健康な若者の病気はAIDSの指標にならない―日和見感染症を見分ける視点
第102回医師国家試験 I問題 第35問
国試問題にチャレンジ
ヒト免疫不全ウイルス〈HIV〉抗体陽性者における後天性免疫不全症候群〈AIDS〉診断の指標疾患でないのはどれか。
- a.活動性結核
- b.カンジダ症
- c.伝染性単核球症
- d.ニューモシスチス肺炎
- e.サイトメガロウイルス感染症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
AIDSは、HIV感染者に厚生労働省が定める23の指標疾患のいずれかが認められたときに診断され、その多くはCD4陽性T細胞の減少による細胞性免疫低下を反映した日和見感染症と腫瘍です。活動性結核、食道・気管・気管支・肺のカンジダ症、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症(肝・脾・リンパ節以外)はいずれも指標疾患に含まれます。一方、伝染性単核球症は免疫正常な若年者に起こるEBウイルス初感染であり、指標疾患ではありません。急性HIV感染症は伝染性単核球症に似た症状を示すことがあり、EBウイルス陰性の場合にはHIVを鑑別に挙げることが早期診断につながります。病原体名ではなく「免疫不全を背景に起こる病態か」という視点で整理することが、指標疾患の理解とHIV診療の基本になります。
解答・解説
正解はcです
HIV(human immunodeficiency virus、ヒト免疫不全ウイルス)に感染すると、CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)が年単位で徐々に減少し、細胞性免疫が低下していく。CD4数が大きく下がると、健康な人ではほとんど問題にならない病原体による感染症(日和見感染症)や特定の悪性腫瘍が起こるようになる。この段階が後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome、AIDS)である。 わが国では、HIV感染が確認された人に、厚生労働省が定める23の「指標疾患(AIDS指標疾患)」のいずれか1つ以上が認められた場合にAIDSと診断する。指標疾患は、真菌症、原虫症、細菌感染症、ウイルス感染症、腫瘍、その他に分類されている。多くは、細胞性免疫の低下によって起こる日和見感染症・腫瘍である。 本問は「指標疾患でないもの」を選ぶ問題である。活動性結核、カンジダ症、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症はいずれも指標疾患に含まれる。一方、伝染性単核球症は免疫が正常な若年者に起こるEBウイルスの初感染であり、指標疾患ではない。
選択肢考察
- ×a. 活動性結核
指標疾患である(肺結核・肺外結核のいずれも含む)。結核菌に対する防御は細胞性免疫が担っており、HIV感染者では結核の発病リスクが大きく上昇する。結核はCD4数が比較的保たれている時期から起こりやすく、免疫低下が進むと肺外結核や播種性結核(粟粒結核)の形をとりやすい。HIV感染者の結核は世界的に重要な死因である。
- ×b. カンジダ症
指標疾患である。ただし指標疾患に該当するのは、食道・気管・気管支・肺のカンジダ症であり、口腔カンジダ症(鵞口瘡)だけでは該当しない。口腔カンジダ症はHIV感染症の比較的早い段階からみられ、HIV感染を疑うきっかけとなる所見である。食道カンジダ症では嚥下時痛や嚥下困難が生じ、内視鏡で白苔の付着がみられる。
- ○c. 伝染性単核球症
指標疾患ではない。伝染性単核球症は、EBウイルス(Epstein-Barr virus)の初感染によって主に思春期~若年成人に起こる疾患で、発熱、咽頭・扁桃炎、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、異型リンパ球の増加を特徴とする。免疫が正常な人に起こる通常の感染症であり、免疫不全を反映する日和見感染症ではない。なお、EBウイルスは原発性脳リンパ腫など、指標疾患に含まれる一部のリンパ腫の発生には関与するが、伝染性単核球症そのものは指標疾患に含まれない。
- ×d. ニューモシスチス肺炎
指標疾患である。真菌の一種であるPneumocystis jiroveciiによる肺炎で、CD4数が200/μL未満になると起こりやすい。わが国ではAIDS発症時に最も多くみられる指標疾患の一つであり、HIV感染を知らずに本症で受診して初めて感染が判明する例も少なくない。緩徐に進行する乾性咳嗽、発熱、労作時呼吸困難、低酸素血症が特徴で、胸部画像では両側のすりガラス陰影を示し、血清β-Dグルカンが上昇する。治療・予防にはST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)を用いる。
- ×e. サイトメガロウイルス感染症
指標疾患である(生後1か月以降で、肝臓・脾臓・リンパ節以外の臓器に病変があるもの)。CD4数が50/μL未満程度まで高度に低下すると起こりやすく、網膜炎(視力低下の原因となる)が代表的である。そのほか腸炎、食道炎、肺炎、脳炎なども起こす。治療にはガンシクロビルなどを用いる。
わが国のAIDS指標疾患(23疾患)
A. 真菌症 1. カンジダ症(食道、気管、気管支、肺) 2. クリプトコッカス症(肺以外) 3. コクシジオイデス症 4. ヒストプラズマ症 5. ニューモシスチス肺炎 B. 原虫症 6. トキソプラズマ脳症(生後1か月以後) 7. クリプトスポリジウム症(1か月以上続く下痢を伴う) 8. イソスポラ症(1か月以上続く下痢を伴う) C. 細菌感染症 9. 化膿性細菌感染症(13歳未満で、反復する重症細菌感染症) 10. サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く) 11. 活動性結核(肺結核または肺外結核) 12. 非結核性抗酸菌症 D. ウイルス感染症 13. サイトメガロウイルス感染症(生後1か月以後で、肝、脾、リンパ節以外) 14. 単純ヘルペスウイルス感染症(1か月以上持続する粘膜・皮膚の潰瘍、または生後1か月以後で気管支炎・肺炎・食道炎を併発するもの) 15. 進行性多巣性白質脳症 E. 腫瘍 16. Kaposi肉腫 17. 原発性脳リンパ腫 18. 非Hodgkinリンパ腫 19. 浸潤性子宮頸癌 F. その他 20. 反復性肺炎 21. リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成(13歳未満) 22. HIV脳症(認知症または亜急性脳炎) 23. HIV消耗性症候群(全身衰弱またはスリム病)
CD4数と起こりやすい日和見感染症の目安
・500/μL前後以下:口腔カンジダ症、帯状疱疹、結核など(結核はCD4数にかかわらず起こりうる) ・200/μL未満:ニューモシスチス肺炎、食道カンジダ症 ・100/μL未満:トキソプラズマ脳症、クリプトコッカス髄膜炎 ・50/μL未満:サイトメガロウイルス網膜炎、播種性非結核性抗酸菌症
HIV感染症の経過
感染後数週で、発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹、皮疹など、伝染性単核球症に似た症状を示す急性HIV感染症が起こることがある。その後、数年~10年ほど症状の乏しい無症候期が続き、CD4数の低下とともにAIDSを発症する。抗HIV療法(多剤併用療法)によってウイルス量を抑えれば、AIDSの発症を防ぎ、健常者に近い寿命が期待できる。
POINT
・AIDSはHIV感染に23の指標疾患のいずれかが加わったときに診断する ・指標疾患の多くは細胞性免疫低下による日和見感染症と腫瘍(Kaposi肉腫、非Hodgkinリンパ腫、原発性脳リンパ腫、浸潤性子宮頸癌) ・伝染性単核球症は健常者に起こるEBウイルス初感染であり、指標疾患ではない ・カンジダ症は食道・気管・気管支・肺に限る(口腔カンジダ症は該当しない) ・ニューモシスチス肺炎はAIDS発症時の代表的な指標疾患。CD4数200/μL未満で起こりやすい
