「どこが、どう痛むか」で見抜く狭心痛―放散痛は心臓からのサイン
第102回医師国家試験 F問題 第10問
国試問題にチャレンジ
労作性狭心症で正しいのはどれか。
- a.発作は空腹時に起こる。
- b.痛みは呼吸で変動する。
- c.痛みは数秒間持続する。
- d.痛みは頸部や肩に放散する。
- e.針で刺すような痛みである。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
労作性狭心症の胸痛は、胸骨裏面を中心とした締めつけ感・圧迫感で、労作や食後、寒冷、精神的興奮で誘発され、数分持続して安静やニトログリセリン舌下で速やかに消失します。心臓の痛覚が上位胸髄に入るため、頸部・下顎・歯・左肩・左上肢・心窩部への放散痛(関連痛)が特徴で、放散部位の症状だけを訴える例もあります。呼吸や体位で変わる痛み、針で刺すような局在の明瞭な痛み、数秒で消える痛みは狭心痛らしくなく、胸膜・心膜・胸壁由来などの別の原因を考えます。一方で、20〜30分以上続く胸痛や安静時の胸痛は急性冠症候群を疑う緊急のサインです。痛みの性状・持続・誘因・放散を整理して問診する力は、胸痛診療の出発点となります。
解答・解説
正解はdです
労作性狭心症は、冠動脈の器質的な狭窄(多くは動脈硬化性プラークによる)を背景に、運動・階段昇降・重い物を持つ・寒冷曝露・精神的興奮など心筋の酸素需要が増える状況で需要に供給が追いつかなくなり、一過性の心筋虚血が生じて胸痛を起こす病態である。安静やニトログリセリン舌下投与で酸素需要が下がると、症状は速やかに消える。 本問は、典型的な狭心痛の「性状・持続時間・誘因・放散」を問うている。狭心痛は内臓痛であり、体性痛のように一点を指で示せる鋭い痛みではなく、胸骨の裏側あたりの「締めつけられる」「圧迫される」「重苦しい」と表現される漠然とした不快感として感じられる。持続は数分程度(おおむね2〜5分、長くても15分以内が目安)で、呼吸・体位・圧迫で変化しない。また、心臓からの痛覚の求心線維が入る脊髄分節(主にT1〜T4付近)を共有する体表の領域へ痛みを感じる関連痛(放散痛)として、頸部・下顎・左肩・左上肢内側・歯・心窩部に痛みが広がることが特徴である。 したがって、胸痛の問診では「どんなとき・どんな性状・どのくらいの時間・どこへ広がるか・呼吸や体位で変わるか」を確認し、狭心痛らしさを判断する。この考え方で各選択肢を検討すると、頸部や肩への放散を述べた選択肢が労作性狭心症の特徴に合致する。
選択肢考察
- ×a. 発作は空腹時に起こる。
誤り。労作性狭心症の発作はむしろ食後に起こりやすい。食後は消化管への血流が増え、心拍出量と心仕事量が増大するため、心筋酸素需要が高まって虚血閾値に達しやすくなる。極度の空腹でカテコラミン(アドレナリン)分泌が高まれば誘因になりうるが、典型的な誘因とはいえない。なお、空腹時に悪化し食事で軽快する心窩部痛は十二指腸潰瘍に典型的な経過であり、鑑別として覚えておくとよい。
- ×b. 痛みは呼吸で変動する。
誤り。狭心痛は心筋虚血による内臓痛であり、深呼吸や咳で強さが変わらないのが特徴である。呼吸で増悪する胸痛(胸膜痛)は、壁側胸膜が刺激される胸膜炎・気胸・肺塞栓(胸膜に及ぶ梗塞)、心膜が刺激される急性心膜炎、あるいは肋間神経痛や肋軟骨炎などの胸壁由来の痛みを示唆する。急性心膜炎では前かがみの座位で痛みが和らぐなど体位による変化も伴う。
- ×c. 痛みは数秒間持続する。
誤り。労作性狭心症の発作は数分間(多くは2〜5分程度)持続し、労作の中止やニトログリセリン舌下で1〜数分以内に消失する。数秒で消える一瞬の痛みは、筋骨格系の痛みや神経痛、心臓神経症など非心臓性の胸痛で多い。反対に、胸痛が20〜30分以上続く、安静時に起こる、ニトログリセリンが効かないといった場合は、急性心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群(ACS:acute coronary syndrome)を疑い、ただちに心電図や心筋トロポニンの評価を行う。
- ○d. 痛みは頸部や肩に放散する。
正しい。心臓の痛覚は交感神経に伴走する内臓求心線維を通って主に上位胸髄(T1〜T4付近)に入る。同じ脊髄分節に入る体表からの感覚と中枢で区別されにくいため、実際の病変部位とは離れた頸部・下顎・左肩・左上肢(尺側)・歯・心窩部などに痛みや違和感を感じる。これが関連痛(放散痛)であり、冠動脈疾患を疑う重要な手がかりである。胸部症状がなく、「歯が浮く」「肩がこる」「胃が痛い」といった放散部位の症状だけを訴える例もあるため注意が必要である。
- ×e. 針で刺すような痛みである。
誤り。狭心痛は「締めつけられる(絞扼感)」「押さえつけられる(圧迫感)」「胸が重い」「焼けつくよう」と表現される、境界のはっきりしない痛みである。患者は握りこぶしや手のひら全体を胸骨前に当てて痛みを示すことが多い(Levine徴候)。針で刺すような鋭い痛みや、指先で1点を示せる局在の明瞭な痛みは体性痛の性質であり、狭心症の可能性は低いと考えてよい。
狭心症の分類
・誘因による分類:労作性狭心症(労作で起こる)/安静時狭心症(安静時に起こる。冠攣縮性狭心症が代表で、夜間〜早朝に多い)。 ・発生機序による分類:器質性(固定した冠動脈狭窄)/冠攣縮性(冠動脈の一過性の強い収縮。喫煙・飲酒が誘因となりやすい)。器質的狭窄に攣縮が加わる例もある。 ・臨床経過による分類:安定狭心症/不安定狭心症(新規発症、発作の頻度・強さ・持続の増悪、安静時発作の出現)。不安定狭心症は急性心筋梗塞と併せて急性冠症候群として緊急対応の対象となる。
狭心痛の典型的特徴(まとめ)
・部位:胸骨裏面を中心とした前胸部の広い範囲。 ・性状:圧迫感、絞扼感、重苦しさ。刺すような痛みではない。 ・持続:数分(通常15分以内)。 ・誘因:労作、寒冷、食後、精神的興奮、排便など心筋酸素需要を増やす状況。 ・寛解:安静やニトログリセリン舌下で速やかに軽快。 ・放散:頸部、下顎、歯、左肩、左上肢、心窩部。 ・呼吸・体位・圧痛:いずれにも影響されない。
注意すべき非典型例
高齢者、女性、糖尿病患者では、典型的な胸痛を欠き、息切れ・倦怠感・心窩部不快感・悪心のみで発症することがある。特に糖尿病では自律神経障害のため無痛性心筋虚血が起こりやすい。
診断の流れ
発作時の心電図でST低下(心内膜下虚血)がみられることが多いが、非発作時は正常のことが多い。そのため運動負荷心電図、負荷心筋シンチグラフィ、冠動脈CT、冠動脈造影などで虚血や狭窄を評価する。
POINT
・労作性狭心症の痛みは、胸骨裏面の圧迫感・絞扼感で、持続は数分、安静やニトログリセリンで消える。 ・頸部、下顎、歯、左肩、左上肢、心窩部への放散痛が特徴である。 ・呼吸や体位で変動する痛み、針で刺すような局在の明瞭な痛み、数秒で消える痛みは狭心痛らしくない。 ・食後は心仕事量が増えるため発作が起こりやすい。 ・20〜30分以上続く胸痛や安静時の胸痛は急性冠症候群を疑う。
