うつむくと脊髄が挟まれる―関節リウマチが首の付け根に残す爪痕
第103回医師国家試験 A問題 第34問
国試問題にチャレンジ
68歳の女性。後頸部痛と両手のしびれとを主訴に来院した。2年前から後頸部痛があり,3か月前から両手のしびれが出現し,書字や箸の使用が困難となった。15年前から関節リウマチで投薬を受けている。前屈位の頸椎エックス線写真(A)と頸椎MRIのT2強調矢状断像(B)とを別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.変形性頸椎症
- b.軸椎歯突起骨折
- c.環軸椎回旋位固定
- d.頸椎後縦靱帯骨化症
- e.環軸関節前方亜脱臼
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
長期罹病の関節リウマチ患者に後頸部痛と、書字や箸の使用困難といった手指の巧緻運動障害がみられたら、頸髄症を伴う頸椎病変を疑います。リウマチの滑膜炎(パンヌス)は滑膜関節である環軸関節を侵し、歯突起の骨びらんや環椎横靱帯の弛緩・断裂によって、前屈時に環椎が前方へ滑る環軸関節前方亜脱臼を起こします。前屈位エックス線での環椎歯突起間距離の開大(成人で3mm超)と、MRIでのC1/2レベルの脊髄圧迫が診断の決め手です。中下位頸椎の骨棘が主体の頸椎症、椎体後縁に骨化陰影を示す後縦靱帯骨化症、外傷による歯突起骨折、小児の斜頸として現れる環軸椎回旋位固定とは、背景と病変の高さで鑑別します。延髄を圧迫しうる垂直亜脱臼や、気管挿管時の脊髄損傷リスクまで含めて理解しておくことが、リウマチ患者の安全な診療につながります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・68歳女性。15年来の関節リウマチ(RA)で治療中。 ・2年前から後頸部痛が続き、3か月前から両手のしびれが出現した。 ・書字や箸の使用が難しくなっている。これは手指の巧緻運動障害であり、神経根ではなく頸髄そのものが障害されている(頸髄症、脊髄症)ことを示す症状である。 ・明らかな外傷歴はない。 ・前屈位の頸椎エックス線写真(A)では、環椎(第1頸椎)前弓の後縁と軸椎(第2頸椎)歯突起の前縁との距離(環椎歯突起間距離、ADI:atlanto-dental interval)が開大しており、環椎が軸椎に対して前方へずれている。 ・頸椎MRIのT2強調矢状断像(B)では、環軸椎(C1/2)レベルで脊髄が前後から圧迫されている。
診断へのプロセス
両手のしびれと巧緻運動障害という頸髄症の症状を示す疾患として、頸椎症性脊髄症、頸椎椎間板ヘルニア、頸椎後縦靱帯骨化症、RAに伴う頸椎病変(リウマチ性頸椎病変)、腫瘍などが鑑別に挙がる。本例は長期罹病のRA患者であり、画像上の病変は上位頸椎(C1/2)に限局している。RAでは滑膜の炎症が環軸関節周囲に及び、歯突起の骨びらんや、歯突起を後方から支える環椎横靱帯の弛緩・断裂が生じる。その結果、頸部を前屈すると環椎が前方へ滑り出し、歯突起と環椎後弓との間で脊髄が挟まれて圧迫される。前屈位でADIの開大が明らかになり、MRIでC1/2の脊髄圧迫を認める本例は、環軸関節前方亜脱臼と診断できる。 外傷歴がないことから歯突起骨折は考えにくく、高齢女性で斜頸もないことから小児に多い環軸椎回旋位固定も否定的である。画像上、椎間板レベルの骨棘や後縦靱帯の骨化といった中下位頸椎の変化が主体ではない点も、他の疾患との区別になる。
選択肢考察
- ×a. 変形性頸椎症
誤り。変形性頸椎症は、加齢に伴う椎間板の変性、椎体辺縁の骨棘形成、椎間関節や黄色靱帯の肥厚などによって生じる。主にC5/6やC6/7などの中下位頸椎に好発し、エックス線写真で椎間板腔の狭小化と骨棘形成を認める。進行すると神経根症状(頸椎症性神経根症)や頸髄症状(頸椎症性脊髄症)を起こしうるため、手のしびれや巧緻運動障害自体は本症でも生じる。しかし本例では画像所見の主体が中下位頸椎の変性ではなく、C1/2での環椎の前方偏位とADIの開大であり、長期罹病のRAという背景とあわせると本症では説明できない。
- ×b. 軸椎歯突起骨折
誤り。軸椎歯突起骨折は、交通事故や転落、高齢者では転倒などの外傷によって生じることが多い。骨折部で不安定性が生じると、歯突起が環椎とともに偏位して脊髄を圧迫することがある。本例には明らかな外傷歴がなく、2年前からの緩徐な経過であり、画像でも歯突起は連続性を保ったまま環椎との距離が開いている所見である。なお、RAでも歯突起のびらんや吸収はみられるが、それは骨折とは異なる。
- ×c. 環軸椎回旋位固定
誤り。環軸椎回旋位固定は、環椎が軸椎に対して回旋した位置で固定されてしまう病態で、主に小児(とくに10歳以下)にみられる。上気道感染(咽頭炎など)後に起こるGrisel症候群や、軽微な外傷を契機とすることが多い。頭部が一方に傾き反対側を向く斜頸位(cock robin position)をとり、頸部の回旋制限と痛みを訴えるのが特徴で、脊髄症状はまれである。本例は68歳でRAを背景にもち、前屈位での前方偏位が問題となっており、合致しない。
- ×d. 頸椎後縦靱帯骨化症
誤り。頸椎後縦靱帯骨化症(OPLL)は、椎体の後面を縦に走る後縦靱帯が骨化して脊柱管が狭くなり、脊髄を前方から圧迫する疾患である。中高年の男性に多く、糖尿病や肥満との関連が知られ、国の指定難病である。頸髄症の症状を示す点は本例と共通するが、エックス線側面像で椎体後縁に沿った帯状・分節状の骨化陰影を認めるのが特徴であり、中位頸椎(C4〜C6付近)に多い。本例の画像ではそのような骨化はみられず、病変は環軸関節に限られている。
- ○e. 環軸関節前方亜脱臼
正しい。環軸関節前方亜脱臼は、RAの頸椎病変のなかで最も頻度が高い。環軸関節は滑膜関節であるため、RAの滑膜炎が及びやすく、パンヌス(増殖した炎症性滑膜組織)による歯突起の骨びらんや、環椎横靱帯の弛緩・断裂を生じる。その結果、頸部前屈時に環椎が軸椎に対して前方へ滑り、ADIが開大する。成人ではADIが3mmを超えれば異常とされ、エックス線は前屈位と後屈位(機能撮影)で比較すると不安定性がわかりやすい。本例は前屈位エックス線でADIの開大、MRIでC1/2の脊髄圧迫を認め、後頸部痛(C1/2レベルの病変や大後頭神経の刺激による)と頸髄症(両手のしびれ、巧緻運動障害)を示している。頸髄症状が進行している場合は、環軸椎固定術などの手術療法が考慮される。
関節リウマチの頸椎病変
RAの頸椎病変は、罹病期間が長く、多関節が侵された重症例やステロイド長期使用例で起こりやすい。主な病型は次の3つである。 1. 環軸関節亜脱臼(最多):大部分は前方亜脱臼。環椎横靱帯の弛緩・断裂や歯突起のびらんによる。前屈で増悪し、後屈で整復されることが多い。 2. 垂直亜脱臼(軸椎の頭蓋内陥入):環椎外側塊や後頭顆の破壊により、歯突起が頭蓋内(大後頭孔)に向かって上方に突出する。延髄を圧迫し、呼吸障害や突然死の原因となりうるため特に危険である。 3. 軸椎下亜脱臼:C2以下の椎間関節の破壊による多椎間の階段状の前方すべり(段々変形)。
症状
・後頭部痛・後頸部痛(C2神経根や大後頭神経の刺激) ・頸髄症:手指のしびれ、巧緻運動障害(ボタンかけ、書字、箸の使用が困難)、歩行障害、腱反射亢進、病的反射陽性、膀胱直腸障害 ・RA患者では手指の関節変形や筋力低下と頸髄症状とが紛らわしく、見逃されやすい点に注意する。
画像評価
・エックス線機能撮影(前屈位・後屈位)でADIを測定する。成人の正常値は3mm以下。 ・MRIで脊髄の圧迫や髄内の信号変化、パンヌスを評価する。
臨床上の注意
RA患者では、全身麻酔の気管挿管時などに頸部を強く後屈・前屈させると脊髄損傷を起こす危険があるため、術前に頸椎の評価が勧められる。治療は、頸椎カラーによる外固定、RAそのものの疾患活動性の制御、神経症状が進行する例では環軸椎固定術(後方固定術)などである。
POINT
・関節リウマチの頸椎病変で最も多いのは環軸関節前方亜脱臼である。 ・前屈位エックス線でADI(環椎歯突起間距離)の開大(成人で3mm超)が特徴。 ・症状は後頸部・後頭部痛と頸髄症(手のしびれ、巧緻運動障害、歩行障害)。 ・垂直亜脱臼は延髄圧迫により呼吸障害・突然死の原因となる。 ・鑑別:歯突起骨折は外傷歴、環軸椎回旋位固定は小児・斜頸、後縦靱帯骨化症はエックス線で椎体後縁の骨化陰影。
