜下の出血。生後しばらくしてから目立ち、縫合線を越えない。吸収に数週~数か月かかり、黄疸を増強させることがある。 ・帽状腱膜下血腫:帽状腱膜と骨膜の間の出血。縫合線を越えて広く広がり、大量出血でショックを来すことがある。
臍ヘルニア
乳児期早期に多く、多くは1~2歳ごろまでに自然に閉鎖する。嵌頓(はまり込んで戻らなくなること)はまれである。大きなものや自然閉鎖しないものは手術の対象となる。
POINT
・臍ヘルニアは触診(ヘルニア門の確認、還納性の確認)と視診で診断し、打診は役立たない。 ・打診は空気・液体・実質臓器の分布をみる手技(肺野、肝・脾の境界、腹水、鼓腸)。 ・チアノーゼは視診、喘鳴は聴診、虐待は問診が評価の要。 ・頭血腫は骨膜下出血で縫合線を越えず、触診で産瘤・帽状腱膜下血腫と見分ける。
