StudyMed医師国家試験

血液はなぜ固まりすぎるのか―Virchowの三徴で見抜く「仲間はずれ」

第102回医師国家試験 G問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第4問

血栓傾向がみられないのはどれか。

  1. a.長期臥床
  2. b.大球性貧血
  3. c.経口避妊薬服用
  4. d.真性赤血球増加症
  5. e.抗リン脂質抗体症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、血栓傾向をきたす病態を見分ける問題だ。選択肢を一つずつ暗記で判定するより、血栓ができる3つの要因、Virchowの三徴に当てはめていくと迷わずに解ける。三徴を言えるかな。
医学生医学生
血流のうっ滞、血管内皮の障害、凝固能の亢進、ですよね。病理学の循環障害の講義で出てきました。
ドクタードクター
完璧だ。ではこの枠組みで選択肢を見ていこう。まず長期臥床はどれに当たる?
医学生医学生
寝たきりで動かないので、血流うっ滞ですね。
ドクタードクター
そう。下肢の静脈血は、歩くときにふくらはぎの筋肉が静脈を絞り上げる筋ポンプ作用で心臓に戻っている。寝たきりだとそれが働かず、下肢の静脈に血液がよどんで深部静脈血栓症を起こしやすい。血栓が剥がれて肺動脈に詰まれば肺塞栓症となり、命にかかわる。長時間の座位で起こるいわゆるエコノミークラス症候群も同じ仕組みだ。
医学生医学生
外科の実習で、術後の患者さんに弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置をつけていたのはそのためですね。
ドクタードクター
その通り。早期離床も大切な予防策だ。次に経口避妊薬はどうだろう。
医学生医学生
エストロゲンが入っているので、凝固能亢進でしょうか。
ドクタードクター
正解。エストロゲンは肝臓で第VII因子や第X因子、フィブリノゲンなどの凝固因子の産生を増やし、凝固を抑えるプロテインSやアンチトロンビンを減らす方向に働く。喫煙者、特に35歳以上や、肥満、血栓症の既往や血栓性素因がある人ではリスクがさらに上がるので、処方前の問診が欠かせない。
医学生医学生
真性赤血球増加症は赤血球が増えるから、血液がドロドロになるイメージです。
ドクタードクター
イメージとして正しいよ。多くの症例でJAK2遺伝子変異を伴う骨髄増殖性腫瘍で、ヘマトクリットが上がると血液の粘稠度が増して血流が遅くなる。血小板増加を伴うことも多く、脳梗塞や心筋梗塞、Budd-Chiari症候群などの動静脈血栓症を起こしやすい。だから治療では瀉血でヘマトクリットを45%未満に保ち、低用量アスピリンで血栓を予防するんだ。
医学生医学生
抗リン脂質抗体症候群は、APTTが延長するのに血栓ができると習って、混乱した記憶があります。
ドクタードクター
そこはCBTでも国試でも狙われるポイントだね。ループスアンチコアグラントは試験管の中ではリン脂質に依存する凝固反応を邪魔するのでAPTTを延長させるけれど、生体内では凝固能亢進や内皮障害を通じて血栓傾向を示す。動静脈の血栓症や習慣性流産・不育症を繰り返す自己免疫疾患で、SLEに合併することも多い。後天性の血栓性素因として頻度が高く重要なんだ。
医学生医学生
そうすると残る大球性貧血が、三徴のどれにも当てはまらないということですね。
ドクタードクター
その通り、正解は大球性貧血だ。大球性貧血は平均赤血球容積がおおむね100 fLを超える貧血という「形態による分類」にすぎず、ビタミンB12や葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、肝疾患、アルコール多飲などが原因になる。貧血では赤血球が減って血液の粘稠度はむしろ下がるから、うっ滞や凝固能亢進を直接もたらすことはないんだ。
医学生医学生
でも、ビタミンB12欠乏ではホモシステインが上がって血栓の危険因子になると聞いたことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。B12や葉酸が不足するとメチオニン合成が進まず、高ホモシステイン血症になることがあり、これは内皮障害を介して血栓症や動脈硬化の危険因子とされる。また発作性夜間ヘモグロビン尿症は網赤血球増加でMCVが高めになることがあり、血栓症を起こしやすい。ただ、これらはあくまで個々の原因疾患の性質によるもので、「大球性貧血だから血栓ができる」わけではない。この区別が大事だよ。
医学生医学生
分類名と病態そのものを混同しないようにします。ほかに覚えておくべき血栓性素因はありますか。
ドクタードクター
後天性では、妊娠・産褥、悪性腫瘍に伴うTrousseau症候群、尿中にアンチトロンビンが失われるネフローゼ症候群、ヘパリン起因性血小板減少症などが代表的だ。先天性ではアンチトロンビン、プロテインC、プロテインSの欠乏症を押さえよう。日本人ではプロテインS欠乏症が比較的多く、欧米で多い第V因子Leiden変異は日本人ではほとんどみられない。若い人の原因不明の血栓症や、家族歴がある場合はこれらを疑って調べる。
医学生医学生
血栓症の患者さんを診たら、三徴のどこに原因があるかを順に探せばいいんですね。
ドクタードクター
そう、三徴は原因検索のチェックリストとしても使える。予防や治療方針を考えるときにも役立つから、しっかり身につけておこう。

まとめ

血栓傾向はVirchowの三徴(血流うっ滞・血管内皮障害・凝固能亢進)で整理すると理解しやすく、長期臥床は血流うっ滞、経口避妊薬はエストロゲンによる凝固能亢進、真性赤血球増加症は血液粘稠度の上昇、抗リン脂質抗体症候群は代表的な後天性血栓性素因に当たります。一方、大球性貧血はMCVによる形態的分類にすぎず、粘稠度はむしろ低下するため、それ自体は血栓傾向の原因とはされません。ビタミンB12・葉酸欠乏に伴う高ホモシステイン血症やPNHのように個別の原因疾患が血栓と関連することはありますが、分類名と病態を区別することが重要です。抗リン脂質抗体症候群で試験管内ではAPTTが延長するのに生体内では血栓傾向を示す点や、日本人で比較的多いプロテインS欠乏症などの先天性素因もあわせて押さえておきましょう。三徴を原因検索の枠組みとして使う考え方は、深部静脈血栓症の予防や血栓症患者の評価など臨床の幅広い場面で役立ちます。

解答・解説

正解はbです

血栓傾向(血栓性素因)とは、血管の中で血液が固まりやすく、血栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳梗塞など)を起こしやすい状態である。 血栓ができる要因は、古くから「Virchow(ウィルヒョウ)の三徴」として次の3つに整理されている。 1. 血流の変化(うっ滞):長期臥床、手術後、長時間の座位(いわゆるエコノミークラス症候群)、心不全、血液粘稠度の上昇(多血症など) 2. 血管内皮の障害:手術・外傷、カテーテル留置、血管炎、自己抗体による内皮障害など 3. 血液の凝固しやすさ(凝固能亢進):エストロゲン製剤(経口避妊薬など)、妊娠、悪性腫瘍、ネフローゼ症候群、先天性凝固阻止因子欠乏症、抗リン脂質抗体症候群など 本問では、各選択肢がこの三徴のどれかに当てはまるかを考えればよい。長期臥床は血流うっ滞、経口避妊薬は凝固能亢進、真性赤血球増加症は血液粘稠度の上昇による血流の変化、抗リン脂質抗体症候群は凝固能亢進と内皮障害に当てはまる。一方、大球性貧血は赤血球の大きさが大きい貧血という分類にすぎず、それ自体が三徴のいずれかを直接もたらすものではないため、血栓傾向を示す病態としては挙げられない。

選択肢考察

  1. ×a.  長期臥床

    下肢の静脈血は、歩行時にふくらはぎの筋肉が収縮して静脈を絞り上げる働き(筋ポンプ作用)によって心臓へ戻される。長期間寝たきりになるとこの筋ポンプが働かず、下肢の静脈で血流がうっ滞するため、深部静脈血栓症を起こしやすくなる。血栓が剥がれて肺動脈に詰まると肺塞栓症となり、命にかかわる。Virchowの三徴の「血流うっ滞」に当たり、血栓傾向がみられるので誤り。

  2. ○b.  大球性貧血

    大球性貧血は、平均赤血球容積(MCV:赤血球1個の平均の大きさ)がおおむね100 fLを超える貧血を指し、ビタミンB12欠乏や葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、肝疾患、アルコール多飲などが原因となる。貧血では赤血球が減って血液の粘稠度はむしろ低下するため、血流うっ滞や凝固能亢進を直接もたらすことはなく、一般に血栓傾向の原因としては扱われない。したがって本問で「血栓傾向がみられない」ものとして正解である。

  3. ×c.  経口避妊薬服用

    経口避妊薬(低用量ピルなど)に含まれるエストロゲンは、肝臓での凝固因子(第VII因子、第X因子、フィブリノゲンなど)の産生を増やし、凝固を抑えるプロテインSやアンチトロンビンを減らす方向に働く。その結果、凝固能が亢進し、深部静脈血栓症や肺塞栓症の危険が高まる。喫煙者(特に35歳以上)、肥満、血栓症の既往や血栓性素因のある人ではリスクがさらに上がるため、処方前に確認が必要である。血栓傾向がみられるので誤り。

  4. ×d.  真性赤血球増加症

    真性赤血球増加症(真性多血症、polycythemia vera)は、多くの症例でJAK2遺伝子変異を伴う骨髄増殖性腫瘍であり、赤血球が過剰に産生される。ヘマトクリット(血液中に占める赤血球の容積の割合)が上がると血液の粘り気(粘稠度)が増して血流が遅くなり、さらに血小板増加を伴うことも多いため、脳梗塞、心筋梗塞、門脈・肝静脈血栓症(Budd-Chiari症候群)などの動静脈血栓症を起こしやすい。治療では瀉血でヘマトクリットを下げ(目標は45%未満)、低用量アスピリンで血栓を予防する。血栓傾向がみられるので誤り。

  5. ×e.  抗リン脂質抗体症候群

    抗リン脂質抗体症候群(APS:antiphospholipid syndrome)は、リン脂質やそれに結合するたんぱく質に対する自己抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインI抗体)が持続的に陽性となり、動脈・静脈の血栓症や、妊娠合併症(習慣性流産・不育症、妊娠高血圧腎症など)を繰り返す自己免疫疾患である。後天性の血栓性素因として頻度が高く、全身性エリテマトーデス(SLE)に合併することも多い。なお、ループスアンチコアグラントは試験管内では凝固時間(APTT:活性化部分トロンボプラスチン時間)を延長させるが、生体内では血栓傾向を示す点が特徴的である。血栓傾向がみられるので誤り。

血栓傾向をきたす主な原因

・血流うっ滞:長期臥床、手術後、下肢骨折・ギプス固定、下肢麻痺、長時間の飛行機移動、心不全、肥満、妊娠(増大した子宮による静脈圧迫)。 ・血液粘稠度の上昇:脱水、真性赤血球増加症などの多血症、本態性血小板血症。 ・凝固能亢進(後天性):経口避妊薬・ホルモン補充療法などのエストロゲン製剤、妊娠・産褥、悪性腫瘍(Trousseau症候群)、ネフローゼ症候群(尿中にアンチトロンビンが失われる)、抗リン脂質抗体症候群、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)、高ホモシステイン血症。 ・先天性血栓性素因:アンチトロンビン欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症(日本人で比較的多い)。欧米では第V因子Leiden変異やプロトロンビン遺伝子変異が多いが、日本人ではほとんどみられない。

大球性貧血についての補足

大球性貧血そのものは血栓傾向の原因ではない。ただし、ビタミンB12欠乏や葉酸欠乏では、これらが必要なメチオニン合成が進まず、血中ホモシステインが上昇することがある。高ホモシステイン血症は血管内皮を傷つけ、血栓症や動脈硬化の危険因子とされる。また、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は網赤血球増加のためMCVが高めになることがあり、血栓症を起こしやすい疾患として重要である。いずれも「大球性貧血だから血栓ができる」わけではなく、個別の原因疾患の性質によるものである。

抗リン脂質抗体症候群の診断

臨床所見(血栓症または妊娠合併症)と、抗リン脂質抗体が12週以上の間隔をあけて2回以上陽性であることを組み合わせて診断する。治療は、血栓症の既往がある場合はワルファリンによる抗凝固療法、妊娠時は低用量アスピリンとヘパリンの併用が基本である。

POINT

・血栓形成の要因はVirchowの三徴(血流うっ滞、血管内皮障害、凝固能亢進)で整理する。 ・長期臥床=血流うっ滞、経口避妊薬=凝固能亢進、真性赤血球増加症=血液粘稠度上昇、抗リン脂質抗体症候群=後天性血栓性素因。 ・大球性貧血自体は血栓傾向の原因ではない。 ・抗リン脂質抗体症候群は、試験管内ではAPTTが延長するのに生体内では血栓傾向を示す。 ・先天性血栓性素因:アンチトロンビン・プロテインC・プロテインS欠乏症。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。