割れた赤血球が語る血管の傷―溶血性尿毒症症候群の三徴を病態から読み解く
第102回医師国家試験 I問題 第6問
国試問題にチャレンジ
溶血性尿毒症症候群でみられるのはどれか。
- a.破砕赤血球
- b.血小板増多
- c.IgG低下
- d.血清カリウム値低下
- e.血清補体値低下
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
溶血性尿毒症症候群は、細い血管の内皮障害に血小板血栓が生じる血栓性微小血管症の代表で、破砕赤血球を伴う溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害を三徴とします。血小板は血栓形成で消費されて減少し、狭い血管を通る赤血球が機械的に壊れて破砕赤血球が出現し、腎障害と溶血によって高カリウム血症をきたします。直接Coombs試験は陰性で凝固系はおおむね正常に保たれる点がDICとの鑑別になり、補体低下は補体制御異常による非典型HUSの一部でみられるのみです。小児で血便を伴う下痢に続いて発症するSTEC-HUSが大部分を占め、支持療法が中心で止痢薬は避けます。病態から所見の「増える・減る」を導く考え方は、TMA全体の理解と急性期管理の土台になります。
解答・解説
正解はaです
溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)は、血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)の代表的な疾患である。TMAは、全身の細い血管(細動脈・毛細血管)の内皮細胞が傷害され、そこに血小板血栓ができる病態をいう。HUSは次の三徴で定義される。 1. 微小血管症性溶血性貧血(破砕赤血球を伴う溶血性貧血) 2. 血小板減少 3. 急性腎障害 それぞれの所見は、病態から次のように説明できる。 ・内皮障害を受けた細い血管に血小板血栓ができ、血小板が消費される → 血小板減少 ・狭くなった血管や、血栓に張り巡らされたフィブリン網の間を赤血球が通るとき、機械的に引き裂かれる → 破砕赤血球と血管内溶血 ・腎の糸球体は内皮障害の主な標的であり、糸球体毛細血管が血栓で閉塞する → 急性腎障害 溶血の所見としては、正球性正色素性貧血、網赤血球増加、LDH上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下がみられる。急性腎障害の結果として、BUN・クレアチニン上昇、高カリウム血症、代謝性アシドーシスが加わる。免疫性溶血ではないため、直接Coombs試験は陰性である。凝固系(PT、APTT、フィブリノゲン)は通常ほぼ正常で、この点がDIC(播種性血管内凝固)との鑑別点になる。 選択肢を検討するときは、「血小板は増えるのか減るのか」「腎障害でカリウムはどう動くか」など、三徴から導かれる所見の方向性を一つずつ確認すればよい。
選択肢考察
- ○a. 破砕赤血球
破砕赤血球(schistocyte)は、赤血球が機械的な力で断片化したものである。ヘルメット型、三角形、小型の不整形などの形をとる。HUSでは、内皮障害を受けた微小血管の血栓やフィブリン網を赤血球が通過するときに引き裂かれ、末梢血塗抹標本に破砕赤血球が出現する。破砕赤血球は、HUSを含むTMAの診断の根拠となる重要な所見である。人工弁や悪性高血圧など、他の機械的溶血でもみられる。
- ×b. 血小板増多
HUSでは血小板が減少する。微小血管の内皮障害部位で血小板が活性化・凝集して血栓が形成され、そこで血小板が消費されるためである。血小板減少はHUSの三徴の一つである。
- ×c. IgG低下
HUSは、免疫グロブリンの産生低下や喪失を起こす病態ではなく、IgGの低下は特徴的な所見ではない。関連疾患である後天性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)では、ADAMTS13(von Willebrand因子を切断する酵素)に対するIgG型自己抗体が病因となる。しかし、これも抗体の存在が問題なのであって、血清IgGが低下するわけではない。
- ×d. 血清カリウム値低下
HUSでは血清カリウム値は上昇する。理由は二つある。第一に、急性腎障害によって尿中へのカリウム排泄が減る。第二に、血管内溶血によって赤血球内のカリウムが血中に放出される。高カリウム血症は致死性不整脈の原因になるため、急性期の管理で重要であり、透析の適応を考える根拠の一つにもなる。
- ×e. 血清補体値低下
HUSの大部分を占めるのは、腸管出血性大腸菌による志賀毒素関連HUS(STEC-HUS)である。STEC-HUSでは、血清補体値(C3、CH50)は通常正常範囲にとどまり、補体低下は診断に用いる所見ではない。一方、補体の制御因子(H因子、I因子、MCPなど)の遺伝子異常やH因子に対する自己抗体によって、補体が過剰に活性化して起こる非典型HUS(aHUS、補体関連HUS)がある。aHUSでは一部の症例でC3低下を認めるが、正常例も多い。したがって、HUS一般にみられる所見としては不適切である。
TMAの分類
・STEC-HUS(典型的HUS): 志賀毒素(ベロ毒素)産生性の腸管出血性大腸菌(O157:H7など)の感染による。小児に多い。腹痛や血便などの下痢症状が先行し、およそ1週間前後でHUSを発症する。志賀毒素が糸球体などの血管内皮細胞に結合して傷害することが、発症の出発点となる。HUSの大部分を占める。 ・非典型HUS(aHUS): 補体第二経路の制御異常による。家族歴や再発歴があることがある。治療には、C5に対するモノクローナル抗体(エクリズマブ、ラブリズマブ)が用いられる。 ・TTP(血栓性血小板減少性紫斑病): ADAMTS13の活性が著しく低下(10%未満)し、超高分子量のvon Willebrand因子(VWF)多量体が切断されずに残って、血小板血栓ができやすくなる。後天性は抗ADAMTS13自己抗体による。先天性(Upshaw-Schulman症候群)は遺伝子異常による。腎障害よりも精神神経症状が目立ちやすい。古典的には五徴(溶血性貧血、血小板減少、腎機能障害、発熱、精神神経症状)が知られる。治療は血漿交換が基本である。 ・二次性TMA: 薬剤(マイトマイシンC、カルシニューリン阻害薬など)、造血幹細胞移植、膠原病、悪性腫瘍、妊娠関連などによる。 かつては「腎障害が主ならHUS、精神神経症状が主ならTTP」と臨床症状で区別していた。現在では、ADAMTS13活性や志賀毒素の有無など、病因に基づいて分類する。
HUSの検査所見のまとめ
・血算: 貧血(正球性)、網赤血球増加、血小板減少、破砕赤血球 ・溶血: LDH上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下。直接Coombs試験は陰性 ・腎: BUN・クレアチニン上昇、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、血尿・蛋白尿 ・凝固: PT・APTT・フィブリノゲンはおおむね正常(DICとの鑑別点)
STEC-HUSの治療
輸液・電解質管理・血圧管理などの支持療法が中心で、急性腎障害が高度なら透析を行う。止痢薬は菌や毒素の排出を遅らせるため避ける。
POINT
・HUSの三徴: 破砕赤血球を伴う溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害 ・血小板は消費されて減少し、カリウムは腎障害と溶血によって上昇する。 ・直接Coombs試験は陰性、凝固系はおおむね正常(DICとの違い) ・小児で血便を伴う下痢の後に発症したら、腸管出血性大腸菌(O157など)の志賀毒素によるSTEC-HUSを考える。 ・補体低下はHUS一般の所見ではない。ただし、補体制御異常によるaHUSが存在する。TTPはADAMTS13活性の著減による。
