StudyMed医師国家試験

針は「おへそ」を目指せ―腰椎穿刺の手順を解剖から理解する

第102回医師国家試験 F問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第102回 F問題 第12問

腰椎穿刺で誤っているのはどれか。

  1. a.側臥位で行う。
  2. b.頸,背中,腰および膝を屈曲させる。
  3. c.第3~4腰椎棘突起間を穿刺する。
  4. d.針先は尾側へ向ける。
  5. e.終了後安静を指示する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腰椎穿刺の基本手技を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、体位、穿刺部位、針の向き、終了後の管理という流れを一つずつ確認していこう。どの手順にも解剖学的な理由があるから、それを押さえれば丸暗記しなくて済むよ。
医学生医学生
臨床実習で神経内科を回ったとき、髄膜炎疑いの患者さんの腰椎穿刺を見学しました。患者さんは横向きに寝ていたと思います。
ドクタードクター
そう、基本は側臥位だ。側臥位なら髄液の初圧を正確に測れる。正常はおおむね70〜180mmH2Oくらいだね。座位で行うこともあるけれど、静水圧の影響で圧が高く出るから、圧測定には向かないんだ。
医学生医学生
そのとき患者さんがすごく丸まっていました。あれは楽な姿勢をとってもらうためですか。
ドクタードクター
楽にするためではなく、椎間を開くためなんだ。顎を胸につけてへそをのぞき込むように頸を曲げ、両膝を抱えて腰と膝を強く屈曲させる。いわゆるエビのような姿勢だね。こうすると腰椎が後弯して棘突起の間が広がり、針が通りやすくなる。背中をベッドに対して垂直に保ち、体がねじれないようにするのも正中を正しく刺すコツだよ。
医学生医学生
穿刺部位は第3〜4腰椎の間でしたよね。脊髄を傷つけないためだと解剖学で習いました。
ドクタードクター
その通り。成人の脊髄下端、つまり脊髄円錐はおおむねL1〜L2の高さにある。それより下には馬尾と髄液だけがある腰部槽が広がっているから、L3/4かL4/5で刺せば脊髄を傷つけずに済む。馬尾は髄液の中に浮いているので、針が当たっても逃げやすいんだ。目安になるのが左右の腸骨稜の最高点を結ぶJacoby線で、これがL4棘突起かL4/5間あたりに相当する。
医学生医学生
OSCEの練習で、腸骨稜を触ってJacoby線を確認する手順をやりました。では針の向きは、下に向かって刺せばいいんでしょうか。棘突起が下向きに伸びているので、それに沿うイメージなんですが。
ドクタードクター
そこがまさにこの問題の誤りのポイントだ。腰椎の棘突起は後下方へ斜めに突き出している。だから上下の棘突起の隙間は、皮膚から見ると頭側へ傾いた形になるんだ。針は正中から刺入して、臍の方向、つまりやや頭側へ向けて進めるのが正しい。尾側に向けると下の椎弓や棘突起に当たって、くも膜下腔に届かない。
医学生医学生
棘突起が下を向いているからこそ、その隙間に入るには上向きに刺す、ということですね。骨格模型で見るとイメージしやすそうです。
ドクタードクター
そうなんだ。実際に模型で棘突起の重なりを見ると一目瞭然だよ。刺入していくと、棘上靱帯、棘間靱帯を通り、黄色靱帯で抵抗を感じ、硬膜を貫くところで「ぷつっ」と抵抗が抜ける。内筒を抜いて髄液が流れてくれば成功だ。
医学生医学生
終了後の安静は、穿刺後頭痛の予防のためですか。
ドクタードクター
穿刺後頭痛は最も多い合併症で、穿刺孔から髄液が漏れて髄液圧が下がることで起こる。立つと悪化し、横になると軽くなるのが特徴だ。ほかにも出血や感染、神経根刺激症状がありうるから、終了後はしばらく臥床安静にしてバイタルや神経症状を観察する。だから安静の指示は正しい記述だね。ただ、近年は長時間の安静臥床そのものの頭痛予防効果ははっきりしないとされていて、細い針やペンシルポイント針を使うほうが予防に有効と考えられているよ。
医学生医学生
頭痛が続いた場合はどうするんですか。
ドクタードクター
なかなか改善しない場合は、硬膜外腔に自己血を注入する自己血パッチを行うことがある。それと、もっと大事なのが穿刺前の確認だ。頭蓋内圧亢進、特に脳腫瘍や脳膿瘍などの占拠性病変があると、髄液を抜くことで脳ヘルニアを起こす危険がある。うっ血乳頭や意識障害、局所神経症状があれば、先に頭部CTで確認する。
医学生医学生
穿刺部の皮膚感染や、抗凝固薬を飲んでいる人も危ないですよね。
ドクタードクター
よく気づいたね。皮膚感染は髄膜炎の原因になるし、出血傾向は脊髄硬膜外血腫の危険がある。適応としては髄膜炎や脳炎、CTで分からないくも膜下出血、ギラン・バレー症候群の蛋白細胞解離、多発性硬化症のオリゴクローナルバンドなどがある。手技の手順と一緒に、いつ行ってよく、いつ控えるべきかもセットで覚えておこう。

まとめ

腰椎穿刺は、側臥位で頸・背・腰・膝を強く屈曲させて棘突起間を開き、成人の脊髄下端(L1〜L2)より下位のL3/4またはL4/5間で行います。Jacoby線がL4棘突起〜L4/5間の目安となり、棘突起が後下方へ傾いているため、針は正中から臍の方向、つまりやや頭側へ向けて進めます。最も多い合併症は立位で増悪し臥位で軽快する穿刺後頭痛で、終了後は安静として経過を観察し、遷延例では自己血パッチも考慮されます。また、占拠性病変による頭蓋内圧亢進では脳ヘルニアの危険があるため、穿刺前の評価が欠かせません。手順の一つひとつを解剖学的な理由とともに理解しておくことが、安全な手技と試験での確実な判断につながります。

解答・解説

正解はdです

腰椎穿刺は、腰椎の椎間から針を刺入してくも膜下腔に到達し、脳脊髄液(CSF)の圧測定・採取や、薬剤の髄腔内投与、造影などを行う手技である。髄膜炎・くも膜下出血(CTで検出できない場合)・ギラン・バレー症候群・多発性硬化症などの診断に用いられる。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題であり、手技の標準的な手順を正しく理解しているかを問うている。押さえるべき要点は次のとおりである。 ・体位:側臥位(または座位)で、背中を丸める。 ・部位:脊髄を損傷しないよう、脊髄下端(成人ではおおむねL1〜L2の高さ)より尾側のL3/4またはL4/5間を選ぶ。左右の腸骨稜の最高点を結ぶ線(Jacoby線)がL4棘突起またはL4/5間の目安となる。 ・刺入方向:腰椎の棘突起は後下方へ傾いているため、正中から臍の方向、すなわちやや頭側へ向けて針を進める。 ・合併症:最も多いのは穿刺後頭痛であり、終了後はしばらく安静にして経過を観察する。 この手順と照らし合わせると、「針先を尾側へ向ける」という記述が誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  側臥位で行う。

    正しい記述である。腰椎穿刺は側臥位で行うのが基本である。側臥位では髄液圧(初圧)を正確に測定でき、正常値はおおむね70〜180mmH2O(側臥位)とされる。肥満などで正中の同定が困難な場合には座位で行うこともあるが、座位では静水圧の影響で圧が高く出るため圧測定には適さない。なお、頭蓋内圧亢進(特に占拠性病変)がある場合は脳ヘルニアの危険があるため、穿刺前に眼底検査や頭部CTで確認することが重要である。

  2. ×b.  頸,背中,腰および膝を屈曲させる。

    正しい記述である。患者に顎を胸につけてへそをのぞき込むように頸部を曲げ、両膝を抱え込んで腰・膝を強く屈曲させる(いわゆる胎児のような姿勢、エビのような姿勢)。こうすると腰椎が後弯して棘突起の間隔が広がり、針が椎間を通りやすくなる。背中はベッドに対して垂直に保ち、体幹がねじれないようにすることも正中を正しく穿刺するうえで大切である。

  3. ×c.  第3~4腰椎棘突起間を穿刺する。

    正しい記述である。成人の脊髄下端(脊髄円錐)はおおむねL1〜L2椎体の高さにあり、それより下のくも膜下腔には馬尾神経と髄液のみが存在する(腰部槽)。L3/4間(またはL4/5間)で穿刺すれば、脊髄を傷つけずに髄液を採取できる。馬尾神経は髄液中に浮遊しているため、針が当たっても逃げやすく損傷しにくい。なお、新生児・乳児では脊髄下端が成人より低い位置(L2〜L3付近)にあるため、より下位の椎間(L4/5など)を選ぶ。

  4. ○d.  針先は尾側へ向ける。

    誤った記述であり、これが正解である。腰椎の棘突起は後下方へ向かって斜めに突き出しており、上下の棘突起間の隙間(椎弓間の間隙)は皮膚面に対して頭側へ傾いている。そのため針は正中線上で刺入し、臍の方向、すなわちやや頭側へ向けて進めるのが正しい。尾側に向けると下位の椎弓や棘突起に当たり、くも膜下腔に到達できない。刺入の過程では、棘上靱帯・棘間靱帯を経て黄色靱帯を貫く際の抵抗、さらに硬膜を貫く際の抵抗消失感(ぷつっという感触)が得られ、内筒を抜くと髄液の流出が確認できる。

  5. ×e.  終了後安静を指示する。

    正しい記述である。腰椎穿刺後は、穿刺孔からの髄液漏出によって髄液圧が低下し、立位や座位で増悪し臥位で軽快する頭痛(硬膜穿刺後頭痛、低髄液圧性頭痛)が起こりうる。そのほか、穿刺部の出血・血腫、感染、神経根刺激症状などの合併症もあるため、終了後はしばらく臥床安静とし、バイタルサインや神経症状を観察する。なお、近年の研究では、長時間の安静臥床そのものが頭痛の予防に明確な効果を示すとは言い難いとされ、細い針や非外傷性(ペンシルポイント)針の使用のほうが予防には有効と考えられている。

腰椎穿刺の適応

・中枢神経系感染症(細菌性・ウイルス性・結核性・真菌性髄膜炎、脳炎)の診断 ・くも膜下出血の診断(頭部CTで所見がなく臨床的に疑わしい場合。キサントクロミーの確認) ・ギラン・バレー症候群(蛋白細胞解離)、多発性硬化症(オリゴクローナルバンド、IgG index)などの診断 ・髄腔内への抗癌薬投与、脊髄造影、正常圧水頭症のタップテスト

禁忌・慎重に行うべき状況

・頭蓋内圧亢進、特に脳腫瘍・脳膿瘍などの占拠性病変(脳ヘルニアの危険)。うっ血乳頭や意識障害、局所神経症状があれば、先に頭部CTで確認する。 ・穿刺部の皮膚感染(髄膜炎の原因となる) ・出血傾向(血小板減少、抗凝固薬の使用。脊髄硬膜外血腫の危険)

腰椎穿刺の主な合併症

・穿刺後頭痛:最も多い。立位で増悪し臥位で軽快する。細い針・ペンシルポイント針で頻度が下がる。改善しない場合は自己血パッチ(硬膜外腔に自己血を注入)を行うことがある。 ・腰痛、神経根刺激による下肢痛 ・出血(硬膜外・くも膜下血腫)、感染(髄膜炎) ・脳ヘルニア(頭蓋内圧亢進例)

髄液検査の正常値の目安

初圧70〜180mmH2O(側臥位)、外観は水様透明、細胞数5/μL以下(単核球主体)、蛋白15〜45mg/dL、糖は血糖の約60〜80%(50〜80mg/dL程度)。

POINT

・腰椎穿刺は側臥位で、頸・背・腰・膝を強く屈曲させて椎間を開く。 ・成人の脊髄下端はL1〜L2の高さなので、L3/4またはL4/5間で穿刺する。Jacoby線がL4棘突起〜L4/5間の目安である。 ・棘突起が後下方へ傾いているため、針は正中からやや頭側(臍の方向)へ向ける。 ・最も多い合併症は穿刺後頭痛(立位で増悪、臥位で軽快)であり、終了後は安静・観察とする。 ・頭蓋内圧亢進(占拠性病変)では脳ヘルニアの危険があり、原則禁忌である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。