加熱しても防げない!おにぎりが招くブドウ球菌食中毒の正体
第102回医師国家試験 I問題 第37問
国試問題にチャレンジ
ブドウ球菌食中毒について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.食品の加熱で予防する。
- b.患者には抗菌薬を投与する。
- c.予防には使い捨て手袋が用いられる。
- d.魚介類が原因食品であることが多い。
- e.食中毒またはその疑いと診断した場合,直ちに保健所に届け出る。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
黄色ブドウ球菌食中毒は、食品中で産生された耐熱性のエンテロトキシンを摂取して起こる毒素型食中毒で、加熱では予防できず、抗菌薬も無効で治療は輸液などの対症療法が中心です。潜伏期は約3時間と短く、激しい嘔吐が主症状で発熱は乏しいのが特徴です。調理者の手指(特に化膿創)が主な汚染源のため、おにぎりや弁当など手が触れる食品が原因になりやすく、手洗いや使い捨て手袋、低温保存が予防の基本となります(魚介類が典型なのは腸炎ビブリオ)。食中毒またはその疑いを診断した医師は、食品衛生法に基づき直ちに保健所長へ届け出る義務があります。毒素型・感染型の違いから予防や治療を論理的に導く考え方は、食中毒全般の理解と公衆衛生上の対応に直結します。
解答・解説
正解はc, eです
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による食中毒は、食品中で菌が増殖する際に産生されたエンテロトキシン(腸管毒)を、毒素ごと摂取することで起こる「毒素型(食品内毒素型)」食中毒の代表である。したがって、発症の原因は体内での菌の増殖ではなく、すでに食品中にできあがった毒素である。この性質から、潜伏期が約1〜6時間(平均3時間前後)と非常に短いこと、発熱は乏しく激しい悪心・嘔吐が主症状となること、抗菌薬が治療として意味をもたないことが導かれる。 さらにエンテロトキシンは耐熱性であり、100℃で30分程度加熱しても失活しない。菌自体は加熱で死滅しても毒素が残るため、「食べる前に加熱する」という対策は通用しない。予防の要点は、菌を食品に付着させないこと(汚染防止)と、付着しても増殖させないこと(低温保存・調理後すぐに食べる)である。黄色ブドウ球菌はヒトの皮膚・鼻腔・咽頭に常在し、とくに手指の化膿創(ひょう疽など)に大量に存在するため、調理者の手指からの汚染が最大の感染源となる。 加えて、医師の法的義務として、食品衛生法に基づく保健所長への届出が問われている。本問は「毒素型である」「毒素が耐熱性である」「手指が汚染源である」「食中毒は疑いの段階で直ちに届け出る」という4点を押さえれば解ける。
選択肢考察
- ×a. 食品の加熱で予防する。
誤り。黄色ブドウ球菌の産生するエンテロトキシンは耐熱性で、通常の調理程度の加熱(100℃・30分など)では壊れない。菌が食品中で増殖して毒素が蓄積した後では、再加熱して菌を死滅させても毒素は残り、発症を防げない。加熱が有効な予防策となるのは、生きた菌の摂取が発症に必要な感染型食中毒(サルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオなど)である。
- ×b. 患者には抗菌薬を投与する。
誤り。症状は摂取した毒素によるものであり、腸管内で菌が増殖して病態を作っているわけではないため、抗菌薬を投与しても症状は改善しない。治療は嘔吐・下痢による脱水に対する輸液などの対症療法が中心で、多くは24時間前後で自然に回復する。
- ○c. 予防には使い捨て手袋が用いられる。
正しい。黄色ブドウ球菌はヒトの皮膚や鼻腔に常在し、特に手指の化膿創には多量に存在する。おにぎりや弁当など、素手で握る・盛り付ける工程を経る食品が原因となりやすいのはこのためである。使い捨て手袋の着用は、調理者の手指から食品への菌の移行を防ぐ有効な手段である。あわせて、手洗いの徹底、手指に化膿創のある者を調理に従事させないこと、調理後の食品を低温で保存し早めに食べることが予防の基本となる。
- ×d. 魚介類が原因食品であることが多い。
誤り。ブドウ球菌食中毒の代表的な原因食品は、おにぎり(にぎりめし)、弁当、サンドイッチ、かまぼこなどの練り製品、シュークリームなどの菓子類といった、人の手が多く触れる加工食品である。魚介類(特に生食する海産魚介類)が原因食品として典型的なのは、好塩性の腸炎ビブリオによる食中毒である。
- ○e. 食中毒またはその疑いと診断した場合,直ちに保健所に届け出る。
正しい。食品衛生法第63条(旧第58条)により、食品・添加物・器具・容器包装に起因する食中毒の患者、またはその疑いのある者を診断した医師(死体を検案した場合も含む)は、直ちに最寄りの保健所長に届け出なければならない。確定診断を待たず「疑い」の段階で届け出ることが求められ、方法は文書・電話・口頭のいずれでもよい。迅速な届出によって保健所が原因食品・施設を調査し、被害の拡大を防ぐことができる。
細菌性食中毒の分類
・毒素型(食品内毒素型):食品中で菌が産生した毒素を摂取して発症する。潜伏期が短く、抗菌薬は無効。例:黄色ブドウ球菌(エンテロトキシン、耐熱性)、セレウス菌の嘔吐型(セレウリド、耐熱性)、ボツリヌス菌(ボツリヌス毒素、易熱性で80℃・20分程度あるいは100℃数分の加熱で失活)。 ・感染型:摂取した菌が腸管内で増殖・侵入して発症する。潜伏期は比較的長く、発熱を伴うことが多い。例:サルモネラ(鶏卵・食肉)、カンピロバクター(鶏肉、潜伏期2〜7日)、腸炎ビブリオ(海産魚介類)。 ・生体内毒素型(感染毒素型):摂取した菌が腸管内で増殖し、そこで毒素を産生して発症する。例:腸管出血性大腸菌(ベロ毒素)、ウェルシュ菌(カレー・煮物などの大量調理食品)、セレウス菌の下痢型。
黄色ブドウ球菌食中毒の特徴
・潜伏期:約1〜6時間(平均3時間程度)と短い。 ・症状:激しい悪心・嘔吐、腹痛、下痢。発熱はまれ。 ・経過:1〜2日以内に回復することが多く、予後は良好。 ・原因食品:おにぎり、弁当、サンドイッチ、練り製品、乳製品・菓子類など。 ・予防:手洗い、使い捨て手袋、手指に化膿創のある人を調理に関わらせない、調理後の食品を10℃以下で保存し速やかに摂取する。
届出
・食中毒:食品衛生法に基づき、医師は疑い例を含めて直ちに保健所長へ届け出る。 ・なお、腸管出血性大腸菌感染症やコレラ、細菌性赤痢などは感染症法上の三類感染症でもあり、そちらの届出(診断後直ちに)も別途必要となる。
POINT
・ブドウ球菌食中毒は毒素型で、エンテロトキシンは耐熱性であり、加熱では予防できない。 ・毒素が原因のため抗菌薬は無効で、治療は対症療法。 ・潜伏期は約3時間と短く、嘔吐が主症状、発熱は乏しい。 ・汚染源は調理者の手指(特に化膿創)で、おにぎり・弁当が典型的な原因食品。予防は手洗い・使い捨て手袋。 ・魚介類が原因となりやすいのは腸炎ビブリオ。 ・食中毒(疑いを含む)を診断した医師は、食品衛生法に基づき直ちに保健所長へ届け出る。
