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そのピロリ菌、除菌で何が治る?―十二指腸潰瘍から考える除菌適応の本質

第102回医師国家試験 I問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第36問

ヘリコバクター・ピロリ除菌の適応となるのはどれか。

  1. a.逆流性食道炎
  2. b.噴門部癌
  3. c.胃腺腫
  4. d.十二指腸潰瘍
  5. e.十二指腸乳頭部腺腫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はヘリコバクター・ピロリの除菌適応を問う問題だ。考えるときの軸はひとつ、「ピロリ菌がその病気の原因になっていて、除菌すれば治癒や再発予防が期待できるか」。この視点で選択肢を眺めてみよう。
医学生医学生
ピロリ菌って胃癌の原因ですよね。だったら胃の癌や腺腫は全部除菌したほうがいい気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。まずピロリ菌そのものをおさらいしよう。胃粘膜にすみつくグラム陰性らせん菌で、ウレアーゼで尿素を分解してアンモニアをつくり、周りの胃酸を中和して強酸の中でも生きのびる。感染が続くと慢性胃炎、さらに萎縮性胃炎が進み、消化性潰瘍や胃癌、胃MALTリンパ腫などにつながっていくんだ。
医学生医学生
微生物学の講義でウレアーゼの話を聞いて、それを利用したのが尿素呼気試験だと習いました。
ドクタードクター
その通り。では本題。選択肢の中で、ピロリ菌が原因で、除菌によって再発がはっきり減ることが確立している病気はどれかな。
医学生医学生
十二指腸潰瘍でしょうか。十二指腸潰瘍の患者さんはほとんどがピロリ菌陽性だと聞いた気がします。
ドクタードクター
正解。十二指腸潰瘍の9割以上はピロリ菌感染があるとされる。前庭部中心の胃炎で胃酸分泌が増え、その酸で十二指腸粘膜が傷つく。酸分泌抑制薬だけで治すと再発を繰り返しやすいけれど、除菌に成功すると再発率が大きく下がる。胃潰瘍とあわせた消化性潰瘍は、除菌の最も代表的な適応なんだ。
医学生医学生
逆流性食道炎も胃酸の病気なので、同じように除菌が効くのかと一瞬思いました。
ドクタードクター
いい疑問だね。でも逆流性食道炎は胃内容物の逆流による炎症で、ピロリ菌が原因ではない。むしろ萎縮性胃炎で酸分泌が落ちていた人が除菌で粘膜が回復すると、酸が増えて逆流性食道炎が出てきたり悪化したりすることがある。とはいえ多くは軽症でPPIで対処でき、今はそれを理由に除菌を控える必要はないと考えられているよ。
医学生医学生
噴門部癌はどうですか。ピロリ菌は胃癌の危険因子なので迷いました。
ドクタードクター
除菌は胃癌の発生予防や、早期胃癌を内視鏡切除したあとの新たな癌の予防には役立つ。でも、すでにできた癌が除菌で消えるわけではない。癌そのものは手術や内視鏡的切除などで治療する。それに噴門部の癌には、胃食道逆流やBarrett食道を背景とした、ピロリ菌と関係の薄いものも含まれるんだ。
医学生医学生
胃腺腫も同じ考え方で、除菌は病変そのものの治療にはならないということですね。
ドクタードクター
そう。胃腺腫は萎縮や腸上皮化生を背景に生じる良性腫瘍で、一部は癌化する。除菌で縮小したという報告はあるけれど確立した治療ではなく、大きいものや癌との区別が難しいものは内視鏡的切除、それ以外は経過観察が基本だ。混同しやすいのが胃過形成性ポリープで、こちらは除菌で縮小・消失が期待できる。
医学生医学生
十二指腸乳頭部腺腫は、場所が十二指腸というだけで潰瘍とは全然違いますね。
ドクタードクター
その通り。Vater乳頭の腺腫はピロリ菌との因果関係が確立しておらず、癌化の可能性があるので内視鏡的乳頭切除術や外科的切除で治療する。家族性大腸腺腫症で多いことも覚えておくといい。
医学生医学生
病気の原因がピロリ菌で、除菌が治療そのものになるか、という観点で切り分けるんですね。
ドクタードクター
まさにそう。ただ、実臨床の話も補足しておこう。この問題が出た当時、保険適用は消化性潰瘍だけだった。その後、胃MALTリンパ腫、ITP、早期胃癌の内視鏡的治療後の胃、そして内視鏡で確認されたピロリ菌感染胃炎へと広がり、今のガイドラインでは感染者全員への除菌が推奨されている。だから腺腫や癌の患者さんでも、感染胃炎があれば除菌の対象になりうるんだ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、ESD後の患者さんに除菌の説明をしていたのはそういう理由だったんですね。治療はどうするんでしたっけ。
ドクタードクター
一次除菌はPPIかボノプラザンにアモキシシリンとクラリスロマイシンを加えた3剤を7日間。失敗の主な原因はクラリスロマイシン耐性で、二次除菌ではそれをメトロニダゾールに替える。除菌判定は尿素呼気試験や便中抗原検査で行い、PPI内服中は偽陰性になりやすいので治療終了から4週以上あけるのがポイントだ。
医学生医学生
NSAIDsが原因の潰瘍だと、除菌しても再発は防げないですよね。
ドクタードクター
よく気づいたね。潰瘍の原因がピロリ菌なのかNSAIDsなのかを見極めることが、再発予防の第一歩になる。

まとめ

ピロリ菌除菌の適応を考える基本は、ピロリ菌がその疾患の原因であり、除菌によって治癒や再発予防が期待できるかどうかです。十二指腸潰瘍は9割以上がピロリ菌陽性で、除菌によって再発率が大きく下がるため、胃潰瘍とともに最も代表的な除菌適応です。逆流性食道炎はピロリ菌が原因ではなく、癌や腺腫は除菌で病変そのものが治るわけではありません(除菌で縮小しうるのは胃過形成性ポリープ)。現在の保険診療では、消化性潰瘍、胃MALTリンパ腫、ITP、早期胃癌内視鏡治療後の胃、ピロリ菌感染胃炎が除菌対象となり、一次除菌はPPIまたはボノプラザン+アモキシシリン+クラリスロマイシンで行います。疾患の原因と治療の意味を結びつけて考える姿勢は、除菌適応に限らず治療選択全般の土台になります。

解答・解説

正解はdです

ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、以下ピロリ菌)は胃粘膜にすみつくグラム陰性らせん菌である。菌がもつウレアーゼで尿素を分解してアンモニアをつくり、周囲の胃酸を中和することで、強酸性の胃内でも生きのびる。ピロリ菌の感染は慢性胃炎(萎縮性胃炎)を起こし、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃癌、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)などの発症に関わる。 除菌の適応を考えるときは、「ピロリ菌の感染が病気の原因になっていて、除菌によって治癒や再発予防が期待できるか」がポイントとなる。とくに消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)は、除菌によって再発率が大きく下がることが確立しており、代表的な除菌の適応である。十二指腸潰瘍の患者の大部分(9割以上とされる)がピロリ菌に感染している。 一方、逆流性食道炎はピロリ菌感染が原因ではなく、癌や腺腫は除菌によって病変そのものが治るわけではない。したがって、選択肢のうち除菌の適応となる疾患は十二指腸潰瘍である。 なお、除菌の適応はその後大きく広がり、現在のわが国のガイドラインでは、ピロリ菌に感染しているすべての人に除菌が推奨されている。保険診療でも、消化性潰瘍、胃MALTリンパ腫、ITP、早期胃癌の内視鏡的治療後の胃、内視鏡で確認されたピロリ菌感染胃炎が除菌の対象となっている。本問は、疾患そのものが除菌の適応として確立しているかという観点で考えるとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  逆流性食道炎

    適応ではない。逆流性食道炎は、胃酸を含む胃内容物が食道へ逆流して食道粘膜に炎症を起こす疾患で、ピロリ菌感染が原因ではない。むしろピロリ菌感染による萎縮性胃炎では胃酸の分泌が低下しているため、除菌して胃粘膜が回復すると胃酸分泌が増え、逆流性食道炎が新たに出現したり悪化したりすることがある。ただし、多くは軽症でプロトンポンプ阻害薬(PPI)で対処でき、現在では逆流性食道炎があることを理由に除菌を控える必要はないとされている。

  2. ×b.  噴門部癌

    適応ではない。ピロリ菌感染は胃癌の重要な危険因子であり、除菌は胃癌の発生予防(一次予防)や、早期胃癌を内視鏡的に切除した後の新たな胃癌の発生予防に役立つ。しかし、すでにできた胃癌が除菌によって消えるわけではなく、癌そのものの治療は手術や内視鏡的切除、薬物療法などで行う。また、噴門部(胃の入口付近)の癌には、ピロリ菌と関係の薄い、胃食道逆流やBarrett食道を背景とするものも含まれる。

  3. ×c.  胃腺腫

    病変そのものに対する治療としての除菌の適応ではない。胃腺腫は胃の上皮にできる良性の腫瘍(主に管状腺腫)で、萎縮性胃炎・腸上皮化生を背景に生じることが多く、一部は癌化する。除菌後に腺腫が縮小したとの報告はあるものの、確立した治療ではなく、大きいものや癌との区別が難しいものは内視鏡的切除や経過観察で対応する。一方で除菌によって縮小・消失が期待できるのは胃過形成性ポリープであり、腺腫と混同しないようにする。

  4. ○d.  十二指腸潰瘍

    除菌の適応である。十二指腸潰瘍の大部分はピロリ菌感染が原因で、胃の出口付近(前庭部)を中心とした胃炎により胃酸分泌が増え、十二指腸粘膜が傷害されて潰瘍ができる。抗潰瘍薬だけで治療すると再発を繰り返しやすいが、除菌に成功すると潰瘍の再発率が大きく低下する。胃潰瘍と合わせた消化性潰瘍は、除菌の最も代表的な適応である。ただし、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が原因の潰瘍では、除菌だけでは再発を防げないことに注意する。

  5. ×e.  十二指腸乳頭部腺腫

    適応ではない。十二指腸乳頭部(胆管・膵管が十二指腸に開口する部分、Vater乳頭)の腺腫は、ピロリ菌感染との因果関係が確立していない良性腫瘍で、癌化する可能性があるため内視鏡的乳頭切除術や外科的切除で治療する。除菌で病変が改善するわけではない。家族性大腸腺腫症(FAP)の患者では乳頭部腺腫が多いことも知られている。

ピロリ菌感染が関わる主な疾患

・慢性胃炎(萎縮性胃炎)、腸上皮化生 ・胃潰瘍・十二指腸潰瘍 ・胃癌(とくに分化型・未分化型を問わず非噴門部の癌) ・胃MALTリンパ腫(低悪性度B細胞リンパ腫。限局期の多くは除菌だけで寛解する) ・胃過形成性ポリープ(除菌で縮小・消失しうる) ・特発性血小板減少性紫斑病(ITP):感染者では除菌で血小板数が増加する例がある ・機能性ディスペプシアの一部

わが国の保険診療における除菌の対象(現在)

1. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍 2. 胃MALTリンパ腫 3. 特発性血小板減少性紫斑病(ITP) 4. 早期胃癌に対する内視鏡的治療後の胃 5. 内視鏡検査で胃炎が確認されたピロリ菌感染胃炎 いずれもピロリ菌感染の確認が必要である。本問が出題された当時は、保険適用は消化性潰瘍のみ(その後、胃MALTリンパ腫などへ拡大)であった。

感染診断

内視鏡を使う方法:迅速ウレアーゼ試験、鏡検法(組織を顕微鏡で観察)、培養法 内視鏡を使わない方法:尿素呼気試験、血清・尿中抗体検査、便中抗原検査 除菌判定には尿素呼気試験や便中抗原検査が適しており、PPIの内服中は偽陰性になりやすいため、除菌治療終了後4週以上あけて判定する。

除菌療法

・一次除菌:胃酸分泌抑制薬(PPIまたはカリウムイオン競合型アシッドブロッカーのボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤を7日間 ・二次除菌:クラリスロマイシンをメトロニダゾールに替えた3剤を7日間 クラリスロマイシン耐性菌の増加が一次除菌失敗の主な原因である。ボノプラザンは酸分泌をより強力かつ安定して抑えるため、除菌率の向上に寄与している。

POINT

・消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)はピロリ菌除菌の代表的な適応。除菌で潰瘍の再発率が大きく下がる ・十二指腸潰瘍の大部分はピロリ菌感染が原因 ・逆流性食道炎はピロリ菌が原因ではなく、除菌後に出現・悪化することがある ・除菌は胃癌の予防にはなるが、癌や腺腫そのものの治療ではない(除菌で縮小しうるのは過形成性ポリープ) ・現在の保険適用:消化性潰瘍、胃MALTリンパ腫、ITP、早期胃癌内視鏡治療後、ピロリ菌感染胃炎 ・一次除菌はPPI(またはボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシン、二次除菌はクラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。