皮膚を越えるか、越えないか―清潔操作が要る手技・要らない手技の見分け方
第102回医師国家試験 F問題 第11問
国試問題にチャレンジ
清潔操作が必要ないのはどれか。
- a.腰椎穿刺
- b.皮膚切開
- c.電気的除細動
- d.胸腔ドレナージ
- e.中心静脈カテーテル挿入
対話形式の解説
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ドクターまとめ
清潔操作(無菌操作)は、滅菌された器具・手袋・ガウン・ドレープを用いて無菌状態を保ったまま処置を行う技術で、皮膚や粘膜を貫いてくも膜下腔、胸腔、血管内などの無菌領域に器具を入れる手技で必須となります。腰椎穿刺、皮膚切開、胸腔ドレナージ、中心静脈カテーテル挿入はいずれもこれに当たり、特に中心静脈カテーテルではカテーテル関連血流感染を防ぐため最大限の無菌的予防策がとられます。一方、電気的除細動は体表から通電するだけで皮膚を破らないため清潔操作は不要で、心室細動などでは迅速な実施が最優先されます。必要な清潔度は到達部位の無菌性、侵襲の大きさ、留置の有無で段階的に変わり、患者の体内に菌を持ち込まないという清潔操作の目的は、医療者と患者を守る標準予防策とは区別して理解しておく必要があります。この基準を身につけることは、臨床実習や研修で安全に手技を行うための基本となります。
解答・解説
正解はcです
清潔操作(無菌操作)とは、滅菌された器具・手袋・ガウン・ドレープなどを用い、無菌状態を保ったまま処置を行う技術である。皮膚のバリアを越えて体内に器具を入れる処置、特に本来無菌である体腔・血管内・脳脊髄液腔などに到達する処置では、皮膚常在菌(黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌など)や環境中の微生物が持ち込まれると、髄膜炎・膿胸・カテーテル関連血流感染・創部感染といった重篤な感染症を起こしうる。そのため、こうした侵襲的手技では清潔操作が必須となる。 判断の基準は「その手技で皮膚や粘膜を貫いて器具や手が体内(無菌領域)に入るかどうか」である。選択肢のうち、腰椎穿刺・皮膚切開・胸腔ドレナージ・中心静脈カテーテル挿入はいずれも皮膚を貫く侵襲的手技である。一方、電気的除細動は体表に電極パッド(パドル)を当てて通電するだけで皮膚を破らないため、清潔操作を必要としない。
選択肢考察
- ×a. 腰椎穿刺
清潔操作が必要である。腰椎穿刺は通常L3/4またはL4/5の椎間から針を刺入し、くも膜下腔に到達して脳脊髄液を採取したり、薬剤を注入したりする手技である。脳脊髄液腔は本来無菌であり、菌が持ち込まれると医原性の細菌性髄膜炎を起こしうる。そのため、穿刺部位の消毒、滅菌手袋の着用、滅菌穴あきドレープの使用などの清潔操作で行う(ガイドラインによってはマスクの着用も推奨されている)。
- ×b. 皮膚切開
清潔操作が必要である。皮膚切開は皮膚という最大の感染防御バリアを破り、皮下組織を外界に露出させる。手術の皮膚切開はもちろん、膿瘍の切開排膿のように元の病変がすでに感染している場合でも、新たな菌の混入や周囲への感染拡大を防ぐため、消毒と滅菌器具を用いた清潔操作で行う。
- ○c. 電気的除細動
清潔操作は不要であり、これが正解である。電気的除細動(カルディオバージョンを含む)は、胸壁に電極パッドやパドルを当てて体外から通電し、心室細動や心房細動などの頻脈性不整脈を停止させる手技である。皮膚を貫く操作はなく体内に器具が入らないため、感染のリスクはほとんどなく、無菌操作は求められない。特に心室細動・無脈性心室頻拍では、除細動までの時間が短いほど救命率が高いため、清潔操作よりも迅速な実施が優先される。
- ×d. 胸腔ドレナージ
清潔操作が必要である。胸腔ドレナージは気胸・胸水・血胸・膿胸などに対し、肋間から胸腔内へドレーン(チューブ)を挿入して空気や液体を体外へ排出する手技である。本来無菌の胸腔に器具を入れ、しかもドレーンを一定期間留置するため、菌が侵入すると膿胸などを起こしうる。消毒、滅菌ドレープ、滅菌手袋・ガウンなどを用いた清潔操作で行う。
- ×e. 中心静脈カテーテル挿入
清潔操作が必要である。中心静脈カテーテルは内頸静脈・鎖骨下静脈・大腿静脈などから挿入し、先端を上大静脈などの太い静脈に留置する。血管内に異物を留置するため、カテーテル関連血流感染症(CRBSI:catheter-related bloodstream infection)の危険が大きい。その予防として、挿入時には帽子・マスク・滅菌ガウン・滅菌手袋・全身を覆う大きな滅菌ドレープを用いる最大限の無菌的予防策(maximal sterile barrier precautions)と、クロルヘキシジンアルコールなどによる皮膚消毒が推奨されている。
清潔操作と無菌操作
医療現場では、滅菌物を扱い無菌状態を保つ操作を「清潔操作(無菌操作)」と呼び、滅菌されていないものを「不潔」と区別する。清潔野に不潔なものが触れた場合、その部分は不潔とみなし、器具や手袋を交換する。
清潔操作が必要な主な手技
・腰椎穿刺、胸腔穿刺・胸腔ドレナージ、腹腔穿刺、骨髄穿刺、関節穿刺 ・中心静脈カテーテル挿入、動脈ライン留置 ・手術、皮膚切開、縫合 ・尿道カテーテル留置(無菌的に挿入する)
清潔操作を要しない主な手技
・電気的除細動、心電図・心エコーなどの体表からの検査 ・胸骨圧迫、バッグバルブマスク換気 ・血圧測定、聴診などの身体診察 なお、末梢静脈路確保や採血、筋肉注射などは、穿刺部位の消毒と清潔な器具の使用は必須だが、滅菌ガウンやドレープまでは通常用いない。手技の侵襲度や留置の有無に応じて必要な清潔度は異なる。
標準予防策との違い
標準予防策(スタンダードプリコーション)は、血液・体液などを感染性があるものとして扱い、手指衛生や個人防護具で医療者と患者双方を守る考え方であり、すべての患者に適用される。清潔操作は、侵襲的手技において患者の体内に菌を持ち込まないための技術であり、目的が異なる。
POINT
・皮膚や粘膜を貫いて無菌領域(くも膜下腔、胸腔、血管内など)に器具を入れる手技は清潔操作が必要である。 ・電気的除細動は体表から通電するだけの非侵襲的手技であり、清潔操作は不要である。 ・中心静脈カテーテル挿入では、カテーテル関連血流感染予防のため最大限の無菌的予防策を用いる。
