StudyMed医師国家試験

糖尿病は陰茎の血管と神経を同時に攻める―勃起不全の「仕組み」から原因疾患を見抜く

第102回医師国家試験 G問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第5問

勃起不全をきたすのはどれか。

  1. a.Cushing症候群
  2. b.前立腺肥大症
  3. c.尿路結石
  4. d.糖尿病
  5. e.痛風

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、勃起不全の原因となる疾患を選ぶ問題だ。暗記で片づけることもできるけれど、勃起がどういう仕組みで起こるかを押さえておけば、どの病気が原因になりうるかは自然に見えてくる。まずは勃起の生理から整理しよう。
医学生医学生
生理学の講義で、勃起は副交感神経、射精は交感神経と習った記憶があります。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。性的刺激が加わると、骨盤内臓神経の終末や血管内皮から一酸化窒素(NO)が出る。NOは陰茎海綿体の平滑筋でcGMPを増やして平滑筋を弛緩させ、海綿体に動脈血がどっと流れ込む。膨らんだ海綿体が白膜の下の静脈を押しつぶして血液の出口を絞るので、勃起が保たれるんだ。
医学生医学生
神経からの指令と、血液が入る血管の両方がそろっていないとだめということですね。
ドクタードクター
その通り。さらにテストステロンなどのホルモンと心理的な要素も関わる。つまり神経・血管・ホルモン・心理のどれかが崩れれば勃起不全になりうる。この視点で選択肢を見ると、どれが一番当てはまるかな。
医学生医学生
糖尿病だと思います。三大合併症に神経障害がありますし、動脈硬化も進めますよね。
ドクタードクター
正解。糖尿病は自律神経障害でNOの放出が減り、さらに動脈硬化と血管内皮障害で陰茎への血流も、内皮からのNO産生も落ちる。神経性と血管性の両面から攻めるから、器質性勃起不全の原因として最も代表的なんだ。糖尿病の男性の35〜75%に勃起不全がみられるとされ、糖尿病のない人より若い年齢で起こりやすい。
医学生医学生
Cushing症候群も耐糖能異常を起こすので、つながりがありそうに思えて迷いました。
ドクタードクター
鋭い視点だね。コルチゾール過剰はゴナドトロピン分泌を抑えて性腺機能低下を起こすことがあり、性欲低下などが生じることはある。ただ、勃起不全の原因疾患として代表的に問われるものではない。この問題では、高頻度かつ典型的に起こす糖尿病を選ぶのが適切だ。
医学生医学生
前立腺肥大症は泌尿器科の病気で、年齢層も重なるので一番ひっかかりそうです。
ドクタードクター
そこが落とし穴。前立腺肥大症は移行域の過形成で尿道が圧迫され、排尿困難や頻尿、夜間頻尿をきたす病気で、勃起に関わる神経や陰茎の血管そのものを障害するわけではない。高齢男性に多いから併存しやすいし、5α還元酵素阻害薬や経尿道的前立腺切除術の後に射精障害などの性機能障害が起こることもある。でもそれは治療の影響であって、病気そのものが勃起不全を起こすのとは区別して考えよう。
医学生医学生
尿路結石と痛風は、疝痛発作や足の親指の激痛というイメージで、勃起とは結びつきません。
ドクタードクター
そう考えていい。尿路結石は結石による疝痛、血尿、水腎症が問題で、骨盤の神経や陰茎の血管を障害する病態ではない。痛風も尿酸塩結晶による関節炎で、高血圧や脂質異常症と合併しやすいものの、痛風自体が勃起に関わる神経・血管を直接障害するわけではないんだ。
医学生医学生
勃起の仕組みを分解して、どこを壊す病気かを考えれば選べる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に周辺知識をまとめよう。勃起不全は心因性の機能性と、血管性・神経性・内分泌性・陰茎性の器質性、両者が重なる混合性、薬剤性に分けられる。心因性では夜間や早朝の勃起が保たれていることが多いのが手がかりになる。神経性には脊髄損傷や、前立腺全摘除術・直腸癌手術による神経損傷も含まれるよ。
医学生医学生
臨床実習で前立腺全摘の術後説明に同席したとき、性機能のことを丁寧に話していたのを思い出しました。
ドクタードクター
大事な場面だね。もう一つ、勃起不全は全身の動脈硬化を早めに映すサインにもなる。陰茎の動脈は細いから、冠動脈より先に症状が出ることがあるとされ、勃起不全をみたら心血管リスクを評価する意識を持ちたい。
医学生医学生
治療はPDE5阻害薬でしたよね。CBTの薬理で硝酸薬との併用禁忌が出ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。PDE5はcGMPを分解する酵素なので、シルデナフィルやタダラフィルで阻害するとcGMPが保たれて勃起しやすくなる。硝酸薬もcGMPを増やすから、併用すると過度の血圧低下を起こしうる。狭心症で硝酸薬を使っている患者さんでは必ず確認する、と覚えておこう。

まとめ

勃起は副交感神経からのNO放出による海綿体平滑筋の弛緩と動脈血流入、静脈閉鎖機構で成立し、神経・血管・ホルモン・心理のすべてが関与します。糖尿病は自律神経障害と動脈硬化・血管内皮障害の両面からこの仕組みを障害するため、器質性勃起不全の最も代表的な原因で、糖尿病男性の35〜75%にみられるとされます。前立腺肥大症は治療に伴って性機能障害を生じることはあっても疾患自体の原因とは区別され、尿路結石や痛風は勃起の神経・血管を直接障害しません。勃起不全は全身の動脈硬化を反映するサインでもあり、治療の第一選択であるPDE5阻害薬は硝酸薬との併用が禁忌です。生理学的な仕組みから原因を考える姿勢は、暗記に頼らず未知の選択肢にも対応する力になります。

解答・解説

正解はdです

勃起不全(erectile dysfunction:ED)とは、満足な性交を行うのに十分な勃起が得られない、または維持できない状態を指す。本問では、選択肢の疾患のうち勃起不全の原因として代表的なものを選ぶ。

勃起の仕組み

性的刺激が加わると、骨盤内臓神経(副交感神経)の終末や血管内皮から一酸化窒素(NO)が放出される。NOは陰茎海綿体の平滑筋細胞内でcGMP(環状グアノシン一リン酸)を増やし、平滑筋を弛緩させる。すると海綿体洞へ動脈血が大量に流れ込み、膨らんだ海綿体が白膜の下の静脈を圧迫して血液の流出を抑える(静脈閉鎖機構)。こうして勃起が成立・維持される。したがって、勃起には「神経」「血管(動脈流入と静脈閉鎖)」「ホルモン(テストステロンによる性欲や海綿体機能の維持)」「心理」のすべてがそろっている必要がある。

考え方

このうちどれかを障害する疾患が勃起不全の原因となる。糖尿病は、自律神経障害(神経性)と動脈硬化・血管内皮障害(血管性)の両方を引き起こすため、器質性勃起不全の原因として最も頻度が高く、代表的な疾患である。糖尿病の男性では35~75%に勃起不全がみられるとされ、糖尿病のない男性よりも若い年齢で発症しやすい。他の選択肢は、勃起に関わる神経・血管に直接の障害をもたらす病態としては一般的ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  Cushing症候群

    Cushing症候群はコルチゾールの過剰分泌によって満月様顔貌、中心性肥満、高血圧、耐糖能異常、骨粗鬆症などをきたす疾患である。コルチゾール過剰はゴナドトロピン分泌を抑えて性腺機能低下(男性では性欲低下)を起こすことがあるが、勃起不全の原因疾患として問われる代表例ではない。本問では、神経障害と血管障害の両面から勃起不全を高頻度に起こす糖尿病がより適切である。

  2. ×b.  前立腺肥大症

    前立腺肥大症は移行域の腺腫様過形成により尿道が圧迫され、排尿困難・頻尿・夜間頻尿などの下部尿路症状をきたす疾患である。疾患そのものが勃起に関わる神経や陰茎の血管を障害するわけではない。なお、どちらも高齢男性に多いため併存しやすく、また治療薬(5α還元酵素阻害薬)や経尿道的前立腺切除術(TURP)の後に性機能障害(射精障害など)が起こることはあるが、それは治療の副作用であり疾患自体による勃起不全ではない。

  3. ×c.  尿路結石

    尿路結石は腎・尿管・膀胱などにできた結石により、疝痛発作、血尿、水腎症などをきたす疾患である。勃起に関与する骨盤内の神経や陰茎の血管を障害する病態ではなく、勃起不全の原因とはならない。

  4. ○d.  糖尿病

    糖尿病は器質性勃起不全の最も代表的な原因である。持続する高血糖により、①自律神経障害(副交感神経からのNO放出が低下し、海綿体平滑筋が弛緩しにくくなる)と、②血管障害(動脈硬化による陰茎への動脈流入の低下、血管内皮障害によるNO産生の低下)が生じ、両者が合わさって勃起不全をきたす。糖尿病男性の35~75%に勃起不全がみられるとされる。

  5. ×e.  痛風

    痛風は高尿酸血症を背景に、関節内に析出した尿酸塩結晶に対する急性炎症(第1中足趾節関節に好発する激痛発作)をきたす疾患である。高血圧や脂質異常症などの生活習慣病と合併しやすいが、痛風そのものは勃起に関わる神経・血管を直接障害する疾患ではなく、勃起不全の原因としては挙げられない。

勃起不全の分類

・機能性(心因性):ストレス、不安、うつ病、性交失敗への予期不安など。夜間や早朝の勃起は保たれていることが多い。 ・器質性  血管性:動脈硬化、高血圧、脂質異常症、喫煙、骨盤外傷による動脈損傷、静脈閉鎖不全など  神経性:糖尿病性神経障害、脊髄損傷、多発性硬化症、骨盤内手術(前立腺全摘除術、直腸癌手術など)による神経損傷  内分泌性:性腺機能低下症(低テストステロン)、高プロラクチン血症、甲状腺機能異常など  陰茎性(解剖学的):Peyronie病(陰茎海綿体白膜の線維化による陰茎の弯曲)など ・混合性:器質性と機能性の要因が重なるもの(糖尿病患者の勃起不全はしばしばこの形をとる) ・その他:薬剤性(降圧薬の一部、抗うつ薬、抗精神病薬、抗アンドロゲン薬など)

糖尿病と勃起不全

勃起不全は糖尿病の慢性合併症の一つであり、神経障害と血管障害が関与する。勃起不全は全身の動脈硬化を反映する早期のサインともなり、冠動脈疾患のリスク評価の手がかりになる。

治療

第一選択はホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬(シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル)である。PDE5はcGMPを分解する酵素であり、これを阻害するとcGMPが保たれて勃起が起こりやすくなる。硝酸薬(ニトログリセリンなど)との併用は、同じくcGMPを増やして過度の血圧低下を起こすため禁忌である。

POINT

・勃起には神経(副交感神経・NO)、血管、ホルモン、心理のすべてが関与する。 ・勃起不全は機能性(心因性)、器質性(血管性・神経性・内分泌性・陰茎性)、混合性、薬剤性などに分類される。 ・糖尿病は神経障害と血管障害の両方を介して勃起不全をきたす代表的疾患で、糖尿病男性の35~75%にみられる。 ・治療の第一選択はPDE5阻害薬で、硝酸薬との併用は禁忌。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。